「外国人との働き方」を読んで、感想と要約
本のご紹介
MicrosoftでCloud Developer Advocateとして働かれているちょまどさんがロッシェル・カップさんと共著で書かれた書籍です。半分漫画になっていてとても読みやすいです。2024年現在も異文化コミュニケーションに悩むエンジニア(あるいはIT業界で働くひと)が読むべき入門書だと感じました。
またErin Meyer著の「カルチャー・マップ:世界を8つの指標で理解する」という書籍において定義されていたカルチャーマップの8つ指標(コミュニケーション、評価、リード、決断、信頼、見解の相違、スケジューリング、説得)の観点も非常に参考になったので、関連して記載していきたいと思います。
背景・目的
誰が書いているのか
この記事を書いている筆者はエンジニア・PMとして働き初めて約5年程度になります。新卒で働きはじめてからグローバルな環境で働くことが多かったです。これまでに香港・ニュージーランド・イギリス・フランス・アメリカ・ミャンマー・シンガポール・カナダ等様々な国のエンジニアやBizzチーム、デザイナーの方と働くことがありました。彼らと働く中でどういったことを意識すべきか、体系的に学んでおきたいと考えこちらの本を読み始めました。
目的
彼らと働いていて感じたのはやはり、単純に言語が切り替わるだけではなく数々の文化的な違いを意識する必要があるということでした。日本人と働く上で考える必要がなかったことを考える必要があり、1段階難易度が高くなると思います。
また、私のこれまでの経験も踏まえて問題やアンチパターンに対する対応方針も共有していきたいと思っています。
内容
1. 異文化コミュニケーションの基本
1.1 曖昧な表現を使うことを避ける
🤔 課題:日本語はハイコンテキスト。相手に勘違いを起こす可能性がある。
日本人同士でしたら、否定的なことを直接的に言うのをどうしても避けてしまいます。何故かというと、直接的過ぎる物言いは、失礼に値するからです。日本の社会では、相手が歓迎しない否定的情報をオブラートに包まず伝えると、人間関係に悪影響を与える可能性があります。そのため、日本人同士で使われる「ノー」の代わりになるソフトな表現は、一見肯定的に見えます。日本人同士で使う場合、行間を読んで実は「ノー」の意味であるということを察することができます。しかし、外国人にとっては、日本人が否定的なことを言ったつもりでも、それを肯定的なものとして捉えてしまいます。
第1部 異文化コミュニケーションの基本 第2話 誤解される曖昧な表現 p24から引用
日本語は他の言語と比べても非常にハイコンテキストで間接的な言語だと言われています。当然だと思うことは特に言葉にすることなくコミュニケーションをとることができてしまいます。
カルチャーマップの指標だと、コミュニケーションや評価あたりが関連していそうですね。
例えば少し極端なケースですが、日本人のエンジニアは新しいPJにジョインした際に既存のブランチ戦略を理解しmainブランチへの直接pushを行わない人が多数派だと思います。周りの空気を読み他人に迷惑をかけないようにという教育を受けているため周りの雰囲気や文脈を読み取って行動する能力が高いのもあると思います。
が、ここを明文化していない場合一部の方がmainブランチへのpushを行う可能性はあります。mainにpushしたほうが早いんだからそのほうがいいという観点で対応された場合に有り得そうですね。
👊 改善案: 具体的な表現を使う。当然のことでもドキュメントに残す or 口に出すようにする
このようにコミュニケーションを取る上で当然と思うことでも口にだすようにしたり、ドキュメントに残していく習慣が必要であると感じました。
上記の例でいうと、mainブランチへのpushはしてはいけないということを明確にしておくべきorそもそもpushができないようにしておく等の工夫が必要だったように思われます。
特にローコンテキストな文化を持つ国との人と働くときは注意が必要そうですね。
1.2 ストレートすぎる表現を避ける
🤔 課題:英語でもストレートな表現は相手を傷つけることになる
文化によってどれほど直接的に物事を言うかに関しては、ばらつきがあります。日本人の多くが考えるのは、アメリカ人など全ての外国人は何でもかんでも物事をストレートに言うということですが、実は必ずしもそうではありません
第1部 異文化コミュニケーションの基本 第4話 ストレートすぎるのも良くない! p36から引用
日本はハイコンテキストな文化であると同時にストレートな表現を避ける傾向にあると思います。カルチャーマップの指標だと評価がそれに対応します。
ではローコンテキストな文化に適合していく中でストレートな表現を使ってもいいのかどうかというと、そういうわけではないです。日本語と同様にストレートではない表現を使い、優しさをもって対応する必要がある場面も多いということです。本書ではスペイン、南米、アフリカ、東南アジアの人々は特にストレートな表現に敏感であると書かれていました。私の知人で東南アジアで飲食店を経営されていた方が、皆の前でスタッフを叱ると次の日から来なくなったといった話をしていたので、皆の前でストレートな表現で叱るのは特にアンチパターンだと考えます。
👊 改善案: クッション言葉を使う
