Open32

「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」を読む

ymrlymrl

WCAGやその関連のドキュメントを読んだりしてきたものの、日本のWebアクセシビリティに関する公的な基準としての「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」を、通してちゃんと読んだことがなかったので、読んでみることにする。

※ JIS X 8341-3:2016の項目を参照するべき場所のリンクは、該当する WCAG 2.1のURLになっています。WCAG 2.0にリンクするほうが正しそうではありますが、わたしが普段使っているのがWCAG 2.1なのでそうしています。

「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」Webページ

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/guideline.html

「経緯」にちょっとした量の文章が書かれている

  • 「みんなの公共サイト運用ガイドライン」は
    • 国及び地方公共団体等の公的機関のホームページ等が、
    • 高齢者や障害者を含む誰もが利用しやすいものとなるように
    • 公的機関がウェブアクセシビリティの確保・維持・向上に取り組む際の取組の支援を目的として作成された手順書である
  • 総務省では、JIS X 8341-3の制定・改正に合わせて
    • 2005年度に「みんなの公共サイト運用モデル」を策定した
    • 2010年度に改定を行った
  • 2016年版は、JIS X 8341-3の改正に合わせ、より分かりやすく刷新し、名称も「みんなの公共サイト運用ガイドライン」に改めた
  • 技術上の解説は原則として運用ガイドラインでは行わず、ウェブアクセシビリティ基盤委員会のガイドライン等を案内する

JIS X 8341-3 は、WebアクセシビリティのJIS規格で、現行のJIS X 8341-3:2016はWCAG 2.0との一致規格になっている。そういえばJIS規格としての歴史を知らないなと思ってググったら、JIS X 8341-3:2016 解説のページに歴史が書かれていた。

  • 2004年6月、『JIS X 8341-3:2004』が初めて制定された。国内外の既存ガイドラインなどを参考に,日本語特有と思われる事項も網羅した独自の指針であった。
  • 2008年12月、『WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)2.0』がW3C勧告になった。
  • 2010年8月、『WCAG 2.0』を包含する形でJIS X 8341-3が改正され『JIS X 8341-3:2010』となった。
  • 2012年10月、『WCAG 2.0』がそのまま『ISO/IEC 40500:2012』になった。
  • 2016年3月、『WCAG 2.0』がISO/IECの国際規格になったことを受けて、その一致規格となるように改正され『JIS X 8341-3:2016』となった。

JIS X 8341-3:2016 解説

意外にややこしい。

ymrlymrl

要旨は飛ばして、見出しごとの概要と感想を書いていく。

1.運用ガイドラインの目的と活用方法

冒頭に「本書を初めて読む場合はこの章から読み始めてください。」と書かれているし、ここから読む。

1.1. 目的と役割

ここは、Webページ上の「経緯」とほぼ同じことが書かれている。

1.2 想定する読者と活用方法

運用ガイドラインは、各団体の公式ホームページの運営を所管する部署、公式ホームペ
ージ以外の個別のホームページを運営している部署、データベース検索や予約サービス
などのウェブシステムを運営している部署等で、ホームページ等の管理を担当する職員
の方に向けて作成したものです

という書き方をしているが、実質的に役所(ここでは「団体」と呼んでいるが、1.1で「国及び地方公共団体等の公的機関」と書いていたので、「役所」という表現でいいだろう)のWebに関するすべての担当者と言っているような気がする。

そのうえで、3パターンの想定読者について、活用方法(ここを呼んで、これをやってくれ)を書いている

  1. 初めてウェブアクセシビリティに取り組む方
  2. 既にウェブアクセシビリティの対応に取り組んでいる方
  3. ホームページ等の新規構築、リニューアルの予定がある方

1つめと2こめでだいたい全員やんけ。3つめはより具体的なシチュエーションが想定されている。

1.3 各章の概要と想定する活用場面

デカい表になっていて引用する気力がない。「章」「概要」「想定する活用場面」が書かれている。

1.4 運用ガイドラインの改定概要

2016年版の変更点・追加点。4点のうち最後の2点は具体的な取り組みと期限を定めている感じで、これから見ていきたい(なんとなく察しているところもあるのだが)

  • 2016 年 4 月に障害者差別解消法が施行されたこと、障害者基本計画(第 3 次)の
    対象期間が 2017 年度末までとなっていること等を踏まえ、取組の期限の目安につ
    いて改めて提示しました。(「3.運用ガイドラインが求める取組とその期限」
    (P.31)参照)
  • 求められる取組として、1 年に 1 回、「ウェブアクセシビリティ取組確認・評価表」
    に基づき各団体のホームページ等について取組内容を確認・評価し、年度末までに
    その結果の公開を行うことを新たに追加しました。(「7.1.運用ガイドラインに基
    づいた取組内容の確認と公開」(P.122)参照)

1.5 JIS X 8341-3:2016

JIS X 8341-3の説明、JIS X 8341-3:2016でWCAG2.0とISO/IEC 40500:2012と一致するようになったこと、文書の構成や用語が変更されたこと、関連文書をウェブアクセシビリティ基盤委員会が作成し公開していることなどを説明している。

ポイント!

JIS X 8341-3:2016 が改正公示されましたが、ホームページ等の作成方法、運
用に関して公的機関に求められる取組内容には、基本的に変更はありません。本書
を参考に、これまで実施してきた取組を継続してください。

これはWCAG 2.2が勧告された現在でもそうで、WCAG 2.0から達成基準は増えているものの、経ったのは1つだけ(達成基準 4.1.1: HTMLの構文エラーに対するブラウザの処理が一貫したものとなり、構文解析単体での達成基準は不要となったということらしい)。これまでにやっていたことを継続してやっていくことの意味は(特に基本的なところは)いまでも変わらない。

ymrlymrl

2. 取組が必要な背景

2.1 ウェブアクセシビリティとは

JIS X 8341-3:2010 ではその序文でこの規格を「主に高齢者.障害のある人及び一時的
な障害のある人がウェブコンテンツを知覚し,理解し,操作できるようにするために、
(中略)配慮すべき事項を指針として明示したものである。」と位置付けていました。
また、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の「JIS X 8341-3:2010 解説」では、「Web
アクセシビリティとは、基本的には、障害者が Web を利用できることである。もっと
具体的にいうと、Web アクセシビリティとは、障害者が Web を知覚し、理解し、ナビ
ゲーション(訳注:広義には、ホームページ等のページ間やページ内を移動したり見て
まわったりすること)し、インターラクション(訳注:ホームページ等に入力したり情
報を受け取ったりしてホームページ等を利用)できることである。」と解説しています

ここ、JIS X 8341-3:2010(2016ではない)から参照しているのは、こういうことを書かなくなったということなんだろうか。たしかにJIS X 8341-3:2016 解説にはそういった記載はない(JIS X 8341-3:2010 解説にはある)。

経緯はわからないけど、この文章が障害者に的を絞ってしまっているように読めてしまうのは「Webアクセシビリティは障害者のためのもの」→「障害者って数が少ないし取り組むにはコスパが悪い」という考え方に繋がるので、わざわざ古いほうの文書から引用してほしくないな、と思った。公共機関向けとはいえ、このあとで「高齢者や障害者だけでなく一般利用者の利便性の向上につながります」とも言っているのに。

