はじめに
統計のための行列代数 練習問題 解答例まとめを参照
第21章 練習問題
1.
n \times n歪対称行列\mathbf{A}は0でない固有値をもたないことを示せ.
\lambdaを\mathbf{A}の任意の固有値、\mathbf{x}を\lambdaに対応する固有ベクトルとする。そのとき、-\mathbf{A}'\mathbf{x} = \mathbf{A}\mathbf{x} = \lambda\mathbf{x}であり、つまり
-\mathbf{A}'\mathbf{A}\mathbf{x} = -\mathbf{A}'(\lambda\mathbf{x})=\lambda(-\mathbf{A}'\mathbf{x})=\lambda(\lambda\mathbf{x})=\lambda^2\mathbf{x}
が成り立ち、ゆえに-\mathbf{x}'\mathbf{A}'\mathbf{A}\mathbf{x} = \lambda^2\mathbf{x}'\mathbf{x}である。したがって、\mathbf{x} \neq \mathbf{0}かつ\mathbf{A}'\mathbf{A}が非負定値であることから
0 \leq \lambda^2 = - \mathbf{x}'\mathbf{A}'\mathbf{A}\mathbf{x}/ \mathbf{x}'\mathbf{x} \leq 0,
であり、このことから\lambda^2 = 0、つまり\lambda=0が導かれる。
2.
\mathbf{A}をn \times n行列, \mathbf{B}をk \times k行列, \mathbf{X}をn \times k行列で, \mathbf{A X}=\mathbf{X B}を満たすものとする.
\mathbf{(a)} \mathcal{C}(\mathbf{X})が\mathbf{A}に関する\left(\mathcal{R}^{n \times 1}\right)の 不変な部分空間であることを示せ.
\mathbf{(b)} もし\mathbf{X}が最大列階数をもてば, \mathbf{B}のあらゆる固有値は\mathbf{A}の固有値であることを示せ.
(a) \mathcal{C}(\mathbf{X})の任意のn \times 1 ベクトル \mathbf{u} に対して, \mathbf{u}=\mathbf{X r}となるようなk \times 1 ベクトルが存在し,以下のようになる
\mathbf{A u}=\mathbf{A X r}=\mathbf{X B r} \in \mathcal{C}(\mathbf{X}) .
したがって, \mathcal{C}(\mathbf{X}) は\mathbf{A}に関する不変な部分空間である.
(b) \lambda を \mathbf{B}の固有値とし,\mathbf{y} を\mathbf{B} の \lambdaに対応する固有ベクトルであるとする. 定義から, \mathbf{B y}=\lambda \mathbf{y}であるから
\mathbf{A}(\mathbf{X y})=\mathbf{X B y}=\mathbf{X}(\lambda \mathbf{y})=\lambda(\mathbf{X} \mathbf{y}) .
問題文より\mathbf{X} が最大列階数を持ち, \mathbf{y} \neq \mathbf{0} , \mathbf{X y} \neq \mathbf{0}であるから, \lambda は \mathbf{A} の固有値であり\mathbf{X y}は \mathbf{A} の\lambda に対する固有ベクトルであることがわかる.
3.
p(\lambda)をn \times n行列\mathbf{A}の特性多項式, c_0, c_1, c_2, \ldots, c_nをその特性多項式のそれぞれの係数, すなわち, (\lambda \in \mathcal{R}に対して)
p(\lambda)=c_0 \lambda^0+c_1 \lambda+c_2 \lambda^2+\cdots+c_n \lambda^n=\sum_{s=0}^n c_s \lambda^s
とする. 更に, \mathbf{P}をp(\lambda)において形式的にスカラー\lambdaを\mathbf{A}で置き換えて(また\mathbf{A}^0=\mathbf{I}_nと置いて) 得られるn \times n行列とする. すなわち,
\mathbf{P}=c_0 \mathbf{I}+c_1 \mathbf{A}+c_2 \mathbf{A}^2+\cdots+c_n \mathbf{A}^n=\sum_{s=0} c_s \mathbf{A}^s
とする. 次の4ステップを遂行することで\mathbf{P}=\mathbf{0}を示せ(この結果はケーリー-ハミルトンの定理 (Cayley-Hamilton theorem) として知られている).
\mathbf{(a)} \mathbf{B}(\lambda)=\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I}と置き, \mathbf{H}(\lambda)を\mathbf{B}(\lambda)の随伴行列とすると, (\lambda \in \mathcal{R}に対して)
\mathbf{H}(\lambda)=\mathbf{K}_0+\lambda \mathbf{K}_1+\lambda^2 \mathbf{K}_2+\cdots+\lambda^{n-1} \mathbf{K}_{n-1}
と表せることを示せ. ここで, \mathbf{K}_0, \mathbf{K}_1, \mathbf{K}_2, \ldots, \mathbf{K}_{n-1}は(\lambdaに伴って変化しない)n \times n行列である.
\mathbf{(b)} \mathbf{T}_0=\mathbf{A} \mathbf{K}_0, \mathbf{T}_n=-\mathbf{K}_{n-1}, (s=1, \ldots, n-1に対し)\mathbf{T}_s=\mathbf{A K}_s-\mathbf{K}_{s-1}と置くと, (\lambda \in \mathcal{R}に対して)
\mathbf{T}_0+\lambda \mathbf{T}_1+\lambda^2 \mathbf{T}_2+\cdots+\lambda^n \mathbf{T}_n=p(\lambda) \mathbf{I}_n
であることを示せ.
(ヒント : 定理 13.5.3 より, (\lambda \in \mathcal{R}に対して) \mathbf{B}(\lambda) \mathbf{H}(\lambda)=|\mathbf{B}(\lambda)| \mathbf{I}_n=p(\lambda) \mathbf{I}_nとなる.)
\mathbf{(c)} s=0,1, \ldots, nに対して,, \mathbf{T}_s=c_s \mathbf{I}を示せ.
\mathbf{(d)} 次式を示せ.
\mathbf{P}=\mathbf{T}_0+\mathbf{A} \mathbf{T}_1+\mathbf{A}^2 \mathbf{T}_2+\cdots+\mathbf{A}^n \mathbf{T}_n=\mathbf{0} .
\mathbf{(a)}
h_{i j}(\lambda) を \mathbf{H}(\lambda) の第 i j 要素とする. このとき, h_{i j}(\lambda) は \mathbf{B}(\lambda) の第 j i 要素の余因子である. また, 余因子の定義と行列式の定義 (式(13.1.2)) から明らかに h_{i j} (\lambda) は \lambda の n-1 次または n-2 次の多項式である. よって, (\lambda に伴って変化しない) 定数 k_{i j}^{(0)}, k_{i j}^{(1)}, k_{i j}^{(2)}, \ldots, k_{i j}^{(n-1)} を用いて,
h_{i j}(\lambda)=k_{i j}^{(0)}+k_{i j}^{(1)} \lambda+k_{i j}^{(2)} \lambda^2+\cdots+k_{i j}^{(n-1)} \lambda^{n-1}
と表され, (s=0,1,2, \ldots, n-1 に対して) 第 i j 要素が k_{i j}^{(s)} である n \times n 行列 \mathbf{K}_s を用いて,
\mathbf{H}(\lambda)=\mathbf{K}_0+\lambda \mathbf{K}_1+\lambda^2 \mathbf{K}_2+\cdots+\lambda^{n-1} \mathbf{K}_{n-1},
と表せる.
\mathbf{(b)}
\mathbf{(a)} より \lambda \in \mathcal{R} に対して,
\begin{aligned}
\mathbf{B}(\lambda) \mathbf{H}(\lambda) & =(\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I})\left(\mathbf{K}_0+\lambda \mathbf{K}_1+\lambda^2 \mathbf{K}_2+\cdots+\lambda^{n-1} \mathbf{K}_{n-1}\right) \\
& =\mathbf{T}_0+\lambda \mathbf{T}_1+\lambda^2 \mathbf{T}_2+\cdots+\lambda^n \mathbf{T}_n .
\end{aligned}
が得られる. また, ヒントを用いて \lambda \in \mathcal{R} に対して,
\mathbf{T}_0+\lambda \mathbf{T}_1+\lambda^2 \mathbf{T}_2+\cdots+\lambda^n \mathbf{T}_n=p(\lambda) \mathbf{I}_n
が得られる.
\mathbf{(c)}
s=0,1, \ldots, n に対して, t_{i j}^{(s)} は \mathbf{T}_s の第 i j 要素を表すものとする. このとき \mathbf{(b)} より \lambda \in \mathcal{R} に対して,
t_{i j}^{(0)}+\lambda t_{i j}^{(1)}+\lambda^2 t_{i j}^{(2)}+\cdots+\lambda^n t_{i j}^{(n)}= \begin{cases}p(\lambda), & \text { if } j=i, \\ 0, & \text { if } j \neq i .\end{cases}
ゆえに,
t_{i j}^{(s)}= \begin{cases}c_s, & \text { if } j=i, \\ 0, & \text { if } j \neq i,\end{cases}
また, すなわち \mathbf{T}_s=c_s \mathbf{I} である.
\mathbf{(d)}
\mathbf{(c)} を用いて,
\begin{aligned}
& \mathbf{T}_0+\mathbf{A T}_1+\mathbf{A}^2 \mathbf{T}_2+\cdots+\mathbf{A}^n \mathbf{T}_n \\
&=c_0 \mathbf{I}+\mathbf{A}\left(c_1 \mathbf{I}\right)+\mathbf{A}^2\left(c_2 \mathbf{I}\right)+\cdots+\mathbf{A}^n\left(c_n \mathbf{I}\right)=\mathbf{P} .
\end{aligned}
を得る. さらに,
\begin{aligned}
\mathbf{T}_0+\mathbf{A} \mathbf{T}_1 & +\mathbf{A}^2 \mathbf{T}_2+\cdots+\mathbf{A}^n \mathbf{T}_n \\
& =(\mathbf{A}-\mathbf{A}) \mathbf{K}_0+(\mathbf{A}-\mathbf{A}) \mathbf{A} \mathbf{K}_1+(\mathbf{A}-\mathbf{A}) \mathbf{A}^2 \mathbf{K}_2 +\cdots+(\mathbf{A}-\mathbf{A}) \mathbf{A}^{n-1} \mathbf{K}_{n-1} \\
& =\mathbf{0}
\end{aligned}
である.
4.
c_0, c_1, \ldots, c_{n-1}, c_nをn \times n行列\mathbf{A}の特性多項式p(x)のそれぞれの係数(すなわち, (\lambda \in \mathcal{R}に対して\left.) p(\lambda)=c_0+c_1 \lambda+\cdots+c_{n-1} \lambda^{n-1}+c_n \lambda^n\right)とする. 練習問題 3 の結果(ケーリーーハミルトンの定理)を用いて,もし\mathbf{A}が非特異ならば, c_0 \neq 0で,
\mathbf{A}^{-1}=-\left(1 / c_0\right)\left(c_1 \mathbf{I}+c_2 \mathbf{A}+\cdots+c_n \mathbf{A}^{n-1}\right)
であることを示せ.