このツイートにもあるように、英語でもクッション言葉が存在しています。このようなクッションのような表現や丁寧な表現を学び使用していくことが不可欠であると思います。
ただ、この記事の筆者はフランス人と働いたときに特にストレートな表現を好むと感じました。あなたの英語はレベルが低い、特に発音が分かりづらいとはっきり言われたこともありました。ストレートな表現を好む文化の人に対しては、相手もこちら同様に対応することを期待している可能性があるのでストレートになるべき場面もあると思います。日本人はカルチャーマップの見解の相違の指標の中では対立回避型ですが、ストレートな物言いをする文化の方は対立型でもある可能性があるのでそれに慣れる必要もありますね。
(もちろんストレートになりすぎると修復不可能な関係になってしまうので注意)
1.3 わかっていないのにわかっているふりをしないようにする
🤔 課題: わからないことをスルーし、誤認識を持つ
相手が言ったことを理解できなかったとき、多くの日本人はただ領いて、何も言わない傾向があります。何故かというと、相手を中断して質問することを恥ずかしい、もしくは「せっかく相手がスラスラ話してくれているのに『あなたの英語が速すぎて理解できていません』と相手の話を中断してしまうのは申し訳ない」と感じるからです。相手の言っていることが理解できなかったとき、多くの日本人は自分に問題があると感じ、それを何とか隠そうとします。
第1部 異文化コミュニケーションの基本 第4話 「英語が苦手」は恥ずかしくない! p54から引用
説明してもらったことを何度も聞き返すことは失礼にあたるといった考えから、わかったふりをしてしまいがちです。これは日本人に限らずどの文化圏の人でももっている考えかなと思います。
日本語のミーティングであってもこれは発生しがちな問題かと思いますが、別言語となると発生確率が上がると思われます。
👊 改善案: 確認する勇気を持つ
少しでも分からないことがあった場合、「You mean 〇〇〇?」と確認する習慣をもつようにする勇気をもつ必要があるでしょう。また自分が話したことが伝わっているか確認したい場合等は、次のアクションを具体的に聞くなどして理解度を確認するのがいいかもしれません。
2. ミーティング
2.1 会議の結果が曖昧にならないようにする
🤔 課題: 互いに遠慮して、会議が曖昧になり誤認識が発生する
本書では間接的なコミュニケーションをとる文化をもつメンバーが多い場合にこの傾向が発生しがちと書かれておりました。
例えば、いつまでにチケットを終わらせておいてほしいという依頼に対して、問題ないという返事をもらったとします。一見問題ないようにも見えますが、なぜ問題なくチケットを終わらせることができるのか、どのようにして終わらせるつもりなのかといった点が曖昧になってしまっています。この曖昧さは後々にPJに大きなダメージを与える危険性がありそうです。
この具体例は本書にあったものですが、自分が中国系の方と働いた時に実際に遭遇した問題でした。
👊 改善案: 会議においてはファクトと結論とネクストアクションを意識して議事録を用意する
会議が最終段階に近づいた時点で、何を決めたかを再確認することは重要です。特に母国語が異なる人が参加している場合は、何を決めたかについて理解が異なる危険性がありますので、皆が同じ理解を持っていることをチェックすることは特に大切です。
第2部 会議の席で 第14話 会議の結果は曖昧 p98から引用
ファクトと結論とネクストアクションを議事録に残しておくことで、各メンバーの認識を統一する助けになります。どのような過程で合意に至り、結論がでたか、次に行うべきことはなにかをシンプルにまとめておくことで、誤認識を取り除くことができます。
また、会議の最後にこれらをまとめておいて〆ることも有効そうです。
2.2 外国人の前で日本語を話さないようにする
🤔 課題: 会議で日本語を使うと、英語話者を除外することになる。
日本人と一緒に働く外国人にとって腹立たしいことの1つは、英語で行われているミーティングの途中で、突然会話が日本語に切り替わることです。そうなれば、日本語を話せない人は、完全に会話から閉め出されてしまいます。
第2部 会議の席で 第15話 外国人の前で日本語を長く話すのは現金 p104から引用
日本人は日本人同士で英語を話すことをあまり好まない傾向がある気がしています。なんとなく恥ずかしい感情が生まれてしまうのと、重要な情報を正確に伝えたいという理由で日本語を使うことが多いように思えます。が、本書によると日本語を理解しない人がいる会議などにおいて日本語を使うことは彼らを孤立させてしまうことに繋がってしまうでしょう。
👊 改善案: 事前に日本語を使う場合があることを断る、議事録で話したことを理解できるようにしておく
どうしても日本語を使う必要がある場合は、事前に重要な情報共有を行う場合は日本語を使うということを前もって共有しておくことがよいと本書では紹介されていました。また、その内容をミーティング後に理解できるように議事録に該当の会話を英語で記載しておくと理解を得られるように思えます。理想は日本人同士でもすべて共通言語でコミュニケーションをとることなんでしょうけどね。