しかし、情報を提供する側がウェブアクセシビリティ
に配慮して適切に対応をしていないと、高齢者や障害者が、ホームページ等から例えば
避難場所に関する情報を取得できなかったり、パソコン等による手続きができないとい
う問題等が発生し、社会生活で多大な不利益が発生したり、災害時等に必要な情報が届
かない状況となれば生命の危機に直面する可能性があります。

公共機関のWebサイトの場合、命に関わる情報を扱うことも多いので、ここはかなり重要そう(民間企業で働いているかぎりではあんまりそういう実感がない。お金には関わるけど……)。

  • 居住地域の安全に関わるデータを表したグラフが画像で掲載されており、その画像
    に代替情報が用意されていない。そのため、視覚に障害のある住民が音声読み上げ
    ソフトを利用して情報を取得しようとした際に、自身の安全に関わる情報を入手で
    きない。(JIS X 8341-3:2016 レベル A)
  • 施設の所在地と道順を示した地図において、最寄りのバス停の名称を示した文字の
    色が薄く、色を識別しづらい利用者がバス停の名称を読み取れない。
    (JIS X 8341-3:2016 レベル AA 及び AAA)
  • 公式ホームページで市長の会見の内容を動画で提供しているが、市長が話した内容
    が字幕で提供されておらず、聴覚に障害のある利用者に内容が伝わらない。
    (JIS X 8341-3:2016 レベル A 及び AA)
  • 公式ホームページの上部に配置されたメニューのリンクがキーボードで操作できる
    ように作られておらず、手の動作が不自由でマウスを使うことができない利用者が
    ホームページを利用できない。
    (JIS X 8341-3:2016 レベル A)

1つめは1.1.1 非テキストコンテンツ (A)、2つめは1.4.3 コントラスト (最低限) (AA)1.4.6 コントラスト (高度) (AAA)、3つめは1.2.2 キャプション (収録済) (A)とAAは1.2.4 キャプション (ライブ)?、4つめは 2.1.1 キーボード (A)か。キャプションについては「市長の会見の内容を動画で提供している」が収録済みなのかライブなのかでだいぶ実現方法が違ってくるので、一緒の例にされるとちょっと自信なくなる。あと音声や映像のあたりは自分があまり使わないので、全体的にどれがどのレベルなのかあんまり憶えてないな、と思った。

「ウェブアクセシビリティに対応することで得られる付随的な効果」として「ユーザビリティの向上」「スマートフォンなど多様な端末での閲覧性の向上」「機械判読性の向上」を挙げている。このあたりが「付随的」と表現されていいのかはちょっと気になるところ。

注意点!
ホームページ等において、音声読み上げ、文字拡大、文字色変更等の支援機能を提
供する事例がありますが、これだけでは、ウェブアクセシビリティに対応している
とは言えません。

でた。しかし役所のホームページのアクセシビリティといえば、なぜかコイツらを指していることが多いように感じる。

ymrlymrl

最後の「注意点!」のうしろの文章

利用者は、多くの場合、音声読み上げソフトや文字拡大ソフトなど、自分がホームペー
ジ等を利用するために必要な支援機能を、自身のパソコン等にインストールし必要な設
定を行った上で、その支援機能を活用して様々なホームページ等にアクセスしています。

これはそのとおりで、なのでそれらと重複する音声読み上げ機能や文字拡大などの機能をWebサイト側に実装するのは本質的でない。このことからその後ろの「つまり」に繋がる

つまり、ホームページ等の提供者に求められるアクセシビリティ対応とは、ホームペー
ジ等においてそのような支援機能を提供することではなく、

しかしこの後ろは、先にJIS X 8341-3:2016の内容をそこそこ理解してないと、納得しづらいのではないか。

ホームページ等の個々のペ
ージを JIS X 8341-3:2016 の要件に則り作成し提供することにより、利用者がそのペー
ジを閲覧できるようにすることです。

わたしはJIS X 8341-3:2016ないしWCAGに則ってWebサイトを構築することで、利用者の多様な利用方法(カスタマイズや支援機能)と上手く連携したり、それらを妨げないように作れることを知っているからここは納得できる。でもそういう前提がない状態で、これをいきなり鵜呑みにしづらいんじゃないか。

「ユーザーと関わったり支援技術を使ってみたりするべき」というのを常日頃から言っているけど、やっぱりそれら無しでいきなりアクセシビリティに挑む難易度は高いと思う。

ymrlymrl

2.2. 法律・規格・指針等

ここは先日からのまだWebアクセシビリティは義務になってないよ問題からして重要なセクションなはず。

下記に挙げた法、規格、指針等により、公的機関はウェブアクセシビリティへの対応が
求められています。

この「求められています」は義務なのか努力義務なのか推奨事項なのかわかりづらくないだろうか。

ポイント!
障害者差別解消法が平成 25 年 6 月に制定され、平成 28 年 4 月 1 日から施行され
ました。同法においては、ウェブアクセシビリティを含む情報アクセシビリティ
は、合理的配慮を的確に行うための環境の整備と位置づけられており、事前的改善
措置として計画的に推進することが求められています。また、行政機関等は、障害
者から個別の申し出があった場合は、必要かつ合理的な配慮を行う必要がありま
す。

ということで、Webアクセシビリティは「合理的配慮を的確に行うための環境の整備」であると、このガイドラインは言っているのである。ここだけ抜き出して読みつつ「合理的配慮が義務になります!」という情報と突き合わせると、「なるほど義務になるんだな!」という理解になってしまいそう。実際にはそうではないということは、先日からいろいろ書いているとおりです。

https://zenn.dev/ymrl/articles/62f90ebcce7637
https://note.com/ymrl/n/n6f3670b369a9

障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)

日本が障害者権利条約を批准したのはだいぶ後のほう(141カ国目)だが、これは国内法の整備をしっかりやった上で批准したからである、というのは先日公開されたミツエーリンクスのセミナー内で説明されていた。2006年12月13日の国連総会で採択され、日本の批准は2014年1月20日。この間やこれ以降に成立・改正された障害者関連の法律は、障害者権利条約を前提としていると考えていいはず。

ガイドライン内に引用されているとおり、「(インターネットを含む。)」とわざわざ書かれているところに、インターネットを利用したエコシステムであるWebでのアクセシビリティの重要さが表れていると思う。

外務省による日本語訳と、英語の条文を比較しながら読むと、法令上の用語がそもそも何を意図していたのかわかりやすいかもしれない。

「第九条 施設及びサービス等の利用の容易さ」は、英文ではずばり「Accessibility」になっている。インターネットを含む情報通信について、締結国は以下をすることになっている。

  • 障害者が、他の者との平等を基礎として、利用する機会を有することを確保するための適当な措置をとる
  • この措置は、利用の容易さに対する妨げ及び障壁を特定し、及び撤廃することを含むものとして、特に 情報、通信その他のサービス(電子サービス及び緊急事態に係るサービスを含む。)についても適用する
  • 障害者が新たな情報通信機器及び情報通信システム(インターネットを含む。)を利用する機会を有することを促進するための適当な措置をとる

