📚

レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り、収益を最大化する米国発の新常識

2024/11/27に公開

本記事の概要

本記事は、 X などで話題になった「レベニューオペレーション(RevOps)の教科書」 本の書籍概要をまとめたものです。 RevOps の概要は以下の通り。

企業のレベニュー (Revenue) 組織(マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセス)のプロセス・データをシステムで統合・最適化することで持続的な収益成長を目指す概念、役割のこと。最適なシステムの導入、各部門に点在する収益データの統合・分析・管理、ダッシュボードの構築、経営・各部門リーダーへの提案、一貫性のある顧客体験の提供、社内にそのプロセスを浸透させるなどの役割を持つ。

ここで、 Profit (利益) = Revenue (収益) − Expense (費用) であり、 Revenue とは収益のこと。定義上、収益には売上と売上外収益が含まれるようだが、本書での Revenue はほぼ売上の話だと考えて良さそうです。

本記事はデータエンジニアやデータプラットフォームエンジニアの視点で特に意味のある箇所だけ抜粋して紹介します。 RevOps を実際に担当する収益部署担当者向けの内容は少し割愛します。

想定読者層

  • 収益組織(マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスなど)間のオペレーションやデータ活用の連携に悩んでいる担当者
  • 収益組織を統括する経営者
  • データ分析などを担当するデータチーム
  • RevOpsのデータ基盤を構築するデータ基盤チーム

すでにマーケティング・営業・カスタマーサクセスなどの収益組織が組織・オペレーション・データ活用・データ基盤などの面でシームレスに統合し、最高の顧客体験を継続的に提供し続け、中長期的な収益最大化に向けた大戦略がすでにある場合は、本書を読む必要がないと思われます。が、そういう企業はそう多くないと思います。

RevOps本に注目した背景

  • RevOps は、多くの会社でデータ基盤とデータチームの社内スポンサーかつ社内クライアントである収益部門(マーケティング、営業、カスタマーサクセス)の組織・オペレーション・データ・テックスタックを統合して、収益最大化という企業の中核課題に取り組むという話。特にオペレーションやデータ基盤の実現のところでデータ基盤チームが大きく貢献できる。もし、社内的にデータやシステムの統合の話が出てきた場合 (RevOps という言い方ではなく、マーケ・営業・カスタマーサクセスのデータや運用をシームレスにしたいという話でも)、データ基盤チームの中心的テーマになってもおかしくない。
  • 前職でもマーケティング部署が独自に個別最適な形でマーケティング自動化ツールを中心としたデータ基盤を整備しており、マーケティングチームから見ればデータウェアハウスはあくまでもデータソースの一つとして捉えていた。マーケティングチームは収益部署であり、社内発言権が強いので、データ活用について単独で意思決定できた。結果として、データがマーケティングツールと DWH の両方に分散されてしまい、データが1箇所に集約されている SSoT (Single Source of Truth) がマーケティングツールにも DWH にもない状態だった。ただし、まずはマーケティングへの個別最適なデータ活用が進み、壁にぶち当たらないと RevOps が提唱してるような全体最適化を意識したデータスタックには至らないとも考えられる。
  • 日本でも盛り上がっているらしい。
  • 米系企業で、収益最大化に責任を持つ経営ポジションとして、 CRO (Chief Revenue Officer) など広まりつつある。マーケ、営業、カスタマーサクセスなどの収益部門および RevOps は、オペレーションを統合するため、 CRO 配下に置かれる。 CRO を配置している身近な例としては、 Snowflake がある。

書籍のまとめ

序章 注目されるRevOps(レベニューオペレーション)

序章では、RevOpsが生まれてきた背景が語られている。

過去20年くらいで収益組織(マーケティング、営業、カスタマーサクセス)でのデータ活用が浸透してきた。一方で、多くの企業で各チームのKPIはすり合わせが行われているものの、オペレーション・データ基盤・データ活用はそれぞれ独自に進化してきたケースが多い。

この歴史的な背景から、収益組織間の対立やデータのサイロ化が起きている企業が多い。その結果、適切な意思決定が行われなかったり、一貫性のない顧客対応が行われたり、生産性の低下につながる可能性もある。

書籍で紹介されている例として、マーケティング・営業・カスタマーサクセスがシームレスに連携していないため、そもそも自社サービスとニーズが合っていない顧客に膨大なマーケティング・営業リソースを割いてオンボーディングした後に、カスタマーサクセスが顧客のアプローチしている段階でギャップに気づくという話を紹介している。

