概要
普段はソフトウェアエンジニアとして活動していますが、訳あってITとは全く関係ない建設業界の社内システムを作った時の話をします。古い体質と言われる建設業界ですが、高齢化により若者が定着しない、IT化の遅れから労働生産性が悪いといった問題が、そのまま「人手不足」「3Kイメージ」に繋がっています。
本記事では、全くシステム導入が進んでいないとある建築設計会社の情報システムを担当し、どんなSaaSを組み合わせて社内システムを構築したかを紹介します。紹介するSaaSは一例であり、全ての会社に当てはまるわけではないので、あくまで参考としていただきたいです。
導入したSaaS
Microsoft 365
https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365
コアとなるグループウェアとしては、Microsoft 365を使用しています。通常のIT・ソフトウェア業界ではGoogleのグループウェアが多いですが、建築の会社では以下の理由でMicrosoftのグループウェアを選択しました。
- 顧客となるゼネコン・サブコンや、官公庁とはExcelでのやりとりが多い。
- CAD利用のため、ハイスペックなWindows PCが導入されている。
Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teams、OneDrive、Sharepointを主に利用しています。
特にTeamsは社内のメッセージングツールとしてメインに利用しています。
Google Workspace Essentials
https://workspace.google.com/intl/ja/essentials/
Microsoft 365と被ってると思われるかもしれませんが、Essentialsプランで利用しています。このプランはメールやカレンダーをサポートしておらず、すでに導入しているOutlookと共存できます。他のSaaSの認証機能としてGoogleアカウントを利用するために導入しています。Google Drive等のアプリケーションはメンバーは使わないので、会社全体で月8ドルで使うことができます。
monday.com
https://monday.com/lang/ja/
2012年にイスラエルで創業された、チームでの作業を可視化するクラウド型の業務管理ツールです。会社が抱える案件と、それに紐づくタスクやその割り当てを管理することができます。
他のプロジェクト管理ツールに対して特に便利なのが、プロプラン以上の機能ですが、タスクのユーザー割り当てと工数を入力することで、仕事量を自動で計算してくれる機能があることです。これにより人によってタスクの量に偏りが出ないように調整したり、新規案件の受注ペースを調整したりと、社内効率を上げることができました。
他にも社内の機器管理や求人応募者のステータス管理、入札情報の管理などで役に立てています。
Slack
https://slack.com/intl/ja-jp/
こちらもTeamsと同じくメッセージングツールですが、Slackのみ対応しているアプリの通知のために無料プランで導入していました。無料利用可能なのは10個の連携までで、連携アプリの増加に伴って有料化し、インターン生など外部とのやりとりにも利用しています。
Box
https://www.box.com/ja-jp/home
容量無制限で利用できる法人向けクラウドストレージサービスで、ファイルサイズの大きいCADデータを扱うことが多いため導入しました。またフォルダによって細かいセキュリティ・アクセス権を設定することができ、外部とのファイルのやりとりも安全に行うことができます。
TrustLogin
https://trustlogin.com/
ID管理・認証サービスを行うIDaaSサービスです。多数のクラウドサービスを利用しているため、パスワード忘れを防ぐために導入しています。ワンクリックで使いたいクラウドサービスを利用できるシングルサインオンを実現します。
freee会計
https://www.freee.co.jp/
クラウド会計サービスです。銀行口座やクレジットカードと連動させておくことで、自動で入出金データを取り込み、自分でデータをいちいち入力する手間が省けます。
競合の製品としてマネーフォワードクラウドがありますが、freeeはAPIを活用した外部サービス連携を強化しAPIエコノミー形成を目指す新戦略「freee オープンプラットフォーム」を目指しており、外部サービスとの連携が便利だと思ってfreeeの方を導入しました。
board
https://the-board.jp/
受託の多い中小企業・小規模事業者向けのCRMサービスです。案件管理や見積書・請求書の作成、売上分析など、案件数の多い中小企業に寄り添った機能が多く含まれています。freeeとはAPI連携しており、board上で請求を確定することでfreee上で売上を自動で計上してくれます。
bixid
https://bixid.net/
経営分析をするためのクラウドサービスです。こちらもfreeeとAPI連携されているため、ボタン一つで会計データを取り込むことができます。
paild
https://www.paild.io/