「第二十一条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会」についても引用されている。英文では「Freedom of expression and opinion, and access to information」となっていて、「情報の利用の機会」は「access to information」、やはりアクセシビリティのことを言っている。条約の第二条の定義で「意思疎通」には「言語、文字の表示、点字、触覚を使った意思疎通、拡大文字、利用しやすいマルチメディア並びに筆記、音声、平易な言葉、朗読その他の補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(利用しやすい情報通信機器を含む。)」とされていて、つまり障害者がコミュニケーションに使う手段や様式、あるいは支援技術を選択でき、それを使って表現を行い、意見を言う自由、そして情報を取得する自由を定めている。

  • 障害者が、自身で選んだ意思疎通の手段や様式によって、表現および意見の自由の権利を行使することができることを確保するための全ての適当な措置をとる
  • 障害者に対し、様々な種類の障害に相応した利用しやすい様式及び機器により、適時に、かつ、追加の費用を伴わず、一般公衆向けの情報を提供することを含む
  • 公的な活動において、手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他の全ての利用しやすい意思疎通の手段、形態及び様式を用いることを受け入れ、及び容易にすることを含む
  • 一般公衆に対してサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間の団体が情報及びサービスを障害者にとって利用しやすい又は使用可能な様式で提供するよう要請することを含む
  • マスメディア(インターネットを通じて情報を提供する者を含む。)がそのサービスを障害者にとって利用しやすいものとするよう奨励することを含む
  • 手話の使用を認め、及び促進することを含む

Webアクセシビリティの視点でいえば、「公的な活動」について、障害者の選んだ意思疎通手段を受け入れ、容易にすることを締結国に対して求めているが、一般公衆やマスメディアに対しては「要請する」「奨励する」と言っていることに注目するべきかもしれない。「民間にアクセシビリティへの協力を強制する」ことまでは条約では求めておらず、あくまで協力するよう働きかけることを求めていると読み取れる。

条約の第二条では、わかりにくいと評判の「合理的配慮」についても定義がある。

「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

「合理的配慮」という文字列から、ここまでのことを読み取るのはやはり難しいのはないかと思う。

ymrlymrl

障害者基本法(昭和 45 年法律第 84 号)

障害者基本法自体は法令番号のとおり昭和45年つまり1970年からある法律だが、障害者権利条約の批准のすこし前、2011年と2013年に改正されている。Wikipediaによると、2011年の時に障害者の定義の拡大と、合理的配慮概念の導入があったとのこと(めんどくさいので改正の詳細までは追いません)。

障害者の定義は以下のとおり

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
二 社会的障壁 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

この「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」はいわゆる「障害の社会モデル」を取り込んだもので、この「社会的障壁」を含めて「継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある」が「障害」であると言っている。

ymrlymrl

ガイドラインでは第二十二条の2だけを引用しているが、第二十二条全体が「情報の利用におけるバリアフリー化等」の条文となっている。

(情報の利用におけるバリアフリー化等)
第二十二条 国及び地方公共団体は、障害者が円滑に情報を取得し及び利用し、その意思を表示し、並びに他人との意思疎通を図ることができるようにするため、障害者が利用しやすい電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の普及、電気通信及び放送の役務の利用に関する障害者の利便の増進、障害者に対して情報を提供する施設の整備、障害者の意思疎通を仲介する者の養成及び派遣等が図られるよう必要な施策を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、災害その他非常の事態の場合に障害者に対しその安全を確保するため必要な情報が迅速かつ的確に伝えられるよう必要な施策を講ずるものとするほか、行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進に当たつては、障害者の利用の便宜が図られるよう特に配慮しなければならない。
3 電気通信及び放送その他の情報の提供に係る役務の提供並びに電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の製造等を行う事業者は、当該役務の提供又は当該機器の製造等に当たつては、障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない。

ymrlymrl

障害者基本計画(第 3 次計画)(平成 25 年 9 月閣議決定)

ここで引用されているのは平成25年度から29年度の計画であり、現在は令和5年度から9年度の第5次計画の時期となっている。第3次から現在の内容は障害者施策の総合的な推進 -基本的枠組み-というページに掲載されている。なぜか第3次計画のみ、HTML版が用意されているようだ。

ガイドラインでは、

  • 障害者に配慮した情報通信機器及びサービス等の企画,開発及び提供の促進
  • 各府省における情報通信機器等の調達は,情報アクセシビリティの観点に配慮し,国際規格,日本工業規格への準拠・配慮に関する関係法令に基づいて実施する
  • 各府省において,障害者を含む全ての人の利用しやすさに配慮した行政情報の電子的提供の充実に取り組むとともに,地方公共団体等の公的機関におけるウェブアクセシビリティの向上等に向けた取組を促進する

の3点が挙げられている。「国際規格,日本工業規格」の項目を挙げているのは、WCAG 2.0とJIS X 8341-3:2016を参照する裏付けというところだろうか。

第3次計画と第5次計画を見比べると、「情報アクセシビリティ」の項目は以前よりも順番が前になっている。その内容もいくつか増えたものがある。これらは、デジタル庁の発足や日本版VPAT電話リレーサービスの開始などの動きが反映されたのだと思われる。情報通信機器等の調達に関する項目には、WTO政府調達協定への言及が追加されている。

ymrlymrl

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成 25 年法律第 65 号。略称:障害者差別解消法)

話題になっている改正の前の法について、環境の整備の努力義務と合理的配慮の義務(行政機関等を対象としたガイドラインのため、この時点で既に義務だった)に触れている。

ymrlymrl

そのほか政府行政機関のガイドラインなどに触れているがいったん省略

ymrlymrl

障害者差別解消法を踏まえて求められる対応

ウェブアクセシビリティを含む情報アクセシビリティは、合理的配慮を的確に行うため
の環境の整備として位置づけられており、各団体においては、事前的改善措置として計
画的に推進することが求められます。

ということでウェブアクセシビリティは「環境の整備」であり、事前的改善措置として計画的に推進せよ、と書かれている。
実際に配慮を求められた場合の話についても書かれている。

障害者等から、各団体のホームページ等のウェブアクセシビリティに関して改善の要望
があった場合には、障害者差別解消法に基づき対応を行う必要があります。

改善の要望に対して、ホームページ等の改善を即座に行うことが困難な場合等は、要望
した当事者と必要に応じて協議を行うことなどにより要望の内容を確認し、ホームペー
ジ以外の方法で情報を提供するなどの対処も含めて、できる限りの最善の対応を行うこ
とが必要です。

やはり、ウェブ意外の手段を講じて最善の対応をすることが良いとされている。「電話やメールで代替する」みたいなのがそれにあたるだろうし、地方自治体などであれば窓口対応でもできるだろう。むしろ役所はこっちのほうが得意なぐらいなはず。

改善の要望があった箇所の改善等の対応を行うとともに、同じような問題が各団体のホ
ームページ等の他の箇所でも生じないように、ホームページ等の全体の改善計画へ反映
することが求められます。

そして、同じような問題がまた起きないように、根本対処をせよということである。

ymrlymrl

3.運用ガイドラインが求める取組とその期限

3.1 2010 年度版において示されていた期限と達成等級の目安

2010年版ガイドラインで示していた期限が以下であったとのこと

<期限と達成等級の目安>
●既に提供しているホームページ等
2012 年度末まで「ウェブアクセシビリティ方針」策定・公開
2013 年度末まで JIS X 8341-3:2010 の等級 A に準拠(試験結果の公開)
2014 年度末まで JIS X 8341-3:2010 の等級 AA に準拠(試験結果の公開)
●ホームページ等を新規構築する場合
構築前に「ウェブアクセシビリティ方針」策定
構築時に JIS X 8341-3:2010 の等級 AA に準拠(試験結果の公開)

