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メタバース時代におけるブランドの意味とマーケティングの新潮流

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序章: なぜメタバースなのか

近年、メタバースは単なるバズワードから脱し、企業や自治体が続々と参入する新たなプラットフォームとなりつつあります。特に VR/AR 技術の進化Z 世代・α世代のデジタルネイティブ化 により、バーチャル空間はリアルなイベントやコミュニケーションの代替だけでなく、ブランド体験を生み出す場へと変貌しています。
一方で「既にブランド力を持つ企業がメタバースに参入する意味はあるのか?」という疑問もよく耳にします。本稿では、既存ブランドにとってメタバースがどのような価値を持つのか、そしてマーケティングはどのように進化しつつあるのかを考察します。

1. 体験が広告に代わる時代

リアルイベントやテレビ CM では一方的な情報伝達が中心ですが、メタバースではユーザーがアバターとして空間を歩き、自分のペースでブランドに触れます。
世界最大級のバーチャルイベント「バーチャルマーケット(Vket)」では、花王やマツダ、大丸松坂屋百貨店といった企業がブースを出展し、商品の世界観を体感できる空間設計やアバター接客を実施しました。その結果、来場者の約 6 割が 10 分以上滞在し、約 7 割が商品に興味を持った・購入意向を抱いたというアンケート結果が報告されています。
メタバースは「広告を見る」ではなく「体験を感じる」場なのです。

メリットまとめ

  • 深いエンゲージメント: インタラクティブな体験を通じて、ユーザーはブランドへの愛着を高めやすい。
  • 好感度アップ: 記憶に残る体験は SNS で共有されやすく、自然な形で口コミが広がる。
  • 商品理解の促進: 3D モデルやアバター接客により、オンラインでも商品の魅力を直感的に伝えられる。

2. 既存ブランドが参入する4つの理由

確立されたブランドがメタバースに参入する動機は様々ですが、代表的な理由は次の通りです。

  1. 若年層へのリーチ
    デジタルネイティブ世代は従来の広告よりも体験やコミュニティを重視します。メタバースは Z 世代やミレニアル世代への接点として有効で、Medium の分析でも「高いエンゲージメント」や「Gen Z・ミレニアルへのアクセス」の重要性が指摘されています。

  2. ブランド差別化とイノベーション
    メタバースでは独創的な空間デザインやゲーム要素を取り入れることで他社との差別化が可能です。既存のブランドが新鮮な体験を提供することで、「革新的なブランド」としての評価を得られます。

  3. 新たな収益モデル
    仮想製品や NFT、デジタルウェアラブルの販売により、直接的な収益を生み出すことができます。Nike や adidas、Gucci、Balenciaga などはすでにデジタルグッズ販売や限定 NFT を展開し、リアルなブランド価値を仮想空間で活用しています。

  4. 実験場としての活用
    メタバースはマーケティング施策の実験場にもなります。PR TIMES の記事では、バーチャルマーケットが企業にとって「感じてもらう体験」を提供し、ファンづくりやブランド体験の試行錯誤ができる柔軟なフィールドであると紹介されています。既存ブランドでも、新商品やキャンペーンの反応をバーチャル空間でテストすることができます。

3. 箱庭型プラットフォームと共創マーケティング

「ブランド力のある企業が箱庭のようなプラットフォームを作り、他社がそこで宣伝する」というモデルも広がっています。メタバースプラットフォームを運営する ZIKU や cluster では、主催側がバーチャル会場やテンプレートブースを提供し、参入企業は自社で仮想空間を開発する手間なく出展できます。
このような 共創型マーケティング には、以下のようなメリットがあります。

  • スモールスタートが可能: 中小企業や新興ブランドでも、既存プラットフォームにブース出展することで低コストかつ短期間でメタバースに参入できる。
  • コミュニティ効果: 大手企業のブランド力や集客力を活用しながら、多様なブランドが同じ空間に集まることで来場者にとっての価値が増し、相互送客が期待できる。
  • 運営側のメリット: ホストとなる企業はプラットフォーム利用料やデータ収集を通じて新たなビジネスモデルを構築できる。

4. メタバースマーケティングの今後

VR/AR デバイスの普及や Web3 技術の発展により、メタバースは今後さらに多様なビジネス機会を提供するでしょう。既に 月間 4 億人を超えるユーザーがメタバースプラットフォームを利用 しているとの調査もあり、早期参入はブランドにとって先行者優位をもたらします。
もちろん法整備やプラットフォーム間の互換性、ユーザー体験の質など課題も存在しますが、リアルとバーチャルを横断したマーケティングが主流になる未来はそう遠くありません。

おわりに

「ブランドはすでに十分知られているからメタバースに参入しても意味がない」という見方は一部にあります。しかし、メタバースは単なる宣伝の場所ではなく、ファンと共に新しい物語を紡ぎ、体験を共有する舞台です。
確立したブランドにとっても、既存のブランド価値を活かしつつ新しい世代と接点を持ち、革新的な体験を提供する絶好のチャンスになります。同時に、まだブランドを確立していない企業は、大手ブランドの「箱庭」に参加することで共創の波に乗ることができるでしょう。

メタバース時代におけるマーケティングの潮流は、リアルとバーチャルの境界を越え、“感じてもらう体験”へと進化しています。その波にどう乗るかは、各ブランドの創造性とコミュニティへの愛次第です。

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