台湾のOSS大会・COSCUPに登壇して面白いと感じたもの
8月9日から10日にかけて、台湾の台北科技大学で開催されたCOSCUP 2025という技術カンファレンスに参加・登壇しました。
日本からの参加者も一定数いましたが、台湾やその文化にそれなりに慣れている者の立場で中身を紹介したいと思います。
COSCUP(開源人年會)とは
(https://coscup.org/2025/ からヒーロー画像を転載)
COSCUPはConference for Open Source Coders, Users and Promotersの頭文字で、台北で年に1回、8月のこの時期に開催されます。
OSSの開発者だけでなくユーザーやプロモーターも含めた、オープンカルチャーの愛好者の大会と位置づけられています。
開源人年會という名称も、オープンソースが台湾華語で開放原始、つづめて開源となることに由来します。
議程表を見てもらうとわかる通り、20以上の会場でセッションが並行する非常に大規模なカンファレンスです。
自分がこのイベントについて知ったのは、日本で同趣旨のイベントにあたるOpen Source Conference Tokyoに参加した際にCOSCUPのブースが出展していたためでした。
その時ぜひ台湾に行って参加したいと思い、せっかくなら発表もしようと決めたのが6月ごろ。
日本カルチャーネタでいこうと考え、CfPに投稿したところ採用されたので、8月9、10日は台北に行くことになりました。
(書いてて思い出しましたが、発表の時に助けてくれたスタッフさん、あのOCS Tokyoのブースで乖乖というお菓子の袋をくれた人でした)
なお、RubyConf Taiwanも同時開催されており、ロゴではCOSCUP x RubyConf Taiwanという表記になっています。
(Matzが1日目の基調講演スピーカーでしたが、自分の発表の裏で見に行けませんでした)
台湾に関するちょっとした知識
台湾で広く使われている言語は台湾華語(あるいは単に華語)で、大陸における普通話とは語用や発音の違いこそあれ互いに読解や意思疎通が可能です。英語ではどちらもMandarinとなります。
これとは別に台湾語、彼らの言葉で台語(タイギー)という、台湾全体における方言のような言語があります。
さらに台湾は数十の民族で構成されており、これら以外にも多くの言語が使われています。
最大の都市は台北ですが、ほかにも高雄、台南、台東などの都市が存在し、国際空港もいくつかあります。
通貨は台湾ドルで、⚪︎⚪︎元と表記されます。だいたい1元が5円程度で、計算がしやすいです。
市内の各地点はバスおよび地下鉄(捷運)でつながれており、EasyCard(悠遊卡)と呼ばれるICカードを使うと便利です。短い距離であれば30元もしません。
前夜祭
前日8日の18時から前夜パーティーがあり、自分は発表者なので無料で招待されていましたが到着の飛行機が間に合わないため、遅れて20時すぎになって参加しました。
テーブルには話せる言語やステータスを示すいろんなシールがあり、コミュニケーションの助けとしていました。
ビュッフェがもう空になっていたので、同時に遅れてやってきた同年代の青年と話してみたところ発表の内容や日本から来ていることに非常に興味を持ってくれ、写真も一緒に写って撮りました。
彼は台湾の言葉を使うことに誇りを持っていて、筆者が話す普通話寄りの中国語ではなく、拙いながらも英語で話すことを望み、ときどき台語の単語を教えてくれました。
さらに帰りの方向も同じだというのでホテルまで案内してくれました。若干数残っていたお弁当を持って帰ってきていたので、部屋で一人で食べました。
発表セッション
発表は多くが中国語または英語で行われました。メインステージの発表では、中国語の発表にも英語の同時文字起こしがついていました。
2日目の基調講演は台湾に地理的に近い廈門(シアメン)出身のスターOSS開発者・Anthony Fuさんでした。中国語で話すアンソニさんを見るのはレアな機会です。
こちらは「量化求職(Quantified Job Hunting)」を冠するセッション。途中から会場に入ってきた参加者がスピーカーの質問に返す答えが3分以上にわたり、さながら大学のゼミのような白熱さに圧倒されました。
最後はドローンで全体撮影していたのが面白かったです。
中国大陸で最大のオープンソース団体である開源社によるセッションもあり、DeepSeekで日本でも一躍着目されるようになった中国OSS開発の現場もついでに知ることができました。
ブース展示
ブースは数はそれほど多くないながらも、多種多様な企業や団体から出展がなされていました。