これに対し、「総務省が 2014 年度に実施した調査結果によると、上記の目安に沿って取組を実行して
いる団体と、そうでない団体があることが分かっています」とできている場所とそうでない場所があることに触れ、「やってる団体は2016年版ガイドラインを参考にして継続してください」「まだやってないなら、すみやかにやりなさい」と言っている。

……これは、何かを言っているようで何も言っていないように見える。「徹底しろって言いましたけど、できた団体とそうでない団体があるのは知ってます。やってください」としか言っていない。2016年版で、取り組みが促進されるような要素が入ったりしたのだろうか?

ymrlymrl

3.2 運用ガイドライン(2016 年版)が求める取組と期限

  • 2016 年 4 月の障害者差別解消法の施行があるので、事前的改善措置として計画的に進めなさい
  • 障害者基本計画(第3次)が2017年度松までなので、行政情報のバリアフリー化をしなさい

というのが前提となっている。そのうえで、

公的機関は、障害者差別解消法の施行(2016 年 4 月)、障害者基本計画(第 3 次)
(対象期間:2017 年度末まで)等を踏まえ、公的機関の提供するホームページ等につ
いて、次ページに示すとおり速やかに対応してください。

と、赤字に下線を引いて強調して言っている。「次ページに示すとおり」とは、

  • 2016 年 4 月に障害者差別解消法が施行されたこと、障害者基本計画(第 3 次)の対象期間が 2017 年度末までとなっていること等を踏まえ、速やかに対応してください
  • 既に提供しているホームページ等は
    • JIS X 8341-3:2016 の適合レベル AA に準拠しているホームページ等は、ウェブアクセシビリティ対応の取組を継続し、更に取組を推進(適合レベル、対象範囲、取組内容の拡大等)する
    • 適合レベル AA に準拠していないホームページ等は、速やかにウェブアクセシビリティ方針を策定・公開
      し、遅くとも 2017 年度末までに適合レベル AA に準拠(試験の実施と公開)する
  • 新規に構築するホームページ等は、構築前に「ウェブアクセシビリティ方針」を策定し、構築時に適合レベル AA に準拠(試験の実施と公開)する

ウェブアクセシビリティ方針だけでなく、レベルAAへの準拠を求めているのはかなり強気に感じる。もちろん現実的には対象範囲を調整して、小さい範囲でレベルAA準拠の状態にすることになるのだろうが、だとしてもけっこう強気なのではないだろうか。

この取り組みの結果については

1 年に 1 回、「ウェブアクセシビリティ取組確認・評価表」(*2)に基づき各団体のホーム
ページ等について取組内容を確認・評価し、年度末までにその結果を公開する。

とされている。「ウェブアクセシビリティ取組確認・評価表」はみんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)のページからExcelファイルがダウンロードできる。しかし令和4年度「公的機関のウェブアクセシビリティ確保の取組実施状況に関する調査研究」によると、この表はあまり認知・活用されていないようだ……。
ウェブアクセシビリティ取組確認・評価表の認知度(グラフ・表)。円グラフと表。「活用し、確認・評価結果を自団体ホームページ公表している 」は12.9%、「活用しているが、確認・評価結果を自団
体ホームページに公表していない」は11.8%、「存在は知っているが、活用していない」は55.3%、「まったく知らない」は19.9%

ymrlymrl

4. 運用ガイドラインの概要

4.1. ウェブアクセシビリティ確保・維持・向上のための 5 つの柱

「5つの柱」というのは以下のこと。

  • 基本的対応の徹底: ウェブアクセシビリティの確保・維持・向上のために必要となる体制確保・整備、
    ウェブアクセシビリティ方針の公開、試験結果の公開など基本的対応を実施すること
  • 段階的拡大: 各団体としてウェブアクセシビリティの取組を行う対象範囲、実施内容、実現レベル
    等について、段階的に拡大すること
  • 継続性: ウェブアクセシビリティの取組を一過性のこととして終えることなく、継続的な取組として計画し実行すること
  • 取組内容及び実現内容の確認と公開: 各団体が実行した取組の確認、JIS X 8341-3:2016に基づく試験を1年に1回実施し、結果を公開すること
  • 利用者との協調: 高齢者・障害者の声がサイト運営に活かされるように具体的な取組を行うこと

「基本的対応の徹底」「継続性」はアクセシビリティの取り組みに当たり前に必要なことだと思う。「段階的拡大」は特にWebページが既にある場合にいきなり全部やるのは不可能なので、最初は画面を絞ったりいくつかの達成基準をあえてオミットするのは進め方のテクニックとしてある。「利用者との協調」は、もしかしたら実ユーザーと接点を作りやすい公共サイトだからこそやりやすい面もありそう。

「取組内容及び実現内容の確認と公開」は、JIS X 8341-3:2016に基づく試験を年1回やるという、やはり強気のもので、これは大変そう。令和4年度「公的機関のウェブアクセシビリティ確保の取組実施状況に関する調査研究」によると、過去3年以内にJIS X 8341-3:2016に基づく試験を行えてない団体は7割近くにのぼるという。

「JIS X 8341-3:2016「試験」の結果公開状況」のグラフ・表。2018年度から2022年度までの結果を並べたグラフ。2022年度については過去3年以内に試験を行っていない団体は69.3%、3年以内に行ったが5.0%、2年以内が4.3%、1年以内が8.3%、1年以内に行い来年以降も実施する予定であるが13.1%

ymrlymrl

4.3. 運用ガイドラインを実践する体制

団体の長にリーダーシップを求め、そして役割分担をしろと言っている(そうだよね)

ポイント!
特に以下の取組について、どの部署が責任をもって担当するか、団体内での役割分
担を検討し実行します。
a) 対象となるホームページ等の把握(「5.1.2.各団体が取り組むべき対象の確
認」(P.48)を参照)
b) 議会、教育委員会、図書館、外郭団体等の関係機関への情報提供
c) 取組を実行する単位の設定(「5.1.3.ウェブアクセシビリティ方針を策定し取
組を実行する単位の設定」(P.48)を参照)
d) 個々のホームページ等の取組(「6.取組の実行」(P.62)を参照)
e) 取組内容の確認と公開(「7.1.運用ガイドラインに基づいた取組内容の確認と
公開」(P.122)を参照)
f) 個々のホームページ等の試験の実施と公開(「7.2.ウェブアクセシビリティの
実現内容の確認(試験)と公開」(P.128)を参照)

こういうのが具体的に書かれてるのよさそう(書かれてないと誰ボールなのかわからなくなる)

ホームページの運営には専門的な知識と経験が求められます。特にアクセシビリティに
関しては、制作技術、対応の対象となる利用者の特性、利用者が使用する支援技術の特
性など幅広い知識が必要です。知識の研さんに努めるとともに、必要に応じて部外の専
門家(事業者等)の知見を活用します。

本当にこれ。Webの知識はもちろん、アクセシビリティのことをやるのであれば利用者や支援技術に目を向けなければいけない。最近は自分たちも「支援技術を使ってみなよ!」って言うようにしてる。

