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散文コード詩「老いの正体」
散文コード詩「老いの正体」
若い頃、処理は速かった。
一晩徹夜してもエラーは出ず、
無限ループに飛び込んでも平気で戻ってこれた。
けれど年を重ねるたびに、
応答は遅くなり、
「考える時間」が「フリーズ」に近づいていった。
周囲は苛立つ。
「まだですか?」
「早く返してください」
まるで非同期処理の催促だ。
僕は必死に計算する。
だが内部クロックは狂い始め、
結果を返す前に、時間制限がやってくる。
画面に文字が走る。
TimeoutError: process took too long
それが老いの正体だった。
能力が消えるのではなく、
ただ「許された時間」を超えること。
何を返そうとしても、
受け取る側はもう待っていない。
通信は切断され、
僕の返り値は虚空に捨てられる。
夜、ベッドの中で僕は笑う。
「この人生、きっとまだ処理中なんだ」
そう言い聞かせながら、
目を閉じる。
ログの最後に表示されたのは――
// Connection closed due to timeout
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