Axion Podcastでコロナ禍のシンガポールでの転職についてお話した

8 min read読了の目安(約7500字

Axion Podcat

デジタル経済メディア Axion Podcast の収録に参加して、以前、ブログで公開したコロナ禍でのレイオフや転職活動の話についてお話してきました。

今回は、Axion 編集長が Podcast 収録への参加者を募集しているツイートを見たので、いいねをつけたところ、実際にお声がかかり、収録にのぞみました。Axion は、普段、ビジネス寄りの話題を扱っているようでしたが、私自身は技術系の仕事ばかりしててあまりネタがなかったので、私の体験の中で、世間の関心が高そうな海外就職やレイオフの体験をさせていただきました。

以下は、Podcast 収録前に事前にメールベースで Q&A のやり取りをした内容です。実際には少し違う内容をしゃべってますが、文字として読みたい方向けに公開させていただきます。海外就職を考えている人の参考になれば幸いです。

インタビューを受けた理由

  1. 海外で働くことに関心が強い方が多くいること。私の経験が多少役に立つかなと思いました。
    • 今年の6月頃にシンガポールでの転職活動に関する記事をブログに上げたところ、普段の10〜20倍くらいのアクセスがあったため、かなり関心が高いんだなと知りました。
  2. 海外での留学や仕事の場としてシンガポール含む東南アジアの注目度が上がって欲しいです。
    • エンジニアの場合、海外就職といえばアメリカを意識する人が多いと思いますが、一方でアジアが今後の世界経済の中心になると言われています。その中でも東南アジアは急速に経済が成長していて、1960年ごろの高度成長期の日本みたいな時期にあります。
    • 東南アジアは発展途上の国が多いが、ディジタル経済が急成長している。例えば、私が業務上見ている領域だと、銀行口座を持っていない人口が非常に多い国なのに、スマホ決済や小口のローンは保険などのサービスが普及し始めてたりします。むしろインフラがないのでスマホを中心とした最新の技術がいきなり導入されたりします。ディジタル経済が発達しているので、今後はソフトウェアエンジニアやデザイナにもたくさんチャンスがあります。
    • 東南アジアの中でシンガポールは唯一の英語圏で、先進国であり、東南アジアのHQとも言うべき都市です。東南アジアに進出するにあたって、シンガポールは日本人にとって生活・仕事の拠点として今後も重要であり続けると思います。

シンガポール移住・就職

シンガポールに渡るまでの経緯を教えてください。

2年前にシンガポール人の妻と東京からシンガポールへ移住しました。移住の主な理由は妻が今後の仕事や子育てを考えると親元に近いシンガポールの方が楽だと希望したからです。元々は、私自身がシンガポールで働きたい!と思ってきた訳ではないのですが、家族の生活の安定を考えてシンガポール移住を決意しました。

シンガポールに移住する直前は、日系の小売企業でデータエンジニアとして働いていました。家庭の事情を上司に告げたところ、仕事上あまり影響がないと言うことで日本本社の予算のままシンガポール支社の現地採用に切り替えさせてもらいました。勤務地はシンガポールですが、レポートライン上は日本本社のチームに所属して、以前と同じようにグローバル向けにシステムを開発・デリバリしていました。

現在はローカルの企業で働いています。

先に日系企業の現地支社に転職・移住したこと、シンガポール人配偶者がいることは、シンガポール転職で有利に働きましたか?

シンガポール人の配偶者がいなくても就労ビザは取れますが、最初の仕事を見つける取っ掛かりとして非常に楽だったと思います。
前提知識として海外就職するにあたって3つハードルがあると思います。

  1. まず企業から面接へ呼んでもらうこと。
  2. そして面接を突破して、オファーをもらうこと。
  3. 最後に現地政府から就労ビザが許可されること。

英語力の問題もあって英語圏の大学もしくは現地の大学を卒業していない時点で就職活動は非常に不利です。いきなり海外企業の面接を受けて突破した人をごくたまにTwitterなどで見かけますが、簡単ではないと思います。