(1.8)より、c_0 = |\mathbf{A}|が成り立つ。また、問3より、
\begin{aligned}
c_0 \mathbf{I} + c_1 \mathbf{A} +c_2 \mathbf{A}^2 + \cdots + c_n \mathbf{A}^n = \mathbf{0} (S.1)
\end{aligned}
も成り立つ。
今、\mathbf{A}が非特異であると仮定する。その時、定理13.3.7より、c_0 \neq 0である。
定理13.3.7 \mathbf{A}をn×n行列とすると、|\mathbf{A}| \neq 0のときかつそのときに限って、\mathbf{A}は非特異であり、この場合には
|\mathbf{A}^{-1}| = 1/|\mathbf{A}|
今、(S.1)の両辺に\mathbf{A}^{-1}を乗じると、
\begin{aligned}
c_0 \mathbf{A}^{-1} + c_1 \mathbf{I} +c_2 \mathbf{A} + \cdots + c_n \mathbf{A}^{n-1} = \mathbf{0}
\end{aligned}
が成り立ち、
\mathbf{A}^{-1}=-\left(1 / c_0\right)\left(c_1 \mathbf{I}+c_2 \mathbf{A}+\cdots+c_n \mathbf{A}^{n-1}\right)
が成り立つ。
5.
もしn \times n行列\mathbf{B}がn \times n行列\mathbf{A}に相似ならば, 次のことが成り立つことを示せ.
\mathbf{(1)} \mathbf{B}^kは\mathbf{A}^kに相似である(k=2,3, \ldots).
\mathbf{(2)} \mathbf{B}^{\prime}は\mathbf{A}^{\prime}に相似である.
行列\mathbf{B}が行列\mathbf{A}に相似と仮定する。 この時、\mathbf{B}=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{A C}を満たすn \times n非特異行列 \mathbf{C}が存在する。
(1) k=1,2,3, \ldotsについて、\mathbf{B}^k=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{A}^k \mathbf{C}(*)を数学的帰納法で示す。
-
k=1について、明らかに\mathbf{B}^1=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{A}^1 \mathbf{C}が成り立つ。
-
k \geq 2について、\mathbf{B}^{k-1}=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{A}^{k-1} \mathbf{C}と仮定する。この時、以下よりk-1で(*)が成り立つと仮定すると、kでも成り立つ。
\mathbf{B}^k=\mathbf{B * B}^{k-1}=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{AC*C}^{-1} \mathbf{A}^{k-1} \mathbf{C}=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{A}^k \mathbf{C}.
以上より、(*)は示された。
(2) 以下の式変形より、\mathbf{B}^{\prime}は\mathbf{A}^{\prime}に相似であることが示される。
\mathbf{B}^{\prime}=\left(\mathbf{C}^{-1} \mathbf{A C}\right)^{\prime}=\mathbf{C}^{\prime} \mathbf{A}^{\prime}\left(\mathbf{C}^{-1}\right)^{\prime}=\left[\left(\mathbf{C}^{\prime}\right)^{-1}\right]^{-1} \mathbf{A}^{\prime}\left(\mathbf{C}^{\prime}\right)^{-1} .
6.
もしn \times n行列\mathbf{B}が(n \times n)冪等行列に相似ならば, \mathbf{B}は幂等なことを示せ.
\mathbf{B} が n \times n 冪等行列 \mathbf{A} に相似であるとすると、n \times n 非特異行列 \mathbf{C} が存在して \mathbf{B}=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{A C} である。従って
\mathbf{B}^2=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{ACC}{ }^{-1} \mathbf{AC}=\mathbf{C}^{-1}\mathbf{A}^2 \mathbf{C}=\mathbf{C}^{-1} \mathbf{AC}=\mathbf{B}
が成り立つため、\mathbf{B} は冪等である。
7.
\mathbf{A}=\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1\end{pmatrix}, \mathbf{B}=\begin{pmatrix}1 & 1 \\ 0 & 1\end{pmatrix}とする. \mathbf{B}は\mathbf{A}と同じ階数, 行列式, トレース, 特性多項式をもつが, \mathbf{B}は\mathbf{A}に相似でないことを示せ.
|\mathbf{B}|=1=|\mathbf{A}|, \operatorname{rank}(\mathbf{B})=2=\operatorname{rank}(\mathbf{A}), \operatorname{tr}(\mathbf{B})=2=\operatorname{tr}(\mathbf{A}) であり, \mathbf{B} と \mathbf{A} の特性多項式は p(\lambda)=(\lambda-1)^2.
ある 2 \times 2 行列 \mathbf{C}=\left\{c_{i j}\right\}に対して, \mathbf{C B}=\mathbf{A C} と仮定する.
すると,
\mathbf{C B}=\left(\begin{array}{ll}
c_{11} & c_{11}+c_{12} \\
c_{21} & c_{21}+c_{22}
\end{array}\right) \quad \text { かつ } \quad \mathbf{A C}=\mathbf{C}=\left(\begin{array}{ll}
c_{11} & c_{12} \\
c_{21} & c_{22}
\end{array}\right)
整理すると, c_{11}+c_{12}=c_{12} かつ c_{21}+c_{22}=c_{22}, すなわち c_{11}=0 かつ c_{21}=0 となり \mathbf{C} は特異である.
したがって \mathbf{C B}=\mathbf{A C} を満たす 2 \times 2 の非特異行列 \mathbf{C} は存在しない. したがって \mathbf{B} は \mathbf{A}に相似ではない.
8.
n \times n行列\mathbf{B}がn \times n行列\mathbf{A}に相似なためには, \mathbf{B}が\mathbf{A}と同じ階数, 行列式, トレース, 特性多項式をもつことは十分でないことを(任意の正の整数nに対して)示して,練習問題 7 の結果を拡張せよ.
\mathbf{A} = \mathbf{I}_n、\mathbf{B}を全ての対角成分が1である三角行列とする。このとき、補助定理13.1.1及び系8.5.6より、\mathbf{A}と\mathbf{B}は同じ階数、行列式、トレース、特性多項式を持つ。\mathbf{A}と\mathbf{B}が相似であるためには、あるn \times n行列\mathbf{C}に対して\mathbf{C}\mathbf{B} = \mathbf{A}\mathbf{C}が成り立つ必要がある。\mathbf{A} = \mathbf{I}_nであるため、\mathbf{A}と\mathbf{B}が相似となるのは、\mathbf{B} = \mathbf{I}_nであるときのみである。
系8.5.6. 三角行列は、その対角要素がいずれも0でないときかつその時に限って、非特異である。
補助定理13.1.1. 三角行列の行列式はその対角要素の積に等しい。
9.
\mathbf{A}をn \times n行列, \mathbf{B}をk \times k行列, \mathbf{X}をn \times k行列で, \mathbf{A X}=\mathbf{X B}を満たすものとする. もし\mathbf{X}が最大列階数の行列ならば, 直交行列\mathbf{Q}が存在して, \mathbf{Q}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{Q}=\begin{pmatrix}\mathbf{T}_{11} & \mathbf{T}_{12} \\ \mathbf{0} & \mathbf{T}_{22}\end{pmatrix}で\mathbf{T}_{11}が\mathbf{B}に相似なk \times k行列の形にできることを示せ.
\operatorname{rank}(\mathbf{X})=kのとき、\mathcal{C}(\mathbf{X})の正規直交基底(これは定理6.4.3により必ず存在する)を横に並べたn \times k行列 \mathbf{U}を考える。
さらに、\mathbf{X}=\mathbf{U C}となるk \times k非特異行列\mathbf{ C}が存在する。
ここで、\mathbf{A U C}=\mathbf{A X}=\mathbf{X B}=\mathbf{U C B}であるから、\mathbf{A U}=\mathbf{A U C C}^{-1} =\mathbf{U C B C}^{-1}となる。従って、定理21.3.2を用いると、\mathbf{Q}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{Q}=\left(\begin{array}{ll}\mathbf{T}_{11} & \mathbf{T}_{12} \\ \mathbf{0} & \mathbf{T}_{22}\end{array}\right)を満たす直交行列\mathbf{Q}が存在する。さらに、 \mathbf{T}_{11}=\mathbf{C B C}^{-1}(すなわち\mathbf{T}_{11}は\mathbf{B}に相似)である。
定理 21.3.2. \mathbf{A} を n \times n 行列, \mathbf{B} を k \times k 行列, \mathbf{U} を n \times k 行列で正規直交列をもち (すなわち, \left.\mathbf{U}^{\prime} \mathbf{U}=\mathbf{I}\right) \mathbf{A U}=\mathbf{U B} を満たすものとする. このとき, n \times(n-k) 行列 \mathbf{V} が存在して n \times n 行列 (\mathbf{U}, \mathbf{V}) が直交行列となる. また, 任意のそういった行列 \mathbf{V} に対して,
(\mathbf{U}, \mathbf{V})^{\prime} \mathbf{A}(\mathbf{U}, \mathbf{V})=\left(\begin{array}{cc}\mathbf{B} & \mathbf{U}^{\prime} \mathbf{A V} \\\mathbf{0} & \mathbf{V}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{V}\end{array}\right)(よって, \mathbf{A} はブロック三角行列 \left(\begin{array}{cc}\mathbf{B} & \mathbf{U}^{\prime} \mathbf{A V} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}^{\prime} \mathbf{A V}\end{array}\right) に相似)である. 特に \mathbf{A} が対称な場合には,(\mathbf{U}, \mathbf{V})^{\prime} \mathbf{A}(\mathbf{U}, \mathbf{V})=\left(\begin{array}{cc}\mathbf{B} & \mathbf{0} \\\mathbf{0} & \mathbf{V}^{\prime} \mathbf{A V}\end{array}\right)(よって, \mathbf{A} は \operatorname{diag}\left(\mathbf{B}, \mathbf{V}^{\prime} \mathbf{A V}\right) に相似) である.
10.
もし0がn \times n行列\mathbf{A}の固有値ならば, 代数的重複度はn-\operatorname{rank}(\mathbf{A})以上で あることを示せ.
解.()
11.
\mathbf{A}をn \times n行列とする. もしスカラー\lambdaが代数的重複度\gammaの\mathbf{A}の固有値ならば, \operatorname{rank}(\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I}) \geq n-\gammaであることを示せ.
スカラー\lambdaが行列\mathbf{A}の固有値ならば、定義より(\mathbf{A}-\lambda\mathbf{I}_{n})\mathbf{x} = \mathbf{0}を満たす\mathbf{0}でないn次元列ベクトル\mathbf{x}が存在する。補助定理11.3.1や21章の(1.1)にもあるように、固有値\lambdaの固有空間の次元を表す幾何学的重複度は
\operatorname{dim}[\mathcal{N}(\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I})]=n-\operatorname{rank}(\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I})
である。ここでさらに定理21.3.4を用いると、
定理21.3.4. n\times n行列\mathbf{A}の固有値\lambdaの幾何学的重複度は,代数的重複度以下である.
n-\operatorname{rank}(\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I}) \le \gammaであることが容易に導けるので、これを変形すると
\operatorname{rank}(\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I}) \geq n-\gamma
が得られる。
補助定理11.3.1. \mathbf{A}をm \times n 行列とする. このとき,
\operatorname{dim}[\mathcal{N}(\mathbf{A})]=n-\operatorname{rank}(\mathbf{A})である. すなわち, (n次元列ベクトル\mathbf{x}に関する) 同次線形系 \mathbf{A x}=\mathbf{0} の解空間の次元は n-\operatorname{rank}(\mathbf{A})に等しい.