与信審査がないプリペイド式の法人カードサービスで、限度額がなく初期費用・年会費・月額料金・発行手数料が無料で利用できます。各発行カードに限度額を設定することもでき、社員の経費精算の手間を削減します。こちらもfreeeとAPI連携しており、利用記録を会計データに直接取り込むことができます。
SmartHR
https://smarthr.jp/
人事労務の管理ができるサービスで、入社手続きや退職手続き、住所の変更などを、従業員が直接入力することで完結します。他にも、年末調整や給与明細、外部サービスとのAPI連携に対応し、人事労務管理の手間が減らします。人事マスタとしての機能の他に、追加で人事評価オプションも導入しています。
freee人事労務
https://www.freee.co.jp/hr/
税金や社会保険など、面倒で複雑な給与計算にかかるコストを削減できます。
AKASHI
https://ak4.jp/
クラウド型勤怠管理システムとしての機能に加えて、プレミアムプランにすることで工数管理機能も使えるため、一つのシステム内で勤怠情報とプロジェクト工数を連動させて管理しています。
HubSpot
https://www.hubspot.jp/
一つのソフトでMA、SFA、CRMの機能を一元的に利用できるクラウドサービスです。Outlookと連携することで社外とのメールのやり取りを保存したり、まだ確定していない見込み案件のステータス管理に利用しています。
Musubu
https://www.musubu.in/
100万社以上の法人データベースとなっており、様々な検索軸で絞り込むことにより、見込み顧客の発見を支援してくれます。また、メール配信オプションにより、アプローチしたい会社にコールドメールを送ることができます。
Eight
https://8card.net/
名刺管理ツールです。本家のSansanと迷いましたが、設計者ばかりで営業が少ない会社だったので、こちらにしました。
hootsuite
https://www.hootsuite.com/
SNS管理ツールです。YouTube、Instagram、Facebook、Twitter、Linkedin、Pinterest、Tidtokに対応し、メジャーなSNSを網羅しています。
Zapier
https://zapier.com/
iPaaSと言われる領域で、手軽に2つのサービスを連携し、ツール間のデータのやりとりや通知などのタスクを自動化してくれるサービスです。海外製で日本語非対応なので、英語に慣れる必要がありますが、1500種類以上のアプリに対応しており、数多くの単純作業を減らすことができます。
Yoom
https://yoom.fun/
和製iPaaSで、Zapierが対応していない日本製のサービスにも対応するために導入しました。
マネーフォワード IT管理クラウド
https://i.moneyforward.com/
SaaS・クラウドサービスにおけるIDの一元管理ツールです。オフボーディング(退職に伴う一連のアカウント削除対応)やシャドーITの検出といった便利な機能はありますが、この領域は出てきたばかりで、クラウドサービスのコスト分析など発展途上の機能もあり、今後の機能改善も期待しています。
導入にあたって苦労したこと
ソフトウェア業界の方にとっては上記のようなシステム導入は当たり前じゃないかと思うかもしれません。しかし、導入先は建築業界、もともと紙やエクセルを中心に業務が回っていた会社で、システム導入しようにも現場はITリテラシーが高いメンバーだけではないので、特有の苦労がありました。
- ITに関する用語がわからない
CRM、クラウドストレージといっても用語の意味が伝わらず、何を伝えたいのか理解されないため、会話が嚙み合わないということが多々ありました。
- わからないことについてググる習慣がない
上記のシステムは基本的にはサポートが充実していてWeb上で調べればいくらでも解説が出ていますが、膝を突き合わせて1to1コミュニケーションを重視する業界ですので、わからないことがあれば簡単なことでも直接聞いてきます。
- 導入しても反発にあう、前のやり方に戻そうとする
今までの仕事の処理プロセスが変わるので新たに覚えなければならないとか、馴染んだ画面操作が変わるためか、現場のメンバーからは強烈な反発にあいます。また新規システム導入しても、なにかと理由をつけては既存の仕組みを使い続けてしまいます。
現場からは反発にあいましたが、導入した先に会社にとって明確なメリットが見えていたため、新規システムへのデータ入力の徹底や既存業務フローの廃止など、経営陣の強烈なトップダウンにより、上記のシステム活用が社内に浸透しました。
まとめ
上記のSaaSは一気にではなく、徐々に導入していったため、長い時間を要しました。私も副業として関わっていたため、割けるリソースが少ない中での改善でしたが、導入した先に会社にも大きなメリットがあったので、最後にそれを伝えたいと思います。
- 残業時間の減少(ほぼ定時帰り)
- 離職率低下による人員の定着(特に若い人材)
- 利益率の上昇
- 求人での先進的アピールによる応募数の増加
れっきとした建築業の会社ですが、今ではイケてるITベンチャーなんじゃないかと思うくらいの成長率と利益率を達成し続けています。日本には生産性の低い会社が多いと言われていますが、そういった会社こそITの活用で劇的に効率性を上げられるのではないでしょうか。
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