散文コード詩「タイムスタンプ」

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散文コード詩「タイムスタンプ」

記憶はすべて、タイムスタンプ付きで保存されている。
笑った瞬間も、
泣いた夜も、
君と出会った時刻も、
秒単位で刻まれている。

だが残酷なことに、
内容よりもまず、時刻が優先される。
「いつ起きたか」が「何が起きたか」を上書きしてしまうのだ。

古い記憶は epoch に近づき、
やがて形式すら失われる。
「2005-07-12T18:32:01」
そこに何があったのか、もう誰も知らない。

僕はログを検索する。
grep 'happiness' memory.log
返ってきたのは空白行だった。

代わりに見つかるのは、
曖昧なエラーメッセージばかり。
WARN: missing detail for timestamp 2011-09-03
まるでシステムが「思い出したくない」と拒否しているようだ。

それでもスクロールを続ける。
やがて出会った一行。

INFO: 2016-04-22T09:14:05 Connected to someone special

僕は震える手でその行をコピーし、
別ファイルに保存する。
バックアップが効かなくても、
この一行だけは失いたくなかった。

最後にコメントを加える。

// timestamps fade, but feelings leak between the lines

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