12.
0をn \times n(特異)行列\mathbf{A}の固有値と見なしたとき, \gamma_1を0の代数的重複度, \nu_1をその幾何学的重複度とする. また0を\mathbf{A}^2の固有値と見なしたとき, \gamma_2を0の代数的重複度, \nu_2をその幾何学的重複度とする. もし, \nu_1=\gamma_1ならば, \nu_2=\gamma_2=\nu_1であることを示せ.
\mathbf{A}\mathbf{x} = \mathbf{0}を満たす任意のn\times 1ベクトル\mathbf{x}に対して、\mathbf{A}^2\mathbf{x} = \mathbf{A}\mathbf{A}\mathbf{x} = \mathbf{A}\mathbf{0} =\mathbf{0}であることがわかる。つまり、
\nu_2=\operatorname{dim}[\mathcal{N}(\mathbf{A}^2)] \geq \operatorname{dim}[\mathcal{N}(\mathbf{A})] = \nu_1
である。
列が\mathcal{N}(\mathbf{A})の(通常の内積に対して)直交基底を形成するn\times \nu_1行列\mathbf{U}が存在する。ゆえに、\mathbf{A}\mathbf{U}=\mathbf{0} = \mathbf{U}\mathbf{0}が成り立つ。そして、定理21.3.2よりn\times n行列(\mathbf{U}, \mathbf{V})が直交行列となるようなn\times(n-\nu_1)行列\mathbf{V}が存在し、そのような行列となるように\mathbf{V}をとると、
(\mathbf{U}, \mathbf{V})'\mathbf{A}(\mathbf{U}, \mathbf{V}) =
\begin{pmatrix}\mathbf{0} & \mathbf{U}'\mathbf{A}\mathbf{V} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}\end{pmatrix}
となる(ゆえに\mathbf{A}は\begin{pmatrix}\mathbf{0} & \mathbf{U}'\mathbf{A}\mathbf{V} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}\end{pmatrix}と相似である)。
定理21.3.2 \mathbf{A}をn\times n行列、\mathbf{B}をk\times k行列、\mathbf{U}をn\times k行列で正規直交列をもち(すなわち、\mathbf{U}'\mathbf{U}=\mathbf{I})\mathbf{A}\mathbf{B} = \mathbf{U}\mathbf{B}を満たすものとする。このとき、n\times (n-k)行列\mathbf{V}が存在してn\times n行列(\mathbf{U}, \mathbf{V})が直交行列となる。また、任意のそういった行列\mathbf{V}に対して、
(\mathbf{U}, \mathbf{V})'\mathbf{A}(\mathbf{U}, \mathbf{V})=\begin{pmatrix}\mathbf{B} & \mathbf{U}'\mathbf{A}\mathbf{V} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}\end{pmatrix}(よって\mathbf{A}は\begin{pmatrix}\mathbf{B} & \mathbf{U}'\mathbf{A}\mathbf{V} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}\end{pmatrix}に相似)である。特に\mathbf{A}が対称な場合には、(\mathbf{U}, \mathbf{V})'\mathbf{A}(\mathbf{U}, \mathbf{V})=\begin{pmatrix}\mathbf{B} & \mathbf{0} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}\end{pmatrix}(よって\mathbf{A}は\operatorname{diag}(\mathbf{B}, \mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V})に相似)である。
さらに、定理21.3.1より
定理21.3.1 (5)固有値は、\mathbf{A}の固有値と見なしたときと\mathbf{C}^{-1}\mathbf{A}\mathbf{C}の固有値と見なしたときに、同じ代数的重複度と幾何学的重複度をもつ。
\gamma_1は0が\begin{pmatrix}\mathbf{0} & \mathbf{U}'\mathbf{A}\mathbf{V} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}\end{pmatrix}の固有値と見なされるときの0の代数的重複度と等しくなり、そして(補助定理21.2.1に照らせば)\gamma_1は、\nu_1に0が\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}の固有値と見なされるときの0の代数的重複度を足したものと等しい。
補助定理21.2.1 (3)\mathbf{A}の固有値\lambdaに対して、(i=1,\dots, r)に対して\lambdaを\mathbf{A}_{ii}の固有値とみなしたときの代数的重複度を\gamma^{(i)}(\mathbf{A}_{ii}の固有値でないときは\gamma^{(i)}=0)とすると、\lambdaの\mathbf{A}の固有値としての代数的重複度は\sum_{i=1}^r\gamma^{(i)}に等しい。
いま、\nu_1=\gamma_1とする。そのとき、0が\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}の固有値と見なされるときの0の代数的重複度は0である(0は\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}の固有値ではない)。したがって、定理11.3.1より\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}は非特異である。
補助定理11.3.1 \mathbf{A}をm\times n行列とする。このとき、
\operatorname{dim}[\mathcal{N}(\mathbf{A})] = n - \operatorname{rank}(\mathbf{A})である。すなわち、(n次元ベクトル\mathbf{x}に関する)同次線形系\mathbf{A}\mathbf{x}=\mathbf{0}の解空間の次元はn - \operatorname{rank}(\mathbf{A})に等しい。
さらに、
\begin{aligned}
(\mathbf{U}, \mathbf{V})'\mathbf{A}^2(\mathbf{U}, \mathbf{V}) &=(\mathbf{U}, \mathbf{V})'\mathbf{A}(\mathbf{U}, \mathbf{V}) (\mathbf{U}, \mathbf{V})'\mathbf{A}(\mathbf{U}, \mathbf{V}) \\
&= \begin{pmatrix}\mathbf{0} & \mathbf{U}'\mathbf{A}\mathbf{V} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V}\end{pmatrix}
^2 \\
&= \begin{pmatrix}\mathbf{0} & \mathbf{U}'\mathbf{A}\mathbf{V}\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V} \\ \mathbf{0} & (\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V})^2\end{pmatrix}
\end{aligned}
となるため、\mathbf{A}^2は\begin{pmatrix}\mathbf{0} & \mathbf{U}'\mathbf{A}\mathbf{V}\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V} \\ \mathbf{0} & (\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V})^2\end{pmatrix}と相似である。そして、(\mathbf{V}'\mathbf{A}\mathbf{V})^2は非特異であるため、補助定理21.2.1より\gamma_2=\nu_1である。不等式(S.2)を思い出すと、定理21.3.4に基づいて\nu_1 = \gamma_2 \geq \nu_2 \geq \nu_1と結論づけられ、つまり\nu_2=\gamma_2=\nu_1である。
不等式(S.2) \gamma \geq \operatorname{dim}[\mathcal{N}(\mathbf{A}-\lambda\mathbf{I})] = n- \operatorname{rank}(\mathbf{A}-\lambda\mathbf{I})
定理21.3.4 n\times n行列\mathbf{A}の固有値\lambdaの幾何学的重複度は、代数的重複度以下である
13.
\mathbf{x}_1, \mathbf{x}_2をn \times n行列\mathbf{A}の固有ベクトルとする. またc_1, c_2を0でないスカラーとする. どんな条件の下でベクトル\mathbf{x}=c_1 \mathbf{x}_1+c_2 \mathbf{x}_2が\mathbf{A}の固有ベクトルとなるか?
\lambda_1 と \lambda_2 を \mathbf{x}_1 と \mathbf{x}_2に対応する固有値であるとする.このとき定義から \mathbf{A} \mathbf{x}_1=\lambda_1 \mathbf{x}_1,\mathbf{A x}_2=\lambda_2 \mathbf{x}_2であるから
\mathbf{A x}=c_1 \mathbf{A x}_1+c_2 \mathbf{A x _ { 2 }}=c_1 \lambda_1 \mathbf{x}_1+c_2 \lambda_2 \mathbf{x}_2=\lambda_1 \mathbf{x}+\left(\lambda_2-\lambda_1\right) c_2 \mathbf{x}_2 .
したがって, \lambda_2=\lambda_1であるとき \mathbf{x}は\mathbf{A}の固有ベクトルである (ただし\mathbf{x}_2=-\left(c_1 / c_2\right) \mathbf{x}_1である場合には \mathbf{x}=\mathbf{0}).
仮に \lambda_2 \neq \lambda_1であるとすると, 定理(21.4.1)から, \mathbf{x}_1 と\mathbf{x}_2 は線型独立であり, したがって\mathbf{x} と \mathbf{x}_2 も線型独立である.よって\lambda_1 \mathbf{x}+\left(\lambda_2-\lambda_1\right) c_2 \mathbf{x}_2=c \mathbf{x} を満たすスカラーcは存在しない. 以上から \lambda_2 \neq \lambda_1 のとき \mathbf{x} は\mathbf{A}の固有ベクトルとなり得ないことがわかる.
14.
\mathbf{A}をn \times n行列とする. そして, n \times n非特異行列\mathbf{Q}が存在して, 適当な対角行列\mathbf{D}に対して\mathbf{Q}^{-1} \mathbf{A} \mathbf{Q}=\mathbf{D}となると仮定する. 更に, i=1, \ldots, nに対して, \mathbf{r}_i^{\prime}を\mathbf{Q}^{-1}の第i行とする. このとき, 次のことを示せ.
(a)\mathbf{A}^{\prime}は\left(\mathbf{Q}^{-1}\right)^{\prime}で対角化される.
(b)\mathbf{D}の対角要素は\mathbf{A}^{\prime}の(必ずしも相異ならない)固有値である.
(c)\mathbf{r}_1, \ldots, \mathbf{r}_nは\mathbf{A}^{\prime}の固有ベクトルである (ここで\mathbf{r}_iは固有値d_iに対応する).
(a)
\mathbf{D} = \mathbf{D}' = (\mathbf{Q}^{-1} \mathbf{A} \mathbf{Q})'= \mathbf{Q}'\mathbf{A}' (\mathbf{Q}^{-1} )' =[(\mathbf{Q}')^{-1}]^{-1}\mathbf{A}' (\mathbf{Q}^{-1} )'
= [(\mathbf{Q}^{-1})']^{-1}\mathbf{A}' (\mathbf{Q}^{-1} )'
なお、最初の変形は\mathbf{D}は対角行列であることを用いた。
よって、(5.1)式の形に書き直すことができたため、\mathbf{A}^{\prime}は\left(\mathbf{Q}^{-1}\right)^{\prime}で対角化される.