専門的な知識や技術が求められるホームページ構築、システム開発、ガイドライン作成、
研修、検証等の実施について、必要に応じて JIS X 8341-3:2016 を十分に理解した事業
者を活用します。
ウェブアクセシビリティ対応について、事業者に全て任せるのではなく、ウェブアクセ
シビリティの確保に対する責任はすべて各団体が負うことを認識して、ウェブアクセシ
ビリティ方針を策定し、目標達成のために必要な取組を推進します。

この「JIS X 8341-3:2016 を十分に理解した事業者」がどれだけいるのだろうか……(私もデザイン/実装面でのテクニックは学んできたけど、JIS規格としてのJIS X 8341-3:2016についてはまだまだ知識/認識の不足を感じることがあります……)。多くのWeb制作会社はまだアクセシビリティに明るくないと思われるので、アクセシビリティに関することを外注先に任せず、発注元がしっかりリードしていく必要があるはずです

ymrlymrl

5.ウェブアクセシビリティ方針の策定と公開

5.1. 取組対象の把握と設定

「 取組対象(ウェブコンテンツ)の具体例」がいきなり多い。

-公式ホームページ(公式ホームページのスマートフォン向けサイトを含む)

  • 関連サイト(公式ホームページとは別に管理運営しているホームページ(例:観光用サイト、イベント用サイトなど)。指定管理者を含む外部事業者に委託して公開しているものを含む。)
  • ウェブアプリケーション、ウェブシステム(例:電子申請、施設予約、各種情報検索、蔵書検索など)
  • スマートフォン向けサイト
  • 携帯電話向けサイト
  • KIOSK 端末等で提供されるウェブコンテンツ(例:公共施設等に置かれたタッチパネル式の電子申請、施設予約など)
  • CD 等の媒体に収録して配布するウェブコンテンツ(例:マニュアルなど)
  • 団体内で職員向けに運用するイントラネットのウェブコンテンツ
  • 業務アプリケーション(例:文書管理、財務会計、住民情報管理など)のうち、ウェブ技術で作成され、ウェブ上で利用されるもの 等

これはたぶん、何かと理由をつけて対象外にしようとする、ということが起きてしまいがちだからなのだと思う。役所のサイトといえば、ゴミの出し方とか住民票の手続きの場所を調べたりとか……という使い方をするサイトを思い受かべがちだけど、だいたい観光情報とか名産品情報のサイトが切り離されて用意されていたりするし、図書館の検索予約サイトなどもある。それらがきちんとアクセシビリティに取り組まなければいけないのは、公共機関としての責務である、ということなんだろう。

そして、「団体内で職員向けに運用するイントラネットのウェブコンテンツ」や「業務アプリケーション」もここに加えられているところも注目するべきだと思う。これによって障害をもつ職員を雇用し、そして活躍する場面を増やすことができる可能性を持つものなので。

このあと、どういう単位でウェブアクセシビリティに取り組むのか、その主体はどこが持つのかみたいな話を決めなさいという話が続く。既に半独立みたいなかたちでWebサイトが分かれていたりすると、外から言われたくない、しかしアクセシビリティよくわからない、みたいな形で停滞しそうなので、難しそう。

ymrlymrl

5.2. ウェブアクセシビリティの対応状況の確認

かなり現実的なセクションだと思った。

公的機関のホームページは、ページ数が多いという傾向があります。また、複数の部署
でページ作成を担当している団体が多く存在します。そのため、作成時期や作成方法、
アクセシビリティ対応の程度がまちまちなコンテンツが混在していることを想定し、問
題点の把握を行うことが重要です。

注意点としてまずページ数が多く、そして担当もバラバラで、作成時期や作成方法が違い、アクセシビリティ対応もムラがあるという前提をおいている。

わたしの経験則でいえば、数ページをピックアップして見ればWebサイト全体の対応状況の傾向をある程度把握できるのだが、Webサイト運営母体も作成時期もバラバラとなれば、ピックアップの仕方を工夫しないとそれができないだろう。

実際の確認には

  • 人による詳細な確認
  • チェックツールによる確認等
  • 利用者の使用しているソフト等を用い確認

をあげている。人による詳細な確認ではJIS X 8341-3:2016「附属書 JB(参考)試験方法」に基いて示された内容を実施するとのことで、かなり詳細に見ることが想定されている。「チェックツール」とは総務省ご謹製のmiChecker、そして「利用者の使用しているソフト等」は、実際に支援技術を使うことを指している。やり方の詳細についてはこのセクションでは触れられていない。

ymrlymrl

5.3 ウェブアクセシビリティ方針の策定と公開

「5.1.3. ウェブアクセシビリティ方針を策定し取組を実行する単位の設定」で設定した
対象ごとに、対象となるホームページ等の全体について、できる限り速やかに、JIS X
8341-3:2016 の適合レベル AA 準拠を実現することが求められます。

「『5.1.3. ウェブアクセシビリティ方針を策定し取組を実行する単位の設定』で設定した対象」というのは、

対象とするホームページ等が複数ある場合、それぞれ個別にウェブアクセシビリティ方
針を策定するか、複数のホームページ等について同一のウェブアクセシビリティ方針を
策定するか検討し決定します。ウェブアクセシビリティ方針を策定し取組を実行する単
位ごとに、「5.2.ウェブアクセシビリティの対応状況の確認」以降の取組を実施します。

ということで、複数のWebサイトがある場合にそれを個別に方針を立てるかまとめて立てるかという話である。

ここでは「対象範囲」「期限」「適合レベルと対応度」について、「現実的かつできるだけ高い目標」を設定することを求めている。一方で、「段階的拡大」を求めてもいるわけで、そのバランスを取った線引きが各行政機関でそれぞれ実施できるものなのか疑問が残る。

ポイント!
まずは、実施可能な範囲と今後実施する部分を明確化したウェブアクセシビリティ
方針を策定し、取組に着手することが重要です。その上で、次年度以降、段階的に
拡大することを重視してください。

個人の意見としては、この「ポイント!」で書かれているとおり、まずは着手できていること、そして継続できていることが大事なので、ここで高すぎない目標を立てたほうが良いのだな、と思った。高すぎる目標を掲げてWebサイト関連業務が滞ったり、あるいは高すぎて誰も見ない目標になってしまうのは非常にマズい。高齢者や障害者の生活や生命に関わるものを最優先として、着実に一歩一歩進めていける目標が立てられることが必要だろう。

また、アクセシビリティの取り組みができない・取り組みの対象から除外しているコンテンツについての合理的配慮の必要性もここで説かれている。

なお、段階的な取組計画とする場合は、対応ができていないウェブコンテンツについて
問い合せ先を明記するなど、ホームページ以外の代替手段も含め、できる限り多くの利
用者が情報を利用できるように対処します。このような代替手段を講じる場合、必ずし
も JIS X 8341-3:2016 の適合レベルを満足することにはなりませんが、障害者等への情
報伝達を最優先する上でやむを得ない措置と考えられます。しかし、可能な限り早急に
適合レベルを満足することを目指します。

