シェルスクリプトでも、いろんな言語を表示したい! --- gettext.sh 最初の一歩
要約
あなたのプログラムや文書をいろんな国のひとに使ってもらえる可能性が増える方法として国際化(i18n)[1]がある。
身近に利益を感じてもらうためhello worldレベルのshellスクリプトをgettext.sh使って国際化する方法を書いている。
例題を試すためのgithub repositoryも用意している。
はじめに
シェルスクリプトは、多くのひとに使われています。とくに自分や他人のために自動化スクリプトを書いたひとはいるでしょう。
最近はありがたいことにUTF-8のシステムが増えて、日本語など英語以外の言語でも、コンピュータ上で表示しやすくなりました。
コンピュータ上で複数の言語を扱うにはいくつか方法があります。その中でメジャーな実装の1つが、gettextです。
プログラマが新しく言語を覚えたいときはまず環境構築をします。その次に動作確認のためプログラマは儀式めいた慣習ですがコンソール(外部の世界)へ "hello world" を出力するプログラムを書くことがあります。この文章はそれにならってgettextの "hello world" を出力するshell scriptを例に文章を書きます。
gettextはプログラムが出力する言語を切り替えるために使われてきました。
現在では、man po4a (1): PO ファイルと翻訳済みドキュメントを一括更新 を使って文書の翻訳に使う例もあります。
技術文書のように頻繁に更新され翻訳が追いつかない部分は英語でいいから把握したいというニーズに応えます。[2]
この文章を書いた動機
最初「ssftはいいぞ」という文章を書きたかったのですが、その前提となるgettext.shについて自分にとってわかりやすい文章がなかったので書きました。
gettextを扱えるひとが増えて、より多くの優れたソフトウェアや技術文書が言語のカベを越えて流通することで自分もそれにあやかりたい。という動機です。
そして文書を書いて公開することで、より詳しい人からツッコミを入れてもらい自分の理解を深めるためです。
この文章はだれ向けか
自分の書いたプログラムが、自分の母語を越えて利用されるプログラマ、または、自分の書いたプログラムを母語以外のひとにも使ってほしいプログラマ向けです。
すぐに使えるのは日常的にシェルスクリプトを書いている人で、複数の言語への対応をしたいと考えている人です。
例題はシェルスクリプトですが、gettextにおける作業手順について他のプログラム言語でgettextを扱うとき応用ができるように書きます。
この文書の読み方
この文書は、読んだ人が手を動かして追体験ができるように、下記の順番で進めます。
比較的冗長に書くので、読者の側で分かっている部分については飛ばして読んで下さい。
具体的には、先に仕組みや説明を知りたいひとは実践している部分は飛ばして、背景を読んでから戻ってくるのもいいでしょう。
実践
- Debian GNU/Linux上での環境設定
- gettext.shの説明をして
- リポジトリのクローンをして、プログラムが動くのを確認します。
- その背景の説明をします。
環境設定
この文章を試すのに必要なパッケージは、
- gettext
- git
です。その他のプログラムはご自分でお好きに選んでください。Debian標準はdashをshとして使っているのでdashを利用しますが、たぶんbashでも動くでしょう。
この記事を書いている時点(2020-12-13)で、私が利用しているのは、Debian GNU/Linux bullseye/sidです。gettextは充分に古いので、他のUnix系でも何らかの方法でパッケージなどがあるでしょう。
私はすでにgettextをパッケージで導入していたので、gettext-baseが入っていました。gettext.shがどのパッケージにあるのか確認する方法は下記です。
apt-file search gettext.sh
backup-manager: /usr/share/backup-manager/gettext.sh
fcitx-libs-dev: /usr/share/cmake/fcitx/fcitx-extract-gettext.sh
gettext-base: /usr/bin/gettext.sh
なので、
dpkg -l gettext*
要望=(U)不明/(I)インストール/(R)削除/(P)完全削除/(H)保持
| 状態=(N)無/(I)インストール済/(C)設定/(U)展開/(F)設定失敗/(H)半インストール/(W)トリガ待ち/(T)トリガ保留
|/ エラー?=(空欄)無/(R)要再インストール (状態,エラーの大文字=異常)
||/ 名前 バージョン アーキテクチ 説明
+++-==============-============-============-======================================================
ii gettext 0.19.8.1-10 amd64 GNU Internationalization utilities
ii gettext-base 0.19.8.1-10 amd64 GNU Internationalization utilities for the base system
ii gettext-doc 0.19.8.1-10 all Documentation for GNU gettext