こちらはFramework Laptopというモジュール式ラップトップの中身を見せてもらっている様子。PCはもとより携帯電話もプロバイダで購入するのが一般的な我々にとって、ノートPCまでカートリッジのような部品を組み合わせて自分で作らせるような製品が成立しているのは驚きでした。
こちらはW3Cのアジア・パシフィック支部であるWeb Consortium APACの方々。USBに関連しているらしいグッズをくれましたが、いまだに使い方がよくわかっていません。
オードリー・タンさんの活躍で日本の開発者コミュニティでも一時期話題になったg0v(零時政府)からもブースが出ていて、自分が日本からの参加者だとわかるとシビックテックプロジェクトとコミュニティに関する手引書を渡してくれました。ちょうどこのようなコミュニティの立ち上げを考えていたところで、内容も非常にしっかりしたもので大変参考になっています。
どのブースか忘れたのですが、ノートPCのステッカーがかっこよすぎたので写真を撮らせてもらいました。これぞ私が好きな東アジアという感じです。
クロージングにはLT大会がありました。これが一番の盛り上がりイベントらしく、発表の一つ一つに観客たちが大きな歓声や笑い声で反応を返しているのが印象的でした。
その他会場周辺の様子
会場は大学のキャンパス内にあるので、近くには学生が普段使いしているカフェテリアや、豆乳やお茶を売っている売店があります。
お手頃なバイキングである自助餐は今まで試したことがなかったのですが、イベントに関心を持ってきてくれていた同僚が誘ってくれたので初めてチャレンジしました。
レストランではあえて注文しないいろいろな食べ物があり、見ているだけで楽しいです。
お弁当スタイルだとこのような紙箱やビニール袋に入れることになります。調子に乗って肉を入れすぎると100元を軽く越してしまいます。
台湾ではケモノ系キャラクターがそこそこ定着しているらしく(そういえば台北地下街Y区のマスコットキャラクターもそうだった)、着ぐるみを着た参加者にけっこうな数の参加者がついていっていました。
最初の方に紹介したシールですが、代名詞でどのように呼べばよいかを指定するシールがあるのが印象的でした。台湾のオープンカルチャーはLGBTQ+に対する人々の寛容な態度ともつながっています。
公式からも利用が推奨されていたサイクルシェアリングのYouBike微笑單車は、確かに使えると便利でした。外国人向けの登録が難しいので、事前に準備しておく必要があります。
COSCUPブースの人が教えてくれた台湾における乖乖文化が本当に息づいているのを見るのも感動でした。これは何らかの実験室の室内ですが、よく見ると緑の乖乖が安置されているのがわかります。
で、結局あなたは何を発表したの?
「同人とオープンソース:オープンカルチャー発展の比較研究と未来の展望」と題し、日本の同人誌即売会とそれを取り巻く同人カルチャーについて紹介する発表を行いました。
着想それ自体は、先に書いたように相対的に少ないはずの日本からの参加者の観点から、また最近技術書を商業出版で執筆した開発者として、同人誌即売会という日本のサブカルチャーを海外向けに紹介しようとしたものです。
しかしその核心は、オープンソース運動とその源流となった自由ソフトウェア運動がもつ、オープンであること(自由であること)それ自体が市民の権利として追求の対象となるという、OSS開発の根本をなす思想に対する筆者のなんとなく歯が浮くような違和感を共有したかったことにあります。
方法論としてのオープンネス(あるいは自由)ではなく、楽しみや同一の関心によって醸成されるコミュニティのなかにオープンさ(自由な雰囲気)が見出されてもよいのではないか。そのような場があるとすれば、それはバザールでもましてや伽藍でもなく、たとえば日本の同人誌即売会のような場ではないか。そしてCOSCUPもそのような「楽」の場にほかならないのではないか――。
ここはZennなんであんまり学術的なことは書きませんが(いいねがいっぱいついたらそのとき考えます)、オフラインミーティングの場としての技術カンファレンスが、実はOSS開発に重要(しばしば不可欠)な役割を果たしているかもしれない、ということを伝えようとしました。
あいにく発表に際してはいくつかのトラブルもあり、十分に伝えきれたとは言い切れないのですが、少しでも自身の観点がオープンカルチャーに貢献できていたらいいなと思いました。
ギャラリー
おまけとして、夏の台湾の様子を写真でご覧ください。
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