会社内転職する方法の場合は、仕事のパフォーマンスを知っている上司から推薦してもらえたりできますので、最初の2つのハードルを比較的、楽に乗り越えることができます。

このような状況があるので、海外就職する現実的な方法は2つだと思います。

  1. 海外の大学に留学して現地就職すること。
    • 日本で就職してある程度キャリアを積んだ上で、キャリアの転換を図るために海外の大学院で学位を取って現地就職するケースはいくつか知ってます。
    • 大学のプログラム内にインターンがあり、卒業後に就労ビザが出やすい国はあります。
  2. 海外の拠点で自分に合うポジションを募集している企業に一旦就職し、社内転職すること。
    • 私は後者に近いですが、ポジションがあった訳ではないので、かなり特殊な事例かもしれません。

カルチャー

日系企業のキャリアが長いYoheiさんがシンガポール企業に移籍したとき、カルチャーフィットできたか?

私自身は、日系企業以外で働くのは今回が初めてではないので、あまり違和感はなかったです。

  • まず、大学時代に大学の制度を利用してフランスの企業で3ヶ月のインターンをやりました。
  • その後、日系SIer勤務時代にサンフランシスコのソフトウェアベンダーに1年間出向していた経験もあります。
  • シンガポール移住直前に在籍した日系小売企業も、エンジニアは特に外国人多めで、仕事上のコミュニケーションは英語が多めでした。

また、今の勤務先はスタートアップであり、エンジニアのチームに所属していますが、世界的にスタートアップやエンジニアの組織はシリコンバレーのIT企業の影響を強く受けていて、非常に似てきていると思います。そう言う事情もあって大きな違いは感じませんでした。むしろどこの国もやることは似ているなという印象でした。

ただし、日本の企業の文化はかなり独特だと言われているので、伝統的な日本企業でしか働いたことがない人は、多少面食らうかもしれません。

例えば、日本の外から見て日本の企業文化が独特だと感じる例は以下のようなものです。

  • 立場の違いからくる上下関係
    • 上司・部下、先輩・後輩、顧客とベンダーなど。海外でも立場から発生する力関係はあるけど、関係性はもっとフラットです。顧客は大事だけど、顧客の言うことが絶対だと思っているベンダーはいません。
  • 終身雇用の価値観が残っている大企業があること。
    • シンガポールの場合、企業側も事業撤退で社員を大勢レイオフすることはあるし、社員側もより良い条件あれば転職します。
    • 結果的にお互いに長期的な関係が続けば良いとは思うが、永続的な関係だとは思っていないと思います。

どのような「ソフトスキル」が必要か?

まず、前提としてハードスキルが超重要です。私自身がソフトスキル低めなので、ソフトスキルであまり勝負しなくても良いようにしています。プログラミング、データベース、ネットワーク、クラウドサービス、データ分析など、その会社で特定分野をリードできるような専門性を持つべきだと思います。そうでないとオファーがもらえません。

(語学力をソフトスキルとして捉えても問題なければ)英語力については、現場担当者レベルであれば、そんなに高くなくても大丈夫です。1対1でちゃんと意思疎通できれば問題ないと思います。

次に多様性に対する柔軟性、言葉で伝える姿勢が大事です。東南アジアは基本的に多民族国家が多いし、職場も外国人だらけです。私の経験上は上司がアメリカ人、オーストラリア人、イギリス人、中国人など。ベンダーは中国人やインド人など。均質性の高い日本とは違って、仕事のプロセス、成果物の品質、障害があった時のフローなど、人によって考えることがバラバラです。自分の考えを論理的に言葉で伝えて、相手を説得する必要あります。

言葉で伝える姿勢といえば、最近はリモートで働くことが多いので、チャットやドキュメントなどテキスト中心で非同期のコミュニケーションが増えています。設計など意思決定の記録を残す場合、ドキュメントとして書くことが非常に重要です。

レイオフ

今回のパンデミックでレイオフを経験したと聞きましたが、どう言う状況だったか教えていただけますか?