(b)
定理21.5.1 \mathbf{A}をn \times n行列とする. そして, n \times n非特異行列\mathbf{Q}が存在して, 適当な対角行列\mathbf{D}に対して\mathbf{Q}^{-1} \mathbf{A} \mathbf{Q}=\mathbf{D}となると仮定する. (略)
次のことが成り立つ。
(7) \mathbf{A}の(必ずしも相異ならない)固有値は、\mathbf{D}の対角要素である。
(8) \mathbf{Q}の列は、\mathbf{A}の(線型独立な)固有ベクトルである
今、\mathbf{D}は対角行列なので、\mathbf{D} = \mathbf{D}'であり、定理21.5.1 (7)から、\mathbf{D}の対角要素は\mathbf{A}^{\prime}の(必ずしも相異ならない)固有値である.
(c)
今、\mathbf{r}_i^{\prime}は\mathbf{Q}^{-1}の第i行なので、\mathbf{r}_iは(\mathbf{Q}^{-1})^{\prime}の第i列である。よって、定理21.5.1 (8)より、\mathbf{r}_1, \ldots, \mathbf{r}_nは\mathbf{A}^{\prime}の固有ベクトルである.
15.
もしn \times n非特異行列\mathbf{A}がn \times n非特異行列\mathbf{Q}で対角化されれば, \mathbf{A}^{-1} \neq \mathbf{Q}で対角化されることを示せ.
行列\mathbf{A}が行列\mathbf{Q}で対角化されていると仮定する。
すると、定理21.5.1(8)から、行列\mathbf{Q}の列は行列\mathbf{A}の固有ベクトルである。
したがって、補題21.1.3を考慮すると、行列\mathbf{Q}の列は行列\mathbf{A}^{-1}の固有ベクトルでもある。
定理21.5.2を踏まえ、行列\mathbf{Q}は行列\mathbf{A}と同様に行列\mathbf{A}^{-1}も対角化すると結論づけられる。
定理 21.5.1.
\mathbf{A}をn \times n行列とする.そして,n \times n非特異行列 \mathbf{Q}が存在して, 適当な対角行列\mathbf{D} に対して \mathbf{Q}^{-1} \mathbf{A Q}=\mathbf{D}となると仮定する. \mathbf{Q}の第1, \ldots, n列をそれぞれ \mathbf{q}_1, \ldots, \mathbf{q}_nで, \mathbf{D}の第1, \ldots, n対角要素をそれぞれ d_1, \ldots, d_n で表す. このとき,次のことが成り立つ.
(1) \operatorname{rank}(\mathbf{A})は\mathbf{D}の0でない対角要素の個数に等しい.
(2) \operatorname{det}(\mathbf{A})=d_1 d_2 \cdots d_n.
(3) \operatorname{tr}(\mathbf{A})=d_1+d_2+\cdots+d_n.
(4) \mathbf{A} の特性多項式は p(\lambda)=(-1)^n\left(\lambda-d_1\right)\left(\lambda-d_2\right) \cdots\left(\lambda-d_n\right)である.
(5) \mathbf{A}のスペクトルは\mathbf{D} の対角要素に現れる相異なるスカラーから成る.
(6) \mathbf{A}の固有值\lambdaの代数的及び幾何学的重複度は,\mathbf{D} の対角要素の中の\lambdaの個数に等しい.
(7) A の(必ずしも相異ならない)固有值は,Dの対角要素である.
(8) \mathbf{Q}の列(第i列\mathbf{q}_iは固有值d_iに対応している)は, \mathbf{A}の(線形独立な)固有ベクトルである.
定理 21.5.2.
n\times n行列\mathbf{A} は, n \times n非特異行列\mathbf{Q}の列が \mathbf{A}の(線形独立な)固有ベクトルのときかつそのときに限って, \mathbf{Q}で対角化可能である.
補助定理 21.1.3.
\lambdaをn \times n 行列 \mathbf{A}の固有值,\mathbf{x}を \lambdaに対応する( \mathbf{A} の)任意の固有ベクトルとする. このとき, 次のことが成り立つ. (1)任意の正の整 数 kに対して, \lambda^kは \mathbf{A}^kの固有值であり, \mathbf{x} は \lambda^k に対応する \mathbf{A}^kの固有ベク トルである. (2) もし \mathbf{A} が非特異ならば (この場合には \lambda \neq 0 である), 1 / \lambdaは\mathbf{A}^{-1} の固有值であり, \mathbf{x} は 1 / \lambda に対応する \mathbf{A}^{-1} の固有ベクトルである.
16.
\mathbf{A}をn \times n行列で, スペクトルがk個の固有値\lambda_1, \ldots, \lambda_kから成るとし, これらの固有値のそれぞれの代数的重複度は\gamma_1, \ldots, \gamma_k, その合計はnとする.i=1, \ldots, kに対して\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}-\lambda_i \mathbf{I}\right)=n-\gamma_iのときかつそのときに限って, \mathbf{A}は対角化可能なことを示せ.
\nu_1, \ldots, \nu_k を \lambda_1, \ldots, \lambda_k の幾何学的重複度とすると \nu_i=n-\text{rank}\left(\mathbf{A}-\lambda_i \mathbf{I}\right) \, (i=1, \ldots, k) であるから、
\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}-\lambda_i \mathbf{I}\right)=n-\gamma_i \quad\Leftrightarrow\quad \gamma_i=n-\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}-\lambda_i \mathbf{I}\right) \quad\Leftrightarrow \quad \nu_i=\gamma_i
である。よって、「\mathbf{A} が対角化可能 \Leftrightarrow\nu_i=\gamma_i \, (i=1, \ldots, k)」を示せばよい。
系21.5.4より「\mathbf{A} が対角化可能 \Leftrightarrow \sum_{i=1}^k \nu_i = n」である。また、 \sum_{i=1}^k \gamma_i = n であるから系21.3.7より「\sum_{i=1}^k \nu_i = n \Leftrightarrow \nu_i=\gamma_i \, (i=1, \ldots, k)」である。よって示された。
系 21.5.4.(抜粋) n \times n 行列 \mathbf{A} で, スペクトルがそれぞれ幾何学的重複度 \nu_1, \ldots, \nu_k をもつ k 個の固有值から成るものは, \sum_{i=1}^k \nu_i=n のときかつそのときに限って対角化可能である.
系 21.3.7. (抜粋)A を n \times n 行列で, それぞれ代数的重複度 \gamma_1, \ldots, \gamma_k と幾何学的 重複度 \nu_1, \ldots, \nu_k の k 個の相異なる固有值 \lambda_1, \ldots, \lambda_k をもつとする. もし \sum_{i=1}^k \nu_i=n ならば, \sum_{i=1}^k \gamma_i=n である. 更に, もし \sum_{i=1}^k \nu_i=\sum_{i=1}^k \gamma_i=n ならば, (i=1, \ldots, k に対して) \nu_i=\gamma_i である.
17.
\mathbf{A}をn \times n対称行列で, d_1 \leq d_2 \leq \cdots \leq d_nの順序に並ベた(必ずしも相異 ならない)固有値d_1, \ldots, d_nをもつものとする. また\mathbf{Q}をn \times n直交行列<s>でが</s>かつ\mathbf{Q}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{Q}=\operatorname{diag}\left(d_1, \ldots, d_n\right)を満たすものとする ―この存在は系21.5 .9で保証されている. 更に, m=2, \ldots, n-1に対して, \mathbf{Q}_m=\left(\mathbf{q}_1, \ldots, \mathbf{q}_{m-1}\right), \mathbf{P}_m=\left(\mathbf{q}_{m+1}, \ldots, \mathbf{q}_n\right)として, S_m=\left\{\mathbf{x} \in \mathcal{R}^{n \times 1}: \mathbf{x} \neq \mathbf{0}, \mathbf{Q}_m^{\prime} \mathbf{x}=\mathbf{0}\right\}, T_m=\left\{\mathbf{x} \in \mathcal{R}^{n \times 1}: \mathbf{x} \neq \mathbf{0}, \mathbf{P}_m^{\prime} \mathbf{x}=\mathbf{0}\right\}と定義する.m=2, \ldots, n-1に対して,
d_m=\min _{\mathbf{x} \in S_m} \frac{\mathbf{x}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{x}}{\mathbf{x}^{\prime} \mathbf{x}}=\max _{\mathbf{x} \in T_m} \frac{\mathbf{x}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{x}}{\mathbf{x}^{\prime} \mathbf{x}}
を示せ.
\mathbf{x}を\mathbf{0}ではない任意のn \times 1ベクトル、\mathbf{y} = \mathbf{Q}'\mathbf{x}とおく。また、\mathbf{Q}と\mathbf{y}の分割を\mathbf{Q} = (\mathbf{Q}_m, \mathbf{R}_m)、\mathbf{y} = (\mathbf{y}_1, \mathbf{y}_2)' (\mathbf{y}_1は(m - 1) \times 1ベクトル) とおく。定義より、
\mathbf{x} = \mathbf{Q}\mathbf{y} = \mathbf{Q}_m\mathbf{y}_1 + \mathbf{R}_m\mathbf{y}_2
である。また、\mathbf{Q}は直交行列 (i.e., 各行が線形独立) なので、\mathbf{y}_1 = \mathbf{0} \Leftrightarrow \mathbf{Q}_m\mathbf{y}_1 = \mathbf{0}。よって、
\mathbf{Q}'_m\mathbf{x} = \mathbf{0} \Leftrightarrow \mathbf{y}_1 = \mathbf{0} \Leftrightarrow \mathbf{x} = \mathbf{R}_m\mathbf{y}_2.
つまり、\mathbf{x} \in S_mであることと、\mathbf{0}ではない任意のベクトル\mathbf{y}_2に対して\mathbf{x} = \mathbf{R}_m\mathbf{y}_2が成り立つことは同値である。
今、\mathbf{x} \in S_mであるとする。\mathbf{R}'_m\mathbf{R}_m = \mathbf{I}より、
\min _{\mathbf{x} \in S_m} \frac{\mathbf{x}'\mathbf{A}\mathbf{x}}{\mathbf{x}'\mathbf{x}} = \min _{\mathbf{y}_2 \neq \mathbf{0}} \frac{(\mathbf{R}_m\mathbf{y}_2)'\mathbf{A}\mathbf{R}_m\mathbf{y}_2}{(\mathbf{R}_m\mathbf{y}_2)'\mathbf{R}_m\mathbf{y}_2} = \min _{\mathbf{y}_2 \neq \mathbf{0}} \frac{\mathbf{y}'_2(\mathbf{R}'_m\mathbf{A}\mathbf{R}_m)\mathbf{y}_2}{\mathbf{y}'_2\mathbf{y}_2}.
定義より、\mathbf{R}'_m\mathbf{A}\mathbf{R}_m = \operatorname{diag}(d_m, d_{m + 1}, \cdots, d_n)である。従って、
\min _{\mathbf{x} \in S_m} \frac{\mathbf{x}'\mathbf{A}\mathbf{x}}{\mathbf{x}'\mathbf{x}} = d_m
となる。\max _{\mathbf{x} \in T_m} \frac{\mathbf{x}'\mathbf{A}\mathbf{x}}{\mathbf{x}'\mathbf{x}} = d_mについても、同様に示すことができる。
18.
