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Webアクセシビリティ難しすぎる問題

2020/09/27に公開

はじめに

私はデザイナー兼フロントエンドエンジニアというような立ち位置で、勤務するfreee株式会社のアクセシビリティガイドラインの作成に関わったり、アクセシビリティまわりの仕組みの整備や社内エバンジェリストみたいなことをしています。

もともと私はWebアクセシビリティという分野が、重要なものである以上に技術や考え方として面白いと思ってやっているうちに気付いたら仕事で大きなウェイトを占めるようになってしまったタイプの人です。しかし、そうではない人たちにその重要さを説明したり、対応をお願いしたり、そのための資料を作ったりしているうちに、「やっぱWebアクセシビリティって難しいんだなぁ」と思うようになってきたので、それについて書いてみようと思います。

なお、背景を説明するうえで必要なので社名を出しましたが、あくまでこの文章は個人の見解であり、所属組織とは関係がありません。

誰のためにやるのかが難しい

Webアクセシビリティに関するよくある誤解として 「なんか目が見えない人が使えるように、代替テキスト?alt?とかいうのを入れたりするやつでしょ?」 みたいなものがあるような気がしています。

もちろんこれは誤解で、Webアクセシビリティという言葉が対象とするものは決して視覚障害者に限定されず、それどころか障害者にすら限定されません。Webの世界でのaccessibilityの語が、もともと障害者を対象としていたものが、時を経てより広い対象に向けたものに変化していった経緯がWebA11y.jpのWebアクセシビリティとは?というページで解説されています。

なので、自分がWebアクセシビリティについて説明するときも、対象となるのが視覚障害者限定でも障害者限定でもないことを当然盛り込むわけですが、そうしようとすると説明が簡潔でなくなっていくという悩みがあります。わかりやすくするためには具体的な例をあげて説明していくのが楽なのですが、そうなると上にあげたような誤解を助長することにも繋がりそうです。

私の勤務先の場合、視覚障害があってスクリーンリーダーを使っている人(そしてアクセシビリティの取り組みを推進している人)が身近にいるので、視覚障害に関してはどういった問題が発生し得るのかを想像しやすい環境にあります。しかし、他の障害については身近に当事者がいない状況です。そのため、余計に「Webアクセシビリティ=視覚障害者向けの施策」という誤解が生まれないかが気がかりです。

ふだん私がアクセシビリティを高めるようにデザインやコーディングを作成・修正しているときは、具体的な状況を意識していることが多くあります。しかしその種類は視覚的なものに限定しても、スクリーンリーダーを使用していたり、弱視で拡大機能や色の反転を使用していたり、老眼で眼鏡をずらしたり画面との距離を変えながら画面を見ていたり、色弱(色覚異常)で特定の色を見分けられなかったり、発色の悪いモニターを使用していてよく見えなかったりと、多岐にわたります。いきなりこんないろんな状況が考えられますと言われてもピンとこないだろうし、その多さにドン引きするだろうし、私たちの想像の及ばないような状況や使い方をするユーザーもいるかもしれません。

そこで登場するのが WCAG (Web Content Accessibility Guidelines) 、あるいはそれを元に作成された会社ごとのガイドラインです。こういったガイドラインは、あらゆる状況のユーザーを加味してアクセシビリティのあるWebの状態を定義してくれています。しかしこれはこれで膨大なテキストになっていて、いきなり理解して使いこなすのは困難だろうと思います。

ということで、結局誰にどう役立つかわからないまま、いきなり 「アクセシビリティガイドラインに従ってください」 「これはアクセシビリティガイドラインでNGなのでダメです」 といきなり言われてしまうのは、ちょっとキツそうだなぁと思っています。

また、この話はあくまで想像でしかないのですが、ユーザビリティを上げるためにターゲットとなるユーザーを絞って考えていく考え方と、アクセシビリティを上げてターゲットとなるユーザーを広げていく考え方が、もしかしたら対立するように感じられるのでは、ということも想像しています。相反するように感じていなくても、前者のターゲットを絞っていく考え方に馴染んでいると、後者のターゲットを広げていく考え方をするのが大変だったりするんじゃないかという気がしています。

デザインからテクノロジーまで、幅広く跨がってしまうので難しい

さらに、「Webアクセシビリティ」というジャンルで物を考えようとすると、デザイナーにとっては実装まで、エンジニアにとってはデザインまで広く知識がないといけない、というところも難しいところだと思っています。

たとえばアクセシビリティに詳しいデザイナーは、UIデザインをデザインツールで作るときに、色の選び方や文字の大きさを調整したり、代替テキストを指定したりするでしょう。HTML/CSSのコーディングまでやるデザイナーであれば、さらにしっかりとアクセシビリティを保ったUIが作れるはずです。しかしWAI-ARIAを駆使した、複雑な動きのあるWebコンポーネントの実装までをデザイナーができるようになるのは一筋縄でないでしょう。

たとえばアクセシビリティに詳しいエンジニアであれば、たとえばデザイナーの作成したデザインカンプをWebに起こすとき、 <label><input> を紐付けしたり、ヘッダーやフッターを <header><footer> でマークアップしたりするはずです。しかしデザインカンプで使用されている色のコントラスト比が不足している場合、デザイナーに修正依頼をする必要があります。

「アクセシビリティの高いWebをつくるにはどうすればいいんだろう」ということを考えようとすると、どうしても企画からデザインから実装まで、あちこちでやらなければいけないことがあります。となると、それぞれのフェーズに関わる人がアクセシビリティに詳しくある必要があります。しかし現状では、そういったロールごとに整理された体系だった情報が少ないように思います。「Webアクセシビリティについて学びたい」というとき、それぞれのロールの人に向けた入門記事などはWeb上にそれなりの数があるのですが、より詳しく知るための情報はまだ足りないという印象です。

そのため、Webのアクセシビリティ向上を頑張ろうとすると、どうしても横断的に詳しい人が必要になってしまいます。あるいは、何か問題があるらしいぞと思って調べようとしたときに、 専門外の知識 や、 職域外の行動 が必要になってしまうかもしれません。役割分担が明確化している状況でそういうものが出てきてしまうと、やりづらさを感じてしまいそうです。

Webアクセシビリティはやっぱり難しい

ここまで書いてきたように、Webアクセシビリティという分野は、「誰のためにやるのか」の対象が広くて抽象的で考えにくく、「何をどうするのか」に幅広い知識が要るところが難しいよなぁ、と思っています。

そう考えてみると、まず「Webアクセシビリティという分野は難しい」ということをきっちり認識したうえで、どうやったら現場でWebを作っている人たちにわかりやすくメッセージを伝えていけるのかを再考したほうがいいのかな、と思えてきました。難しいものは難しいからこそ、そこに携わる人が挑戦するためのロードマップをしっかり作るのが良いのかな、と考えています。

追記(2021/09/08)

改めて読み直したら難しい難しいばっかり言っていて、これを読んだだけだと「難しそう……やめとこ……」で止まってしまう内容になっている気がしました。

Webエンジニアとしていま知っておきたいWebアクセシビリティという記事の後半のほうで、何から始めるべきかを書いているので、よかったらこちらも読んでみてください。

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