(状況を説明すると)2年前にシンガポールに移住して、1年ほど日系企業で働いていましたが、残念ながらキャリア上の展望が見出せなかったため、2019年の11月に別のローカルのスタートアップに転職しました。

順調に成長している企業ではあったんですが、シリーズAが終わった直後だったため、まだ財務的に安定していない状況でした。その中、コロナのパンデミックが発生し、2020年3月頃に世界的な株価暴落がありました。この時、東南アジアから投資資金が一気に引くという事件があり、これが決め手となって今後の資金調達が困難になりました。固定費削減のため、給与カットなど色々対策を実施しましたが、結局は、2020年の4月にレイオフされてしまいました。私のチームは利益部門というより、まだ研究開発の要素が強いプロジェクトをやっていたので、チームごと丸ごと廃止でした。

レイオフは日本語でいうと雇い止めです。業績不信など企業側の都合で従業員の雇用契約を一旦解除するということです。日本でも中小企業なら起こりうることだと思います。

シンガポールの雇用環境は、日本よりアメリカに近いところがあり、企業のレイオフの判断は迅速で大胆です。このままではダメになりそうだとなったら、不採算部門を潰して一気にレイオフし、固定費を減らして再起をはかります。外資系企業の場合、シンガポール撤退を決めてオフィスごと閉鎖して全員レイオフというケースもたまにあります。

レイオフは辛いことだけど、働いていたら誰しも人生で1度くらいは経験するし、自分のせいではないので、くよくよしてもしょうがない。次を頑張ろうという感覚だと思います。

レイオフの宣告を受けて、2ヶ月以内に転職先を見つけないと国外退去になると書かれていました。かなり短い印象だがどうでしたか?市民権やPRを持つ配偶者がいない場合、一度海外に出て、再度短期ビザで滞在しないといけない?

前提知識がない聴講者のため、レイオフされた場合、最悪どうなるかを説明しておきます。会社からレイオフされる場合は、突然、呼び出されて、レイオフの宣告を受けます。

レイオフ宣告から実際に雇用契約が終了するまでの期間をNotice Periodと言います。前職の場合、1ヶ月でした。これは会社によって違い、2ヶ月のケースもあります。

雇用契約が終了すると就労ビザがキャンセルされます。その時点で1ヶ月間、有効な短期滞在ビザが自動的に発行されます。退職日に帰国できないので、帰国準備の猶予期間と言う位置付けだと思います。

レイオフ宣告から退職日までのNotice Periodが1ヶ月であれば、短期滞在ビザの有効期間1ヶ月を含め、合計で2ヶ月以内に転職が決まって次の就労ビザが承認されないと、滞在許可が失効しているので、国外に退去する必要があります。

私の場合は、市民権がある配偶者がいるので、家族用の長期滞在ビザを即座に申請して国外退去は免れましたが、独身で現地雇用として働いている人などがレイオフされると残念ながら日本に帰る必要があります。

レイオフされるとEmployment Passがキャンセルされるのは「時限爆弾」が起動するような印象を受けたが、どうか?

Employment Passつまり就労ビザは、人ではなく仕事に紐づいているので、レイオフされて失業すると自動的にEmployment Passはキャンセルされます。一方で、市民権やPRは人に紐づいているので、失業してもキャンセルされません。

まず、本来、外国人は滞在も就労もできません。滞在できない、働けない方が普通です。観光ビザの範囲でしか滞在できないし、就労ビザがないと働けません。
企業に雇用され、シンガポール市場に貢献し、税金を収めるので、政府が特別に就労を許可しているわけです。解雇され、収入がなくなった外国人にいつかれて犯罪に手を染められても困るので、仕事がなくなったら就労ビザもキャンセルです。再び、働けない普通の状態に戻ったので、あなたの国に帰ってください、となるわけです。

不況下の転職活動

最初のシンガポールでの転職と比べて、どのくらい大変だったか?

数を挙げて説明します。

最初の転職は20-30程度のポジションに応募して、2個ほどオファーをもらえました。

今回はかなりきつかったです。報道されている通り、かつてない規模の不況なので、最悪のタイミングで転職活動していたと思います。

  • 2ヶ月間の転職活動期間で、約130のポジションに応募しました。
  • 1次面接に進めたのが32。大半の企業は返事なし、返事あってもビザのサポートはないといった企業が多かったです。
  • 最終面接まで進めたのが4社。
  • オファーまで行ったのが2社。

どのような戦略をもつべきか?

