はじめに
統計のための行列代数 練習問題 解答例まとめを参照
第1章 練習問題
1.
(同じ次元の)任意の行列\mathbf{A}, \mathbf{B}, \mathbf{C}に対して,
(\mathbf{A}+\mathbf{B})+\mathbf{C}=(\mathbf{C}+\mathbf{A})+\mathbf{B}
であることを示せ.
解.
第1章(2.2)の加法の可換、(2.3)の結合法則を用いる。
\begin{aligned}
(\mathbf{A}+\mathbf{B})+\mathbf{C}
&=\mathbf{A}+(\mathbf{B}+\mathbf{C}) \quad (\because (2.3))\\
&=\mathbf{A}+(\mathbf{C}+\mathbf{B}) \quad (\because (2.2))\\
&=(\mathbf{A}+\mathbf{C})+\mathbf{B} \quad (\because (2.3))\\
&=(\mathbf{C}+\mathbf{A})+\mathbf{B} \quad (\because (2.2))
\end{aligned}
以上で示された。
2.
\mathbf{A}をm \times n行列, \mathbf{B}をn\times p行列, c, k を任意のスカラーとする. 結果
c \mathbf{A B}=(c \mathbf{A}) \mathbf{B}=\mathbf{A}(c \mathbf{B}) \tag{2.9}
と
c(k \mathbf{A})=(c k) \mathbf{A}=(k c) \mathbf{A}=k(c \mathbf{A}) \tag{2.1}
(あるいは別なもの)
(c \mathbf{A})(k \mathbf{B})=(c k) \mathbf{A} \mathbf{B}
であることを示せ.
解.
\begin{aligned}
(c\mathbf{A})(k\mathbf{B})
&=\{k(c\mathbf{A})\}\mathbf{B}\quad (\because (2.9))\\
&=\{(kc)\mathbf{A}\}\mathbf{B}\quad (\because (2.1))\\
&=\{(ck)\mathbf{A}\}\mathbf{B}\quad (\because (2.1))\\
&=(ck)\mathbf{A}\mathbf{B}\quad (\because (2.9))\\
\end{aligned}
となり示された。
3.
\mathbf{(a)} (行列の乗法の結合性についての)結果
\mathbf{A}(\mathbf{B C})=(\mathbf{A B}) \mathbf{C} \tag{2.6}
を証明せよ.すなわち,任意
のm\times n行列\mathbf{A}=\left\{a_{i j}\right\},n \times q行列\mathbf{B}=\left\{b_{jk}\right\},q \times r 行列\mathbf{C}=\left\{c_{ks}\right\} に対して,\mathbf{A(BC)} = \mathbf{(AB)C}であることを示せ.
\mathbf{(b)} (行列の乗法の加法についての分配性についての)結果
\mathbf{A}(\mathbf{B}+\mathbf{C})=\mathbf{A B}+\mathbf{A} \mathbf{C} \tag{2.7}
を証明せよ.すなわち,任意のm\times n行列\mathbf{A}=\left\{a_{i j}\right\}とn \times q行列\mathbf{B}=\left\{b_{jk}\right\}, \mathbf{C}=\left\{c_{jk}\right\} に対して,\mathbf{A(B + C)} = \mathbf{AB + AC}であることを示せ.
解.
行列の演算の性質について確認する問題。
行列の要素を考えて計算すると実数の演算の性質がそのまま使えることを利用して証明する。
\mathbf{(a)} (行列の乗法の結合性についての)結果
\mathbf{BC} のjs成分は\sum_k b_{jk}c_{ks},\mathbf{AB}のik成分は\sum_j a_{ij}b_{jk} である.従って\mathbf{A}(\mathbf{BC})のis成分は
\begin{aligned}
\sum_j a_{ij} \left(\sum_k b_{jk}c_{ks} \right) &= \sum_j \left(\sum_k a_{ij}b_{jk}c_{ks}\right)\\
&= \sum_k \left(\sum_j a_{ij}b_{jk}c_{ks}\right)\\
&= \sum_k \left(\sum_j a_{ij}b_{jk}\right)c_{ks}
\end{aligned}
でとなる。これは\left(\mathbf{AB}\right)\mathbf{C}のis成分である.対応する成分の値が等しいので(2.6)が成り立つ.
\mathbf{(b)} (行列の乗法の加法についての分配性についての)結果
\mathbf{B}+\mathbf{C}のjk成分はb_{jk}+c_{jk}であるので\mathbf{A}\left(\mathbf{B}+\mathbf{C}\right)のik成分は
\begin{aligned}
\sum_j a_{ij}\left(b_{jk}+c_{jk}\right) &= \sum_j\left(a_{ij}b_{jk}+a_{ij}c_{jk}\right)\\
&=\sum_ja_{ij}b_{jk}+\sum_ja_{ij}c_{jk}
\end{aligned}
である.ここで\sum_ja_{ij}b_{jk}は\mathbf{AB}のik成分であり,\sum_ja_{ij}c_{jk}は\mathbf{AC}のik成分である.
従って\sum_ja_{ij}b_{jk}+\sum_ja_{ij}c_{jk}は\mathbf{AB}+\mathbf{BC}のik成分に等しい.
対応する成分の値が等しいので(2.7)が成り立つ.
4.
\mathbf{A}=\left\{a_{i j}\right\}をm\times n行列,\mathbf{B}=\left\{b_{ij}\right\}をp\times m行列とする.
\mathbf{(a)} \mathbf{x}=\left\{x_{i}\right\}をn次元列ベクトルとする. p次元列ベクトル\mathbf{BAx}の第i要素が
\sum_{i=1}^{m} b_{i j} \sum_{k=1}^{n} a_{j k} x_{k} \tag{E.1}
であることを示せ.
\mathbf{(b)} \mathbf{x}=\left\{x_{i}\right\}をn\times q行列とする.\mathbf{A, B, X}の要素を用いてp\times q行列\mathbf{BAX}の第ir要素を表すことで式(\mathrm{E}.1)を一般化せよ.
\mathbf{(c)} \mathbf{x}=\left\{x_{i}\right\}をn次元列ベクトル,\mathbf{C}=\left\{c_{ij}\right\}をq\times p行列とする. \mathbf{A, B, C, x}の要素を用いてq次元列ベクトル\mathbf{CBAx}の第i要素を表すことで式(\mathrm{E}.1)を一般化せよ.
\mathbf{(d)} \mathbf{y}=\left\{y_{i}\right\}をp次元列ベクトルとする.\mathbf{A, B, y}の要素を用いてn次元行ベクトル\mathbf{y^{\prime}BA}の第i要素を表せ.
解.
\mathbf{(a)}
ベクトル\mathbf{Ax}の第j要素は, \sum_{k=1}^{n} a_{j k} x_{k}である. よって, ベクトル\mathbf{BAx}の第i要素は, \sum_{j=1}^{m} b_{i j} \sum_{k=1}^{n} a_{j k} x_{k}である.
\mathbf{(b)}
(a)における\mathbf{x}を\mathbf{X}の第r列とみなすことで, \mathbf{BAX}の第ir要素は,
\sum_{j=1}^{m} b_{i j} \sum_{k=1}^{n} a_{j k} x_{kr}
である.
\mathbf{(c)}
(a)と同様にして,
\sum_{s=1}^{p} c_{i s} \sum_{j=1}^{m} b_{s j} \sum_{k=1}^{n} a_{j k} x_{k}
\mathbf{(d)}
\mathbf{y^{\prime}BA}の第i要素は, 列ベクトル(\mathbf{y^{\prime}BA})^{\prime}=\mathbf{A^{\prime}B^{\prime}y}の第i要素と等しい. よって, (a)の結果より, \mathbf{y^{\prime}BA}の第i要素は,
\sum_{j=1}^{m} a_{j i} \sum_{k=1}^{p} b_{k j} y_{k}
である.
5.
\mathbf{A, B}をn\times n行列とする. \mathbf{A, B}が可換であるときかつそのときに限って
(\mathbf{A}+\mathbf{B})(\mathbf{A}-\mathbf{B})=\mathbf{A}^{2}-\mathbf{B}^{2}
であることを示せ.
明らかに、
\begin{aligned}
(\mathbf{A}+\mathbf{B})(\mathbf{A}-\mathbf{B}) = \mathbf{A}^2 - \mathbf{B}^2 -\mathbf{A}\mathbf{B} +\mathbf{B}\mathbf{A}
\end{aligned}
よって、-\mathbf{A}\mathbf{B} +\mathbf{B}\mathbf{A} = 0の時に限り、(\mathbf{A}+\mathbf{B})(\mathbf{A}-\mathbf{B})=\mathbf{A}^{2}-\mathbf{B}^{2}が成り立つ。
よって、\mathbf{A}\mathbf{B} =\mathbf{B}\mathbf{A}が成り立つ必要があるが、これは\mathbf{A}と\mathbf{B}が可換である時である。
6.
\mathbf{(a)} 2つのn \times n対称行列\mathbf{A, B}の積\mathbf{AB}は, \mathbf{A, B}が可換であるときかつそのときに限って,それ自身対称であることを示せ.
\mathbf{(b)} その積が対称でない(同じ次数の)2つの対称行列の一例を示せ.
解.
(a)
行列\mathbf{A, B}は、n \times n対称行列より、\mathbf{(AB)}^{\prime}=\mathbf{(AB)}...(*)が成り立つための条件を求めれば良い。
(2.13)より、
\mathbf{(AB)}^{\prime} = \mathbf{B}^{\prime}\mathbf{A}^{\prime} =\mathbf{BA}
までは成り立つ。
ここで、\mathbf{A, B}が可換である時のみ、(*)が成り立つ。
(b)
\mathbf{A}=\left(\begin{array}{ll}1 & 0 \\ 0 & 2\end{array}\right), \mathbf{B}=\left(\begin{array}{ll}0 & 1 \\ 1 & 0\end{array}\right)が一例。
\mathbf{A B}=\left(\begin{array}{ll}
0 & 1 \\
2 & 0
\end{array}\right) \neq\left(\begin{array}{ll}
0 & 2 \\
1 & 0
\end{array}\right)=\mathbf{B} \mathbf{A}
7.
\mathbf{(a)} 上三角行列の転置は下三角行列であること,そして
\mathbf{(b)} (同じ次数の) 2 つの上三角行列の和は上三角行列であることを証明せよ.
解.
\mathbf{(a)} \mathbf{A} = (a_{ij}) を上三角行列とし、その転置 \mathbf{A}^{\prime} を \mathbf{A}^{\prime} = (b_{ij}) とおく。a_{ij} = 0\ (\forall i > j) であるから、b_{ij} = a_{ji} = 0\ (\forall j > i) が成り立つ。よって \mathbf{A}^{\prime} は下三角行列である。
\mathbf{(b)} \mathbf{A} = (a_{ij}), \mathbf{B} = (b_{ij}) を同じ次数の上三角行列とすると、その和 \mathbf{A} + \mathbf{B} の要素について a_{ij} + b_{ij} = 0\ (\forall i > j) が成り立つので、\mathbf{A} + \mathbf{B} も上三角行列である。
8.
\mathbf{A}=\left\{a_{i j}\right\}をn\times n上三角行列とし,\mathbf{A}の対角要素が0に等しい(すなわち,a_{11}=a_{22}=\cdots=a_{n n}=0) と仮定しよう. 更に,pを任意の整数とする.
\mathbf{(a)} i=1, \ldots, nとj=1, \ldots, \min (n, i+p-1)に対して,\mathbf{A}^{p}の第ij要素が0に等しいことを示せ.
\mathbf{(b)} i \geq n-p+1に対して,\mathbf{A}^{p}の第i行が0に等しいことを示せ.
\mathbf{(c)} p \geq nに対して,\mathbf{A}^{p} = \mathbf{0}であることを示せ.
解.
i, k=1, \ldots, n, に対して, b_{i k} は \mathbf{A}^{p}のi k番目の要素を表すとする .
(a) 数学的帰納法で示す. 明らかに, i=1, \ldots, n と j= 1, \ldots, \min (n, i+1-1), に対して \mathbf{A}^{1} の i j 番目の要素は0に等しい. ここで, 次のように仮定する, i=1, \ldots, n で j=1, \ldots, \min (n, i+p-1) であるとき \mathbf{A}^{p} の i j 番目の要素が0に等しい. そのとき, 以下を示せばよい.
i=1, \ldots, n と j=1, \ldots, \min (n, i+p) であるとき, \mathbf{A}^{p+1} のi j 番目の要素が0である.
\mathbf{A}^{p+1}=\mathbf{A}^{p} \mathbf{A}, であるので, i=1, \ldots, n と j=1, \ldots, \min (n, i+p)について, \mathbf{A}^{p+1} のi j 番目の要素は
\begin{aligned}
\sum_{k=1}^{n} b_{i k} a_{k j}&=\sum_{k=1}^{\min (n, i+p-1)} 0 a_{k j}+\sum_{k=i+p}^{n} b_{i k} a_{k j} \\
&=0
\end{aligned}
(ここで, i>n-p, のとき、 第二項は無視されて\sum_{k=i+p}^{n} b_{i k} a_{k j} は0であると解釈される )
(上三角行列の性質からk \geq j, では a_{k j}=0のため ).
(b) i \geq n-p+1, \min (n, i+p-1)=n ( i \geq n-p+1 \Leftrightarrow i+p-1 \geq n). したがって, i \geq n-p+1について, \mathbf{A}^{p}のi番目の行は (a)からn個の要素はすべて0に等しく、したがって、 \mathbf{A}^{p} の i番目の行は0である.
(c) 明らかに, p \geq nに対して, n-p+1 \leq 1. したがって, p \geq n に対して, (b) から\mathbf{A}^{p} のすべての n 行目の要素は0で\mathbf{A}^{p}=\mathbf{0}.
第2章 練習問題
1.
