AIコーディング時代のLinter/Formatter運用と独自スタイルガイドの作成
この記事は「YOSHINANI&ねこねこパラダイス Advent Calendar 2025」の1日目です。https://adventar.org/calendars/12110
株式会社YOSHINANIのふっけです。
今回は、社内のコード品質を担保するために作成した スタイルガイドパッケージ を紹介します。
スタイルガイドとは、組織共通で使える Linter や Formatter の設定をまとめたものです。
スタイルガイドがあることで、組織でコードの書き方を統一でき、コードの品質が安定します。
これは AI コーディングにも適用可能で、AI が生成するコードの品質を機械的に担保できるようになります。
課題:AIコーディング支援とコード品質の維持
独自パッケージ化を進めた背景の一つに開発フローの変化があります。
Claude Code等のAIコーディング支援ツールが普及し、コード生成のコストは大幅に下がりました。一方で、AIが生成するコードのスタイルや品質をどのように統制するかという課題が生じています。
プロンプトで「キャメルケースを使用する」「インポート順序を整理する」といった指示を毎回与えるのは効率的ではありません。
「AIにはコード生成に専念させ、スタイルや構文上の制約はLinter/Formatterで機械的に矯正する」
この役割分担を明確にするため、プロジェクトごとの設定差異を無くし、強固なルールセットを共通化する必要がありました。
vercel/style-guide のアーカイブ
これまで弊社では、Next.jsを中心とした開発において Vercel社が公開していた vercel/style-guide をベース設定として利用していました。優れた設定集でしたが、同リポジトリがアーカイブ(メンテナンス終了)となりました。
これを機に、外部依存を減らし、弊社の技術選定やコーディングガイドラインに完全に準拠した独自の設定パッケージ @yoshinani/style-guide を開発・公開することにしました。
YOSHINANI スタイルガイドの設計
今回作成した style-guide は、以下のツール設定を含んでいます。
- Prettier / Biome フォーマッター(選択式)
- ESLint リンター
- TypeScript tsconfig のベース設定
- commitlint コミットメッセージの規約統一
- CSpell スペルチェック
収録しているルールの具体例
本パッケージには、チームの生産性とコード品質を最大化するための「こだわりの設定」がいくつか含まれています。その一部を紹介します。
1. ESLint Rules
typescript-eslint の推奨設定をベースにしつつ、可読性と保守性を高めるためのルールを追加しています。
ここでのルールの選定については、また別の記事で詳しく解説したいと思います。
export default tseslint.config(
{
rules: {
// any禁止
"@typescript-eslint/no-explicit-any": "error",
// 構文の禁止
"no-restricted-syntax": [
"error",
{
// enum禁止
selector: "TSEnumDeclaration",
message:
"TSのenumには様々な問題があります。enum の代わりに as constを使用してください。",
},
],
// インポートを制限
"no-restricted-imports": [
"warn",
{
paths: [
{
name: "axios",
message: "Web標準のfetchを使用してください。",
},
...
],
patterns: [
{
group: ["lodash/*"],
message: "remedaを使用してください。",
},
...
],
},
],
},
},
)
2. Commitlint Rules
コミットメッセージのフォーマットには Conventional Commits を採用しています。
feat, fix などのプレフィックスを強制することで、将来的なリリースノートの自動生成や、変更内容の粒度を揃える狙いがあります。
export default {
extends: ["@commitlint/config-conventional"],
rules: {
"type-enum": [
2,
"always",
[
"build", // ビルドシステムや依存関係のみの変更
"docs", // ドキュメントのみの変更
"feat", // 新機能
"fix", // バグ修正
"refactor", // バグ修正や新機能追加以外のコード変更
"test", // テストの追加や既存テストの修正
"release", // 自動リリース専用
],
],
},
}
3. CSpell (Spell Checker)
変数名やコメントのタイポは、検索性の低下や誤解を招く原因になります。
cspell を導入し、一般的な英単語に加えて、プロジェクト固有の技術用語を辞書登録しています。
これにより、ケアレスミスをCI等の早い段階で検知し、コードレビューで「スペル間違ってますよ」と指摘する時間をゼロにしています。
biomejs
commitlint
dify
esbuild
firestore
injecfn
liff
mjsx
...