戦略以前に、まず現実を理解する必要があります。海外で働くということは、日本の社会保障に守ってもらえない非常に脆弱な状態だということです。荒野の中を1人立ち向かっているような感覚です。一度、今回のパンデミックのような非常事態が発生したら、問答無用で仕事も就労ビザも失って、最悪、国外退去になる可能性があります。駐在員であれば、最悪、日本本社に戻るパスがありますが、現地雇用の場合、失業して終わりです。失意の中、日本に帰ったとして日本で仕事が見つかる保証もありません。そういうリスクが発生する可能性があることを常に頭に入れて、人生設計すべきです。

その上で、自分のいる業界、会社、自分がスキルセットなどがどのくらい競争力を維持できるか自覚的であるべきです。トレンドが徐々に変化していき、気がついたら業界・自社・自分のスキルや経歴が陳腐化しているかもしれません。自分がいくら頑張ってても業界や自社の競争力がなかったら、いつか自分がレイオフに会う可能性があります。世の中が変わっていく以上、自分の市場競争力を上げるため、常に変わっていく必要があります。常にアンテナを広げて、新しいスキルセットを身につけたり、隙あればより良いポジションに転職したり。

どのようなスキルを問われるか?何を用意すべきか?

問われていることは基本的に簡単で、そのポジションに必要な要件を満たしているかどうか、面接官が一緒に働きたいかどうかです。

スキル面は会社やチームによって全く違うんですが、LinkedInなどで募集広告のJob Descriptionを見ると、どう言うスキルがニーズあるのか分かります。私の領域だと言語はPython、AWSやGCPなどクラウドサービス、BigQueryなどのデータウェアハウス、Sparkなどデータ処理のフレームワーク、Airflowなどワークフロー自動化。

世間の動向と離れすぎると転職で困るので、技術選定の際に世間でどれがよく使われているか、筋が良さそうかはしっかり見ておくと良いと思います。

また、1次面接の前にコーディング課題を出すことがよくあるので、知識として知っているだけではダメ、実務でよく見るような課題に対してコーディングできるスキルがないとダメです。

他の外国人との競合関係はあるか?

ローカルの人とも外国人とも競合します。常にインド・中国・東南アジア諸国から英語が堪能で、技術力が高くて、若い人が押し寄せてきますので、常にこういう外国人との競争にさらされています。

LinkedInだとそのポジションに何人応募したか見えたりしますが、人気の企業だと数百件の応募があったりします。

シンガポールが外国人に対するビザの要件を引き締めている印象があるが、影響はあるか?

現在は、コロナ禍の不況なのもあり、シンガポール政府にとって自国民の雇用問題が最大の関心ごとです。失業が増えると社会が不安定化しますから。外国人を入れると自国民と競合して、自国民の仕事が奪われる可能性があります。これは前から問題になっていて、選挙の度に外国人雇用の制限を強める傾向にあります。

また、シンガポールは教育水準が高いので、わざわざ外国人を入れなくても自国で人材を育成できるようになってきているのが大きいです。

よって就労ビザの要件を厳しくしたり、超高度人材向けのビザを新設したりしていて、自国だけでは確保が難しい人だけ外から調達しようとしています。

海外就職を目指す人へのアドバイス

若い人で、英語圏で仕事したい、多国籍のビジネスに関わりたい、成長市場で働きたい、海外で働くことが自分のキャリアにとってプラスになると思う方は挑戦してみては?失敗しても失うものはないので、特に問題ないはずです。

ただし、滞在が長期化すると、社会保障がない、失業時のセーフティネットもない、日本に戻るタイミングなど人生設計上考えることが多いです。また現実的に実現可能な方法は人や状況によって違うので、よく情報収集して、戦略を考えた方が良いですね。


(収録前に用意した原稿は以上です。もしご意見や質問ありましたら、コメントいただけると嬉しいです。)