\mathbf{A}_{*}をm\times n行列\mathbf{A}の第i_{1}, \ldots, i_{m-r}行と第j_{1}, \ldots, j_{n-s}列を削除して作った(\mathbf{A}の)r \times s部分行列とする.また\mathbf{B}_{*}を\mathbf{A}^{\prime}の第j_{1}, \ldots, j_{n-s}行と第i_{1}, \ldots, i_{m-r}列を削除して作った(\mathbf{A}^{\prime}の)s\times r部分行列とする。
\mathbf{B}_{*}=\mathbf{A}_{*}^{\prime} \tag{1.1}
を証明せよ.
※「m\times n行列\mathbf{A}の第i_{1}, \ldots, i_{m-r}行を削除して作った〜」というのは、必ずしもi_{1}, \ldots, i_{m-r}が連番でないことを考えなければならない。i_{1} = 3, i_{2} = 1, ...という指示も考えられる。
(解) i_{1}^{*}, \ldots, i_{r}^{*}\left(i_{1}^{*} \lt \cdots \lt i_{r}^{*}\right)を、数列\{1, \ldots, m\}のうち、i_{1}, \ldots, i_{m-r}に該当しないr個の行番号を表すインデックスとする。同様にして、j_{1}^{*}, \ldots, j_{s}^{*}\left(j_{1}^{*}<\cdots<j_{s}^{*}\right)を、数列\{1, \ldots, n\}のうち、j_{1}, \ldots, j_{n-s}に該当しないs個の列番号を表すインデックスとする。また、\mathbf{A}と\mathbf{A}^{\prime}のij番目の成分をそれぞれa_{ij}とb_{ij}で表す。両者はa_{ij} = b_{ji}の関係式が成立する。
これらのインデックスを用いて\mathbf{A}_{*}を書き下すと
\mathbf{A}_{*}=\left(\begin{array}{ccc}
a_{i_{1}^{*} j_{1}^{*}} & \ldots & a_{i_{1}^{*} j_{s}^{*}} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
a_{i_{r}^{*} j_{1}^{*}} & \ldots & a_{i_{r}^{*} j_{s}^{*}}
\end{array}\right)
であり、これはr\times s行列となっている。同様に\mathbf{B}_{*}は
\mathbf{B}_{*} = \left(\begin{array}{ccc}
b_{j_{1}^{*} i_{1}^{*}} & \ldots & b_{j_{1}^{*} i_{r}^{*}} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
b_{j_{s}^{*} i_{1}^{*}} & \ldots & b_{j_{s}^{*} i_{r}^{*}}
\end{array}\right)
と書き下せる。
\mathbf{A}_{*}の転置行列\mathbf{A}_{*}^{\prime}は、a_{ij} = b_{ji}の関係式を用いると
\mathbf{A}_{*}^{\prime}=\left(\begin{array}{ccc}
a_{i_{1}^{*} j_{1}^{*}} & \ldots & a_{i_{r}^{*} j_{1}^{*}} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
a_{i_{1}^{*} j_{s}^{*}} & \ldots & a_{i_{r}^{*} j_{s}^{*}}
\end{array}\right)
= \left(\begin{array}{ccc}
b_{j_{1}^{*} i_{1}^{*}} & \ldots & b_{j_{1}^{*} i_{r}^{*}} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
b_{j_{s}^{*} i_{1}^{*}} & \ldots & b_{j_{s}^{*} i_{r}^{*}}
\end{array}\right)
となるので、これは\mathbf{B}_{*}に一致する。したがって、(1.1)が示された。
2.
\textbf{(a)}対称行列の主部分行列は対称であること\textbf{(b)}対角行列の主部分行列は対角であること,そして\textbf{(c)}上三角行列の主部分行列は上三角であることを証明せよ.
解.
行列\mathbf{A} = {a_{ij}}の第k_1, k_2, \cdots, k_r\ (k_1 < k_2 < \cdots < k_r)番目の行および列を残した主部分行列を\mathbf{B} = {b_{ij}}を考える。定義より、b_{ij} = a_{k_{i}, k_{j}}である。
\textbf{(a)} \mathbf{A}が対称行列のとき、b_{ij} = a_{k_{i}, k_{j}} = a_{k_{j}, k_{i}} = b_{ji}より、\mathbf{B}も対称行列となる。
\textbf{(b)} \mathbf{A}が対角行列のとき、任意のi, j\ (i \neq j)について、b_{ij} = a_{k_{i}, k_{j}} = 0となるため、\mathbf{B}も対角行列となる。
\textbf{(c)} \mathbf{A}が上三角行列のとき、任意のi, j\ (i > j)について、b_{ij} = a_{k_{i}, k_{j}} = 0となるため、\mathbf{B}も上三角行列となる。
3.
\mathbf{A}=\left(\begin{array}{cccc}\mathbf{A}_{11} & \mathbf{A}_{12} & \cdots & \mathbf{A}_{1 r} \\ \mathbf{0} & \mathbf{A}_{22} & \cdots & \mathbf{A}_{2 r} \\ \vdots & & \ddots & \vdots \\ \mathbf{0} & \mathbf{0} & \cdots & \mathbf{A}_{r r}\end{array}\right)
をその第ijブロック\mathbf{A}_{ij}が次元n_{i} \times n_{j}(j>i=1,2, \ldots, r)であるn \times nブロック三角行列とする.その対角ブロック\mathbf{A}_{11}, \mathbf{A}_{22}, \ldots, \mathbf{A}_{r r}が上三角であるときかつそのときに限って\mathbf{A}が上三角であることを示せ.
\mathbf{A}が上三角 \Leftrightarrow \mathbf{A}の下三角要素(対角項を除く)はすべてゼロ
\Leftrightarrow \mathbf{A}_{11}, \mathbf{A}_{22}, \cdots, \mathbf{A}_{rr}の下三角要素(対角項を除く)はすべてゼロ
\Leftrightarrow \mathbf{A}_{11}, \mathbf{A}_{22}, \cdots, \mathbf{A}_{rr}はすべて上三角
4.
結果
\mathbf{A}^{\prime}=\begin{pmatrix}\mathbf{A}_{11}^{\prime} & \mathbf{A}_{21}^{\prime} & \cdots & \mathbf{A}_{r 1}^{\prime} \\ \mathbf{A}_{12}^{\prime} & \mathbf{A}_{22}^{\prime} & \cdots & \mathbf{A}_{r 2}^{\prime} \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ \mathbf{A}_{1 c}^{\prime} & \mathbf{A}_{2 c}^{\prime} & \cdots & \mathbf{A}_{r c}^{\prime}\end{pmatrix} \tag{2.3}
と
\mathbf{A B}=\begin{pmatrix}\mathbf{F}_{11} & \mathbf{F}_{11} & \cdots & \mathbf{F}_{1 v} \\ \mathbf{F}_{21} & \mathbf{F}_{21} & \cdots & \mathbf{F}_{2 v} \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ \mathbf{F}_{r 1} & \mathbf{F}_{r 2} & \cdots & \mathbf{F}_{r v}\end{pmatrix} \tag{2.6}
を証明せよ.ここで\mathbf{F}_{i j}=\sum_{k=1}^{c} \mathbf{A}_{i k} \mathbf{B}_{k j}=\mathbf{A}_{i 1} \mathbf{B}_{1 j}+\mathbf{A}_{i 2} \mathbf{B}_{2 j}+\cdots+\mathbf{A}_{i c} \mathbf{B}_{c j}である。
解.
(2.3)について、行列\mathbf{H}_{ij}を
\mathbf{A}^{\prime}=\begin{pmatrix}\mathbf{H}_{11} & \mathbf{H}_{12} & \ldots & \mathbf{H}_{1 r} \\ \mathbf{H}_{21} & \mathbf{H}_{22} & \ldots & \mathbf{H}_{2 r} \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ \mathbf{H}_{c 1} & \mathbf{H}_{c 2} & \ldots & \mathbf{H}_{c r}\end{pmatrix}
を満たすようなn_{i} \times m_{j}(i=1, \ldots, c; j=1, \ldots r)の行列であると定義する。この定義から、\mathbf{H}_{ij}は\mathbf{A}^{\prime}の最初のn_{1}+\cdots+n_{i-1}行と最後のn_{i+1}+\cdots+n_{c}行、および\mathbf{A}^{\prime}の最初のm_{1}+\cdots+m_{j-1}列と最後のm_{j+1}+\cdots+m_{r}列を削除することで得られる\mathbf{A}^{\prime}の部分行列を表している。
一方で、\mathbf{A}_{ji}を考えると、これも定義から\mathbf{A}の最初のm_{1}+\cdots+m_{j-1}行と最後のm_{j+1}+\cdots+m_{r}行、および\mathbf{A}の最初のn_{1}+\cdots+n_{i-1}列と最後のn_{i+1}+\cdots+n_{c}列を削除することで得られる\mathbf{A}の部分行列である。
練習問題1.および(1.1)の結果から、両者は
\mathbf{H}_{ij}^{\prime} = \mathbf{A}_{ji} \\
\mathbf{H}_{ij} = \mathbf{A}_{ji}^{\prime}
であることが成立するので、
\mathbf{A}^{\prime}=\begin{pmatrix}\mathbf{H}_{11} & \mathbf{H}_{12} & \ldots & \mathbf{H}_{1 r} \\ \mathbf{H}_{21} & \mathbf{H}_{22} & \ldots & \mathbf{H}_{2 r} \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ \mathbf{H}_{c 1} & \mathbf{H}_{c 2} & \ldots & \mathbf{H}_{c r}\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}\mathbf{A}_{11}^{\prime} & \mathbf{A}_{21}^{\prime} & \cdots & \mathbf{A}_{r 1}^{\prime} \\ \mathbf{A}_{12}^{\prime} & \mathbf{A}_{22}^{\prime} & \cdots & \mathbf{A}_{r 2}^{\prime} \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ \mathbf{A}_{1 c}^{\prime} & \mathbf{A}_{2 c}^{\prime} & \cdots & \mathbf{A}_{r c}^{\prime}\end{pmatrix}
が導ける。
(2.6)について、a_{ij}, b_{ij}, h_{ij}, s_{ij}を行列\mathbf{A},\mathbf{B},\mathbf{A}^{\prime}, \mathbf{AB}の各ij成分であるとする。行列\mathbf{A}はm \times n次元、\mathbf{B}はn \times q次元であるとする。また、部分行列\mathbf{S}_{ij}を
\mathbf{A B}=\begin{pmatrix}\mathbf{S}_{11} & \mathbf{S}_{11} & \cdots & \mathbf{S}_{1 v} \\ \mathbf{S}_{21} & \mathbf{S}_{21} & \cdots & \mathbf{S}_{2 v} \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ \mathbf{S}_{r 1} & \mathbf{S}_{r 2} & \cdots & \mathbf{S}_{r v}\end{pmatrix}
を満たすようなm_{i}\times q_{j}(i=1, \ldots, r; j=1, \ldots v)次元の行列として定義する。
この部分行列の\mathbf{S}_{ij}のwz成分s_{wz}\ (w=1, \ldots, m_{i} ; z=1,\ldots, q_{j})というのは、全体から見ると(m_{1}+\cdots+m_{i-1}+w)行めのq_{1}+\cdots+q_{j-1}+z列めに位置していることを踏まえると、
\begin{aligned}
s_{m_{1}+\cdots+m_{i-1}+w, q_{1}+\cdots+q_{j-1}+z} &=\sum_{\ell=1}^{n_{1}+\cdots+n_{c}} a_{m_{1}+\cdots+m_{i-1}+w, \ell} b_{\ell, q_{1}+\cdots+q_{j-1}+z} \\
&=\sum_{k=1}^{c} \sum_{\ell=n_{1}+\cdots+n_{k-1}+1}^{n_{1}+\cdots+n_{k-1}+n_{k}} a_{m_{1}+\cdots+m_{i-1}+w, \ell} b_{\ell, q_{1}+\cdots+q_{j-1}+z} \\
&=\sum_{k=1}^{c} \sum_{t=1}^{n_{k}} a_{m_{1}+\cdots+m_{i-1}+w, n_{1}+\cdots+n_{k-1}+t} b_{n_{1}+\cdots+n_{k-1}+t, q_{1}+\cdots+q_{j-1}+z}
\end{aligned}
によって計算できる。
一方で、部分行列\mathbf{A}_{ik}のwt成分はa_{m_{1}+\cdots+m_{i-1}+w, n_{1}+\cdots+n_{k-1}+t}, \mathbf{B}_{kj}のtz成分はb_{n_{1}+\cdots+n_{k-1}+t, q_{1}+\cdots+q_{j-1}+z}と書くことができるので、
\sum_{t=1}^{n_{k}} a_{m_{1}+\cdots+m_{i-1}+w, n_{1}+\cdots+n_{k-1}+t} b_{n_{1}+\cdots+n_{k-1}+t, q_{1}+\cdots+q_{j-1}+z}
は\mathbf{A}_{ik}\mathbf{B}_{kj}のwz成分を表している。よってs_{m_{1}+\cdots+m_{i-1}+w, q_{1}+\cdots+q_{j-1}+z}は、問題文の設定\mathbf{F}_{i j}=\sum_{k=1}^{c} \mathbf{A}_{i k} \mathbf{B}_{k j}=\mathbf{A}_{i 1} \mathbf{B}_{1 j}+\mathbf{A}_{i 2} \mathbf{B}_{2 j}+\cdots+\mathbf{A}_{i c} \mathbf{B}_{c j}のwz成分と一致し、\mathbf{S}_{ij} = \mathbf{F}_{ij}が成立する。したがって(2.6)式が導かれた。
第3章 練習問題
1.
3個の行ベクトル(k,1,0),(1,k,1),(0,1,k)はスカラーkのどんな値に対して線形従属であるか,またこれらはどんな値に対して線形独立であるかを導け.
解.
3.1の線形従属の定義から、
x_{1}(k, 1,0)+x_{2}(1, k, 1)+x_{3}(0,1, k)=0 \tag{A}
を満たすような0でないx_{1},x_{2},x_{3}が存在するならば3つの行ベクトルは線形従属となり、そうでないならば線形独立である。すなわち
\left\{\begin{array}{l}
kx_{1}+x_{2}=0 \\
x_{1}+kx_{2}+x_{3}=0 \\
x_{2}+kx_{3}=0
\end{array}\right.