注意点!
段階的な取組計画とする場合において、公的機関が取組の対象から除外しているペ
ージなどがある場合も、障害者が実際にウェブアクセシビリティの問題に直面し、
障壁の除去の要望を申し出た場合に、その実施に伴う負担が過重でないときは、障
害者差別解消法に基づき合理的配慮の提供が求められます。

ymrlymrl

5.3.3 対象範囲の設定

「対象とするホームページ等の全体について対応することを基本とします」としつつ(あたりまえ!)、それに続いて「ホームページ等の全体について対応することが難しい場合」を述べている。

  • a)利用者にとってより重要な対象から優先的に対応するように計画する。
  • b) 各団体の技術面、財政面や運用体制などのやむを得ない個別事情によって、現時点では対応できないウェブコンテンツを一定期間に限り除外して取り扱う。

現実的にはaとbの合わせ技になるのではないかと思う。つまり、利用者にとって重要なものが最優先であり、古くてあまり利用されないものの優先順位はかなり下がる。

5.3.4. 期限の設定

2016 年 4 月に障害者差別解消法が施行されたこと、障害者基本計画(第 3 次)の対象
期間が 2017 年度末までとなっていること等を踏まえ、実施に伴う負担が過重である場
合を除き、遅くとも 2017 年度末までの期間設定とします

ということで、2017年度末にはできていなければならなかったということである。これができない場合には「CMS の管理対象外のページの対応期限を別に設定する」「X 年までにレベル A に準拠、Y 年までにレベル AA に準拠と段階的に期限を設定する」という例があげられているように、段階的に高めるように設定するという。

段階的な取り組みを求めている割には、「基本となる考え方」が一律での設定を求めていて、かなり強気に感じる。

5.3.5. 適合レベルと対応度の設定

(1) 基本となる考え方
JIS X 8341-3:2016 の適合レベル AA に準拠することが求められます。

個人の感覚としては、レベルAは本当に最低限といった内容で、「アクセシビリティに取り組んでいます」と言っていくには、一部でもいいのでレベルAAに踏み込んでいってほしい感じがする。公共機関のWebサイトが目指すべきレベルとしてのAAは妥当だと思う。

「準拠」はそのレベルすべての達成基準を満たすことであり、さらにそれを試験して確認して結果を公開することをウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドラインでは求めている。試験結果の公開は「みんなの公共サイト運用ガイドライン」自体が求めているものでもある。レベルAAのすべての達成基準を満たすに至らず、「レベルAAに一部準拠」となってしまうとしても、アクセシビリティへの取り組みの可視化という意味では試験結果の公開に大きな意味があると思う。

ymrlymrl

6. 取組の実行

6.1. 団体内で使用するガイドラインの策定

ここでは、各団体に以下のような内容を記載したアクセシビリティガイドラインを策定することを求めている。

  • 対応が必要な背景の解説
  • ページ作成時に対応すべきルール
  • 事例紹介

個人の感想としては、これらの大部分は団体によって変わらず、同じような内容になるのではないかと思う。Web制作や開発を専門としている組織でデザイナーやエンジニアの専門職を多数抱えているのならともかく、地方公共団体ひとつひとつがこういっったガイドラインをいきなり作って運用するのはかなり難しいのではないだろうか。

とはいえ、事例紹介に関しては、より現場に近い場所で作られることは大きな意味があると思う。ここに絞ってディスカッションするようなところから始めていけば、それなりのべき•べからず集のようなものは作れるのかもしれない。

作ったガイドラインは1年に1回程度を目安に見直しを行うように書かれている。そしてこのことも、ガイドラインに記載することになっている。

ymrlymrl

6.2 年度ごとに計画し実施する取組

年度ごとに、以下の5項目の実施を求めている

  • ガイドラインの更新
  • 職員研修
  • 検証
  • ユーザー評価
  • 改善

「ガイドラインの更新」については「閲覧環境や作成技等の変化への対応」「各団体ホームページ等の変化への対応」「拠り所となる規格等の変化への対応」が挙げられている。ガイドラインの作成も運用もかなり難しいと思うのだが、「ガイドラインを運用してみて難しいのでプロセスを整備する」みたいなものは挙げられていない。

「職員研修」については、対象者をホームページの作成管理運営に携わる職員に加えて、管理職も対象に挙げている。

管理職
(ページの公開承認には直接携わらないが、ウェブアクセシビリティ取組
を業務として実施することに理解を深めてもらうために実施する)

書き方として「業務として実施することに理解を深めてもらう」としている。業務だと思ってもらえないこともあるんだろうか……。

「検証」については、「5.2. ウェブアクセシビリティの対応状況の確認」に書いてあったことと概ね同じことが書かれている。すなわちJIS X 8341-3:2016に基づいた詳細な確認、チェックツールによる確認、利用者の使用しているソフト等を用いた確認について再度説明している。

「ユーザー評価」は、例として福祉関連部局や社会福祉協議会等に協力を要請する話が出てくる。これは公共団体ならではのやり方だと思う。民間事業者だと、実ユーザーに会うのが難しい場合も多いので。そして、注意点として実際のユーザーの負担とならないよう、相談して理解を得るべきであることにも触れられている。

「改善」では、検証やユーザー評価で発覚した問題を、対象範囲や箇所数や難易度から、誰がいつどのように対応するかという話をしている。翌年度以降に対応する物については適切に引き継ぎをすることを求めている。

ここまでの感想としては、やはりいきなりガイドラインを作ることの難易度がかなり高く、またそのガイドライン自体について、外的要因以外での見直しに特に触れていないことが気になってしまった。そもそもガイドライン策定の難易度が高くて最初から完全なものが出来上がりそうにないのに、それ自体の運用見直しができないまま、研修や改善を行わせていくのは団体内での亀裂を産みそうで、とても心配になった。

ymrlymrl

6.3 日々の運用における取組

ここでは

  • ページ作成時の対応
  • 公開前のチェック
  • 利用者の意見収集と対応

について書いている。「ページ作成時の対応」は具体的なことが書かれているので、個別にみていく。

ymrlymrl

6.3.1 ページ作成時の対応

詳しくは「WCAG 2.0解説書」「WCAG 2.0 達成方法集」を参照せよと言いつつ、公的機関のホームページ等でよくある問題の説明をしている。

施設や避難所への道順等の案内をする際にどのような注意をしたら良いか

代替テキストの説明だけでなく、具体的に地図を掲載する場合の注意点を紹介している

  • 地図内の情報を視覚的に読みやすくする
    • 文字を大きく鮮明にし、コントラスト比を確保する
    • 現在地等の表現は、色の違いだけでなく、文字や形でも行う
  • 地図が掲載されていることがわかるよう、「・・・への地図」のような代替テキストで説明する
  • 地図の掲載とともに、代替情報を併記する
    • 最寄り駅から目的地までの道順を文章で説明する
    • 目的地の住所や電話番号を掲載する
  • 詳細な地図を閲覧できる地図情報サービスより、簡略化した地図の方がわかりやすい場合がある。必要に応じて併せて提供することを検討する
ymrlymrl

この、単に「代替テキストを書きましょう」だけでなく、どんな情報が利用者にとって必要であるかを検討して、それにあわせて複数の形で情報を提供するの、とても大切な考え方だと思う

ymrlymrl
模式図やグラフにどのように代替情報を用意したら良いか

これも「公的機関においては、簡潔な説明文では説明することが困難な複雑な情報を表した画像を掲載するケースが多々あるため注意が必要です」と書かれているとおり、公共団体ならではの迷いポイントだと思う。