大西が以前体験した事例だと、マーケティングチームが独自に個別最適にデータを収集有した結果、データがマーケティングツールと DWH に分散したり、重複したりしてしまい、 SSoT がマーケティングツールにも DWH にもないという状況が生まれた。

第1章 収益拡大を実現する RevOps の価値

第 1 章は RevOps の定義について語っている。要は収益組織であるマーケティング、営業、カスタマーサクセスをそれぞれの機能は担保したまま、組織・データ活用・データ基盤を統合することで、本来の収益組織の目的である中長期的な収益最大化を達成しやすくするということ。

RevOpsの4つの役割

データチームは特に RevTech マネジメント、データマネジメント・インサイトに貢献できそう。

  • オペレーションマネジメント・・・プロセスの標準化と効率化を実現する。KPI目標を設定し、定期的に評価やフィードバックを通じて、リソースやパフォーマンスの最適化を図る。
  • レベニューイネーブルメント・・・収益向上のためフィールド組織がシームレスに連携し、能力を最大限に引き出し、顧客に価値提供できるようにする。トレーニングプログラムの整備・提供、テクノロジーの導入や利活用促進、インセンティブ設計など。
  • RevTechマネジメント・・・フィールド組織が効果的に連携し、データを活用するためのテクノロジーの導入、統合、維持管理を担う。
  • データマネジメント・インサイト・・・CRO(Chief Revenue Officer)やフィールド組織にビジネス判断をサポートする情報を収集し、提供する。

RevOps 4つの柱

組織間の連携強化

  • レベニュー組織間の連携強化の第一歩は、オペレーションモデルを理解し、共通のゴールを意識した組織設計を行うこと。
  • ゴールは売上目標、売上総利益、新規の受注金額、などの収益に関する目標をレベニュー組織全体で意識し、各部門がゴール達成のために目指すべき目標の数値を合意する。
  • マーケティング・・・ Marketing Qualified Lead の品質と数量や受注全体に対するマーケティングの貢献割合
  • インサイドセールス・・・ Sales Accepted Lead の品質と数量や受注貢献割合
  • 営業・・・新規受注金額、商談からの受注率
  • カスタマーサクセス・・・契約継続率、契約解約率など

オペレーション組織の RevOps への統合

  • 以前は各部門のトップの下にオペレーション組織が配置されることが多かった。マーケティング責任者の下にマーケティングオペレーション (MOps) 、営業責任者の下に営業オペレーション (SalesOPs) など。
  • 各オペレーション部門は所属部門に忖度したデータを提示することが多かった。 MOps はキャンペーンの効果を課題に見せたり、 SalesOps は業績予測を誇張したり。
  • フィールド部門とは別にオペレーション機能を持つ RevOps があることで、データを扱う側の意図や解釈に左右されずに客観的に意思決定ができるようになる。

ファイナンスとの関係

  • RevOps ・・・レベニュープロセスの効率化、営業やカスタマーサクセスによる収益に影響する数字の予測やインセンティブ設計などを通じ、収益成長を促進する。
  • ファイナンス・・・ RevOps の結果としての収益を管理する。

顧客のライフサイクルを中心としたレベニューイネイブルメントエコシステム

  • 顧客を中心にすえ、レベニュー組織が一貫した活動をするために育成支援、テクノロジーの活用、インセンティブ設計、部門間コミュニケーションの活発化を行う。

レベニューイネイブルメントエコシステム

第2章 CROとレベニュー組織が担う価値

第 2 章は RevOps の責任者としての Chief Revenue Officer (CRO; 最高収益責任者) の位置付けや役割について書いている。RevOps は米国発の概念なので、米国らしく目標がある場合、その目標の責任者を明確化し、トップダウンで組織やオペレーションを決めさせる。これがないとそもそも統合が困難。

CRO と RevOps の位置付け

2012 年ごろからレベニュー組織(マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど)を統括し、収益成長を推進する責任を持つ役割として Chief Renue Officer (CRO) と言う役職を置く企業が増えている。

CRO 設置の目的は、レベニュー組織のサイロ化や対立構造を排除して統合し、企業全体としてのレベニュー戦略を統一すること。なお、名称は企業によって異なる。

RevOps は CRO 配下にあり、レベニュー組織を支えるオペレーション組織。

RevOps の位置付け

CROの仕事

  • 収益成長の戦略立案・・・市場分析、競合分析、顧客ニーズの理解などをもとにして、短期的および長期的な収益目標を設定し、それを達成するための具体的なアクションプランを策定する。
  • 顧客ライフサイクルの統合管理・・・マーケティング、営業、カスタマーサクセスの各部門を統括し、リード獲得から営業の受注、受注後の顧客満足度の向上と継続まで顧客のライフサイクル全体をマネジメントし、収益を最大化する。
  • 業績予測と目標設定・・・過去のデータや市場動向をもとにして、将来の収益や受注を予測して、現実的かつ挑戦的な目標を設定する。

