ブラウザの支援技術がアクセシビリティサポーテッドか調べる方法について
アクセシビリティサポートの定義
WCAG にはアクセシビリティサポーテッドという考え方があります。
エンジニアがアクセシビリティを考慮した設計や実装を行いウェブサイトを制作したとしても、支援技術(スクリーンリーダーやそれに準ずる読み上げソフト)やブラウザが正しくし機能しなければ支援技術の利用者にとっては不親切なウェブサイトとなってしまいます。
アクセシビリティを考慮した適切な技術により制作されていることと、支援技術やブラウザがそれをサポートしている状態を「アクセシビリティサポーテッドである」と言います。
WCAG には以下のように記載されています。
「アクセシビリティ サポート」の技術的な定義
基本的に、ウェブコンテンツ技術は、利用者の使用している支援技術が対応していて、かつ、主流なユーザエージェントのアクセシビリティ機能が対応していれば、"アクセシビリティ サポーテッド" である。
引用: https://waic.jp/translations/UNDERSTANDING-WCAG20/conformance.html
アクセシビリティサポーテッドかどうかの観点
アクセシビリティサポーテッドであると言えるためには次の2点が観点になります。
- アクセシビリティを考慮した適切な技術設計が行われていること
- 支援技術やブラウザがそれをサポートしていること
アクセシビリティを考慮した適切な技術設計が行われていることについては、ある程度実装者側で担保できる課題なので、実装者で判断できることが多いです。しかし支援技術やブラウザがそれをサポートしていることについては支援技術やブラウザの開発者側の問題であり、支援技術がサポートしているかを判断することはかなり困難です。
例えば、支援技術の例としてスクリーンリーダーが挙げられますが日本語のスクリーンリーダーにも複数種類ありますし、ブラウザに関しても同様に複数あります。各スクリーンリーダーとブラウザの組み合わせによっても読み上げられる情報は異なりますし、言語によって対応しているかどうかも異なります。
このように言語や支援技術、ブラウザの組み合わせ次第でパターン数が膨大になるため、支援技術やブラウザがサポートしているかを判断することが困難な理由としては、
全ての組み合わせでテストを行うことが不可能なのは明白なので WCAG には「どの支援技術がどのウェブ技術のどの使用法をサポートしているかについて文書化している公開資料に頼ってもよい」としています。
どのウェブ技術のどの使用法が、支援技術及びユーザエージェントのどのバージョンによって実際にサポートされているかを判断するのに必要な検証作業のすべてを、個々のコンテンツ制作者が行うことは通常不可能である。そのため、コンテンツ制作者は、どの支援技術がどのウェブ技術のどの使用法をサポートしているかについて文書化している公開資料に頼ってもよい。「公開」というのは、必ずしも公的機関によって作成されたものを指すわけではなく、一般に入手可能であるということのみを意味している。
参考: https://waic.jp/translations/UNDERSTANDING-WCAG20/conformance.html#uc-accessibility-support-head
「公開資料を参考にすれば良い」と記載はされていますが、言語や使用する支援技術などでどのような公開資料を参考にすべきかは変わってきます。
実際に国内外で使用されている支援技術
言語や使用する支援技術などでどのような公開資料を参考にすべきかは変わってきます。
ここで気をつけたいのは、そのサイトを利用するユーザーの環境によって異なることです。
日本語を用いる人が対象なのか英語を用いる人が対象なのか、パソコンでの利用が多いサイトなのかスマホでの利用が多いのか、OS は何を用いることが多いか、などによっても異なります。
日本国内での支援技術の利用状況
日本視覚障害者 ICT ネットワーク (JBICT.Net)という組織が 2021 年から支援技術利用状況調査報告書を公開しています。
さまざまなアンケート調査がされており、パソコンとスマホの利用状況、使用される OS、スクリーンリーダーやブラウザの利用状況や組み合わせがわかるので、国内で実際に使用されている支援技術を知ることができます。
利用頻度の高いブラウザやスクリーンリーダーがわかるので優先して対応すべきブラウザやスクリーンリーダーを知ることができます。
海外での支援技術の利用状況
国内に限定しないものだと、アクセシビリティ向上のために設立された米国の非営利団体のWebAIM がスクリーンリーダーユーザーアンケートを実施しており、その結果を公開しています。
海外なのでスクリーンリーダーの種類などが異なる点が多く、またアンケート参加者の母数も多いのでより実態に近い資料になっておりかなり参考になります。
支援技術やブラウザがサポートしているかを判断するための公開資料
どの層に対してアクセシビリティサポートを行うかによって、参考にすべき公開資料は異なってくるため、サイトを利用するユーザーの環境を調査することは重要な観点になります。
サイトを利用するユーザーの環境を考慮した上で、どのような公開資料を参考にすべきかをまとめてみました。
ここでは比較的公的機関によって作成された公開資料を記載しています。
WAIC のアクセシビリティサポーテッド検証結果
WAIC がアクセシビリティサポーテッド検証結果を公開しています。
テストケースでは日本語による読み上げ結果が記載されているので、日本国内でのアクセシビリティサポーテッドの状況を把握する場合には一番参考にしたいサイトです。
a11ysupport
各種スクリーンリーダー (JAWS、Narrator、NVDA、TalkBack、VoiceOver など) が、様々な HTML 要素や WAI-ARIA 属性に対して、それぞれどの程度対応しているかについて、テストした結果が開示されています。
W3C の ARIA and Assistive Technology Community Group で共同議長を務める Michael Fairchild 氏が立ち上げたオープンソースのプロジェクトなので信頼性は高いです。
powermapper
NVDA、JAWS、VoiceOver などの一般的なスクリーン リーダーを含む支援技術のテスト結果を公開しています。
WAI-ARIA のスクリーンリーダーの互換性についてという文脈で MDN にも記載があります。
スクリーンリーダーの ARIA の対応状況はそこまでではありませんが、多くの一般的なスクリーンリーダーはそれに近いものになってきています。 Powermapper による WAI-ARIA のスクリーンリーダーの互換性(英語)の記事で、サポート状況を確認することができます。
引用: https://developer.mozilla.org/ja/docs/Learn/Accessibility/WAI-ARIA_basics#wai-aria_はどこで対応されているか
所感
以上のように、アクセシビリティサポーテッドかどうかを判断するためには、公開されている情報を適切に参考にすることで判断することができます。
結局のところアクセシビリティサポーテッドにしたい web サイトがどのようなユーザーに利用されるのかを把握し、そのユーザーがどのような環境で利用するのかを考慮した上で公開資料を参考にすることが重要になりそうです。
全てに対応し切ることは不可能なのでどこまでやるかを SLA などで事前に定めておければ対応する優先度も明確になり、効率的に対応することができるかと思います。
備考
Discussion