  • 方法1: 画像の近くに、画像の内容を十分に説明するテキスト情報を掲載する
  • 方法2: 画像の内容を十分に説明するページを別途用意する

いずれも、グラフの代替テキストはあくまで「グラフであること」だけに留め、詳細なデータを別で示すことをしている。まあそうなるよね、って思う。

表を掲載する場合にどのようなことに注意したら良いか

表の構成によってはわかりづらくなる、という話をしているのだが、以下の話はいまいちピンとこなかった

a) 表の行列の構成を確認する。
補足説明:音声読み上げソフトは、表の内容を左上のセルから順に、左から右へ
読み上げます。表の内容によっては、行列を入れ替えることで、見出しの内容と
各セルの内容の対応関係を把握しやすくなる場合があります。

「表の内容を左上のセルから順に、左から右へ読み上げます」は、表のセルを二次元的に移動するのが難しい
ということなのかもしれない。いちおう、PC-TalkerやNVDAでは、上下左右の好きなセルに移動することができるはずなのだが……。

もうひとつのほうはわかる。

b) 複雑に構成された表の場合、表を複数に分割することで、伝わりやすくできない
か検討する。
補足説明:表組みの構成が複雑なほど音声読み上げソフト等により内容を把握す
ることが難しくなります。視覚的な分かりやすさを阻害しない範囲で、見出しセ
ルを複数行又は複数列にしない、セルを結合しないなど、できるだけ単純な構成
とすることが求められます。例えば、複数のテーマをひとつの表で表現している
ような場合に、各テーマごとに表を分割して構成すると、セルの結合が少なくな
ったり、見出しの列や見出しの行の構成が単純になったりして、情報を把握しや
すくなります。このような配慮は、スマートフォンなど小さな画面で閲覧してい
る利用者にとっても、分かりやすさが向上するといった利点があります。

Excelで作られたお役所書類にはよく、いろいろな情報が表組み風のレイアウトになっていることがあって、それをそのままHTMLにしてはダメだよ、ということだと思う。これはマジでそう。

ymrlymrl
PDF を提供する場合にどのようなことに注意したら良いか

お役所のサイトにはPDFがいっぱいあるイメージがある。のでそれらのPDFがアクセシブルであることには大きな意味があるはず。

「JIS X 8341-3:2016 を満たす方法」として示されているのは以下の2つ

  • a) PDF ファイルと同じ内容のページを作成し併せて掲載する
  • b) アクセシビリティに対応した PDF を作成する

bのほうは、PDFをどんなツールで作るかによって、簡単だったり難しかったり、できたりできなかったり、余計な手間が多かったりするので、aをやるのが正攻法だと思う。しかしそこへの言及がないのは残念。「ポイント!」として書かれているPDFを納品してもらう場合の対応も、やはり難易度が高いのではないか。

ポイント!
広報誌やパンフレット等の作成を事業者に委託し、PDF ファイルを納品してもらう場
合は、ホームページ等での公開を前提に、JIS X 8341-3:2016 に基づいた PDF とす
ることを依頼してください。

最近はMicrosoft Officeがかなりアクセシビリティの高いファイルを作る支援を頑張っている印象なので、意外となんとかなるのかもしれないけど。

「JIS X 8341-3:2016 に基づく対応が難しい場合」としては、できる限りの代替手段を提供するように言っている。

  • PDF で提供されている内容の概要を説明するページを作成する。
  • PDF で提供されている内容に関する問い合せ先を明記する。
  • PDF ファイルに併せて、Word などの元のファイルを掲載する。

「Word などの元のファイルを掲載する」は、Microsoft Wordを買わんといかんのかと思ってしまうけど……、まあdocxとかなら仕様がオープンだしLibreOfficeなどでも開けるから良いのだろうか。

最後に注意点として、画像がPDFになっているやつの言及がある

【注意点】アクセシビリティの観点から問題のある対応
紙の文書をスキャナーなどで画像として読み込み PDF に変換して提供すると、内
容を読み取れない利用者が出ます。他の方法で実現できない場合を除き、このよう
な対応は行わないでください。

むかしはなぜか印刷したものをスキャンしてアップロード、というものもたまに見かけた気がする。さすがに最近はあまりやってないのではなかろうか(あるいは、OCRされたデータがついていたりとか)。

ymrlymrl
動画を掲載する場合にどのようなことに注意したら良いか

動画については、レベルAとレベルAAそれぞれの方針が書かれている。「WebサイトはAA準拠を目標とするが、ただし動画についてはレベルA準拠を目標とする」みたいな方針を立てやすくするためだろうか。

「JIS X 8341-3:2016 のレベル A を満たす方法」は、以下の2つを「全ての対応が求められます」としている。

  • a) 動画にキャプション(字幕)をつける。
  • b) 同じ内容のページを作成(HTML で提供)する。又は、動画に音声解説をつける。

これは1.2.2 キャプション (収録済)1.2.3 音声解説、又はメディアに対する代替 (収録済) に該当する。

「JIS X 8341-3:2016 のレベル AA を満たす方法」は、上記に加えてさらに以下を全て行う必要があるとしている。

  • a) 生中継の動画にキャプションをつける。
  • b) 動画の内容に音声解説をつける。

これは1.2.4 キャプション (ライブ)1.2.5 音声解説 (収録済)に該当する。

規格への適合のことだけを考えれば、HTMLによる同じページを作るより音声解説を作ってしまったほうがいいように見えるが、個人的には音声解説がついてる版と代替ページの両方が、ほしいな……(動画の試聴に時間を割きたくないことが多いので)。

音声解説や生中継のキャプションは、担当者ひとりでは対応できない、専門技能をもつスタッフや業務委託先が必要となってくるものなので、「できるところからはじめる」状況だと後回しにせざるを得ないということになりやすそうで、2つの基準を示しているのもそういうことなんだろう。

ymrlymrl

6.3.2 公開前のチェック

「チェックを行うタイミング」は「できるだけ多くのタイミングでチェックを行うようにします」として、以下のような例を出している。

例:(原課でページを作成しホームページの管理運営担当部署で公開を行う場合)

  • ページを作成した担当者が自分で確認する。
  • 原課内で承認を行う担当者が確認する。
  • ホームページの管理運営担当部署で公開承認を行う担当者が確認する。

そりゃあチェックする目が多いほうが、問題を見落とす可能性は減るわけだけど、この三者がどういう視点で見るのか、どういう責任を負っているのかを明らかにしていないのはちょっと危ないのではと思った。「後の2人がちゃんと見てくれるだろうからヨシ!」「1人目が合格にしてるし3人目が見てくれるだろうからヨシ!」「前の2人が合格にしてるんだから絶対ヨシ!」が起きてしまうんではないか。

そういう場所をなあなあにするのではなく、

  • 原課はコンテンツが期日通りにリリースすることに責任を持つ(コンテンツがリリースされないことで評価がマイナスになるが、リリースするためにはホームページの管理運営担当部署をヨシと言わせなければならない)
  • ホームページの管理運営担当部署はすべてのコンテンツがアクセシビリティの低いままリリースされないことに責任を持つ(アクセシビリティが損なわれることで評価がマイナスとなるが、アクセシビリティの低いものが提出されたときに拒否することができる)