\mathbf{A}をn \times n対称行列とし, 21.5 \mathrm{f}節と同じ記号を用いる.
\mathbf{A}=\sum_{j=1}^k \lambda_j \mathbf{E}_j (5.5)
\mathbf{(a)} \mathbf{A}のスペクトル分解(5.5)に現れる行列\mathbf{E}_1, \ldots, \mathbf{E}_kは, 次の性質をもつことを示せ.
\mathbf{(1)} \mathbf{E}_1+\cdots+\mathbf{E}_k=\mathbf{I}.
\mathbf{(2)} \mathbf{E}_1, \ldots, \mathbf{E}_kは\mathbf{0}でなく, 対称, 幂等である.
\mathbf{(3)} t \neq j=1, \ldots, kに対して, \mathbf{E}_t \mathbf{E}_j=\mathbf{0}である.
\mathbf{(4)} \operatorname{rank}\left(\mathbf{E}_1\right)+\cdots+\operatorname{rank}\left(\mathbf{E}_k\right)=n.
\mathbf{(b)} \mathbf{F}_1, \ldots, \mathbf{F}_rを\mathbf{0}でないn \times n冪等行列で\mathbf{F}_1+\cdots+\mathbf{F}_r=\mathbf{I}を満たすものとする. そして相異なるスカラー\tau_1, \ldots, \tau_rが存在して,
\mathbf{A}=\tau_1 \mathbf{F}_1+\cdots+\tau_r \mathbf{F}_r
と仮定する. このとき, r=kであり, 最初のr個の正の整数の順列t_1, \ldots, t_rで, (j=1, \ldots, rに対して) \tau_j=\lambda_{t_j}, \mathbf{F}_j=\mathbf{E}_{t_j}を満たすものが存在することを示せ.
\mathbf{E}_1+\cdots+\mathbf{E}_k=\sum_{j=1}^k \sum_{i \in S_j} \mathbf{q}_i \mathbf{q}_i^{\prime}=\sum_{i=1}^n \mathbf{q}_i \mathbf{q}_i^{\prime}=\mathbf{Q} \mathbf{Q}^{\prime}=\mathbf{I} .
(2)
系 5.3.2. 任意のm \times n行列\mathbf{A}に対して, \mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}=\mathbf{0}のときかつそのときに限って, \mathbf{A}=\mathbf{0}である.
さらに、\mathbf{E}_j^2=\mathbf{Q}_j \mathbf{Q}_j^{\prime} \mathbf{Q}_j \mathbf{Q}_j^{\prime}=\mathbf{Q}_j \mathbf{I} \mathbf{Q}_j^{\prime}=\mathbf{Q}_j \mathbf{Q}_j^{\prime}=\mathbf{E}_jなので、\mathbf{E}_jは冪等である。
(3)と(4)は模範解答では定理18.4.1から直ちに導かれると書かれているが、18章を飛ばしたので別の証明を記載する。
(3) t \neq jに対して, \mathbf{E}_t \mathbf{E}_j=\mathbf{Q}_t \mathbf{Q}_t^{\prime} \mathbf{Q}_j \mathbf{Q}_j^{\prime}=\mathbf{Q}_t\mathbf{0}\mathbf{Q}_j=\mathbf{0}である。
(4) 幾何学的重複度\nu_jはj番目の固有空間の次元として定義されているから、\nu_j=\operatorname{rank}\left(\mathbf{E}_j\right)である。系21.5.8により\sum_{i=1}^k \nu_i=n であるから、題意は示された。
系 21.5.8. \mathbf{A} を n \times n 対称行列で, それぞれ代数的重複度 \gamma_1, \ldots, \gamma_k と幾何学的重複度 \nu_1, \ldots, \nu_k の k 個の相異なる固有值 \lambda_1, \ldots, \lambda_k をもつとする. このとき, \sum_{i=1}^k \gamma_i=\sum_{i=1}^k \nu_i=n,(i=1, \ldots, kに対して)\nu_i=\gamma_i である.
(b) スペクトル分解の一意性から明らか…と思ったのですが、模範解答では正攻法で証明しているようです。(おそらくスペクトル分解以外にも題意の条件を満たす\tau_1, \ldots, \tau_r, \mathbf{F}_1, \ldots, \mathbf{F}_rが存在するんじゃないかという疑念を排除するため。)
定理18.4.1により、t \neq j=1, \ldots, rに対して\mathbf{F}_t \mathbf{F}_j=\mathbf{0}である。
定理 18.4.1. \mathbf{A}_1, \ldots, \mathbf{A}_k を n \times n 行列とし, \mathbf{A}=\mathbf{A}_1+\cdots+\mathbf{A}_k と置く. \mathbf{A} を冪等と仮定する. このとき, 次の 3 つの条件は同值である.
(1) (j \neq i=1, \ldots, k に対して ) \mathbf{A}_i \mathbf{A}_j=\mathbf{0} でかつ (i=1, \ldots, k に対して ) \operatorname{rank}\left(\mathbf{A}_i^2\right)=\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}_i\right).
(2) (i=1, \ldots, k に対して ) \mathbf{A}_i^2=\mathbf{A}_i.
(3) \operatorname{rank}\left(\mathbf{A}_1\right)+\cdots+\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}_k\right)=\operatorname{rank}(\mathbf{A}).
そして、j=1, \ldots, rに対して
\mathbf{A} \mathbf{F}_j=\tau_1 \mathbf{F}_1 \mathbf{F}_j+\cdots+\tau_r \mathbf{F}_r \mathbf{F}_j=\tau_j \mathbf{F}_j^2=\tau_j \mathbf{F}_j
となる。これは、\tau_jが\mathbf{A}の固有値で、\mathbf{F}_jの非零の列が全て\tau_jに対応する固有ベクトルであることを意味している。従って、整数の集合\left\{1, \ldots, k \right\}の部分集合T=\left\{t_1, \ldots, t_r\right\}であって、(j=1, \ldots, rに対して) \tau_j=\lambda_{t_j}であるものが存在する(従って、r \leq kである)。さらに、
\mathcal{C}\left(\mathbf{E}_{t_j}\right)=\mathcal{C}\left(\mathbf{Q}_{t_j} \mathbf{Q}_{t_j}^{\prime}\right)=\mathcal{C}\left(\mathbf{Q}_{t_j}\right)=\mathcal{N}\left(\mathbf{A}-\lambda_{t_j} \mathbf{I}\right)=\mathcal{N}\left(\mathbf{A}-\tau_j \mathbf{I}\right),
系 7.4.5. 任意の行列 \mathbf{A} に対して, \mathcal{C}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)=\mathcal{C}\left(\mathbf{A}^{\prime}\right), \mathcal{R}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)=\mathcal{R}(\mathbf{A}), \operatorname{rank}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)=\operatorname{rank}(\mathbf{A}) が成り立つ.
であるから、\mathcal{C}(\mathbf{F}_j) \subset \mathcal{C}(\mathbf{E}_{t_j})である。従って、あるn \times n行列 \mathbf{L}_jが存在して、\mathbf{F}_j =\mathbf{E}_{t_j} \mathbf{L}_jである。
これを元の式に代入して、
\mathbf{A}=\lambda_{t_1} \mathbf{E}_{t_1} \mathbf{L}_1+\cdots+\lambda_{t_r} \mathbf{E}_{t_r} \mathbf{L}_r,
である。これは、問題(a)と(5.5)式を使うと、(j=1, \ldots, rに対して )
\lambda_{t_j} \mathbf{E}_{t_j}=\lambda_{t_j} \mathbf{E}_{t_j}^2=\mathbf{E}_{t_j} \mathbf{A}=\lambda_{t_j} \mathbf{E}_{t_j}^2 \mathbf{L}_j=\lambda_{t_j} \mathbf{E}_{t_j} \mathbf{L}_j=\lambda_{t_j} \mathbf{F}_j
\tag{S.3}
を意味している。よって、 \lambda_{t_j}=0または\mathbf{F}_j=\mathbf{E}_{t_j}であると分かる。
さらに、j \notin Tであるような j に対しては、
\lambda_j \mathbf{E}_j=\lambda_j \mathbf{E}_j^2=\mathbf{E}_j \mathbf{A}=\mathbf{0},
であり、(\mathbf{E}_j \neq \mathbf{0}なので)\lambda_j=0である (従ってk \leq r+1である )と分かる。
証明を完成させるためには、 r=kであることと ( for j=1, \ldots, r に対して) \mathbf{F}_j=\mathbf{E}_{t_j}であることを示せば十分である。以下の2つに場合分けして考える。
(1) j=1, \ldots, rに対して、\lambda_{t_j} \neq 0
(2) ある整数s(1 \leq s \leq r)に対して、\lambda_{t_s}=0
(1)の場合、(S.3)式より( j=1, \ldots, r に対して) \mathbf{F}_j=\mathbf{E}_{t_j}であり、r=kである。(そうでないと、\lambda_s=0となる整数s \notin Tに対して、問題(a)を用いると
\mathbf{E}_s=\mathbf{I}-\sum_{j=1}^r \mathbf{E}_{t_j}=\mathbf{I}-\sum_{j=1}^r \mathbf{F}_j=\mathbf{I}-\mathbf{I}=\mathbf{0},
となり、問題 (a)で導いた, \mathbf{E}_s \neq \mathbf{0} と言う性質に矛盾する。)
(2)の場合は明らかに、r=kであり、((S.3)式と問題(a)から)j \neq sに対して \mathbf{F}_j=\mathbf{E}_{t_j}であり、
\mathbf{F}_s=\mathbf{I}-\sum_{j \neq s} \mathbf{F}_j=\mathbf{I}-\sum_{j \neq s} \mathbf{E}_{t_j}=\mathbf{E}_{t_s} .
19.
\mathbf{A}をn \times n対称行列, d_1, \ldots, d_nを\mathbf{A}の (必ずしも相異ならない) 固有値とする.i=1, \ldots, kに対して\left|d_i\right|<1のときかつそのときに限って, \lim _{k \rightarrow \infty} \mathbf{A}^k=\mathbf{0}であることを示せ.
解.()
20.
\mathbf{(a)} もし0が必ずしも対称でないn \times n行列\mathbf{A}の固有値ならば, それは\mathbf{A}^{+}の固有値であり, 0を\mathbf{A}^{+}の固有値と見なしたときの幾何学的重複度は0を\mathbf{A}の固有値と見なしたときと一致することを示せ.
\mathbf{(b)} 正方非対称行列\mathbf{A}の0でない固有値の逆数は必ずしも\mathbf{A}^{+}の固有値でないことを(例を挙げて)示せ.