となる0でないx_{1},x_{2},x_{3}が存在するならば線形従属なので、これより、
\begin{aligned}
x_{2}&=-k x_{1}=-k x_{3} \quad (s.1)\\
k x_{2}&=-x_{1}-x_{3} \quad (s.2)
\end{aligned}
を得る。
(i) k=0の場合、\textrm{(s.1)}からx_{2}=0, \textrm{(s.2)}からx_{1} = -x_{3}となる場合、3つのベクトルは線形従属となる。
(ii) k\neq 0の場合、\textrm{(s.1)}からx_{1} = x_{3}となり、\textrm{(s.2)}から
\begin{aligned}
kx_{2} =-2 x_{1} \\
-k^{2}x_{1} = -2 x_{1} \\
(k^2 -2)x_{1} = 0
\end{aligned}
もしx_{1} = 0とすると自動的にx_{1} = x_{2} = x_{3} = 0となり、これは前提に反するので、x_{1} \neq 0でなければならない。これより、k = \pm \sqrt{2}となる。
k=\sqrt{2}のとき、x_{2} = -\sqrt{2}x_{1}, x_{1} = x_{3}\ (x_{1} \neq 0)とすれば\textrm{(A)}を満たし、線形従属となる。k = -\sqrt{2}のときx_{2}=\sqrt{2} x_{1}, x_{1}=x_{3}とすれば同様。
以上から、k = 0, \pm\sqrt{2}のとき線形従属となり、それ以外の時は線形独立である。
2.
\mathbf{A},\mathbf{B},\mathbf{C}を3つの線形独立なm\times n行列とする.これら3つの対の和\mathbf{A+B},\mathbf{A+C},\mathbf{B+C}が線形独立であるかどうかを判定せよ. (ヒント:補助定理3.2.4を利用せよ.)
解.
\left(\begin{array}{l}
\mathbf{A}+\mathbf{B} \\
\mathbf{A}+\mathbf{C} \\
\mathbf{B}+\mathbf{C}
\end{array}\right)=\left(\begin{array}{lll}
1 & 1 & 0 \\
1 & 0 & 1 \\
0 & 1 & 1
\end{array}\right)\left(\begin{array}{l}
\mathbf{A} \\
\mathbf{B} \\
\mathbf{C}
\end{array}\right)
であることから、
\mathbf{x}_1=\left(\begin{array}{lll}1 & 1 & 0\end{array}\right)',\ \
\mathbf{x}_2=\left(\begin{array}{lll}
1 & 0 & 1
\end{array}\right)',\ \
\mathbf{x}_3=\left(\begin{array}{lll}
0 & 1 & 1
\end{array}\right)'
あるスカラーx_1,x_2,x_3に対して
x_1\left(\begin{array}{lll}1 & 1 & 0\end{array}\right)' + x_2\left(\begin{array}{lll}1 & 1 & 0\end{array}\right)'+x_3\left(\begin{array}{lll}1 & 1 & 0\end{array}\right)'=\mathbf{0}
を考える。このとき
x_1+x_2=x_1+x_3=x_2+x_3=0
であり、これを解くと(x_1,x_2,x_3)=(0,0,0)であるので、\mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2,\mathbf{x}_3は線型独立である。
以上より、\mathbf{A},\mathbf{B},\mathbf{C}が線型独立であることも合わせると、補助定理3.2.4より\mathbf{A}+\mathbf{B}, \mathbf{A}+\mathbf{C}, \mathbf{B}+\mathbf{C}は線型独立である。
第4章 練習問題
1.
次の2つの集合どちらが線形空間であるか. \mathbf{(a)} すべてのn \times n上三角行列の集合\mathbf{(b)} すべてのn \times n非対称行列の集合.
解.
p32の線型空間の定義から
行列の空でない集合\mathcal{V}が
(1)\mathcal{V}の中のあらゆる行列\mathbf{A}と\mathcal{V}の中のあらゆる行列\mathbf{B}に対して,和\mathbf{A}+\mathbf{B}が\mathcal{V}の中にある
(2)\mathcal{V}の中のあらゆる行列\mathbf{A}とあらゆるスカラーkに対して,積k\mathbf{A}が\mathcal{V}の中にある
を満たすとき線型空間をなす.
\mathbf{(a)}について
上三角行列の和は上三角行列であり,また上三角行列にスカラーを乗じても上三角行列である.従って\mathbf{(a)}は線型空間である.
\mathbf{(b)}について
あるn \times n非対称行列\mathbf{A}を考える.このとき-\mathbf{A}と転置して得られる\mathbf{A}^Tも非対称行列である.\mathbf{A}+\left(-\mathbf{A}\right)=\mathbf{0}, \mathbf{A}+\mathbf{A}^Tは対称行列であるため(1)を満たさない.またスカラー0を\mathbf{A}に乗じて得られるゼロ行列は対称行列であるため(2)を満たさない.以上からすべてのn \times n非対称行列の集合は線型空間ではない.
2.
補助定理4.2.5 を証明せよ.
補助定理4.2.5. \mathbf{A}をm \times n行列, \mathbf{B}をm \times p行列とする. このとき,(1) \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime})であるときかつそのときに限って,\mathcal{C}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{B})であり, (2) \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}) = \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime})であるときかつそのときに限って,\mathcal{C}(\mathbf{A}) = \mathcal{C}(\mathbf{B})である.
解.
(1)
\mathcal{R}\left(\mathbf{A}^{\prime}\right) \subset \mathcal{R}\left(\mathbf{B}^{\prime}\right)と仮定する.
\mathcal{C}(\mathbf{A})の任意のベクトル \mathbf{x}に対して, 補助定理4.1.1より \mathbf{x}^{\prime} \in \mathcal{R}\left(\mathbf{A}^{\prime}\right)であり, \mathbf{x}^{\prime} \in \mathcal{R}\left(\mathbf{B}^{\prime}\right)である.
よって, 補助定理4.1.1より, \mathbf{x} \in \mathcal{C}(\mathbf{B}). ゆえに, \mathcal{C}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{B})である.
逆に, \mathcal{C}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{B})と仮定する. \mathbf{x}^{\prime} \in \mathcal{R}\left(\mathbf{A}^{\prime}\right)なる任意のm次元列ベクトル\mathbf{x}に対して, \mathbf{x} \in \mathcal{C}(\mathbf{A})であり, \mathbf{x} \in \mathcal{C}(\mathbf{B})である. よって, \mathbf{x}^{\prime} \in \mathcal{R}\left(\mathbf{B}^{\prime}\right). ゆえに, \mathcal{R}\left(\mathbf{A}^{\prime}\right) \subset \mathcal{R}\left(\mathbf{B}^{\prime}\right).
以上より, \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime})であるときかつそのときに限って,\mathcal{C}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{B})であることが示された.
(2)
\mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}) = \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime})のとき, \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime})かつ \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime})である. よって, (1)より, \mathcal{C}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{B})かつ \mathcal{C}(\mathbf{B}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{A})であるから, \mathcal{C}(\mathbf{A}) = \mathcal{C}(\mathbf{B})である.
同様に, \mathcal{C}(\mathbf{A}) = \mathcal{C}(\mathbf{B})のとき, \mathcal{C}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{B})かつ \mathcal{C}(\mathbf{B}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{A})である. よって, (1)より, \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime})かつ \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime})であるから, \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}) = \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime})である.
以上より, \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}) = \mathcal{R}(\mathbf{B}^{\prime})であるときかつそのときに限って,\mathcal{C}(\mathbf{A}) = \mathcal{C}(\mathbf{B})であることが示された.
3.
\mathcal{U}, \mathcal{W}を線形空間\mathcal{V}の部分空間とする(1).もし\mathcal{V}の中のあらゆる行列が\mathcal{U}あるいは\mathcal{W}に属する(2)ならば,\mathcal{U} = \mathcal{V}あるいは\mathcal{W} = \mathcal{V}であることを示せ.
(1)より、\mathcal{U} \subset \mathcal{V}、\mathcal{W} \subset \mathcal{V}とする。今、矛盾を示すために、\mathcal{U} = \mathcal{V}も\mathcal{W} = \mathcal{V}も成り立たないとする。この時、(2)より、\mathbf{A} \in \mathcal{V}、\mathbf{B} \in \mathcal{V}であり、\mathbf{A} \notin \mathcal{U}、\mathbf{B} \notin \mathcal{W}である\mathbf{A}、\mathbf{B}が存在する(3)。この時、(2)より、\mathbf{A}、\mathbf{B}は、それぞれ、\mathcal{U}か\mathcal{W}に属するので、\mathbf{A} \in \mathcal{W}、\mathbf{B} \in \mathcal{U}である。
今、\mathbf{A} = \mathbf{B} - (\mathbf{B}-\mathbf{A})であり、\mathbf{B} = \mathbf{A} + (\mathbf{B}-\mathbf{A})である。\mathbf{A}、\mathbf{B}がいずれも\mathcal{V}に属する(3)ため、\mathbf{B}-\mathbf{A}もまた、\mathcal{V}に属し、\mathcal{U}か\mathcal{W}に属する(2)。そして、もし、\mathbf{B}-\mathbf{A} \in \mathcal{U}ならば、\mathbf{B} \in \mathcal{U}なので、 \mathbf{B} - (\mathbf{B}-\mathbf{A}) \in \mathcal{U}が成り立つので、\mathbf{A} \in \mathcal{U}である。これは、(3)に矛盾する。同様に、\mathbf{B}についても矛盾する。
よって、\mathcal{U} = \mathcal{V}あるいは\mathcal{W} = \mathcal{V}が成り立つ。
4.
\mathbf{A,B,C}を\mathbf{A+B+C = 0}を満たす(同じ次元をもつ)3つの行列とする.このとき,\operatorname{sp}(\mathbf{A}, \mathbf{B})=\operatorname{sp}(\mathbf{A}, \mathbf{C})であることを示せ.
解.
\mathbf{E}がsp(\mathbf{A}, \mathbf{B})の中の任意の行列を表すとする。このとき、\mathbf{E} = d\mathbf{A} +k\mathbf{B}である。
あるスカラーdとkに対して、\mathbf{E}=d\mathbf{A}+k(-\mathbf{A}-\mathbf{C})=(d-k)\mathbf{A}+(-k)\mathbf{C} \in sp(\mathbf{A},\mathbf{C})となる。
したがって、sp(\mathbf{A}, \mathbf{B}) \subset sp(\mathbf{A}, \mathbf{C}) となる。また同様にして、sp(\mathbf{A}, \mathbf{C}) \subset sp(\mathbf{A}, \mathbf{B})が成り立つ。
以上より、sp(\mathbf{A}, \mathbf{B}) = sp(\mathbf{A}, \mathbf{C})が導かれる。
5.
\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}を線形空間\mathcal{V}の中の任意の行列とする.このとき,\operatorname{sp}(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k})が\mathcal{V}の部分空間であり,\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right\}を含む\mathcal{V}のすべての部分空間の間で,それが(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}を含む(\mathcal{V}の)任意の部分空間\mathcal{U}に対して,\operatorname{sp}\left(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right) \subset \mathcal{U}であるという意味において)最小であることを示せ.
解.
\mathcal{W} = \operatorname{sp}(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}) とおく。\mathcal{W} = \{ \sum_{i=1}^k x_i \mathbf{A}_i \mid x_1, \ldots, x_k \in \mathcal{R} \} である。任意の y_1, \ldots, y_k, z_1, \ldots, z_k \in \mathcal{R} に対し \sum_{i=1}^k y_i \mathbf{A}_i + \sum_{i=1}^k z_i \mathbf{A}_i = \sum_{i=1}^k (y_i + z_i) \mathbf{A}_i \in \mathcal{W} であるから \mathcal{W} は和で閉じている。任意の c, y_1, \ldots, y_k \in \mathcal{R} に対し c\sum_{i=1}^k y_i \mathbf{A}_i = \sum_{i=1}^k (cy_i) \mathbf{A}_i \in \mathcal{W} であるから \mathcal{W} はスカラー倍で閉じている。また明らかに \mathcal{W} \subset \mathcal{V} である。以上から、\mathcal{W} は \mathcal{V} の部分空間である。
\mathcal{U} を、\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\} を含む任意の部分空間とする。\mathcal{U} は和とスカラー倍で閉じているので、任意の x_1, \ldots, x_k \in \mathcal{R} に対し \sum_{i=1}^k x_i \mathbf{A}_i \in \mathcal{U} である。よって \mathcal{U} \supset \mathcal{W} である。従って \mathcal{W} は \{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\} を含む最小の部分空間である。
6.
補助定理4.3.1 を証明せよ.
補助定理4.3.1. \mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}と\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{q}を線形空間\mathcal{V}の中の行列とする.このとき,もし集合\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}\right\}が\mathcal{V}を張るならば,集合\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}, \mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{q}\right\}も\mathcal{V}を張る. また,もし集合\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}, \mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{q}\right\}が\mathcal{V}を張り\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{q}が\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}の線形結合として表せるならば,集合\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}\right\}は\mathcal{V}を張る.
解.
4.3c節で述べたように、 \mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{q} が \mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p} の線形結合で表現できるならば, \mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}, \mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{q} が \mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p} の線形結合で表現できることを示し、続けてその逆を示せばよい. k_{1 j}, \ldots, k_{p j} s.t. \mathbf{B}_{j}=\sum_{i} k_{i j} \mathbf{A}_{i}(j=1, \ldots, q) に対して、任意のスカラー x_{1}, \ldots, x_{p}, y_{1}, \ldots, y_{q} に対して,
\sum_{i} x_{i} \mathbf{A}_{i}+\sum_{j} y_{j} \mathbf{B}_{j}=\sum_{i}\left(x_{i}+\sum_{j} y_{j} k_{i j}\right) \mathbf{A}_{i}
これは\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}, \mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{q} が \mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p} の線形結合で表現できることを示す. \mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p} の任意の線形結合が\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{p}, \mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{q} の線形結合で示せることは自明である.
7.
