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リーンシックスシグマ(フレームワーク)による業務改善の進め方をまとめてみた

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はじめに

生成AIやAIエージェントの登場によってDXが加速し、さまざまな企業で生産性向上、業務効率向上を目指した業務改善に取り組まれています。ですが、気が付けばAIを導入することが目的となってしまい、AIを導入したもののあまり活用されず、期待していた稼働時間の削減やコスト削減が達成できない、といった事態に陥っている企業が多くいる状況です。

そこで今回、「リーンシックスシグマ」による業務改善の進め方についてまとめてみました。

リーンシックスシグマとは

リーンシックスシグマは、ムダを改善する「リーン生産方式」と、ムラを改善する「シックスシグマ」を組み合わせた業務改善フレームワークです。トヨタ生産方式とモトローラの品質管理手法を基にしており、効率と品質の向上を目指します。主に製造業で使われますが、サービス業や事務部門でも効果を発揮します。

リーン生産方式

リーン生産方式は、トヨタ生産方式を基にした業務改善手法で、ムダを排除し効率を最大化することを目指します。顧客価値を重視し、「ジャストインタイム」や「自働化」(自化ではない)などの原則を活用します。製造業だけでなく、サービス業や物流など幅広い分野で応用されています。

特徴 概要
ジャストインタイム 「必要なものを、必要な時に、必要なだけ作る」という意味で、自動車の生産計画に合わせて、部品を「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」供給できれば、「ムダ、ムラ、ムリ」がなくなり、生産効率が向上します。
自働化 機械を管理する作業者の動きを「単なる動き」でなく、ニンベンの付いた「働き」にすることを意味します。「異常があれば機械が止まる」ことで、不良品は生産されないし、また一人で何台もの機械を運転できるので、生産性を飛躍的に向上させることができます。

シックスシグマ

シックスシグマは、品質管理と業務改善の手法で、統計学を用いてプロセスのバラツキを減らし、欠陥を最小限に抑えることを目指します。モトローラが1980年代に開発し、GE(ゼネラル・エレクトリック)社など多くの企業で採用されています。DMAIC手法といわれる5つのステップを通じて、効率と品質を向上させます。

6シグマ(6σ) = 業務上のエラー、再作業の発生率を100万回につき3.4件未満に抑える

シグマレベル 100万回作業あたりのエラー件数
1シグマ(1σ) 690,000件
2シグマ(2σ) 308,537件
3シグマ(3σ) 66,807件
4シグマ(4σ) 6,210件
5シグマ(5σ) 233件
6シグマ(6σ) 3.4件

5つのステップによる業務改善

リーンシックスシグマは、シックスシグマの説明でも記載したDMAIC手法といわれる5つのステップを通じて、業務効率と品質を向上させます。

# ステップ 概要
1 Define(定義) 顧客の希望とニーズを含めた理想的な顧客像と、プロジェクトの目標・目的・背景を特定します。定義の仕方はSMART目標になるようにします。
2 Measure(測定) 現行プロセスを測定し、目標を基準に最適化方法を検討します。
3 Analyze(分析) データと資料を活用し、プロセスの問題原因を特定します。
4 Improve(改善) 分析を基に新しいプロセスを作成し、最適な改善策を選択します。(RPA、業務アプリ化、AI導入など)
5 Control(制御) 新プロセスを現行ワークフローに導入し、統計管理とモニタリングで継続的な管理、制御を支援します。

1.Define(定義)

リーンシックスシグマの中でもっとも重要なステップとなるDefine(定義)では、業務改善によって何を達成したいのか、より具体的に数値で目標値を設定します。このステップによって業務改善の本質的な目的、目標を定義し、AI導入が目的とならないようにします。

業務改善の目的、目標を定義する例を以下に示します。

# 目標 Specific(具体的) Measurable(測定可能) Achievable(達成可能) Realistic(現実的) Time-bound(期限付き)
1 業務プロセスの効率化 業務フローを見直し、無駄な手順を10%削減する 削減した手順の数を測定 チーム全員で取り組み、週次で進捗確認 業務効率向上に直結 3ヶ月以内
2 顧客対応の改善 顧客対応マニュアルを更新し、全員に2回の研修を実施する 研修後の顧客満足度アンケートで80%以上を目指す 研修を計画・実施する 顧客満足度向上に寄与 6ヶ月以内
3 コスト削減 購買プロセスを見直し、コストを15%削減する 削減額を月次で測定 具体的な削減策を実行し、月次でレビュー 会社の利益向上に貢献 4ヶ月以内

2.Measure(測定)

現行の業務プロセスを測るステップとなるMeasure(測定)では、現状を把握するためのデータを収集します。どのような業務プロセスが実行されているのか、各々のパフォーマンスを測定することで、ボトルネックとなっている業務プロセスをリストアップします。

以下に測定項目の例を示します。

# 測定項目 説明 目的
1 プロセスタイム(処理時間) 各プロセスの平均処理時間、最大・最小時間、標準偏差を測定 遅延の原因を特定し、改善につなげるため
2 スループット(処理件数) 一定期間内で完了した処理件数を測定 ボトルネックになっているプロセスを発見するため
3 エラーレート(ミス率・リワーク率) 各プロセスにおけるエラー率や再作業率を測定 品質に関する課題を明確にし、対策を講じるため
4 リードタイム(全体の所要時間) プロセスの開始から完了までにかかる時間を測定 全体フローの中で改善が必要な箇所を見つけるため
5 リソース使用率(稼働率) 各プロセスでの人員や設備の使用率を測定 過剰な負荷による非効率を明らかにし、リソース配分を最適化するため

3.Analyze(分析)

現行の業務プロセスを分析するステップとなるAnalyze(分析)では、Measure(測定)ステップで可視化した業務プロセスを詳細に分析し、問題の根本原因を特定します。プロセスタイムが極端に長かったり、エラーレートが明らかに高い、といった業務プロセスをピックアップし、フローチャートを作成することで問題個所を特定します。

4.Improve(改善)

現行の業務プロセスを改善するステップとなるImprove(改善)では、Define(定義)ステップで設定した目標数値を達成するための業務プロセス改善策を検討します。特定した問題個所を改善することで目標数値を達成することができるか検討し、改善後の業務フロー設計、移行計画を立案し、実行へと移します。

5.Control(制御)

現行の業務プロセスを管理、制御するステップとなるControl(制御)では、手順書作成および従業員へのトレーニングを行い、改善プロセスで業務が稼働できるようフォローアップをしながら、改善効果を継続的にモニタリングすることで目標達成度を測定、管理します。

まとめ

業務改善をするには、まず業務上何が問題でどんな課題を抱えているのか、そしてそれを解決することでどうなりたいのかを明確にするところから開始することが重要です。
その後、現在の業務プロセスにかかる工数などを測定し、改善後の工数をシミュレーションした際に目標としていた稼働時間、あるいはコスト削減が実現できるか、できないかを検討するステップを踏むことで、生成AIやAIエージェント導入による業務改善が成功するかどうかが決まってきます。

おわりに

生成AIやAIエージェント、あるいはRPAやビジネスアプリケーションの導入は外注することはできますが、業務改善の目的、目標設定や業務プロセスの調査は自社でしかできません。
業務の種類が膨大すぎてどこから手を付けていいのかわからない、そういった場合はいきなり全体最適化を進めるのではなく、個人あるいは一組織(人事、営業、情報システム部など)に対する個別最適化から検討して、そこから徐々に拡げていくことをお勧めします。

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