\mathbf{(a)} 定理20.5.1の(1)から任意の行列\mathbf{A}に対して\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}^{+}\right)=\operatorname{rank}(\mathbf{A})が成立する。また定理21.1.1より、0が行列\mathbf{A}の固有値ならば、(1.1)と合わせて\operatorname{rank}(\mathbf{A}) = n-\dim[\mathcal{N}(\mathbf{A})]であるため、合わせると\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}^{+}\right)=\operatorname{rank}(\mathbf{A}) \lt nが成立する。したがって\mathbf{A}^{+}もフルランクでないため、0を固有値に持つことが示される。
さらに、
n-\dim[\mathcal{N}(\mathbf{A})] = \operatorname{rank}(\mathbf{A}) = \operatorname{rank}(\mathbf{A}^{+})
補助定理21.1.1.n \times n行列\mathbf{A}が特異なときかつそのときに限って, スカラー0は\mathbf{A}の固有値であり, この場合には, 固有値0の幾何学的重複度はn-\operatorname{rank}(\mathbf{A})であり, 言い換えると\operatorname{rank}(\mathbf{A})はnから固有値0の幾何学的重複度を引いたものである.
\mathbf{(b)} n\times n行列の\mathbf{A} = \left(\mathbf{1}_{n}, \mathbf{0}\right)を例として考える(n\ge 2)(これは1列目のすべての要素が1で、残りの列が0の行列である)。これは\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}= \operatorname{diag}(n, 0,0, \ldots, 0)であり、n \times n対角行列\mathbf{D}=\left\{d_i\right\}に対して\mathbf{D}^{+}=\operatorname{diag}\left(d_1^{+}, d_2^{+}, \ldots, d_n^{+}\right)となることを用いると(下巻P.193)、\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)^{+}=\operatorname{diag}(1 / n, 0,0, \ldots, 0)である。これより系20.5.5に照らして
\mathbf{A}^{+}=\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)^{+} \mathbf{A}^{\prime}=\left(\begin{array}{c}
(1 / n) \mathbf{1}_n^{\prime} \\
0
\end{array}\right) .
が得られる。ここで、\mathbf{A}と\mathbf{A}^{+}はともに三角行列になっているため、系21.2.2より\mathbf{A}の固有値は0または1である。一方で\mathbf{A}^{+}の固有値は0と1 / nとなる。明らかに、1 / nは(n \ge 2において)1の逆数ではない。以上より、題意が示された。
系20.5.5. 任意の行列\mathbf{A}に対して,
\mathbf{A}^{+}=\mathbf{A}^{\prime}\left(\mathbf{A} \mathbf{A}^{\prime}\right)^{+}=\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)^{+} \mathbf{A}^{\prime}である.
系21.2.2. 任意のn \times n(上あるいは下)三角行列\mathbf{A}=\left\{a_{i j}\right\}に対して, 次のことが成り立つ.
(1) \mathbf{A}の特性多項式は,p(\lambda)=(-1)^n \prod_{i=1}^n\left(\lambda-a_{i i}\right)である.
(2) スカラー\lambdaが\mathbf{A}の対角要素a_{11}, \ldots, a_{nn}の少なくとも1つに等しい, すなわち, \mathbf{A}のスペクトルが\mathbf{A}の対角要素の相異なるスカラーから成るときかつそのときに限って, \lambdaは\mathbf{A}の固有値である.
(3) \mathbf{A}の固有値\lambdaの代数的重複度は, \mathbf{A}の対角要素の\lambdaの個数に等しい.
(4) \mathbf{A}の(必ずしも相異ならない) 固有値は, \mathbf{A}の対角要素である.
21.
2で割り切れる任意の整数nに対して,固有値をもたないn \times n直交行列が存在することを示せ.
(ヒント:固有値をもたない2 \times 2直交行列\mathbf{Q}を見つけ, 次いでブロック対角行列\operatorname{diag}(\mathbf{Q}, \mathbf{Q}, \ldots, \mathbf{Q})を考えよ.)
\mathbf{Q}=\left(\begin{array}{rr}0 & 1 \\ -1 & 0\end{array}\right) とする. 明らかに, \mathbf{Q} は直交であり, (21.1 章で示したように) 固有値を持たない. 今, n \times n ブロック対角行列 \operatorname{diag}(\mathbf{Q}, \mathbf{Q}, \ldots, \mathbf{Q}) (n / 2 個の対角ブロックを持つ) を考える. この行列は容易に直交することが確認でき, 補助定理 21.2.1 (2) の結果からこれは固有値を持たない.
22.
\mathbf{Q}をn \times n直交行列, p(\lambda)を\mathbf{Q}の特性多項式とする.(\lambda \neq 0に対して)
p(\lambda)=\pm \lambda^n p(1 / \lambda)
を示せ.
\lambdaを非零のスカラーとする。このとき、
\mathbf{Q}-\lambda \mathbf{I} = \mathbf{Q}-\lambda \mathbf{Q}\mathbf{Q}^{\prime} = -\lambda \mathbf{Q}[\mathbf{Q}^{\prime}-(1/\lambda) \mathbf{I} ]= -\lambda \mathbf{Q}[\mathbf{Q}-(1/\lambda) \mathbf{I} ]^{\prime}
が成り立つ。
定理13.2.1
任意のn\times n行列\mathbf{A}に対して、 |\mathbf{A}^{\prime}| = |\mathbf{A}|
定理13.2.4
任意のn\times n行列\mathbf{A}と任意のスカラーkに対して、|k \mathbf{A}| = k^n |\mathbf{A}|
定理13.3.4
任意のn\times n行列\mathbf{A},\mathbf{B}に対して、|\mathbf{A}\mathbf{B}| = |\mathbf{A}||\mathbf{B}|
定理13.3.6
直交行列\mathbf{P}に対して、|\mathbf{P}| = \pm 1
以上の定理を用いてe
p(\lambda) = |\mathbf{Q}-\lambda \mathbf{I} | = |-\lambda \mathbf{Q}||[\mathbf{Q}-(1/\lambda) \mathbf{I} ]^{\prime}| = (-\lambda)^n |\mathbf{Q} | |\mathbf{Q}-(1/ \lambda) \mathbf{I} | = (-\lambda)^n (\pm 1) p(1/\lambda)
よって題意が満たされた。
23.
\mathbf{A}をn \times n行列とし, スカラー 1 を幾何学的重複度\nuの\mathbf{A}の固有値と仮定す る.\nu \leq \operatorname{rank}(\mathbf{A})であり, もし\nu=\operatorname{rank}(\mathbf{A})ならば\mathbf{A}は幂等なことを示せ.
系21.3.8より、v\leq\operatorname{rank}(\mathbf{A})は示される。
\nu=\operatorname{rank}(\mathbf{A})とすると、系21.3.8より、\mathbf{A}は1以外の非零固有値を持たない。
定理21.5.4より、\mathbf{A}は対角化可能であることが分かる。
従って、定理21.8.3の帰結として、\mathbf{A}はべき乗であることが分かる。
系21.3.8
\mathbf{A}を n \times n 行列で, 幾何学的重複度がそれぞれ \nu_1, \ldots, \nu_kのk 個 の相異なる固有值 \lambda_1, \ldots, \lambda_k をもつとする. このとき, (\mathbf{A}の)( k 個あるいは k-1 個の)0でない相異なる固有值の幾何学的重複度の和は\operatorname{rank}(\mathbf{A})以下であり,等号は\sum_{i=1}^k \nu_i=nのときかつそのときに限って成り立つ.
系21.5.4
n \times n行列\mathbf{A}で, スベクトルがそれぞれ幾何学的重複度ν_1,...,ν_k をもつk個の固有值から成るものは, \sum_{i=1}^k\nu_i=nのときかつそのときに限って,すなわち,(A の)k個あるいはk-1個の0でない相異なる固有值の幾何学的重複度の和が \operatorname{rank}(\mathbf{A})のときかつそのときに限って,対角化可能である.
定理21.8.3
n \times n対称行列\mathbf{A}, あるいはもっと一般に, n \times n対角化可能 な行列\mathbf{A} は, 0あるいは1以外のいかなる固有值ももたないときかつそのときに限って, 冪等行列である.
24.
\mathbf{A}をn \times n非特異行列とする. そして\lambdaを\mathbf{A}の固有値, \mathbf{x}を\lambdaに対応する\mathbf{A}の固有ベクトルとする.|\mathbf{A}| / \lambdaが\operatorname{adj}(\mathbf{A})の固有値であり, \mathbf{x}が|\mathbf{A}| / \lambdaに対応す る\operatorname{adj}(\mathbf{A})の固有ベクトルであることを示せ.
補助定理21.1.3(2)より 1 / \lambda は \mathbf{A}^{-1} の固有値であり、それに対応する固有ベクトルは \mathbf{x} である。また系13.5.4より \text{adj}(\mathbf{A})=|\mathbf{A}| \mathbf{A}^{-1} だから、|\mathbf{A}| / \lambda は \text{adj}(\mathbf{A}) の固有値であり、それに対応する固有ベクトルは \mathbf{x} である。
補助定理21.1.3(2) \lambda を n \times n 行列 \mathbf{A} の固有值, \mathbf{x} を \lambda に対応する (\mathbf{A} の) 任意の固有ベクトルとする. もし \mathbf{A} が非特異ならば(この場合には \lambda \neq 0 である), 1 / \lambda は \mathbf{A}^{-1} の固有值であり, \mathbf{x} は 1 / \lambda に対応する \mathbf{A}^{-1} の固有ベクトルである.
系13.5.4 \mathbf{A} が非特異行列ならば \operatorname{adj}(\mathbf{A})=|\mathbf{A}| \mathbf{A}^{-1} である.
25.
\mathbf{A}をn \times n行列, p(\lambda)を\mathbf{A}の特性多項式とする. そして\lambda_1, \ldots, \lambda_kを\mathbf{A}の相 異なる固有値, \gamma_1, \ldots, \gamma_kをそれらのそれぞれの代数的重複度とする. すなわち, いかなる実根ももたない (次数n-\sum_{j=1}^k \gamma_jの) ある多項式q(\lambda)に対して,(す ベての\lambdaに対して)
p(\lambda)=(-1)^n q(\lambda) \prod_{j=1}^k\left(\lambda-\lambda_j\right)^{\gamma_j}
となるとする. 更に, \mathbf{U}=\left(\mathbf{u}_1, \ldots, \mathbf{u}_{\gamma_1}\right)をn \times \gamma_1行列で, 列\mathbf{u}_1, \ldots, \mathbf{u}_{\gamma_1}が\lambda_1に対応する\mathbf{A}の(必ずしも線形独立でない)固有ベクトルであるもの, \mathbf{V}=\left(\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_{\gamma_1}\right)をn \times \gamma_1行列で, \mathbf{V}^{\prime} \mathbf{U}が対角行列であるものとして, \mathbf{B}=\mathbf{A}-\lambda_1 \mathbf{U V}^{\prime}と定義する.
\mathbf{(a)} \mathbf{B}の特性多項式r(\lambda)は,(すべての\lambdaに対して)
r(\lambda)=(-1)^n q(\lambda) \prod_{i=1}^{\gamma_1}\left[\lambda-\left(1-\mathbf{v}_i^{\prime} \mathbf{u}_i\right) \lambda_1\right] \prod_{j=2}^k\left(\lambda-\lambda_j\right)^{\gamma_j}
であることを示せ.
(ヒント:等式 (E.1) の左辺と右辺は(\lambdaに関する) 多項式なので, これら が\lambda_1, \ldots, \lambda_k以外のすべての\lambdaに対して等しいことを示せば十分である.)