\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right\}が線形空間\mathcal{V}を張る行列の集合ではあるが\mathcal{V}の基底ではないと仮定する.\mathcal{V}の中の任意の行列\mathbf{A}に対して,\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right\}を用いた\mathbf{A}の表現は一意でないことを示せ.
解.
\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right\}は線形空間\mathcal{V}を張る行列の集合であるため、スカラーx_1, x_2, \cdots, x_kを用いて\mathbf{A} = \sum_{i = 1}^k x_{i}\mathbf{A}_i と表すことができる。\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right\} は基底ではないため、線形従属であることから、\sum_{i = 1}^k z_i\mathbf{A}_i = \mathbf{0} となる、少なくとも1つは0ではないスカラーz_1, z_2, \cdots, z_kが存在する。ここで、x_i + z_i = y_iとすると、
\begin{aligned}
\mathbf{A} &= \mathbf{A} + \mathbf{0} \\
&= \sum_{i = 1}^k x_i\mathbf{A}_i + \sum_{i = 1}^k z_i\mathbf{A}_i \\
&= \sum_{i = 1}^k y_i\mathbf{A}_i
\end{aligned}
より、\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right\}を用いた\mathbf{A}の表現が一意でないことが示された。
8.
\mathbf{A}=\left(\begin{array}{rrrrr}0 & 1 & 0 & -3 & 2 \\ 0 & -2 & 0 & 6 & 2 \\ 0 & 2 & 2 & 5 & 2 \\ 0 & -4 & -2 & 1 & 0\end{array}\right)
とする.
\mathbf{(a)} 2個の列ベクトル(2,-1,3, -4)^{\prime}と(0, 9, -3,12)^{\prime}の各々が\mathbf{A}の列の線形結合として表せる(従って\mathcal{C}(\mathbf{A})の中にある)ことを示せ.
\mathbf{(b)} 定理4.3.11 の証明のところで記述したアルゴリズムを適用することで\mathcal{C}(\mathbf{A})の基底を見出せ. (このアルゴリズムを適用する際にこの張る集合が\mathbf{A}の列から成る集合であるようにとる.)
\mathbf{(c)} \operatorname{rank}(\mathbf{A})の値を導出せよ.
\mathbf{(d)} \mathbf{(a)}の2 個の列ベクトルを含む\mathcal{C}(\mathbf{A})の基底を見出せ.それには定理4.3.12 の証明のところで記述したアルゴリズムを適用せよ. (このアルゴリズムを適用する際に,この張る集合が\mathbf{A}の列から成る集合であるようにとる.)
(a)以下の通り、線型結合で表せる。
\begin{gathered}
\left(\begin{array}{r}
2 \\
-1 \\
3 \\
-4
\end{array}\right)=\left(\begin{array}{r}
1 \\
-2 \\
2 \\
-4
\end{array}\right)+\frac{1}{2}\left(\begin{array}{l}
2 \\
2 \\
2 \\
0
\end{array}\right) \\
\left(\begin{array}{r}
0 \\
9 \\
-3 \\
12
\end{array}\right)=-3\left(\begin{array}{r}
1 \\
-2 \\
2 \\
-4
\end{array}\right)+\frac{3}{2} \left(\begin{array}{l}
2 \\
2 \\
2 \\
0
\end{array}\right)
\end{gathered}
(b)
\begin{aligned}
S &= \{ \mathbf{A}_1, \mathbf{A}_2, \mathbf{A}_3, \mathbf{A}_4, \mathbf{A}_5 \}\\
&:= \left\{ \left(\begin{array}{r}0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{array}\right), \left(\begin{array}{r}1 \\ -2 \\ 2 \\ -4 \end{array}\right), \left(\begin{array}{r}0 \\ 0 \\ 2 \\ -2 \end{array}\right), \left(\begin{array}{r}-3 \\ 6 \\ 5 \\ 1 \end{array}\right), \left(\begin{array}{r}2 \\ 2 \\ 2 \\ 0\end{array}\right) \right\}
\end{aligned}
と置く。定理4.3.11に登場するアルゴリズムと同様に、「\mathbf{0}でなく、すでにS^*に含まれるどんな列ベクトルの線形結合としても表せないならば、その列ベクトルをS^*の要素に追加する」というアルゴリズムを、\mathbf{A}_1, \mathbf{A}_2, \mathbf{A}_3, \mathbf{A}_4, \mathbf{A}_5の順に行う。
-
\mathbf{A}_1は、\mathbf{0}だからS^*の要素に追加しない。
-
\mathbf{A}_2は、\mathbf{0}ではないので、追加する。
-
\mathbf{A}_3は、\mathbf{0}ではなく、\mathbf{A}_2のスカラー倍として表せないので、追加する。
-
\mathbf{A}_4は、\mathbf{A}_4 = -3 \mathbf{A}_2 + \frac{11}{2}\mathbf{A}_3として表せるので、追加しない。
-
\mathbf{A}_5は、第1、第2成分の形から明らかに\mathbf{A}_2と\mathbf{A}_3の線形結合では表せないので、追加する。
以上より、\{ \mathbf{A}_2, \mathbf{A}_3, \mathbf{A}_5\}が\mathcal{C}(\mathbf{A})の基底である。
{\rm (c)} rankの定義から、\mathcal{C}(\mathbf{A})の基底の要素数3に一致する。
(d) \mathcal{C}(\mathbf{A})の基底\{ \mathbf{A}_2, \mathbf{A}_3, \mathbf{A}_5\}に、\mathcal{C}(\mathbf{A})のベクトルを2つ追加して得られる以下の集合も、補助定理4.3.1により、\mathcal{C}(\mathbf{A})を張る。(追加した2つのベクトルが\mathcal{C}(\mathbf{A})に含まれていることは、(a)にて証明済)
\begin{gathered}
\left\{ \left(\begin{array}{r}
2 \\
-1 \\
3 \\
-4
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{r}
0 \\
9 \\
-3 \\
12
\end{array}\right), \mathbf{A}_2, \mathbf{A}_3, \mathbf{A}_5\right\}
\end{gathered}
定理4.3.12のアルゴリズムに従って、この集合の要素を左から順に、互いに線型独立なものだけ選んでいく。
-
(2, -1, 3, -4)'は\mathbf{0}ではないので追加する。
-
(0, 9, -3, 12)'は\mathbf{0}ではなく、(2, -1, 3, -4)'のスカラー倍ではないので、追加する。
-
\begin{gathered}\mathbf{A}_2 = \frac{1}{2} \left(\begin{array}{r}2 \\-1 \\3 \\-4\end{array}\right)-\frac{1}{6}\left(\begin{array}{r}0 \\9 \\-3 \\12\end{array}\right)\end{gathered}と表せるので、\mathbf{A}_2は追加しない。
-
\mathbf{A}_3は、(2, -1, 3, -4)'と (0, 9, -3, 12)'の線形結合では表せない(第1要素から、1つ目の係数が0でなければならず、第2要素から2つ目の係数も0でなければならないため)。従って、\mathbf{A}_3を基底の要素に追加する。
- 基底の要素数は3であるから、\mathbf{A}_5は検討不要。
以上より、基底は以下のとおり。
\begin{gathered}
\left\{ \left(\begin{array}{r}
2 \\
-1 \\
3 \\
-4
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{r}
0 \\
9 \\
-3 \\
12
\end{array}\right), \mathbf{A}_3 \right\}
\end{gathered}
9.
\mathbf{A}をq\times p行列,\mathbf{B}をp\times n行列,\mathbf{C}をm \times q行列とする.このとき, \mathbf{(a)} もし\operatorname{rank}(\mathbf{CAB}) = \operatorname{rank}(\mathbf{C})ならば,\operatorname{rank}(\mathbf{CA}) = \operatorname{rank}(\mathbf{C})であり,\mathbf{(b)} もし\operatorname{rank}(\mathbf{CAB}) = \operatorname{rank}(\mathbf{B})ならば,\operatorname{rank}(\mathbf{AB}) = \operatorname{rank}(\mathbf{B})であることを示せ.
解.
(a)を示す
\operatorname{rank}(\mathbf{C A B})=\operatorname{rank}(\mathbf{C})とした場合
系4.4.5を使うと
\operatorname{rank}(\mathbf{C}) \geq \operatorname{rank}(\mathbf{C A}) \geq \operatorname{rank}(\mathbf{C A B})=\operatorname{rank}(\mathbf{C})となる。
よって、\operatorname{rank}(\mathbf{C A})=\operatorname{rank}(\mathbf{C})
(b)を示す
\operatorname{rank}(\mathbf{C A B})=\operatorname{rank}(\mathbf{B})とした場合
(a)と同様に系4.4.5を使うと
\operatorname{rank}(\mathbf{B}) \geq \operatorname{rank}(\mathbf{A B}) \geq \operatorname{rank}(\mathbf{C A B})=\operatorname{rank}(\mathbf{B})となる。
よって、\operatorname{rank}(\mathbf{A B})=\operatorname{rank}(\mathbf{B})
10.
\mathbf{A}を階数rのm\times n行列とする.\mathbf{A}を階数1のr個の行列の和として表せることを示せ.
解.
定理4.4.8を用いると、\mathbf{A} = \mathbf{BT}を満たすようなm\times rの行列\mathbf{B}とr \times nの行列\mathbf{T}が必ず存在する。\mathbf{b}_{1}, \ldots, \mathbf{b}_{r}を行列\mathbf{B}の1列めからr列めを表すとし、\mathbf{t}_{1}^{\prime}, \ldots, \mathbf{t}_{r}^{\prime}を行列\mathbf{T}の1行目からr行めまでを表すとする。これらは定理4.4.8から最大列階数、最大行階数rを持っているのでいずれも線形独立である。
2章の(2.9)に照らし合わせると、\mathbf{A}はこの列ベクトル\mathbf{b}_{j}・行ベクトル\mathbf{t}_{j}^{\prime}の積の和として表すことができて、
\mathbf{A}= \sum_{j=1}^{r} \mathbf{b}_{j}\mathbf{t}_{j}^{\prime} \left( =\sum_{j=1}^{r} \mathbf{A}_{j} \right)
ここで\mathbf{A}_{j} = \mathbf{b}_{j}\mathbf{t}_{j}^{\prime}を満たすようなm\times nの行列である。このとき、\mathbf{b}_{1}, \ldots, \mathbf{b}_{r}と\mathbf{t}_{1}^{\prime}, \ldots, \mathbf{t}_{r}^{\prime}はいずれも\mathbf{0}でなく、線形独立も保証されているので、\mathbf{A}_{j}も\mathbf{0}でないことがわかる。
系4.4.5より、\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}_{j}\right) = \operatorname{rank}\left(\mathbf{b}_{j}\mathbf{t}_{j}^{\prime}\right) \leq \operatorname{rank}\left(\mathbf{b}_{j}\right)となる。さらに補助定理4.4.3から列ベクトル\mathbf{b}_{j}はm\times 1行列扱いなので\operatorname{rank}\left(\mathbf{b}_{j} \right) \leq 1、これより\operatorname{rank}\left(\mathbf{A}_{j}\right) = 1\ (j=1,\ldots, r)となる(※\mathbf{A}_{j}は\mathbf{0}でないので)。以上から\mathbf{A}を階数1のr個の行列\mathbf{A}_{j}の和として表せることが示された。
(おまけ)例えば、\mathbf{b} = \begin{pmatrix} 1 \\ 2 \\ 3 \end{pmatrix}で\mathbf{t}^{\prime} = (3,4,5)ならば
\mathbf{bt}^{\prime} = \begin{pmatrix} 3 & 4 & 5 \\ 6 & 8 & 10 \\ 9 & 12 & 15 \end{pmatrix}
で、これは線形独立な行ベクトル・列ベクトルはいずれも1つだけなので階数1である。
11.
\mathbf{A}をm \times n行列,\mathbf{C}をq \times n行列とする.
\mathbf{(a)}
\mathcal{R}(\mathbf{C})=\mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A} \\ \mathbf{C}\end{array}\right) \Leftrightarrow \mathcal{R}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{C})
であることを確かめて補助定理4.5.1 の証明に加えよ.
\mathbf{(b)} \operatorname{rank}(\mathbf{C}) \leq \operatorname{rank}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A} \\ \mathbf{C}\end{array}\right)であり,この等号は\mathcal{R}(\mathbf{A}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{C})のときかつそのときに限って成り立つことを確かめて,系4.5.2 の証明に加えよ.
解.
\mathbf{(a)}
いま\mathcal{R}(\mathbf{A})\subset \mathcal{R}(\mathbf{C})であると仮定する。このとき、補助定理4.2.2より、行列\mathbf{L}が存在して
\mathbf{A} = \mathbf{L}\mathbf{C},
従って、
\left(\begin{array}{l}
\mathbf{A} \\
\mathbf{C}
\end{array}\right) =
\left(\begin{array}{l}
\mathbf{L} \\
\mathbf{I}
\end{array}\right)\mathbf{C}
が成り立つ。よって、
\mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\\
\mathbf{C}\end{array}\right) \subset \mathcal{R}(\mathbf{C})
である。従って、
\mathcal{R}(\mathbf{C})\subset \mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\\
\mathbf{C}\end{array}\right)
であるので
\mathcal{R}(\mathbf{C})= \mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\\
\mathbf{C}\end{array}\right)
である。
逆に、
\mathcal{R}(\mathbf{C})= \mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\\
\mathbf{C}\end{array}\right)
であると仮定する。すると、\mathcal{R}(\mathbf{A})\subset \mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\\\mathbf{C}\end{array}\right)であるので、\mathcal{R}(\mathbf{A})\subset\mathcal{R}(\mathbf{C})である。
よって、\mathcal{R}(\mathbf{C})= \mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\\\mathbf{C}\end{array}\right)\Leftrightarrow \mathcal{R}(\mathbf{A})\subset \mathcal{R}(\mathbf{C})であることを証明した。
\mathbf{(b)}
補助定理4.5.1により、\mathcal{R}(\mathbf{C})\subset\mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\mathbf{C}\end{array}\right)であるので、定理4.4.4より、
\mathrm{rank}(\mathbf{C})\leq\mathrm{rank}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\mathbf{C}\end{array}\right)
が成り立つ。
さらにもし、\mathcal{R}(\mathbf{A})\subset\mathcal{R}(\mathbf{C})ならば、補助定理4.5.1より\mathcal{R}(\mathbf{C})= \mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\mathbf{C}\end{array}\right)である。よって、\mathrm{rank}(\mathbf{C})= \mathrm{rank}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\mathbf{C}\end{array}\right)が得られる。
逆にもし、\mathrm{rank}(\mathbf{C})= \mathrm{rank}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\mathbf{C}\end{array}\right)であるならば、\mathcal{R}(\mathbf{C})\subset\mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\mathbf{C}\end{array}\right)であるので、定理4.4.6より、\mathcal{R}(\mathbf{C})=\mathcal{R}\left(\begin{array}{l}\mathbf{A}\mathbf{C}\end{array}\right)である。したがって、補助定理4.5.1より、\mathcal{R}(\mathbf{A})\subset\mathcal{R}(\mathbf{C})が成り立つ。
第5章 練習問題
1.