を参考に入れて下さい。ドキュメントはお好みでofflineでも参照できる文書が欲しい派なのでわたしは入れています。
サンプルの導入
yabuki/gettext-sandbox: This is a sandbox which is test for gettext with program. をgit cloneしてください。
ディレクトリ構成
/(repository root)
- LICENSE
- README.md (This file)
+ dash
- README.md (Test environment building guide)
+ gettext.sh
- hello.mo
- hello.sh
- messages.po
- messages-1.po
- messages-2.po
- ja.po
+ locale
+ ja
+ LC_MESSAGES
- hello.mo
message.poに枝番をつけたファイルは、初期に xgettext
コマンドが生成したものを1、msginitコマンドが生成したものを2という風に変化を見るべく置いていました。
サンプルの実行
git cloneした所から、cd dash/gettest.shへ移動して、dash ./hello.sh
と実行してください。
私の環境では、
$ dash ./hello.sh
こんにちは世界
こんにちは世界
と、表示されます。LANGが、ja_JP.UTF-8に設定してあるからです。
それでは、LANG=C dash ./hello.sh
を実行してください。
LANG=C dash ./hello.sh
Hello World
Hello World
と表示されているでしょうか。日本語がUTF-8でない環境の人は、異なるエンコードでファイルを作成してみるのもいいでしょう。
また、日本語と英語以外を追加してみるのもいいでしょう。
プログラムの説明
プログラムそれ自体は、いわゆる "Hello World"プログラムなので簡単です。その前の各種設定についての説明が主体となります。
2023-01-20にgettextを生で使うのから、eval_gettextを使うようにサンプルを変更した。コメントで指摘していただきありがとう
ございました。おかげで私の理解が進みました。
1 #!/bin/dash -x
2
3 # 下記をやる
4 . gettext.sh
5
6 # TEXTDOMAIN=@PACKAGE@
7 TEXTDOMAIN=hello
8 export TEXTDOMAIN
9 # TEXTDOMAINDIR=/home/yabuki/lib/locale
10 TEXTDOMAINDIR=`pwd`/locale
11 export TEXTDOMAINDIR
12
13 eval_gettext "Hello World"; echo
14 echo "`eval_gettext "Hello World"`"
- 1行め:実行内容をトレースしながら動け
- 4行め:おまじない
- 7行め:実行プログラム名などを入れる。翻訳の入ったmoファイル名でもあります。
- 10行め:どこにmoファイルを置くlocaleディレクトリが存在しているか。を 絶対ディレクトリで指定します。相対ではダメです。
pwd
コマンドが効いてきます。 - 13行め:eval_gettextに文字を渡して、翻訳した結果を受け取ります。echoで改行してます。
- 14行め:echoを先に書きたい派の人はこっちを使います。この段階では、13行めと14行めの書き方は好みの範囲です。変数が関係するとエスケープの個数を変化させる必要があります。しかし、いまはこれ以上踏み込みません。
ここまでで、やりたいことの半分が達成できました。
後の半分は、ご自分で別のサンプルプログラムを作って実践をお願いします。
po ファイル作成手順
- xgettextコマンドで、shell scriptから、翻訳すべき文字列を取り出す。指定がなければmessage.poファイルを生成する。
- msginitコマンドで、ロケール情報、扱う文字列のエンコード情報などの情報をあたえて、日本語で指定がないなら、ja.poファイルを生成する。
- 好きなエディタで、poファイルを編集する。
- 翻訳ができあがったらmsgfmtコマンドでmoファイルを生成します。その時ファイル名はTEXTDOMAINと合わせること。
- moファイルができたらつぎのようにします。
- TEXTDIMAINDIRで指定されている
pwd
/localeを起点として、ja(地域と同じ)のディレクトリ配下にLC_MESSAGESのディレクトリがあることを確認します。英語圏ならjaの代わりにenです。フランス語ならfrです。同一地域で複数言語ならbn_ID,bn_BDになるのでしょう。en@arabicのような表記については不勉強なのですいませんがわかりません。 -
pwd
/local/ja/LC_MESSAGES/ファイルをコピーします。
プログラムを作っているプロジェクトの構成に応じて、もっと柔軟に変更できる例を出すことができるといいのですが。
プログラムを開発していくと表示するメッセージが増えたり、減ったりするのも普通にあります。また対象となるプログラムファイルが単一だとも限りません。
上記については別の機会に書きたいです。いまでも充分長い文章なので。他のひとが書いてくれるかも知れないし:-)