\mathbf{(b)} 特に, あるスカラーc \neq 0に対して\mathbf{U}^{\prime} \mathbf{V}=c \mathbf{I}の場合には, \mathbf{B}の相異 なる固有値は (あるs(2 \leq s \leq k)に対して(1-c) \lambda_1=\lambda_sか否かに よって)それぞれ代数的重複度\gamma_2, \ldots, \gamma_{s-1}, \gamma_s+\gamma_1, \gamma_{s+1}, \ldots, \gamma_kをもつ\lambda_2, \ldots, \lambda_{s-1}, \lambda_s, \lambda_{s+1}, \lambda_kであるか, あるいはそれぞれ代数的重複度\gamma_1, \gamma_2, \ldots, \gamma_kをもつ(1-c) \lambda_1, \lambda_2, \ldots, \lambda_kであるかのどちらかであることを示せ.
\mathbf{(c)} 特に\gamma_1=1の場合には, 次のことが成り立つことを示せ. (1)\mathbf{u}_1は固有値\left(1-\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{u}_1\right) \lambda_1に対応する B の固有ベクトルである.(2)\left(\left(1-\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{u}_1\right) \lambda_1\right.以 外の)固有値\lambdaに対応する\mathbf{B}の任意の固有ベクトル\mathbf{x}に対して, ベクトル
\mathbf{x}-\lambda_1\left(\lambda_1-\lambda\right)^{-1}\left(\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{x}\right) \mathbf{u}_1
は\lambdaに対応する\mathbf{A}の固有ベクトルである.
(a) \lambda を \lambda_1, \ldots, \lambda_k 以外の任意の実数とする. すると,
(\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I}) \mathbf{U}=\mathbf{A} \mathbf{U}-\lambda \mathbf{U}=\left(\lambda_1-\lambda\right) \mathbf{U},
このことから (\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I})^{-1} \mathbf{U}=-\left(\lambda-\lambda_1\right)^{-1} \mathbf{U} であることもわかる. 系18.1 .2 ( \left|\mathbf{I}_n+\mathbf{S U}\right|=\left|\mathbf{I}_m+\mathbf{U S}\right| ) を用いて,
\begin{aligned}
r(\lambda) & =\left|\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I}-\lambda_1 \mathbf{U V}^{\prime}\right| \\
& =|\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I}|\left|\mathbf{I}-\lambda_1(\mathbf{A}-\lambda \mathbf{I})^{-1} \mathbf{U V}^{\prime}\right|
\end{aligned}
\begin{aligned}
& =p(\lambda)\left|\mathbf{I}_n+\lambda_1\left(\lambda-\lambda_1\right)^{-1} \mathbf{U} \mathbf{V}^{\prime}\right| \\
& =p(\lambda)\left|\mathbf{I}_{\gamma_1}+\lambda_1\left(\lambda-\lambda_1\right)^{-1} \mathbf{V}^{\prime} \mathbf{U}\right| \\
& =p(\lambda) \prod_{i=1}^{\gamma_1}\left[1+\lambda_1\left(\lambda-\lambda_1\right)^{-1} \mathbf{v}_i^{\prime} \mathbf{u}_i\right] \\
& =p(\lambda)\left(\lambda-\lambda_1\right)^{-\gamma_1} \prod_{i=1}^{\gamma_1}\left(\lambda-\lambda_1+\lambda_1 \mathbf{v}_i^{\prime} \mathbf{u}_i\right) \\
& =(-1)^n q(\lambda) \prod_{i=1}^{\gamma_1}\left[\lambda-\left(1-\mathbf{v}_i^{\prime} \mathbf{u}_i\right) \lambda_1\right] \prod_{j=2}^k\left(\lambda-\lambda_j\right)^{\gamma_j}
\end{aligned}
(b)
\prod_{i=1}^{\gamma_1}\left[\lambda-\left(1-\mathbf{v}_i^{\prime} \mathbf{u}_i\right) \lambda_1\right]=\left[\lambda-(1-c) \lambda_1\right]^{\gamma_1} .
このことから\mathbf{B}の相異 なる固有値は, (1-c) \lambda_1= \lambda_s のとき代数的重複度\gamma_2, \ldots, \gamma_{s-1}, \gamma_s+\gamma_1, \gamma_{s+1}, \ldots, \gamma_kをもつ\lambda_2, \ldots, \lambda_{s-1}, \lambda_s, \lambda_{s+1}, \lambda_kとなり, \lambda_1 \neq \lambda_s のとき代数的重複度\gamma_1, \gamma_2, \ldots, \gamma_kをもつ(1-c) \lambda_1, \lambda_2, \ldots, \lambda_kである.
(c)
(1)
\mathbf{B u}_1=\mathbf{A} \mathbf{u}_1-\lambda_1 \mathbf{u}_1 \mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{u}_1=\lambda_1 \mathbf{u}_1-\lambda_1\left(\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{u}_1\right) \mathbf{u}_1=\left(1-\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{u}_1\right) \lambda_1 \mathbf{u}_1
(2)
\left(\mathbf{A}-\mathbf{A} \mathbf{u}_1 \mathbf{v}_1^{\prime}\right) \mathbf{x}=\left(\mathbf{A}-\lambda_1 \mathbf{u}_1 \mathbf{v}_1^{\prime}\right) \mathbf{x}=\lambda \mathbf{x}
よって
\mathbf{A}\left[\mathbf{x}-\left(\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{x}\right) \mathbf{u}_1\right]=\lambda \mathbf{x}
したがって,最終的に求めたい固有ベクトルの式形にして,
\mathbf{A}\left(\mathbf{x}-d \mathbf{u}_1\right)=\mathbf{A}\left[\mathbf{x}-\left(\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{x}\right) \mathbf{u}_1+\left(\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{x}\right) \mathbf{u}_1-d \mathbf{u}_1\right]=\lambda \mathbf{x}-\left(d-\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{x}\right) \lambda_1 \mathbf{u}_1 .
さらに, \lambda_1 d-\lambda d=\left(\lambda_1-\lambda\right) d=\lambda_1 \mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{x}, であるから \left(d-\mathbf{v}_1^{\prime} \mathbf{x}\right) \lambda_1=\lambda d といえる. したがって
\mathbf{A}\left(\mathbf{x}-d \mathbf{u}_1\right)=\lambda\left(\mathbf{x}-d \mathbf{u}_1\right) .
また, \mathbf{x}-d \mathbf{u}_1 \neq \mathbf{0} (\mathbf{x} と \mathbf{u}_1 は異なる固有値に対応するBの固有ベクトルであることから、定理21.4.1に照らし合わせると, \mathbf{x} と \mathbf{u}_1 は線形独立であり, \mathbf{x}-d \mathbf{u}_1 は \mathbf{A} の \lambda に対する固有ベクトルである.
26.
\mathbf{A}を階数rのm \times n行列とする. そして, \mathbf{P}をm \times m直交行列, \mathbf{D}_1をr \times r非特異対角行列で,
\mathbf{P}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{A}^{\prime} \mathbf{P}=\left(\begin{array}{cc}
\mathbf{D}_1^2 & \mathbf{0} \\
\mathbf{0} & \mathbf{0}
\end{array}\right)
を満たす任意のものとする. 更に, \mathbf{P}=\left(\mathbf{P}_1, \mathbf{P}_2\right)と分割し, \mathbf{P}_1はr個の列をもつとする. また, \mathbf{Q}_1=\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{P}_1 \mathbf{D}_1^{-1}と置き, \mathbf{Q}_2はn \times(n-r)行列で\mathbf{Q}_1^{\prime} \mathbf{Q}_2=\mathbf{0}を満たすものとして, \mathbf{Q}=\left(\mathbf{Q}_1, \mathbf{Q}_2\right)と置く. このとき,
\mathbf{P}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{Q}=\left(\begin{array}{cc}
\mathbf{D}_1 & \mathbf{0} \\
\mathbf{0} & \mathbf{0}
\end{array}\right)
を示せ.
定理21.12.1の\mathbf{A}を\mathbf{A}'に、nをmに、\mathbf{Q}を\mathbf{P}に、\mathbf{P}を\mathbf{Q}にそれぞれ置き換えることで、
\mathbf{Q}'\mathbf{A}'\mathbf{P} = \left(\begin{array}{cc}
\mathbf{D}_1 & \mathbf{0} \\
\mathbf{0} & \mathbf{0}
\end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc}
\mathbf{D}_1 & \mathbf{0} \\
\mathbf{0} & \mathbf{0}
\end{array}\right)' = (\mathbf{Q}'\mathbf{A}'\mathbf{P})' = \mathbf{P}'\mathbf{A}\mathbf{Q}
を示すことができる。
27.
分解 (12.7) に現れる行列\mathbf{U}_1, \ldots, \mathbf{U}_kは, (j=1, \ldots, kに対して) \mathbf{U}_j \mathbf{U}_j^{\prime} \mathbf{U}_j=\mathbf{U}_jで, (t \neq j=1, \ldots, kに対して) \mathbf{U}_t^{\prime} \mathbf{U}_j=\mathbf{0}, \mathbf{U}_t \mathbf{U}_j^{\prime}=\mathbf{0}であることを示せ.
解.()
28.
\mathbf{A}をm \times n行列とする. そして, 定理 21.12.3におけるように, \mathbf{P}をm \times m直交行列, \mathbf{Q}をn \times n直交行列, \mathbf{D}_1をr \times r非特異対角行列で,
\mathbf{P}^{\prime} \mathbf{A Q}=\begin{pmatrix}\mathbf{D}_1 & \mathbf{0} \\\mathbf{0} & \mathbf{0}\end{pmatrix} \tag{12.8}
を満たすものとする. 更に, \mathbf{P}=\left(\mathbf{P}_1, \mathbf{P}_2\right), \mathbf{Q}=\left(\mathbf{Q}_1, \mathbf{Q}_2\right)と分割し, 行列\mathbf{P}_1, \mathbf{Q}_1の各々はr個の列をもつとする.このとき, \mathcal{C}(\mathbf{A})=\mathcal{C}\left(\mathbf{P}_1\right), \mathcal{N}(\mathbf{A})=\mathcal{C}\left(\mathbf{Q}_2\right)を示せ.