任意のm \times n行列\mathbf{A}と,n \times p行列\mathbf{B}と,p \times q行列\mathbf{C}に対して,
\operatorname{tr}(\mathbf{A B C})=\operatorname{tr}\left(\mathbf{B}^{\prime} \mathbf{A}^{\prime} \mathbf{C}^{\prime}\right)=\operatorname{tr}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{C}^{\prime} \mathbf{B}^{\prime}\right)
であることを示せ.
解.
(2.9),(1.5)を用いて
\operatorname{tr}(\mathbf{ABC})=\operatorname{tr}(\mathbf{CAB})=\operatorname{tr}\left[(\mathbf{CAB})'\right]=\operatorname{tr}(\mathbf{B'A'C'})=\operatorname{tr}(\mathbf{A'C'B'})
より成り立つことがわかる.
2.
\mathbf{A, B, C}をn \times n行列とする.
\mathbf{(a)} 練習問題1の結果を(あるいは別の方法を)用いて,もし\mathbf{A, B, C}が対称ならば,\operatorname{tr}(\mathbf{ABC}) = \operatorname{tr}(\mathbf{BAC})であることを示せ.
\mathbf{(b)} (\mathbf{(a)} で考えた特別な場合を除くと)\operatorname{tr}(\mathbf{BAC})は必ずしも\operatorname{tr}(\mathbf{ABC})に等しくないことを示せ.
(a)
\mathbf{A, B, C}はそれぞれ対称なので、\mathbf{A} = \mathbf{A}^{\prime}, \mathbf{B}=\mathbf{B^{\prime} }, \mathbf{C}=\mathbf{C}^{\prime}である。よって、\operatorname{tr}\left(\mathbf{B}^{\prime} \mathbf{A}^{\prime} \mathbf{C}^{\prime}\right)=\operatorname{tr}\left(\mathbf{B}\mathbf{A} \mathbf{C}\right)が成り立つ。
よって、問1より、\operatorname{tr}(\mathbf{ABC}) = \operatorname{tr}\left(\mathbf{B}^{\prime} \mathbf{A}^{\prime} \mathbf{C}^{\prime}\right) =\operatorname{tr}(\mathbf{BAC})が成り立つ
(b)
\mathbf{A} = \begin{pmatrix}0 & 1 \\ 2 & 3 \\ \end{pmatrix}, \mathbf{B} = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 1 & 0 \\ \end{pmatrix}, \mathbf{C} = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \\ \end{pmatrix}とする。
今、\operatorname{tr}(\mathbf{BAC})= 0であり, \operatorname{tr}(\mathbf{ABC}) = 5である。
3.
\mathbf{A}は\mathbf{A}^{\prime}\mathbf{A} = \mathbf{A}^{2}を満たすn \times n行列とする.
\mathbf{(a)} \operatorname{tr}\left[\left(\mathbf{A}-\mathbf{A}^{\prime}\right)^{\prime}\left(\mathbf{A}-\mathbf{A}^{\prime}\right)\right]=0 を示せ.
\mathbf{(b)} \mathbf{A}が対称なことを示せ.
解.
\operatorname{tr}[\mathbf{A}^{\prime}]=\operatorname{tr}[\mathbf{A}](1.5) と \operatorname{tr}[\mathbf{A}\mathbf{B}]=\operatorname{tr}[\mathbf{B}\mathbf{A}](2.3)より、
(a)
\begin{aligned} \operatorname{tr}\left[\left(\mathbf{A}-\mathbf{A}^{\prime}\right)^{\prime}\left(\mathbf{A}-\mathbf{A}^{\prime}\right)\right] &=\operatorname{tr}\left[\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}-\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}^{\prime}-\mathbf{A} \mathbf{A}+\mathbf{A} \mathbf{A}^{\prime}\right] \\ &=\operatorname{tr}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)-\operatorname{tr}\left[(\mathbf{A} \mathbf{A})^{\prime}\right]-\operatorname{tr}\left(\mathbf{A}^{2}\right)+\operatorname{tr}\left(\mathbf{A} \mathbf{A}^{\prime}\right) \\ &=\operatorname{tr}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)-\operatorname{tr}\left[(\mathbf{A} \mathbf{A})^{\prime}\right] \\ &=\operatorname{tr}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)-\operatorname{tr}(\mathbf{A} \mathbf{A})=0 \end{aligned}
(b)
補題(5.3.1)を考慮すると、(a)より\mathbf{A}-\mathbf{A}^{\prime}=0. すなわち等価的に\mathbf{A}=\mathbf{A}^{\prime}となる。
※ 補助定理 5.3.1.
任意の m \times n 行列 \mathbf{A}=\left\{a_{i j}\right\} に対して、\operatorname{tr}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)=0 であるときかつそのときに限って\mathbf{A}=\mathbf{0} である。
第6章 練習問題
1.
線形空間\mathcal{V}の中の任意の2 つの行列\mathbf{A, B}に対して,
\|\mathbf{A}+\mathbf{B}\| \leq \|\mathbf{A}\|+\|\mathbf{B}\|
であり,この等号は\mathbf{B} = \mathbf{0}あるいはある非負のスカラーkに対して\mathbf{A} = k\mathbf{B}で あるときかつそのときに限って成り立つことを,シュヴァルツの不等式を用いて示せ. (この不等式は三角不等式として知られている.)
解.
両辺は非負なので、両辺を二乗した不等式
\|\mathbf{A}+\mathbf{B}\|^2 \leq (\|\mathbf{A}\|+\|\mathbf{B}\|)^2
を示せばよい。これを同値変形すると
\begin{aligned}
(\mathbf{A} + \mathbf{B}) \cdot (\mathbf{A} + \mathbf{B}) &\leq \|\mathbf{A}\|^2 + 2 \|\mathbf{A}\| \|\mathbf{B}\| + \|\mathbf{B}\|^2 \\
\mathbf{A} \cdot \mathbf{A} + 2 \mathbf{A} \cdot \mathbf{B} + \mathbf{B} \cdot \mathbf{B} &\leq \mathbf{A} \cdot \mathbf{A} + 2 \|\mathbf{A}\| \|\mathbf{B}\| + \mathbf{B} \cdot \mathbf{B} \\
\mathbf{A} \cdot \mathbf{B} &\leq \|\mathbf{A}\| \|\mathbf{B}\| \tag{1}
\end{aligned}
となる。ここでシュヴァルツの不等式より
\begin{aligned}
|\mathbf{A} \cdot \mathbf{B}| \leq \|\mathbf{A}\| \|\mathbf{B}\| \tag{2}
\end{aligned}
すなわち
\begin{aligned}
-\|\mathbf{A}\| \|\mathbf{B}\| \leq \mathbf{A} \cdot \mathbf{B} \leq \|\mathbf{A}\| \|\mathbf{B}\|
\end{aligned}
が成り立つ。よって式(1)が成り立つ。
式(1)の等号成立条件について考える。式(2)で等号が成り立つことは式(1)で等号が成り立つことの必要条件なので、式(2)の等号成立条件「\mathbf{B} = \mathbf{0} あるいはあるスカラー k に対して\mathbf{A} = k\mathbf{B}」を満たす場合に絞って考えればよい。
\mathbf{B} = \mathbf{0} のとき、式(1)は等号で成り立つ。あるスカラー k に対して\mathbf{A} = k\mathbf{B} であるとき、式(1)の左辺は \mathbf{A} \cdot \mathbf{B} = k \|\mathbf{B}\|^2 であり、式(1)の右辺は
\begin{array}{rlrl}
\|\mathbf{A}\| \|\mathbf{B}\| = & -k \|\mathbf{B}\|^2 & k < 0\ \textrm{のとき} \\ & k \|\mathbf{B}\|^2 & k \geq 0\ \textrm{のとき}
\end{array}
である。以上から、式(1)の等号成立条件は「\mathbf{B} = \mathbf{0} あるいはある非負のスカラー k に対して\mathbf{A} = k\mathbf{B}」である。
2.
\mathbf{A, B, C}を線形空間\mathcal{V}の中の任意の行列とするとき,次のことを示せ. (\mathbf{(c)} には練習問題1 の結果,すなわち,三角不等式を用いよ.)
\mathbf{(a)} \delta(\mathbf{B}, \mathbf{A}) = \delta(\mathbf{A}, \mathbf{B}),すなわち,\mathbf{B}と\mathbf{A}との聞の距離は\mathbf{A}と\mathbf{B}との問の距離に等しい.
\mathbf{(b)}
\begin{array}{rlrl}\delta(\mathbf{A}, \mathbf{B}) & >0 & \mathbf{A} \neq \mathbf{B} \textrm{のとき} \\ & =0 & \mathbf{A}=\mathbf{B} \textrm{のとき}\end{array}
である.すなわち,任意の2つの行列の聞の距離は, 2 つの行列が同じものでない限り,0より大きい.同じものの場合にはそれらの聞の距離は0である.
\mathbf{(c)} \delta(\mathbf{A}, \mathbf{B}) \leq \delta(\mathbf{A}, \mathbf{C})+\delta(\mathbf{C}, \mathbf{B}),すなわち,\mathbf{A}と\mathbf{B}との間の距離は\mathbf{A}と\mathbf{C}との問の距離と\mathbf{C}と\mathbf{B}との聞の距離との和以下である.
\mathbf{(d)} \delta(\mathbf{A}, \mathbf{B})=\delta(\mathbf{A}+\mathbf{C}, \mathbf{B}+\mathbf{C}),すなわち,距離は「軸」の平行移動によって影響されない.
解.
\mathbf{(a)} \delta(\mathbf{B}, \mathbf{A})は \mathbf{B}-\mathbf{A}の対角要素の二乗和の平方根なので、\delta(\mathbf{B}, \mathbf{A}) = \delta(\mathbf{A}, \mathbf{B})
\begin{aligned}
\delta(\mathbf{B}, \mathbf{A}) &=\|\mathbf{B}-\mathbf{A}\| \\
&=\|(-1)(\mathbf{A}-\mathbf{B})\|=|-1|\|\mathbf{A}-\mathbf{B}\|=\|\mathbf{A}-\mathbf{B}\|=\delta(\mathbf{A}, \mathbf{B}) .
\end{aligned}
\mathbf{(b)}
\begin{aligned} \mathbf{A}-\mathbf{B} \neq \mathbf{0} ,すなわち\mathbf{A} \neq \mathbf{B}のとき, \delta(\mathbf{A}, \mathbf{B})=\|\mathbf{A}-\mathbf{B}\| &>0, \\ \mathbf{A}-\mathbf{B}=\mathbf{0} ,すなわち\mathbf{A}=\mathbf{B}のとき, \delta(\mathbf{A}, \mathbf{B})=\|\mathbf{A}-\mathbf{B}\| =0, & \end{aligned}
\mathbf{(c)}
\begin{aligned} \delta(\mathbf{A}, \mathbf{B}) &=\|\mathbf{A}-\mathbf{B}\| \\ &=\|(\mathbf{A}-\mathbf{C})+(\mathbf{C}-\mathbf{B})\| \\ & \leq\|\mathbf{A}-\mathbf{C}\|+\|\mathbf{C}-\mathbf{B}\| *練習(1)の定理 \\ &=\delta(\mathbf{A}, \mathbf{C})+\delta(\mathbf{C}, \mathbf{B}) \end{aligned}
\mathbf{(d)}
\begin{aligned} \delta(\mathbf{A}+\mathbf{C}, \mathbf{B}+\mathbf{C})=\|(\mathbf{A}+\mathbf{C})-(\mathbf{B}+\mathbf{C})\|=\|\mathbf{A}-\mathbf{B}\|=\delta(\mathbf{A}, \mathbf{B}) \end{aligned}
3.
\mathbf{w}_{1}^{\prime}, \mathbf{w}_{2}^{\prime}, \mathbf{w}_{3}^{\prime}をそれぞれ線形空間\mathcal{R}^{4}の中の3個の線形独立な4次元行ベクトル(6,0,-2,3),(-2,4,4,2),(0,5,-1,2)とし,内積の通常の定義を採用する.
\mathbf{(a)} 線形空間\operatorname{sp}\left(\mathbf{w}_{1}^{\prime}, \mathbf{w}_{2}^{\prime}, \mathbf{w}_{3}^{\prime}\right)の正規直交基底をグラムーシュミットの直交化法 を用いて求めよ.
\mathbf{(b)} \mathbf{(a)} で求めた3 個の正規直交ベクトルを含む\mathcal{R}^{4}の正規直交基底を求めよ.それには, (\mathbf{(a)} より])4 番目の線形独立な行ベクトルとしてたとえば(0, 1, 0, 0)に対してグラムーシュミットの直交化法の結果を拡張せよ.
解.