背景
gettext とは
gettextとはロケール(Locale)にしたがって、日本語、英語など複数の言語を表示するしくみです。Unix系のOSであれば、localeにしたがって画面に表示する文字を切り替えることができます。
身近な所でお使いのターミナルで、echo $LANG
を実行してください。わたしの環境では、下記のように表示します。(Debian GNU/Linux Sid, bash)
$ echo $LANG
ja_JP.UTF-8
いま見てもらったのは、端末(Terminal)で、日本語入力や表示をする仕組みの一部です。
書いたプログラムにgettextを適用し、先ほど見たLANG環境変数によって表示する文字列を切り替えます。英語から日本語のように。ちなみに、先ほどのLANGにCを代入することで、一時的に文字列を英語にして、プログラムでパースしやすくするというテクニックをご存知のひとも多いでしょう。
日本語を扱う[3]場合には、最近のUnix系システムでは、UTF-8というエンコード[4]を使っています。なので、日本という地域の日本語をUTF-8エンコードで扱います。という宣言をしています。
地域によっては、小数点がdotだけでなくcommaのことがあります。また数字の区切りが3桁や4桁、それ以外など異なっています。このように元が同じデータであっても、その地域に応じた表示を必要とします。
gettextは、そのうち表示文字について翻訳する部分を担当しています。
gettextを使ってプログラム作成から翻訳を入れ、表示する文字を切り替える一連の作業は、技術者の間では、 gettextizeと呼びます。
技術者の間では、会話の情報密度をあげるのに複数のことがらを1つにまとめる言葉を専門用語として使っていることがあります。
gettext を使う手順
- gettextを適用するオリジナルのプログラムを作ったり、見つけて改変します。どのように改変するかは、後述します。
- xgettextコマンドで翻訳対象とする文字列が入ったファイル、(指示をしなければ)message.poファイルを作成する
- msginitコマンドで前述のmessage.poファイルを入力とし、コマンドラインから取得した情報を入れてja.poなどのファイルとして出力します。[5]このプログラムを使うと手で書く部分が減って間違いが減ります。
- ja.poを慣れているエディタで開いて翻訳します。多くのエディタ(vimやEmacsなど)はpoファイルを編集するのに便利な機能を提供しています。余裕があれば調べておくと良いでしょう。
- 人間が読みやすいja.poファイルから、msgfmtコマンドを用いて、gettextプログラムが扱いやすいmoファイル形式へ変更します。
- 生成された、既定のファイルをプログラムが読み取る場所にコピーします。
shell script における gettext 対象
プログラムの説明でもでてきたgettext "foo" のfooが翻訳対象になり、LANGの値によって書き換わります。
xgettext コマンド
対象とするブログラム(po4aの場合は文書)内の文字列をスキャンして、指定がないときは、 messages.poを生成します。プログラムの開発が進むと表示すべき文字列の増減や変更はしばしばあります。
その変更に追従するためgettextコマンドを実行する必要があります。そうやって翻訳内容を追従させるのです。
必要に応じて man 1 xgettext
を参考にしてください。いくつか書く必要があるオプションを書き出します。
- -Lまたは --languageオプション今回の場合なら -L "shell"を渡します。(C, C++, ObjectiveC, PO, Shell, Python, Lisp, EmacsLisp, librep, Scheme, Smalltalk, Java, JavaProperties, C#, awk, YCP, Tcl, Perl, PHP, GCC-source, NXStringTable, RST, Glade, Lua, JavaScript, Vala, Desktop) が対象のもようです。これはmanからの引用なので、ソースコードは確認していません。
- 入力ファイルやディレクトリを指定するオプション
- 出力ファイルやディレクトリを指定するオプション。とりわけdefault-domainはそのプログラム名、またはプロジェクト名の概念なので、インターネットのドメインと取り違えないように。
- 既存のファイルに追加する -j --joinexisting
- TAGという概念 (調べて書く必要がある)
- コメントどのように使うかは例示がいるか。
- --checkでunicodeの妥当性チェック (ellipsis-unicode, space-ellipsis, quote-unicode, bullet-unicode)
- --copyright-holder=STRING poファイルの翻訳をした著作権者を書く(著作の管理に関する事項です)
- --foreign-user omit FSF copyright in output for foreign user
- --package-name=PACKAGE set package name in output
- --package-version=VERSION set package version in output