4. Prettier
フォーマットルール(インデント幅やセミコロン有無など)を共通化し、どのリポジトリでも同じ整形結果になるようにしています。
// @ts-check
/**
* @see https://prettier.io/docs/configuration
* @type {import("prettier").Config}
*/
const config = {
endOfLine: "lf",
tabWidth: 2,
printWidth: 80,
useTabs: false,
singleQuote: false,
semi: false,
trailingComma: "all",
}
module.exports = config
5. TypeScript
各プロジェクトはこの base.json を継承して、型安全性な開発ができるようにしています。
{
"$schema": "https://json.schemastore.org/tsconfig",
"compilerOptions": {
"declaration": true,
"declarationMap": true,
"esModuleInterop": true,
"forceConsistentCasingInFileNames": true,
"incremental": false,
"isolatedModules": true,
"lib": ["es2022", "DOM", "DOM.Iterable"],
"module": "NodeNext",
"moduleDetection": "force",
"moduleResolution": "NodeNext",
"noFallthroughCasesInSwitch": true,
"noImplicitReturns": true,
"noUncheckedIndexedAccess": true,
"resolveJsonModule": true,
"skipLibCheck": true,
"strict": true,
"target": "ES2022"
}
}
利用方法
1. インストール
すべての設定は1つのパッケージに含まれており、下記のコマンドでインストールできます。
npm i --save-dev @yoshinani/style-guide
2. ESLint設定
フレームワークや用途に合わせて、最適な設定を extends して利用します。Next.jsプロジェクトであれば以下のように記述します。
import next from "@yoshinani/style-guide/eslint/next"
const eslintConfig = [...next]
export default eslintConfig
3. Prettier と Biome の使い分け
本スタイルガイドの特徴として、標準的な Prettier に加え、高速なフォーマッター・リンターである Biome にも対応しています。プロジェクトの要件に応じて選択可能です。
Prettierを利用する場合:
package.json に以下を追加するだけで適用されます。
{
"prettier": "@yoshinani/style-guide/prettier"
}
Biomeを利用する場合:
Biomeを利用する場合の設定も同梱しています。biome.jsonc を作成し、以下のように継承します。
{
"$schema": "./node_modules/@biomejs/biome/configuration_schema.json",
"extends": ["@yoshinani/style-guide/biome"],
"files": {
"includes": ["**", "!**/.next", "!**/.turbo"]
}
}
技術選定と合意形成について
本パッケージのルールの基盤となっている、弊社の技術選定プロセスや合意形成の仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。なぜこのルールになったのか、その「Why」に興味がある方はぜひご覧ください。
組織の変化
スタイルガイドを社内の複数プロジェクトへ導入しました。
プロダクトごとに技術スタックは違っていても、同じルールでコードを書けるようになりました。
AI が書いたコードも、スタイルガイドに沿って Lint や Format を自動修正させることで、一定以上の品質を満たした状態からレビューを始められるようになりました。
まとめと今後の展望
AIによるコード生成が前提となる時代において、静的解析ツールによる品質担保の重要性は以前にも増して高まっています。
今回紹介したのは「ルールの定義」部分ですが、実際のプロジェクト運用では、このスタイルガイドを確実に機能させるために以下のような仕組みも組み合わせています。
- CIの構築: GitHub Actions等でプルリクエスト時に自動チェックを行う
- Git Hooks: Huskyやlint-stagedを使い、コミット前に不適合なコードを弾く
-
Coding Agentへの指示:
.cursorrulesや Copilot Custom Instructions にスタイルガイドの情報を渡し、AIにあらかじめルールを遵守させる
これらを組み合わせることで、人間もAIも迷わずに、かつ高品質なコードを書き続けられる環境が整います。
これらの具体的な設定やCoding Agentとの連携ノウハウについては、また別の記事で詳しく解説したいと思います。
今回作成した @yoshinani/style-guideが、同様の技術スタック(Next.js / TypeScript / Tailwind CSS)を採用している方々の参考になれば幸いです。
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