\mathbf{(a)}
Step 1 定理6.4.1に従い、\{\mathbf{w}'_1, \mathbf{w}'_2, \mathbf{w}'_3\}から、互いに直交するベクトルの集合\{\mathbf{y}'_1, \mathbf{y}'_2, \mathbf{y}'_3\}をつくる。
\begin{aligned}
\mathbf{y}'_1 &= \mathbf{w}'_1 = (6, 0, -2, 3) \\
\mathbf{y}'_2 &= \mathbf{w}'_2 - \frac{\mathbf{w}'_2\mathbf{y}_1}{\mathbf{y}'_1\mathbf{y}_1} \mathbf{y}'_1 \\
&= (-2, 4, 4, 2) - \frac{(-14)}{49} (6, 0, -2, 3) \\
&= \frac{1}{7} (-2, 28, 24, 20) \\
\mathbf{y}'_3 &= \mathbf{w}'_3 - \frac{\mathbf{w}'_3\mathbf{y}_2}{\mathbf{y}'_2\mathbf{y}_2} \mathbf{y}'_2 - \frac{\mathbf{w}'_3\mathbf{y}_1}{\mathbf{y}'_1\mathbf{y}_1} \mathbf{y}'_1 \\
&= (0, 5, -1, 2) - \frac{156}{252} \cdot \frac{1}{7} (-2, 28, 24, 20) - \frac{8}{49} (6, 0, -2, 3) \\
&= \frac{1}{147} (-118, 371, -411, -38).
\end{aligned}
Step 2 \{\mathbf{y}'_1, \mathbf{y}'_2, \mathbf{y}'_3\}を正規化した、ベクトルの集合\{\mathbf{z}'_1, \mathbf{z}'_2, \mathbf{z}'_3\}をつくる。
\begin{aligned}
\mathbf{z}'_1 &= \frac{\mathbf{y}'_1}{\|\mathbf{y}'_1\|} = \frac{1}{7} (6, 0, -2, 3) \\
\mathbf{z}'_2 &= \frac{\mathbf{y}'_2}{\|\mathbf{y}'_2\|} = \frac{1}{6} (-2, 28, 24, 20) \\
&= \frac{1}{3} (-1, 14, 12, 10) \\
\mathbf{z}'_3 &= \frac{\mathbf{y}'_3}{\|\mathbf{y}'_3\|} = \frac{1}{\sqrt{321930}} (-118, 371, -411, -38)
\end{aligned}
\mathbf{(b)}
Step 1 定理6.4.1に従い、\mathbf{y}'_4を計算する。
\begin{aligned}
\mathbf{y}'_4 &= \mathbf{w}'_4 - \frac{\mathbf{w}'_4\mathbf{y}_3}{\mathbf{y}'_3\mathbf{y}_3} \mathbf{y}'_3 - \frac{\mathbf{w}'_4\mathbf{y}'_2}{\mathbf{y}'_2\mathbf{y}_2} \mathbf{y}'_2 \\
&= (0, 1, 0, 0) - \frac{371}{2190} \cdot \frac{1}{147} (-118, 371, -411, -38) - \frac{1}{9} \cdot \frac{1}{7} (-2, 28, 24, 20) \\
&= \frac{1}{321930} (53998, 41209, 29841, -88102).
\end{aligned}
Step 2 \mathbf{y}'_4を正規化した\mathbf{z}'_4を計算する。
\mathbf{z}'_4 = \frac{\mathbf{y}'_4}{\|\mathbf{y}'_4\|} = \frac{1}{\sqrt{13266413370}} (53998, 41209, 29841, -88102).
4.
\{ \mathbf{A}_{1},\ldots, \mathbf{A}_{k} \}を線形空間\mathcal{V}の中の空でない(線形従属なものもあり得る)集合とする.
\mathbf{(a)} (次のことを示すことによって)定理6.4.1を一般化せよ. (1) k個の行列
\begin{aligned} \mathbf{B}_{1} &=\mathbf{A}_{1} \\ \mathbf{B}_{2} &=\mathbf{A}_{2}-x_{12} \mathbf{B}_{1} \\ \vdots & \\ \mathbf{B}_{j} &=\mathbf{A}_{j}-x_{j-1, j} \mathbf{B}_{j-1}-\cdots-x_{1 j} \mathbf{B}_{1} \\ \vdots & \\ \mathbf{B}_{k} &=\mathbf{A}_{k}-x_{k-1, k} \mathbf{B}_{k-1}-\cdots-x_{1 k} \mathbf{B}_{1} \end{aligned}
から成る集合が直交すること. (2) j = 1 ,\ldots, kと\mathbf{B}_{i} \neq 0を満たすi \lt jに対して,x_{ij}が
x_{i j}=\frac{\mathbf{A}_{j} \cdot \mathbf{B}_{i}}{\mathbf{B}_{i} \cdot \mathbf{B}_{i}}
によって一意に与えられること. (3) \mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k} の聞の\mathbf{0}でない行列の数が\operatorname{dim}\left[\operatorname{sp}\left(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right)\right]に等しいこと.
\mathbf{(b)} \operatorname{sp}\left(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right)の正規直交基底を構築する手順を述べよ.
参考
グラムシュミットの直交化法のイメージ
(a)の証明
数学的帰納法によって(1)と(2)を証明する。k=1なら自明。
j=1,\cdots ,(k-1)で命題の成立を仮定する。すなわち、問題文で定義されるような\{\mathbf{B}_j\}_{j=1,\cdots k-1}に対して、(1) \mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k-1} が互いに直交することを仮定する。
まずは、(1)\mathbf{B}_k \cdot \mathbf{B}_i=0 (\forall i)となることを証明する。\mathbf{B}_{i}=\mathbf{0}の場合は(1)は自明に成立するので、\mathbf{B}_{i}\neq \mathbf{0}の場合を考える。定理6.4.1の証明と同様に式変形して、
\begin{aligned}
&\mathbf{B}_k \cdot \mathbf{B}_i\\
=& (\mathbf{A}_{k}-x_{k-1, k} \mathbf{B}_{k-1}-\cdots-x_{1 k} \mathbf{B}_{1} )\cdot \mathbf{B}_i\\
=& \mathbf{A}_{k} \cdot \mathbf{B}_{i}-x_{i k}\left(\mathbf{B}_{i} \cdot \mathbf{B}_{i}\right)
\end{aligned}
の第3式がゼロとなればよい。\mathbf{B}_k \cdot \mathbf{B}_i=0は、
x_{i k}=\frac{\mathbf{A}_{k} \cdot \mathbf{B}_{i}}{\mathbf{B}_{i} \cdot \mathbf{B}_{i}} .
の時、かつそのときに限って成立する。以上より(1)の証明が完了し、(2)x_{ij}の一意性(\mathbf{B}_{i}\neq \mathbf{0}の場合)も証明できた。
次に、(3)を証明する。\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k} は\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k} の線型結合で表せるので\operatorname{sp}\left(\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}\right) \subset \operatorname{sp}\left(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right)である。さらに、\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k} は\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k} の線型結合で表せるので、\operatorname{sp}\left(\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}\right)\supset \operatorname{sp}\left(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right)である。従って、\operatorname{sp}\left(\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}\right)=\operatorname{sp}\left(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right)である。
\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}が互いに直交することから、\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}のうちゼロでない行列の集合は、補助定理6.2.1により互いに線型独立である。従って、\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}のうちゼロでない行列の集合は\operatorname{sp}\left(\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}\right)の基底(=\operatorname{sp}\left(\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right)の基底)を成す。従って、基底の数は線型空間の次元に等しいので、題意は示された。
(b)の証明
(a)の方法で構成した\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}のうち、ゼロでない行列のみを選べば良い。
5.
\mathbf{A}を階数rのm \times k行列とする(ここでrはkより小さいこともある). 次の\mathbf{A} = \mathbf{QR}_{1}の形の分解を得るのに練習問題4の結果を用いて,結果(4.3) を一般化せよ.ここで\mathbf{Q}は正規直交列をもつm \times r行列であり,また\mathbf{R}_{1}は,行がr個の正の対角要素とk-r個の\mathbf{0}行をもつk\times k上三角行列\mathbf{R}のr個の\mathbf{0}でない行から成るr \times k部分行列である.
行列\mathbf{A}の1〜k番目の列ベクトルをそれぞれ\mathbf{a}_{1}, \ldots, \mathbf{a}_{k}とする。
練習問題4に従って、漸化的に定義されるk個の列ベクトル\mathbf{b}_{1}, \ldots, \mathbf{b}_{k}を成す
スカラーx_{i j}(i<j=1, \ldots, k)が存在する。
\mathbf{b}_{1}=\mathbf{a}_{1},
\mathbf{b}_{2}=\mathbf{a}_{2}-x_{12} \mathbf{b}_{1},
\vdots
\mathbf{b}_{j}=\mathbf{a}_{j}-x_{j-1, j} \mathbf{b}_{j-1}-\cdots-x_{1 j} \mathbf{b}_{1},
\vdots
\mathbf{b}_{k}=\mathbf{a}_{k}-x_{k-1, k} \mathbf{b}_{k-1}-\cdots-x_{1 k} \mathbf{b}_{1}
すなわち、等式
\mathbf{a}_{1}=\mathbf{b}_{1}
\mathbf{a}_{2}=\mathbf{b}_{2}+x_{12} \mathbf{b}_{1},
\vdots
\mathbf{a}_{j}=\mathbf{b}_{j}+x_{j-1, j} \mathbf{b}_{j-1}+\cdots+x_{1 j} \mathbf{b}_{1}
\vdots
\mathbf{a}_{k}=\mathbf{b}_{k}+x_{k-1, k} \mathbf{b}_{k-1}+\cdots+x_{1 k} \mathbf{b}_{1}
となり、\mathbf{b}_{1}, \ldots, \mathbf{b}_{k}は直交系を成す。
\mathbf{b}_{1}, \ldots, \mathbf{b}_{k}の中で、r個が非ゼロのベクトルで、それぞれのベクトルをs_{1}〜s_{r}でラベルする。
また、i<jにおいてx_{i j}は
x_{i j}=\frac{\mathbf{a}_{j} \cdot \mathbf{b}_{i}}{\mathbf{b}_{i} \cdot \mathbf{b}_{i}}
によって一意に表すことができる。(グラムシュミットの直交化法)
ここで、行列\mathbf{B}はm \times k行列で1〜k番目の列ベクトルを\mathbf{b}_{1}, \ldots, \mathbf{b}_{k}とする。
また、\mathbf{X}をk \times kの上三角行列でi j番目要素( i<j=1, \ldots, k)をx_{i j}とする。
この時\mathbf{B X}の第一列ベクトルは\mathbf{b}_{1}、j番目の列ベクトル(j=2, \ldots, k)は
\mathbf{b}_{j}+x_{j-1, j} \mathbf{b}_{j-1}+\cdots+x_{1 j} \mathbf{b}_{1}となる。
(2.2.9) の結果を用いると以下になる。
\mathbf{A}=\mathbf{B} \mathbf{X}=\mathbf{B}_{1} \mathbf{X}_{1}
\mathbf{B}_{1}はm \times rの\mathbf{B}の部分行列で各ベクトルは
\mathbf{B}のS_{1}番目〜S_{r}番目の列ベクトルである。
\mathbf{X}_{1}はr \times kの\mathbf{X}の部分行列で各ベクトルは
\mathbf{X}のS_{1}番目〜S_{r}番目の列ベクトルである。
そして、行列分解\mathbf{A}=\mathbf{B}_{1} \mathbf{X}_{1}は以下にも表現できる。
\mathbf{A}=\mathbf{Q} \mathbf{R}_{1}
ここで、\mathbf{Q}=\mathbf{B}_{1} \mathbf{D},\mathbf{D}=\operatorname{diag}\left(\left\|\mathbf{b}_{s_{1}}\right\|^{-1}, \ldots,\left\|\mathbf{b}_{s_{r}}\right\|^{-1}\right)
また、\mathbf{R}_{1}=\mathbf{E X _ { 1 }},\mathbf{E}=\operatorname{diag}\left(\left\|\mathbf{b}_{s_{1}}\right\|, \ldots,\left\|\mathbf{b}_{s_{r}}\right\|\right)
ここで、\mathbf{Q}はm \times r行列で、j番目の列ベクトルは\left\|\mathbf{b}_{s_{j}}\right\|^{-1} \mathbf{b}_{s_{j}}となる。
また、\mathbf{R}_{1}=\left\{r_{i j}\right\}はr \times k行列で
r_{i j}= \begin{cases}\left\|\mathbf{b}_{s_{i}}\right\| x_{s_{i} j}, & \text { for } j>s_{i} \\ \left\|\mathbf{b}_{s_{i}}\right\|, & \text { for } j=s_{i} \\ 0, & \text { for } j<s_{i}\end{cases}
となる。
ここで\mathbf{Q}は正規直交列をもつm \times r行列であり,また\mathbf{R}_{1}は,行がr個の正の対角要素とk-r個の\mathbf{0}行をもつk\times k上三角行列\mathbf{R}のr個の\mathbf{0}でない行から成るr \times k部分行列である.
第7章 練習問題
1.
\mathbf{(a)} \mathbf{A}をm \times n行列,\mathbf{C}をn \times q行列,\mathbf{B}をq\times p行列とする.もし\operatorname{rank}(\mathbf{AC}) = \operatorname{rank}(\mathbf{C})ならば,
\mathcal{R}(\mathbf{ACB}) = \mathcal{R}(\mathbf{CB}) , \quad \operatorname{rank}(\mathbf{ACB}) = \operatorname{rank}(\mathbf{CB})
であり,もし\operatorname{rank}(\mathbf{CB})=\operatorname{rank}(\mathbf{C})ならば
\mathcal{C}(\mathbf{ACB}) = \mathcal{C}(\mathbf{AC}), \quad \operatorname{rank}(\mathbf{ACB}) = \operatorname{rank}(\mathbf{AC})
であり,それによって系4.4.7 と定理7.4.3 と系7.4.4の結果が拡張されることを示せ.