定理21.12.3 \mathbf{A} を m \times n 行列とする. また, \mathbf{P} を m \times m 直交行列, \mathbf{Q} を n \times n 直交行列, \mathbf{D}_1 を r \times r 非特異対角行列で,
\mathbf{P}^{\prime} \mathbf{A Q}=\begin{pmatrix}\mathbf{D}_1 & \mathbf{0} \\\mathbf{0} & \mathbf{0}\end{pmatrix} \tag{12.8}を満たすものとする. 更に, \mathbf{P}=\left(\mathbf{P}_1, \mathbf{P}_2\right), \mathbf{Q}=\left(\mathbf{Q}_1, \mathbf{Q}_2\right) と分割し, 行列\mathbf{P}_1, \mathbf{Q}_1の各々はr個の列をもつとする. このときr=\operatorname{rank}(\mathbf{A})\tag{12.9}\mathbf{Q}^{\prime} \mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{Q}=\begin{pmatrix}\mathbf{D}_1^2 & \mathbf{0} \\\mathbf{0} & \mathbf{0}\end{pmatrix}\tag{12.10} \mathbf{P}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{A}^{\prime} \mathbf{P}=\begin{pmatrix}\mathbf{D}_1^2 & \mathbf{0} \\\mathbf{0} & \mathbf{0}\end{pmatrix} \tag{12.11} \mathbf{P}_1=\mathbf{A} \mathbf{Q}_1 \mathbf{D}_1^{-1}\tag{12.12} \mathbf{Q}_1=\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{P}_1 \mathbf{D}_1^{-1}\tag{12.13}である.
\mathcal{C}(\mathbf{A})=\mathcal{C}\left(\mathbf{P}_1\right)を示すためには\mathcal{C}(\mathbf{A})\subset\mathcal{C}\left(\mathbf{P}_1\right)と\mathcal{C}(\mathbf{A})\supset\mathcal{C}\left(\mathbf{P}_1\right)が両方成立することを示せば良い。前半は問題文から(あるいは(12.4)と(12.5)と同じく)
\mathbf{A}=\mathbf{P}\begin{pmatrix}
\mathbf{D}_1 & \mathbf{0} \\
\mathbf{0} & \mathbf{0}
\end{pmatrix} \mathbf{Q}^{\prime}=\mathbf{P}_1 \mathbf{D}_1 \mathbf{Q}_1^{\prime},
であるから、補助定理4.2.2から\mathcal{C}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{C}\left(\mathbf{P}_1\right)である。さらに、後半は(12.12)の結果を用いると同様に\mathcal{C}\left(\mathbf{P}_1\right) \subset \mathcal{C}(\mathbf{A})であることが導ける。よって\mathcal{C}(\mathbf{A})=\mathcal{C}\left(\mathbf{P}_1\right)が示された。
\mathcal{N}(\mathbf{A})=\mathcal{C}\left(\mathbf{Q}_2\right)の証明について、まず\mathbf{Q}^{\prime} \mathbf{Q} = \begin{pmatrix}\mathbf{Q}^{\prime}_{1} \\ \mathbf{Q}^{\prime}_{2}\end{pmatrix}(\mathbf{Q}_{1}, \mathbf{Q}_{2})について、\mathbf{Q}はn \times n直交行列であるから\mathbf{Q}^{\prime} \mathbf{Q} = \mathbf{I}_{n}なので
\mathbf{I}_n=\mathbf{Q}^{\prime} \mathbf{Q} =
\begin{pmatrix}
\mathbf{Q}_1^{\prime} \mathbf{Q}_1 & \mathbf{Q}_1^{\prime} \mathbf{Q}_2 \\
\mathbf{Q}_2^{\prime} \mathbf{Q}_1 & \mathbf{Q}_2^{\prime} \mathbf{Q}_2
\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
\mathbf{I}_r & \mathbf{0} \\
\mathbf{0} & \mathbf{I}_{n-r}
\end{pmatrix}
つまり\mathbf{Q}_1^{\prime} \mathbf{Q}_2=\mathbf{0}となる(また\operatorname{rank}(\mathbf{Q}_{2})=n-rである)。これより,
\mathbf{A} \mathbf{Q}_2=\mathbf{P}_1 \mathbf{D}_1 \mathbf{Q}_1^{\prime} \mathbf{Q}_2=\mathbf{0}
これと(12.9)の結果を用いて、
\operatorname{rank}\left(\mathbf{Q}_2\right)=n-r=n-\operatorname{rank}(\mathbf{A})
以上で、補助定理11.4.1の(2)を用いて\mathcal{N}(\mathbf{A})=\mathcal{C}\left(\mathbf{Q}_2\right)が得られる。
補助定理 11.4.1. \mathbf{A}をm \times n 行列, \mathbf{X}をn \times p行列とする. このとき, (1) もし\mathbf{A X}=\mathbf{0}ならば, \mathcal{C}(\mathbf{X}) \subset \mathcal{N}(\mathbf{A})である. (2) もし\mathbf{A X}=\mathbf{0}かつ\operatorname{rank}(\mathbf{X})= n- \operatorname{rank}(\mathbf{A})ならば, \mathcal{C}(\mathbf{X}) = \mathcal{N}(\mathbf{A})である。
29.
\mathbf{A}_1, \ldots, \mathbf{A}_kは必ずしも対称でないn \times n行列で各々が対角化可能とする. もし\mathbf{A}_1, \ldots, \mathbf{A}_kが対として可換ならば, \mathbf{A}_1, \ldots, \mathbf{A}_kは同時対角化可能なことを示せ.
解.()
30.
\mathbf{V}をn \times n対称非負定値行列, \mathbf{X}を階数rのn \times p行列, \mathbf{d}をp次元列ベクトルとする.練習問題19.11の結果(あるいは他のもの)を用いて,あらゅる\mathbf{d} \in \mathcal{C}\left(\mathbf{X}^{\prime}\right)に対して, \mathbf{X}^{\prime} \mathbf{a}=\mathbf{d}の下で\left(\mathbf{a}\right.に関する)二次形式\mathbf{a}^{\prime} \mathbf{V a}を最小にする問題について, 次の3つの条件の各々はベクトル\mathbf{X}\left(\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X}\right)^{-} \mathbf{d}が解であるために必要十分であることを示せ.
\mathbf{(a)} \mathbf{V}, \mathbf{P}_{\mathbf{x}}を同時に対角化する直交行列が存在する.
\mathbf{(b)} \mathbf{V}の正規直交固有ベクトルのr個の部分集合で\mathcal{C}(\mathbf{X})の基底を成すものが存在する.
\mathbf{(c)} \mathbf{V}の固有ベクトルのr個の部分集合で\mathcal{C}(\mathbf{X})の基底を成すものが存在する.
(a) 定理12.3.4 (3) から\mathbf{P}_{\mathbf{X}} は対称である. このとき系21.13 .2の結果から, \mathbf{P}_{\mathbf{X}} \mathbf{V}=\mathbf{V}\mathbf{P}_{\mathbf{X}} であるときかつその時に限って\mathbf{V} と \mathbf{P}_{\mathbf{X}}を同時に対角化する直行行列が存在する. また練習問題19.11の結果(c)から\mathbf{V} と \mathbf{P}_{\mathbf{X}}を同時に対角化する直行行列が存在することは\mathbf{X}\left(\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X}\right)^{-} \mathbf{d}があらゆる\mathbf{d} \in \mathcal{C}\left(\mathbf{X}^{\prime}\right)に対して, \mathbf{X}^{\prime} \mathbf{a}=\mathbf{d}の下で\left(\mathbf{a}\right.に関する)二次形式\mathbf{a}^{\prime} \mathbf{V a}を最小にする問題の解となるための必要十分条件である.
定理(12.3.4)
(3) \mathbf{X} を任意の n \times p 行列とする. このとき\mathbf{P}_{\mathbf{X}}^{\prime}=\mathbf{P}_{\mathbf{X}}, すなわち, \mathbf{P}_{\mathbf{X}} は対称である. つまり, \mathbf{X}\left[\left(\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X}\right)^{-}\right]^{\prime} \mathbf{X}^{\prime}= \mathbf{X}\left(\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X}\right)^{-} \mathbf{X}^{\prime} である.
系 21.13.2.
もし 2 つの n \times n 行列 \mathbf{A}, \mathbf{B} が同時対角化可能ならば, これらは可換, すなわち, \mathbf{B A}=\mathbf{A B} である. もし 2 つの n \times n 対称行列 \mathbf{A}, \mathbf{B} が可 換(すなわち, これらの積 \mathbf{A B} が対称)ならば, これらは直交行列で同時対角化可能, すなわち, n \times n 直交行列 \mathbf{P} が存在して, 適当な対角行列 \mathbf{D}_1, \mathbf{D}_2 に対して, \mathbf{P}^{\prime} \mathbf{A P}=\mathbf{D}_1, \mathbf{P}^{\prime} \mathbf{B P}=\mathbf{D}_2 となる.
-
\mathbf{V} を n \times n 対称非負定值行列, \mathbf{X} を n \times p 行列, \mathbf{d} を p 次元列ベクトルとする. あらゆる \mathbf{d} \in \mathcal{C}\left(\mathbf{X}^{\prime}\right) に対して, \mathbf{X}^{\prime} \mathbf{a}=\mathbf{d} の下で ( \mathbf{a} に関する) 二次形式 \mathbf{a}^{\prime} \mathbf{V a} を最小にする問題について, 次の 6 つの条件の各々はベクトル \mathbf{X}\left(\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X}\right)^{-} \mathbf{d} が解 であるために必要十分であることを示せ.
(a) \mathcal{C}(\mathbf{V X}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{X}) (すなわち, ある行列 \mathbf{Q} に対して \mathbf{V X}=\mathbf{X} \mathbf{Q} ).
(b) \mathbf{P}_{\mathbf{x}} \mathbf{V}\left(\mathbf{I}-\mathbf{P}_{\mathbf{x}}\right)=\mathbf{0} (すなわち, \mathbf{P}_{\mathbf{x}} \mathbf{V}=\mathbf{P}_{\mathbf{x}} \mathbf{V} \mathbf{P}_{\mathbf{x}} ).
(c) P_{\mathbf{x}} \mathbf{V}=\mathbf{V P}_{\mathbf{x}} (すなわち, \mathbf{P}_{\mathbf{x}} \mathbf{V} は対称).
(d) \mathcal{C}(\mathbf{V P} \mathbf{x}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{P} \mathbf{x})
(e) \mathcal{C}(\mathbf{V P} \mathbf{x})=\mathcal{C}(\mathbf{V}) \cap \mathcal{C}(\mathbf{P} \mathbf{x}).
(f) \mathcal{C}(\mathbf{V X})=\mathcal{C}(\mathbf{V}) \cap \mathcal{C}(\mathbf{X}).
31.
\mathbf{A}をn \times n対称行列, \mathbf{B}をn \times n対称正定値行列とする. そして\lambda_{\max }, \lambda_{\min }が それぞれ|\mathbf{A}-\lambda \mathbf{B}|の最大, 最小の根とする.\mathcal{R}^nのあらゆるベクトル\mathbf{x} \neq 0に対して
\lambda_{\min } \leq \frac{\mathbf{x}^{\prime} \mathbf{A} \mathbf{x}}{\mathbf{x}^{\prime} \mathbf{B x}} \leq \lambda_{\max }
を示せ.
32.
\mathbf{A}をn \times n対称行列, \mathbf{B}をn \times n対称正定値行列とする.\mathbf{A}-\mathbf{B}は, |\mathbf{A}-\lambda \mathbf{B}|のn個の(必ずしも相異ならない)根がすべて 1 以上のときかつそのときに限って, 非負定値であり, n個の根がすべて 1 より(狭義に)大きいときかつそのときに限って, 正定値であることを示せ.
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