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InnerSource Commons創設者から聞いたインナーソースの本質とAI時代に必要な取り組み

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この記事のポイント

  • インナーソースとは何かについて説明しているよ
  • インナーソースとは簡単に説明すると「OSSの原則を企業内部に適応すること」だよ
  • インナーソースがどのようなメリットをもたらすか説明があったよ

はじめに

この記事は「InnerSource Commons創設者 Danese Cooper氏 来日記念 Meetup」のイベントレポートです。

イベントURL:InnerSource Commons創設者 Danese Cooper氏 来日記念 Meetup - connpass

英語話者の方からお伺いした内容を日本語訳しており、また、わかりやすさを重視するために伝わりやすい言葉に置き換えて書いています。
(具体例:直訳「メッセージング担当者」は「エバンジェリストや技術広報」と置き換えて対応)

内容の正確性を保証するものではありませんので、ご了承ください。

InnerSource Commonsの創設者、Danese Cooper氏が来日

先日開催されたイベントでは長年テック業界で活躍してきたInnerSource Commonsの創設者(以下、創設者)からインナーソースに関する説明がありました。
具体的には以下の通りです。

  • インナーソースの本質
  • 導入の秘訣
  • 日本企業が抱える課題への有効性

インナーソースとは

インナーソースというのは簡単に説明すると「OSSの原則を企業内部に適応すること」です。インナーソースに適応することの目的としては開発者に主体性と創造性を持たせることです。では、インナソースとは具体的にどんなことをもたらしてくれるのでしょうか。創設者からの説明を元に深掘りしていきます。

「インナーソースは最良の開発手法」 文化を変え、人を活かす

「インナーソースは、単なる流行りではなく、ソフトウェアエンジニアリングを行うための最良の方法です」と創設者は説明する。創設者の経歴は異色だ。コンピュータサイエンスではなくフランス文学を学び、大手テック企業における多様な経験を積む中で、優れた技術と同じくらい「協力」が重要であると痛感した。

創設者は企業がOSSに関わる以前に、まず内部の「壁」を取り払い、知識やコードを共有する文化を醸成する必要があると考えた。そして、インナーソースの概念を提唱・推進してきた。

インナーソースは、社内にオープンソースの透明性、貢献、コミュニティといった原則を持ち込むことで開発者に主体性と創造性を持たせます。

結果として、「エンジニアはより幸せになり、生産性も向上する」と創設者は語った。
さらに、担当者不在でブラックボックス化する「ゾンビコード」の発生を防ぎ、エンジニア間のコミュニケーションを通じて実用的なドキュメントが自然に形成されるといった副次的効果も大きい。

硬直化した文化への処方箋 ― ドイツ・ボッシュ社の成功事例

イベントでは日本の製造業などが直面する高齢化やイノベーションの停滞といった課題に対するインナーソースの可能性が強調された。
創設者は、同様の課題を抱えていたドイツの巨大企業ボッシュ(Bosch)の事例を詳しく紹介した。

ボッシュは「BIOS (Bosch Internal Open Source)」と呼ばれる取り組みをR&D部門から開始した。

ルール遵守の文化が強い中でイノベーションを生み出すため、GitHubもない時代に自社でツール開発から始め、コストセンター制など既存のルールを緩和する「小さな実験」を敢行した。(いわゆるMVPあるいはそれ以前のPoC)

数年を要したものの、従来の方法では得られなかった成果を次々と生み出し、最終的には経営層の強力な支持を得て全社的な取り組みへと拡大させてみせた。
「インナーソースは、凍結した文化を溶かす力がある」と創設者は語った。

成功へのロードマップ:「小さな実験」「コミュニケーション」「キーパーソン」

では、どうすればインナーソースを導入できるのか?創設者は具体的なステップを提示した。

  1. 小さな実験から始める: まずは限定的な範囲で試し、何が本当に課題なのかを学ぶことが最も重要であること
  2. コミュニケーション担当者を雇う: エンジニアには伝えることが苦手なことが多い。専門家(たとえば、エバンジェリストや技術広報)を雇い、経営層や関連部署を説得するためのデータに基づいた「ストーリー」を戦略的に構築すること
  3. キーパーソンを見つける: 社内で協力的な「チャンピオン」、つまりはキーパーソンまたはインフルエンサーあるいは旗振り役を見つけて権限を与え、経営層にいる「スポンサー(支援者)」の理解と支持を早期に確保することが不可欠であること。反対者を味方に変える地道な働きかけも重要になる。

補足:バスの時刻表をみんなでインナーソース

創設者はここで管理者ではなく実際に利用する者が修正できるようにしたバスの時刻表の改善例を挙げ、インナーソースがコード開発以外の業務プロセス改善にも応用可能であることを示した。

AI時代だからこそ、インナーソースが重要に

現代はAIが活用される時代にインナーソースで何ができるかについて質問があった。ChatGPTなど生成AIの台頭についても触れ、「AIが生成したコードこそ、人間のエンジニアによるレビュー、テスト、そして協力的な改善プロセスが不可欠になる」と指摘した。インナーソースによる品質担保と透明性の確保は、AI時代においてさらに重要性を増すと述べた。

結論:変化は可能、鍵は「協力」

対話を通じて、インナーソースが単なる開発手法ではなく、組織文化そのものを変革し、イノベーションを促進することである。そして、従業員のエンゲージメントを高める強力な触媒となりうることが示された。

まとめ

創設者から全体のまとめとして「私ができたのだから、皆さんの誰にでもできる。変化を起こすのに特別な訓練は必要ありません。必要なのは、正しいことをしようとする意志と、協力するチームです」という言葉があった。

感想

インナソースとは何かについてから本質、そして導入の秘訣までを学ぶことができました。
ただ、インナーソースを導入することは簡単ではないと思っていますが、創設者の言葉を借りると「変化は可能、鍵は協力」だと思います。

また、ソフトウェアエンジニアリングの最良の方法は「インナーソース」であるという言葉が印象的でした。
インナーソースを導入することでソフトウェアエンジニアリングについて深く考えるきっかけにもなりました。

参考

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