\mathbf{(b)} \mathbf{A}, \mathbf{B}をm \times n行列とする. (1) もし\mathbf{C}がr \times q行列で,\mathbf{D}が\operatorname{rank}(\mathbf{CD}) = \operatorname{rank}(\mathbf{D})を満たすq \times m行列ならば, \mathbf{CDA} = \mathbf{CDB}のとき\mathbf{DA} = \mathbf{DB}であり,それによって系5.3.3の(1) の結果が拡張されることを示せ. (ヒント: \mathbf{DA} = \mathbf{DB}を示すには\operatorname{rank}[\mathbf{D(A -B)}] = 0 を示せば十分である.)
(2) 同様に,もし\mathbf{C}がn \times q行列, \mathbf{D}が\operatorname{rank}(\mathbf{CD}) = \operatorname{rank}(\mathbf{C})を満たすq\times p行列ならば, \mathbf{ACD} = \mathbf{BCD}のとき\mathbf{AC} = \mathbf{BC}であり,それによって系5.3.3 の(2)の結果が拡張されることを示せ.
解.
\mathbf{(a)}
系4.2.3 より, \mathcal{R}(\mathbf{A C B}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{C B}) および \mathcal{C}(\mathbf{A C B}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{A C})である.
また, \operatorname{rank}(\mathbf{A C})=\operatorname{rank}(\mathbf{C})ならば, 系4.4.7より, \mathcal{R}(\mathbf{A C})=\mathcal{R}(\mathbf{C})であり, 補助定理4.2.2 より, \mathbf{C}=\mathbf{L} \mathbf{A C} を満たす行列\mathbf{L}を用いて,
\mathcal{R}(\mathbf{C B})=\mathcal{R}(\mathbf{L A C B}) \subset \mathcal{R}(\mathbf{A C B})
よって, \mathcal{R}(\mathbf{A C B})=\mathcal{R}(\mathbf{C B}) および \operatorname{rank}(\mathbf{ACB}) = \operatorname{rank}(\mathbf{C B})である.
同様に, \operatorname{rank}(\mathbf{C B})=\operatorname{rank}(\mathbf{C})ならば, \mathcal{C}(\mathbf{C B})=\mathcal{C}(\mathbf{C})であり, \mathbf{C}=\mathbf{CBR} を満たす行列\mathbf{R}を用いて,
\mathcal{C}(\mathbf{A C})=\mathcal{C}(\mathbf{A C B R}) \subset \mathcal{C}(\mathbf{A C B})
よって, \mathcal{C}(\mathbf{A C B})=\mathcal{C}(\mathbf{A C}) および\operatorname{rank}(\mathbf{A C B})=\operatorname{rank}(\mathbf{A C})である.
\mathbf{(b)} \mathbf{F}=\mathbf{A}-\mathbf{B}とする.
(1)
\operatorname{rank}(\mathbf{C D})=\operatorname{rank}(\mathbf{D})ならば, \mathbf{C D} \mathbf{A}= \mathbf{CDB}のとき, \mathbf{(a)}より,
\operatorname{rank}(\mathbf{D F})=\operatorname{rank}(\mathbf{C D F})=\operatorname{rank}(\mathbf{C D A}-\mathbf{C D B})=\operatorname{rank}(\mathbf{0})=0
よって, \mathbf{D F}=0 すなわち \mathbf{D A}=\mathbf{D B}である.
(2)
同様に, \operatorname{rank}(\mathbf{C D})=\operatorname{rank}(\mathbf{C})ならば, \mathbf{A C D}=\mathbf{B C D}のとき, \mathbf{(a)}より,
\operatorname{rank}(\mathbf{F C})=\operatorname{rank}(\mathbf{F C D})=\operatorname{rank}(\mathbf{A C D}-\mathbf{B C D})=\operatorname{rank}(0)=0
よって, \mathbf{F C}=\mathbf{0} すなわち \mathbf{A C}=\mathbf{B C}である.
第8章 練習問題
1.
\mathbf{A}をm\times n行列とする. \mathbf{(a)} もし\mathbf{A}が右逆行列をもつならばn\geq mであり,\mathbf{(b)} もし\mathbf{A}が左逆行列をもつならばm \geq nであることを示せ.
\mathbf{(a)}
\mathbf{A}が右逆行列を持つならば、定義から\mathbf{AR} = \mathbf{I}_{m}となるようなn \times m行列\mathbf{R}が存在する。補助定理8.1.1をおさらいして
\begin{aligned}
\operatorname{rank}(\mathbf{A}) &\ge \operatorname{rank}(\mathbf{AR}) (\because \text{Corollary } 4.4.5) \\
&= \operatorname{rank}(\mathbf{I}_{m}) \\
&= m
\end{aligned}
である。さらに補助定理4.4.3から行列\mathbf{A}は「\operatorname{rank}(\mathbf{A}) \le mかつ\operatorname{rank}(\mathbf{A}) \le n」である。これら2つの条件から、\operatorname{rank}(\mathbf{A}) = mのときかつその時に限って\mathbf{A}が右逆行列を持つことになり(補助定理8.1.1)、同時にn \ge mであることが示される。
\mathbf{(b)}
\mathbf{A}が左逆行列を持つ場合も同様にして示すことができる。もし\mathbf{A}が左逆行列をもつならば、定義から\mathbf{LA} = \mathbf{I}_{n}となるようなn \times m行列\mathbf{L}が存在し、「\operatorname{rank}(\mathbf{A}) \ge n」かつ「\operatorname{rank}(\mathbf{A}) \le mかつ\operatorname{rank}(\mathbf{A}) \le n」となるので、m \ge nであることが示される。
2.
n\times n行列\mathbf{A}は,\mathbf{A}^{2} = \mathbf{I},すなわち, \mathbf{A}が可逆でありかつ自分自身の逆行列のとき,対合(involution,形容詞はinvolutory) と言う.
\mathbf{(a)} n \times n行列\mathbf{A}は(\mathbf{I} - \mathbf{A})(\mathbf{I} + \mathbf{A}) = \mathbf{0}のときかつそのときに限って対合で
あることを示せ.
\mathbf{(b)} 2\times 2行列\mathbf{A}= \begin{pmatrix} a & b \\ c & d\end{pmatrix}は (1) a^2 + bc =1 かつ d = -a,あるいは(2) b=c=0かつd = a = \pm 1のときかつそのときに限って対合であることを示せ.
\mathbf{(a)}
\mathbf{A}^2 =\mathbf{I}であるとする。このとき
\begin{aligned}
(\mathbf{I} - \mathbf{A})(\mathbf{I} + \mathbf{A}) &=\mathbf{I}^2 + \mathbf{I}\mathbf{A} - \mathbf{A}\mathbf{I} - \mathbf{A}^2 \\
&= \mathbf{I}^2 - \mathbf{A}^2 \\
&= \mathbf{I}^2 - \mathbf{I} \\
&= \mathbf{I} - \mathbf{I} \\
&= \mathbf{0}
\end{aligned}
が成り立つ。
逆に(\mathbf{I} - \mathbf{A})(\mathbf{I} + \mathbf{A}) = \mathbf{0}であるとすると
\begin{aligned}
(\mathbf{I} - \mathbf{A})(\mathbf{I} + \mathbf{A}) &=\mathbf{I}^2 + \mathbf{I}\mathbf{A} - \mathbf{A}\mathbf{I} - \mathbf{A}^2 \\
&= \mathbf{I}^2 + \mathbf{A} - \mathbf{A} - \mathbf{A}^2 \\
&= \mathbf{I}^2 - \mathbf{A}^2 \\
&= \mathbf{I} - \mathbf{A}^2 = \mathbf{0}
\end{aligned}
より、\mathbf{A}^2 = \mathbf{I}が成り立つ。
以上より、n\times n行列\mathbf{A}は(\mathbf{I} - \mathbf{A})(\mathbf{I} + \mathbf{A}) =\mathbf{0}のときかつその時に限って対合であることが示せた。
\mathbf{(b)}
(a)より、行列\mathbf{A}が対合であるには(\mathbf{I} - \mathbf{A})(\mathbf{I} + \mathbf{A})=\mathbf{0}でなければならない。よって、
\begin{aligned}
(\mathbf{I} - \mathbf{A})(\mathbf{I} + \mathbf{A}) &= \left(\left(
\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{array}\right)-
\left(
\begin{array}{cc}
a & b \\
c & d
\end{array}\right)
\right)
\left(\left(
\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{array}\right)+
\left(
\begin{array}{cc}
a & b \\
c & d
\end{array}\right)
\right) \\
&= \left(
\begin{array}{cc}
1-a & -b \\
-c & 1-d
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{cc}
1+a & b \\
c & 1+d
\end{array}
\right) \\
&= \left(
\begin{array}{cc}
1 - a^2 - bc & -b(a+d) \\
-c(a+d) & 1-bc-d^2
\end{array}
\right) = \mathbf{0}
\end{aligned}
したがって、
1.d= -aのとき (1,2),(2,1)成分は0であるので、\mathbf{A} = \mathbf{0}が成り立つには1 - a^2 - bc =0が成り立てば良い。
2.d\neq -aのとき (1,2),(2,1)成分が0になるにはb,c = 0が成り立たなければならない。これより(1,1),(2,2)成分が0になるには、a,d = \pm 1が成り立つ必要がある。
以上より、\mathbf{A}は(1)a^2+bc = 1かつd=-a、あるいは(2)b=c=0かつd=a=\pm 1のときかつその時に限って対合であることが示せた。
3.
\mathbf{A}を\mathbf{0}でないn\times n対称行列,\mathbf{B}を最大列階数rのn\times r行列,\mathbf{T}を\mathbf{A} = \mathbf{BT}を満たす最大行階数rのr \times nとする. このとき,r\times r行列\mathbf{TB}が非特異であることを示せ. (ヒント: \mathbf{AA}^{\prime} = \mathbf{A}^{2} = \mathbf{BTBT}を考慮せよ.).
\mathbf{A}\mathbf{A}^{\prime} =\mathbf{A}^2 =\mathbf{BTBT}であることから、系7.4.5と8.3.4 を用いて
\operatorname{rank}(\mathbf{BTBT})= \operatorname{rank}(\mathbf{A}\mathbf{A}^{\prime}) =\operatorname{rank}(\mathbf{A}) = r
となり、さらに、補助定理8.3.2.を利用すると、
\operatorname{rank}(\mathbf{BTBT})= \operatorname{rank}(\mathbf{TBT})= \operatorname{rank}(\mathbf{TB})
である。よって、\operatorname{rank}(\mathbf{TB})=rとなるので、r\times r行列\mathbf{TB}は非特異である。
系7.4.5. 任意の行列\mathbf{A}に対して,\mathcal{C}(\mathbf{A}^{\prime}\mathbf{A}) = \mathcal{C}(\mathbf{A}^{\prime}), \mathcal{R}(\mathbf{A}^{\prime}\mathbf{A}) = \mathcal{R}(\mathbf{A}), \operatorname{rank}(\mathbf{A}^{\prime}\mathbf{A}) = \operatorname{rank}(\mathbf{A})が成り立つ.
補助定理8.3.2. \mathbf{A}をm \times n行列,\mathbf{B}をn\times p行列とする.もし\mathbf{A}が最大列階数をもつならば,\mathcal{R}(\mathbf{AB}) = \mathcal{R}(\mathbf{B}), \operatorname{rank}(\mathbf{AB}) = \operatorname{rank}(\mathbf{B}).
系8.3.4. \mathbf{A}を\mathbf{0}でないm\times n行列,\mathbf{B}を最大列階数rのm \times r行列,\mathbf{T}を\mathbf{A}=\mathbf{BT}を満たす最大行階数rのr\times n行列とする.このとき,r = \operatorname{rank}(\mathbf{A})である.
4.
\mathbf{A}をn \times n行列とし, \mathbf{A} = (\mathbf{A}_{1}, \mathbf{A}_{2})と分割する.
\mathbf{(a)} もし\mathbf{A}が可逆ならば,\mathbf{A}^{-1}を\mathbf{A}^{-1} = \begin{pmatrix}\mathbf{B}_{1} \\ \mathbf{B}_{2}\end{pmatrix}と分割する(ここで\mathbf{B}_{1}は\mathbf{A}_{1}がもつ列数と同じ行数をもっている)と,
\mathbf{B}_{1} \mathbf{A}_{1}=\mathbf{I}, \quad \mathbf{B}_{1} \mathbf{A}_{2}=\mathbf{0}, \quad \mathbf{B}_{2} \mathbf{A}_{1}=\mathbf{0}, \quad \mathbf{B}_{2} \mathbf{A}_{2}=\mathbf{I} \tag{E.1}
\mathbf{A}_{1} \mathbf{B}_{1}=\mathbf{I}-\mathbf{A}_{2} \mathbf{B}_{2}, \quad \mathbf{A}_{2} \mathbf{B}_{2}=\mathbf{I}-\mathbf{A}_{1} \mathbf{B}_{1} \tag{E.2}
であることを示せ.
\mathbf{(b)} もし\mathbf{A}が直交行列ならば,
\mathbf{A}_{1}^{\prime} \mathbf{A}_{1}=\mathbf{I}, \quad \mathbf{A}_{1}^{\prime} \mathbf{A}_{2}=\mathbf{0}, \quad \mathbf{A}_{2}^{\prime} \mathbf{A}_{1}=\mathbf{0}, \quad \mathbf{A}_{2}^{\prime} \mathbf{A}_{2}=\mathbf{I} \tag{E.3}
\mathbf{A}_{1} \mathbf{A}_{1}^{\prime}=\mathbf{I}-\mathbf{A}_{2} \mathbf{A}_{2}^{\prime}, \quad \mathbf{A}_{2} \mathbf{A}_{2}=\mathbf{I}-\mathbf{A}_{1} \mathbf{A}_{1}^{\prime} \tag{E.4}
であることを示せ.