自分が留学していたときですが、サウジアラビア人数人と自分で行動することがよくありました。2ヶ月ほど一緒にいましたが、彼らと会話する中でアラビア語を使っているところを見たことは一度もありませんでした。自分のためにアラビア語は絶対使わないと言ってくれて、こういった人たちとだと働きやすいのかなと思った記憶があります。
3. トラブルの対処
3.1 責任追及をしない
🤔 課題: 責任追及は相手を萎縮するだけ
日本で使われている問題解決方式に馴染みがない外国人は、それに当惑することがあります。日本人は「原因追求」や「再発防止」を目的に、問題の原因についてまず質問をする習慣があります。しかし、多くの外国人は問題の原因について話すことに消極的です。その理由は、問題の原因を追求することで、それが自分の非につながり、解雇など不利な状況に追い込まれるのではないかと心配するからです。
第3部 トラブルの対処 第21話 原因究明の受け止め方は様々 p142から引用
日本はトラブルが起きた際に原因と責任追及をしがちな文化です。もちろん原因の追求は重要で、今後の改善に向けて必要なことですが、それが責任追及まで及んでしまうことが頻繁にあると思います。
原因追求と責任追及を曖昧にしてトラブルについて話していくと、対応するエンジニアはもし自分に落ち度があったらどうしようと思い萎縮してしまったり、言い訳をひたすら並べるといった行動をとってしまうでしょう。日本ではなかなかありませんが、欧米の企業においてはレイオフや減給といった処分が日常的に実施されていることもあって、日本人よりも萎縮する傾向があるのではないかと思われます。日本企業ではそのような処分が比較的発生しづらいため、責任追及に少し慣れている面があるのかもしれません。
自分が担当していたPJにおいて、スケジュールに遅れが発生したときに外国籍のエンジニアが担当している箇所が特に遅れているということがわかったときがありました。当時Why?をシンプルに聞いてしまい、ひたすらに言い訳を聞いたことを覚えています。
👊 改善案: 未来にフォーカスしていることを事前に伝える
Whyを聞く前に自分は責任追及をしておらず、これからどのように対応しPJを成功させていくのか考えたい、といった前提を話しておくべきだったと思いました。
4. カジュアルコミュニケーション
4.1 雑談を積極的にする
🤔 課題: 日本語の障壁によって孤立してしまう。
日本企業に勤めている外国人エンジニアの場合、日本語の障壁によって孤立してしまうおそれが高いと感じています。エンジニアチームの中で一人だけ英語話者だと、他エンジニア間の会話に入れなくなる可能性は高く、エンジニアチーム全体が英語を話す環境でも、他CSチームやBizチームの方との壁が発生する可能性が高いです。
自分がこれまでに働いた環境において、この壁が発生していないPJは一つもなかったと思います。
👊 改善案: 雑談で相手の考えを知る、全員を巻き込む。
こういった壁を少しでも壊すために雑談は重要です。普段の考え方やキャリアの指向性、趣味などについて把握することで他チームメンバーともつなげることができるようになります。仕事につなげる際にも一度雑談をしていると心理的に話しづらいといったことが少なくなると考えられます。
エンジニアとして働いていると仕事のことばかり話してしまいがちなチームもあると思いますが(特にリモートワークだと顕著)、週初めのミーティングで必ず「今週末なにしてた?」と聞くようにすると強制的に雑談を5分程度できていいかもしれません。
4.2 ワークライフバランスの文化を尊重する
🤔 課題: ワークライフバランスの意識の差異からスケジュール等に影響がでる
海外にいるチームとのテレビ会議や同じ場所での集まりを計画するのは簡単なことではありません。タイムゾーンの違いはもちろんありますが、祭日なども国によって違います。そのため、まず大切なのは、相手の国の祭日がいつなのかを調べて記録し、テレビ会議や同じ場所での集まりを計画する時に参照することです。(運がよく、私たちはそういった情報をすぐにネットで調べられます。)
第4部 カジュアルコミュニケーション 第28話 日本は仕事が一番、海外は家庭が一番 p186から引用
日本人はハロウィンやクリスマスでも多くの人が働いてます。が正月は比較的長く休みます。が、国によっては正月休みは1月1or2日まで、だったりハロウィンやクリスマスは絶対に休むといったように真逆の考えを持っている場合もあります。
また、日本人は勤勉で残業をしがちですが、国によっては定時になったらすぐに帰る人も多いです。個人的な経験上ですが、外国籍の方と働くとほぼ全員が定時の数分前から帰る準備をし始める傾向があるように思えました。
👊 改善案: メンバーのワークライフバランスの文化理解を事前に行う、柔軟性を持つ
文化によって各メンバーのワークライフバランスは大きく異なるため、雑談の中で事前理解を行っておく、出身国のワークライフバランスの文化理解を行っておくなどが重要です。
過去に自分のチームで納期が差し迫っているPJがあり、土日の稼働が必要となってしまう時がありました。この時東南アジア出身のメンバーが英語のテストを控えており、土日の稼働をすることができないという状況でした。こういった場面において、できる限り負荷をかけない形で稼働日を設定する柔軟性が重要になるかなと思いました。
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