CRO の視点は、単なる売上増加だけでなく、企業全体の収益性と成長戦略に関連したものであり、顧客体験の向上や LTV(顧客生涯価値)の向上のための仕組みの構築など収益を生み出す全ての要素に関連する。

CROが組織に与える影響

  • 他部門との連携強化・・・マーケティング、営業、カスタマーサクセス部門の統合に加え、収益に責任を持ち、持続的な成長と言う企業の統一目標に向けて、パートナー部門、製品部門、ファイナンス部門とも連携する。
  • 顧客体験の向上・・・マーケティング、営業、カスタマーサクセスの各部門が連携して一貫性のあるコミュニケーションを実現することで、顧客体験が大幅に向上し、顧客の満足度とロイヤリティの向上につながる。
  • 収益成長・・・データドリブンなアプローチを採用し、パフォーマンス改善のサイクルを高め、高い予測精度を維持して、投資の意思決定速度を高める。

CROの戦略的パートナーであるRevOps

レベニューサイクルがバラバラのプロセス、方針、手順、テクノロジーで構成されている場合、優れた顧客体験を提供するのが困難。

RevOps は、CRO が掲げたビジョンや目標に対して実現する戦略策定の支援を実施する。データを用いてボトルネックや解決策の仮説を含むインサイトの提示、 KPI とパフォーマンス指標の統一などレベニュー組織の全ての部門が共通の目標に向かって努力し、収益の最大化に向けてコラボレーションを実現する。

第3章 RevOps が統合するプロセス・データ・テクノロジー

第3章としては、各収益部門のデータスタックの現状と RevOps を実現するためにデータや基盤をどう統合するかを議論している。データ基盤チームとしては一番理解しやすい章。

顧客目線で最適な購買体験を提供するには、顧客やレベニュープロセスに関するデータをチームや部署間で共有する必要があるが、現状としては各部署でツールが縦割りであり、データの統合が困難になっている。例としては、マーケティングは MA 、営業は SFA 、カスタマーサクセスは CS プラットフォームと各チームが別のツールを SSoT と して別々に活用し、データが連携されていなかったりする。

理想的には、データの蓄積、そのガバナンスの管理、複数部署から収集されるデータプロセスの自動化、そしてその分析やアクセスを一元的に管理する仕組みが整っていることが望ましい。そのためにはテクノロジースタックの見直しが必要。

3-5

欧米のRevOps導入企業は、CDPやDWHを組織横断なSSOTとして活用している企業が多いが、従来のCDPはDWHとデータストレージやコンピュートエンジンなど重複した役割も多く、SSOTが2つある状況が課題になっている。

3-7

一方で、近年注目されているコンポーザブル CDP というアプローチでは、 DWH を SSoT としてデータを集約しつつ、目的ごとに適切なアプリケーションを組み合わせ可能。必要な場所に必要なデータを DWH から提供する。

3-8

レベニュー組織では、部門を横断した形で DWH とコンポーザブル CDP を置き、データを一元管理しつつ、それぞれの部署で中心的に使われているアプリケーションにデータを連携する。

3-9

第4章以降

これ以降の章は、実際に組織やプロセスを実践していく時の話。実際にやるとなった場合に読むと良さそう。

第4章 RevOps 専門組織を設立する
第5章 データドリブンな意思決定プロセスを構築する
第6章 RevOps の実践
第7章 AI 時代に向けてますます重要性が高まる RevOps
第8章 レベニューリーダーズへのインタビュー

おわりに

本記事では、最近、日本で注目されている RevOps を扱った書籍「レベニューオペレーション(RevOps)の教科書」について、主にデータエンジニア、データプラットフォームエンジニアの視点で重要そうな箇所をまとめました。

RevOps は、データプラットフォームの社内スポンサー、かつ社内クライアントになることが多い、収益組織(マーケティング、営業、カスタマーサクセス)の組織・オペレーション・データ・データスタックを統合し、会社にとって最重要な中長期的な収益最大化を目指すという内容のため、データプラットフォームチームにとっては最も重要なテーマの 1 つになりうる話だと思いました。

一方で、RevOps の組織やオペレーション統合、テックスタックの統合も確立したものがまだなく、社内で試行錯誤が必要な領域です。具体的な事例などが公開されるケースがあれば、そちらも紹介していきたいと思います。

Discussion