\mathbf{(a)}
\left(\begin{array}{ll}
\mathbf{B}_{1}\mathbf{A}_{1} &\mathbf{B}_{1}\mathbf{A}_{2} \\
\mathbf{B}_{2}\mathbf{A}_{1} &\mathbf{B}_{2}\mathbf{A}_{2}
\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{c}
\mathbf{B}_{1} \\
\mathbf{B}_{2}
\end{array}\right)
\left(\mathbf{A}_{1}, \mathbf{A}_{2}\right)
=\mathbf{A}^{-1}\mathbf{A}
=\mathbf{I}
=\left(\begin{array}{cc}
\mathbf{I} & \mathbf{0} \\
\mathbf{0} & \mathbf{I}
\end{array}\right)
より,
\mathbf{B}_{1}\mathbf{A}_{1}=\mathbf{I},\quad
\mathbf{B}_{1}\mathbf{A}_{2}=\mathbf{0},\quad
\mathbf{B}_{2}\mathbf{A}_{1}=\mathbf{0},\quad
\mathbf{B}_{2}\mathbf{A}_{2}=\mathbf{I}
を得る. また,
\mathbf{A}_{1}\mathbf{B}_{1}+\mathbf{A}_{2}\mathbf{B}_{2}
=\left(\mathbf{A}_{1}, \mathbf{A}_{2}\right)
\left(\begin{array}{c}
\mathbf{B}_{1} \\
\mathbf{B}_{2}
\end{array}\right)
=\mathbf{A}\mathbf{A}^{-1}
=\mathbf{I}
より,
\mathbf{A}_{1} \mathbf{B}_{1}=\mathbf{I}-\mathbf{A}_{2} \mathbf{B}_{2}, \mathbf{A}_{2} \mathbf{B}_{2}=\mathbf{I}-\mathbf{A}_{1} \mathbf{B}_{1}
を得る.
\mathbf{(b)}
\mathbf{A} が直交行列のとき, \mathbf{A} は可逆で,
\mathbf{A}^{-1}
=\mathbf{A}^{\prime}
=\left(\begin{array}{c}
\mathbf{A}_{1}^{\prime} \\
\mathbf{A}_{2}^{\prime}
\end{array}\right)
より, \mathbf{(a)}において \mathbf{B}_{1}=\mathbf{A}_{1}^{\prime}および\mathbf{B}_{2}=\mathbf{A}_{2}^{\prime}として得られる.
5.
\mathbf{A}を階数rの\mathbf{0}でないm\times n行列とする.このとき,最初のr個の列が\mathcal{C}(\mathbf{A})を張るm \times m直交行列が存在することを示せ.
定理6.4.3
(m\times n行列の)あらゆる線形空間は正規直交基底をもつ.
より、\mathcal{R}^{m \times 1}の通常の内積に関して直交し、\mathcal{C}(\mathbf{A})の基底を形成するr個のm次元ベクトルが存在する。今、補助定理6.2.1
\mathbf{0}でない行列の直交集合は線形独立である.
よりこの正規直交系は線形独立である。そして、定理6.4.5
k次元線形空間\mathcal{V}の中のr個の行列の任意の正規直交系Sに対して,Sの中の行列のr個すべて(とk-r個の追加の行列)を含む\mathcal{V}の正規直交基底が存在する.
から、\mathcal{R}^{m \times 1}の通常の内積に関して直交し、\mathcal{R}^{m \times 1}の基底を形成するようなm - r個のm次元ベクトル,すなわち\mathbf{b}_{r+1},\cdots, \mathbf{b}_mが、r個のm次元ベクトル\mathbf{b}_1, \cdots, \mathbf{b}_rに加えて存在する。今、明らかに、\mathbf{b}_1, \cdots, \mathbf{b}_r, \mathbf{b}_{r+1},\cdots, \mathbf{b}_mを並べたm \times m行列とすると、\mathbf{A}と直交であり、最初のr列は\mathcal{C}(\mathbf{A})を張る。
6.
\mathbf{T}をn \times n三角行列とすると,\operatorname{rank}(\mathbf{T})は\mathbf{T}の中の0でない対角要素の個数以上であることを示せ.
\mathbf{T}が0でない対角要素をm個持ち、それらがi_{1}, i_{2}, \ldots ,i_{m}番目の行に位置しているとする。
\mathbf{T}_{*} をi_{1}, i_{2}, \ldots ,i_{m}番目の行と列以外の \mathbf{T} の行と列を全て削除した m \times m 部分行列とする。すると\mathbf{T}_{*}は三角形であり、\mathbf{T}_{*}の対角要素i_{1}, i_{2}, \ldots ,i_{m}番目は、\mathbf{T}の対角要素と同じで、すべて非零である。
よって、定理8.5.6より、\operatorname{rank}(\mathbf{T}_{*})=m となることがわかる。定理4.4.10より、\operatorname{rank}(\mathbf{T}) \geq mとなる。
系 8.5.6. 三角行列は、その対角要素がいずれも0でないときかつそのときに限って、非特異である。
定理 4.4.10. \mathbf{A}を階数rの任意のm \times n行列とする.このとき, \mathbf{A} は r 個の線形独立な行とr個の線形独立な列を含む. そして\mathbf{A}の任意のr個の線形独立な行とr個の線形独立な列に対して,他のm-r個の行とn-r個の列を削除することで得られるr \times r部分行列は非特異である.更に, (\mathbf{A}の) r 個より多い行あるいはr個より多い列の任意の集合は線形従属である.そして階数がrを超える\mathbf{A}のいかなる部分行列も存在しない.
7.
\mathbf{A}=\begin{pmatrix}\mathbf{A}_{11} & \mathbf{A}_{12} & \cdots & \mathbf{A}_{1 r} \\ \mathbf{0} & \mathbf{A}_{22} & \cdots & \mathbf{A}_{2 r} \\ \vdots & & \ddots & \vdots \\ \mathbf{0} & \mathbf{0} & & \mathbf{A}_{r r}\end{pmatrix}, \quad \mathbf{B}=\begin{pmatrix}\mathbf{B}_{11} & \mathbf{0} & \cdots & \mathbf{0} \\ \mathbf{B}_{21} & \mathbf{B}_{22} & & \mathbf{0} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \\ \mathbf{B}_{r 1} & \mathbf{B}_{r 2} & \cdots & \mathbf{B}_{r r}\end{pmatrix}
をそれぞれ第ijブロック\mathbf{A}_{ij}が次元n_{i} \times n_{j} (j \geq i=1, \ldots, r)であるn \times n上ブロック三角行列と,第ijブロック\mathbf{B}_{ij}が次元n_{i} \times n_{j} (j \leq i=1, \ldots, r)であるn \times n下ブロック三角行列とする.
\mathbf{(a)} \mathbf{A}と\mathbf{B}が可逆であると仮定すると
\mathbf{A}^{-1}=\begin{pmatrix}\mathbf{F}_{11} & \mathbf{F}_{12} & \cdots & \mathbf{F}_{1 r} \\ \mathbf{0} & \mathbf{F}_{22} & \cdots & \mathbf{F}_{2 r} \\ \vdots & & \ddots & \vdots \\ \mathbf{0} & \mathbf{0} & & \mathbf{F}_{r r}\end{pmatrix}, \quad \mathbf{B}^{-1}=\begin{pmatrix}\mathbf{G}_{11} & \mathbf{0} & \cdots & \mathbf{0} \\ \mathbf{G}_{21} & \mathbf{G}_{22} & & \mathbf{0} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \\ \mathbf{G}_{r 1} & \mathbf{G}_{r 2} & \cdots & \mathbf{G}_{r r}\end{pmatrix}
ここで
\mathbf{F}_{j j}=\mathbf{A}_{j j}^{-1}, \quad \mathbf{F}_{i j}=-\left(\sum_{k=i}^{j-1} \mathbf{F}_{i k} \mathbf{A}_{k j}\right) \mathbf{A}_{j j}^{-1} \quad(i<j=1, \ldots, r) \tag{E.5}
\mathbf{G}_{j j}=\mathbf{B}_{j j}^{-1}, \quad \mathbf{G}_{i j}=-\left(\sum_{k=j+1}^{i} \mathbf{G}_{i k} \mathbf{B}_{k j}\right) \mathbf{B}_{j j}^{-1} \quad(i>j=1, \ldots, r-1) \tag{E.6}
であることを示せ. (公式(5.11)と(5.14)の導出法をまねるのではなく) 8.5d節の結果を\mathbf{A}^{\prime}と\mathbf{B}^{\prime}に適用することによって証明せよ.
\mathbf{(b)} \mathbf{(a)} の公式が\mathbf{A}^{-1}と\mathbf{B}^{-1}を計算するrステップのアルゴリズムを考え出すのにどのように使えるかを述べよ.そしてそれらのアルゴリズムが8.5d 節で記述したものとどのように異なるかを示せ.
\mathbf{(a)}
\mathbf{T}=\begin{pmatrix}\mathbf{T}_{11} & \mathbf{T}_{12} & \cdots & \mathbf{T}_{1 r} \\ \mathbf{0} & \mathbf{T}_{22} & \cdots & \mathbf{T}_{2 r} \\ \vdots & & \ddots & \vdots \\ \mathbf{0} & \mathbf{0} & & \mathbf{T}_{r r}\end{pmatrix}, \quad \mathbf{U}=\begin{pmatrix}\mathbf{U}_{11} & \mathbf{0} & \cdots & \mathbf{0} \\ \mathbf{U}_{21} & \mathbf{U}_{22} & & \mathbf{0} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \\ \mathbf{U}_{r 1} & \mathbf{U}_{r 2} & \cdots & \mathbf{U}_{r r}\end{pmatrix}
をそれぞれ第ijブロック\mathbf{T}_{ij}が次元n_{i} \times n_{j} (j \geq i=1, \ldots, r)であるn \times n上ブロック三角行列と,第ijブロック\mathbf{U}_{ij}が次元n_{i} \times n_{j} (j \leq i=1, \ldots, r)であるn \times n下ブロック三角行列とし、\mathbf{T}, \mathbf{U}が可逆ならば
\mathbf{T}^{-1}=\begin{pmatrix}\mathbf{V}_{11} & \mathbf{V}_{12} & \cdots & \mathbf{V}_{1 r} \\ \mathbf{0} & \mathbf{V}_{22} & \cdots & \mathbf{V}_{2 r} \\ \vdots & & \ddots & \vdots \\ \mathbf{0} & \mathbf{0} & & \mathbf{V}_{r r}\end{pmatrix}, \quad \mathbf{U}^{-1}=\begin{pmatrix}\mathbf{W}_{11} & \mathbf{0} & \cdots & \mathbf{0} \\ \mathbf{W}_{21} & \mathbf{W}_{22} & & \mathbf{0} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \\ \mathbf{W}_{r 1} & \mathbf{W}_{r 2} & \cdots & \mathbf{W}_{r r}\end{pmatrix}
ここで
\mathbf{V}_{ii}=\mathbf{T}_{ii}^{-1}, \quad \mathbf{V}_{i j}=-\mathbf{T}_{ii}^{-1}\left(\sum_{k=i+1}^{j} \mathbf{T}_{ik}\mathbf{V}_{kj} \right) \quad(j>i=1, \ldots, r-1) \tag{5.11}
\mathbf{W}_{ii}=\mathbf{U}_{ii}^{-1}, \quad \mathbf{W}_{i j}=-\mathbf{U}_{ii}^{-1}\left(\sum_{k=j}^{i-1} \mathbf{U}_{i k} \mathbf{W}_{k j}\right) \quad(j<i=1, \ldots, r) \tag{5.14}
が成り立つ(もとの式から文字を置き換えている)。
問の\mathbf{A}に対して\mathbf{F} = \mathbf{A}^{-1}とおき、\mathbf{E} = \mathbf{F}' = (\mathbf{A}')^{-1}とおく。すると (5.14) 式より
\mathbf{E}=\begin{pmatrix}\mathbf{E}_{11} & \mathbf{0} & \cdots & \mathbf{0} \\ \mathbf{E}_{21} & \mathbf{E}_{22} & & \mathbf{0} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \\ \mathbf{E}_{r 1} & \mathbf{E}_{r 2} & \cdots & \mathbf{E}_{r r}\end{pmatrix},
\mathbf{E}_{ii}=(\mathbf{A}_{ii}')^{-1}, \quad \mathbf{E}_{i j}=-(\mathbf{A}_{ii}')^{-1}\left(\sum_{k=j}^{i-1} \mathbf{A}_{ki}' \mathbf{E}_{k j}\right) \quad(j<i=1, \ldots, r)
と表せる。両辺を転置すると
\mathbf{E}_{ii}'=\mathbf{A}_{ii}^{-1}, \quad \mathbf{E}_{ij}'=-\left(\sum_{k=j}^{i-1} \mathbf{E}_{k j}'\mathbf{A}_{ki}\right)\mathbf{A}_{ii}^{-1} \quad(j<i=1, \ldots, r)
となり、i, jを入れ替えると
\mathbf{E}_{jj}'=\mathbf{A}_{jj}^{-1}, \quad \mathbf{E}_{ji}'=-\left(\sum_{k=i}^{j-1} \mathbf{E}_{k i}'\mathbf{A}_{kj}\right)\mathbf{A}_{jj}^{-1} \quad(i<j=1, \ldots, r) \tag{*}
となる。\mathbf{E} = \mathbf{F}'だったから、
\mathbf{E}_{jj}' = \mathbf{F}_{jj}, \quad \mathbf{E}_{ji}' = \mathbf{F}_{ij}, \quad \mathbf{E}_{ki}' = \mathbf{F}_{ik}
が成り立つので、(*)より
\mathbf{F}_{jj}=\mathbf{A}_{jj}^{-1}, \quad \mathbf{F}_{ij}=-\left(\sum_{k=i}^{j-1} \mathbf{F}_{ik}\mathbf{A}_{kj}\right)\mathbf{A}_{jj}^{-1} \quad(i<j=1, \ldots, r) \tag{E.5}
が成り立つ。(E.6)も同様である。
\mathbf{(b)} (E.5)より、可逆なブロック上三角行列\mathbf{A}の逆行列を1"列"目からr"列"目まで順に求めることができる。(E.6)より、可逆なブロック下三角行列\mathbf{B}の逆行列をr"列"目から1"列"目まで順に求めることができる。一方、8.5d節のアルゴリズムは可逆なブロック三角行列の逆行列を"行"ごとに求める方法であった。
Discussion