- --msgid-bugs-address=EMAIL@ADDRESS set report address for msgid bugs msgidに不具合があったときの連絡メールアドレスを設定する。
パッケージの概念や、バージョニングの概念自体はどういう風にするかは裁量があるのだろう。
翻訳による著作権の話は発生する。とだけ書いて済ましたい。プログラミングから翻訳まで全部同一人物でやるなら、なんら問題はない。
問題となる前に対処して置くのがいいでしょう。具体的には翻訳結果も取りまとめて管理するか、 翻訳はすべてソースコードと矛盾しないオープンソースなライセンスにするなどです。
msginit コマンド
man 1 msginit
を読もう。
msgfmt コマンド
man 1 msgfmt
を読もう。
参考にしたドキュメントたち
-
GNU gettext utilities: Preparing Shell Scripts
- 同じドキュメントは、Debianのgettext-docパッケージをインストールすると、/usr/share/doc/gettext-doc/gettext_15.htmlで読むことができます。Offlineで集中したい人は、あらかじめパッケージをインストールして、お好きなブラウザで、ローカルファイルを指定して読んでください。
-
GNU gettext utilities: Preparing Strings
-
gettext API - Oracle Solaris でのアプリケーションの国際化とローカライズ
- gettext のコマンドラインツールを使おう: SuperTuxKart を例に - Qiita
man 1 xgettext
man 1 msginit
man 1 msgfmt
謝辞
下記の「参考にしたドキュメントたち」を読んで、試しながらこの文章と、試した結果を手元でも再現できるリポジトリを作りました。gettextを
shellで使えるように整備してもらい、この文章ができました。ありがとうございます。
さいごに
件名 | 日付 |
---|---|
記事を書いた日 | 2020-12-11 |
記事を変更した日 | 2024-10-23 |
上記は、この記事の鮮度を判断する一助のために書き手が載せたものです。
詳細な変更履歴は、 GitHub - yabuki/friendly-potato: zenn-contents を参照してください。
記事に対するTypoの指摘などは、pull reqをしてもらえるとありがたいです。受け入れるかどうかは、差分とPull reqの文章で判断いたします。
-
Internationalizationつづりが長いので真ん中と最後の文字を18文字省略しているとの意味です。 see also I18N(国際化対応) - MDN Web Docs 用語集: ウェブ関連用語の定義 | MDN] ↩︎
-
細かい話をすると、そこには何が入るのかについて、IETF言語タグの話 IETF language tag - Wikipedia とかISO 639-1の話や言語コード毎にジャンプできる ISO 639-3 - Wikipedia の話をする必要があるのかもしれませんが、ここはふんわりとした理解でまずは慣れよう。という記事です。 ↩︎
-
文字コードの符号化について、エンコードも説明する必要があるかも知れないが、符号化以上にもろもろをコンパクトに説明するほど理解できていないので、他の本や文書を参照してほしい。 ↩︎
-
ja.poファイルって、確かに日本語の翻訳ファイル名ということで納得していました。が、msginitに
--locale=ja_JP.UTF-8
を与えることで、ja_JP.UTF-8
がTokenizeされて、ja.poのファイルないに展開され、出力ファイル名も日本の地域=jaを表すファイルが生成されて、納得度が高まりました。 ↩︎
Discussion
全体的な内容は良いのですが、この記事では肝心の
gettext.sh
が使われていません。gettext.sh
はeval_gettext
関数とeval_ngettext
関数を定義します。その関数の内部でgettext
コマンドを呼び出していますが、この記事ではgettext
コマンドを直接使用しているためgettext.sh
を読み込まなくても動作します。ちなみに
eval_gettext
関数とeval_ngettext
関数は変数の値を埋め込むという追加機能を提供しています。コメントありがとうございます。
プログラム中で gettext.shをsourceしているので、使っているという認識でした。
が、なくても動作していたのですね。
eval_gettext関数と、eval_ngettext関数の紹介もありがとうございます。勉強になりました。
gettext.shの中を見て、下記のようになっているのを確認しました。shellのevalよりこっちの方が良いというのを知って勉強になりました。
教えていただいた内容を反映した記事をgit pushいたしました。ありがとうございました。
シェルスクリプトの国際化・多言語化の完全解説(POSIX準拠 / gettext.sh / bash / ksh) - Qiita
この記事、わたしはとても勉強になりました。
ある程度詳しくなって、環境の違いにハマったら読み返したいです。かなり詳しく書いてあり、こういう記事に出会えるのが、インターネットの醍醐味だというのを久々に思い出しました。