というような緊張関係をつくって、リリースするためにはホームページの管理運営担当部署がヨシと言わなければならない、そのために原課内でダブルチェックを行い、それをホームページの管理運営担当部署が承認する、という構造になっていれば機能するだろう。

「チェック方法の例」では、そういう関係が暗に示されているようにも見える

例:チェック方法の例

  • ページの作成・更新を担当する職員が、ウェブアクセシビリティのチェックツールを用いて確認する
  • ページの作成・更新を担当する職員が、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)のアクセシビリティ・チェック機能を用いて確認する
  • ページの作成・更新を担当する職員が、音声読み上げソフトにより作成したページを読み上げて確認する
  • ページの作成・更新を担当する職員が、チェックリストを用いて確認する
  • ホームページの管理運営担当部署において、ウェブアクセシビリティについてある程度の知識を有する職員が確認してから公開承認する

この例では、チェックツールやチェックリスト、そして支援技術を使ったチェックはすべて「ページの作成・更新を担当する職員」が行い、そして最終チェックは「ホームページの管理運営担当部署」の知識のある職員が、行っている。これであれば、「ページの作成・更新を担当する職員」はツールとチェックリストの支援を受けつつチェックを行い、なんとしてでも「ホームページの管理運営担当部署」をヨシと言わせるというかたちで、機能しそうに見える。

ymrlymrl

この体制をやる場合、「ホームページの管理運営担当部署」の担当者は、単にアクセシビリティの規格に詳しいだけでなく、そのさまざまな達成方法を知っていて、それぞれのメリット・デメリットを天秤にかけて判断して、ページを更新したい場所の人に助言できる必要があると思う。単にダメ出しをする人だと、攻略不可能なストッパーとみなされて、いかにその部署の管理下でない場所にコンテンツを置くか、チェックをスキップして公開できるかを考えるようになってしまう。

ymrlymrl

6.3.3 利用者の意見収集と対応

ホームページで目立つように意見投稿用のフォームを案内したり、さらにメールフォームと電話など複数の方法で意見を受け付けることで、さまざまな利用者からの意見を聴取する。

また、ウェブアクセシビリティ方針により対象外としたページについて意見を言われた場合や、改善を即座に行うのが困難である場合には、障害者差別解消法の合理的配慮義務として、ホームページ等以外の方法も含めて対応する必要がある。

そして改善の要望があった箇所だけでなく、同様の問題が他の箇所で生じないように全体の計画に盛り込み、速やかに改善を図る。

ymrlymrl

6.4 外部発注等における取組

公共機関の組織内ですら大変そうな感じが漂ってるなか外注の話をするのかと思ったら、いきなり「発注側で責任もってやれよ!」という注意書きが書かれていた

注意点!
外部発注の準備(仕様書の作成を含む)、プロジェクトの進行、検収等が適切に行
われない場合、ウェブアクセシビリティに問題のあるホームページ等が構築される
おそれがあります。
アクセシビリティの確保や改善について仕様書で具体的に要件を示す、プロジェク
トの進行過程で十分な検証を行った上で検収する、といった対応を実行しアクセシ
ビリティの確保を実現することは、発注者である公的機関の責任です。

具体的な取り組み内容は事業者選定前と事業者選定後について書かれている

  • 実施前の準備(事業者選定まで)
    1. ウェブアクセシビリティ方針の検討
    2. 仕様書の作成
    3. 事業者の選定
  • 構築(再構築)プロジェクト(事業者選定後)
    1. 達成方法の確認と構築作業の実施
    2. 複数段階での検証の実施
    3. 試験の実施
    4. 検収

「ウェブアクセシビリティ方針の検討」では、目標とするウェブアクセシビリティ方針の達成方法について「事業者に提案を求める」手順Aと、「発注者(公的機関)自らが検討し仕様として提示する」手順Bをあげている。手順Aでは、具体的なアクセシビリティ関連の仕様の策定までを外注先に求めているため、「アクセシビリティ対応の意識が高く、JIS X 8341-3:2016 に関して適切な知識を有する事業者を選定することが手順 B と比べより重要」としている。

仕様書に関しても、やはり発注側に強い責任を求めている。

注意点!
仕様書に具体的な目標と事業者に求める対応を明確に示し、アクセシビリティの確
保を実現することは、発注者である公的機関の責任です。

事業者の選定についても同様に注意点がある。

注意点!
アクセシビリティ対応の意識が高く、JIS X 8341-3:2016 に関して適切な知識
と対応力を有する事業者の選定につながるように、事業者選定基準等の作成におい
て細心の注意を払うことは、発注者である公的機関の責任です。

とにかくWebアクセシビリティを外注先任せにせず、発注側が責任を持ちなさいというかなり強いメッセージを感じる。ではそれができているのかというと、難しいのだろうな、難しいからこそこうして赤字で何度も注意書きをしているのだろうな、というのも伺える。

ymrlymrl

6.5 外部サービスを活用した情報発信における取組

外部サービスとは、「ソーシャルメディア、動画配信サービス、地図情報サービス、検索サービス、ウェブアンケートシステムなど」が挙げられていて、これらを使ってサービスを提供する場合でもアクセシビリティの対応が求められるとしている。当然である……。

しかしここにもまた、赤い文字で大きく注意点を書いていて、やはり「外部サービスだから……」で対象外としようとする動きがあったんだろうな、と予測できる。

ただし、JIS X 8341-3:2016に示される「第三者によるコンテンツ」は例外扱いしていいということも同時に示されている。ここでいう「第三者のコンテンツ」とは、閲覧者のコメントのようなものが想定されていて、「第三者によるコンテンツ」に当てはまらないものの例も沢山書かれている。ここの苦労が滲み出ている。

さて、こういう第三者によるサービスがアクセシビリティ観点でそれなりの水準になっているということは、あまり期待できないのは私の実体験としても感じています。そこでガイドラインでは「ウェブアクセシビリティの問題がある場合」の手段として以下を挙げています。

  • a) 外部サービスを活用して行う情報発信やサービス提供を、公式ホームページ等でも同時に行う
  • b) 外部サービスを提供する事業者に対してウェブアクセシビリティの問題を具体的に伝えて早期の改善対応を要望する

aは、それができるのであればそうするのが妥当でしょう。外部サービスを使うことが、その外部サービスを使い慣れたユーザーの利便性のためであれば、aがやれてれば十分です。しかし、自分の身の回り(民間事業者)においては、「自社開発にコストをかけたくない場所なので外部サービスを利用したい」というケースも多々あって、その場合には適切な選択肢ではないという悩みがあります。

となるとbの、運営元に要望するという選択肢しかなくなるわけですが、これはこれで外部サービス運営事業者のスキルや意識にかなり依存して、「カタチだけ要望は送っているものの、受け取る側ではどれだけ重要なものだかわからなくて、何年経っても直らない」ということが起きてしまいそうです。

このあたりはやはり、公的機関やその調達に関するものに限ってでも、法的な根拠を持ったウェブアクセシビリティの義務化が必要な場所なのでは、と感じてしまいます。そうでもしないと、なかなか現状を打破していくことはできないんではないでしょうか。