それでも僕はデジタル庁の取り組みを応援したい

2021/05/14に公開

はじめに

デジタル庁が note での発信を始めました。

デジタル庁は「行政の透明化」を掲げ、noteでの発信を始めます。|デジタル庁(準備中)

新しい取り組みで話題性抜群ということもあり、ネット上では好意的な声と否定的な声が溢れていますね。

  • 好意的な声
    • 堅苦しいサイトよりも note をチョイスした点
    • 迅速な取り組み
    • ドメインに go.jp を使用している
  • 否定的な声
    • なぜ数あるサービスの中から note を選択したのか
    • セキュリティやデータの取り扱いポリシーに対する指摘
    • note の記事は公文書(行政文書)になるのか、note の記載されたコメントはコメントした人の保有個人情報(行政文書に記録された私の個人情報)として本人開示請求の対象になるのか
      • 感想: 高木先生らしい着目点ですよね
    • note はエクスポート機能がない、民間サービスなので持続性に問題がある
      • 感想: これ、独自ドメインを使っているので note pro でしょうが、そっちも同じなんですかね…

上記に書いた否定的な声は TL を 10 分くらい眺めてサラッと抽出したものだけで、中には感情的な声もあって、「僕が中の人だったら正直病むわー」と思いました…(笑)。でも、この否定的な声を拾い上げることはとても大事なんです。

クラウド活用の話

この note が公開された前日の 5 月 12 日から 2 日間に渡って、AWS Summit Online 2021が開催されていました。TL 上の全エンジニアが感動した DeNA 南場様の登壇も含めて、既に基調講演の動画が公開されています。また、5 月 31 日まではオンデマンドセッションの配信もやっていますので、是非見てくださいね (ここまで宣伝)。

https://aws.amazon.com/jp/events/summits/online/japan/

その DAY 1 の基調講演で触れられていますが、クラウド活用を検討する上で必要な 6 つの視点として、AWS Cloud Adoption Frameworkの重点分野が紹介されています。そして、これらの視点のうち、技術的な視点から見た課題にフォーカスしがちですが、実際には非技術的な課題の方がより大きな部分を締めている、ということが語られています。また、技術的な課題はある意味、世界中のお客様が共通して持っている課題になりますが、非技術的な課題は企業や組織ごとに異なり、自らで解決していくしかありません。

この話を聞いた時「ほえー、なるほどなー (小並感)」となったんですが、これってクラウド活用に限った話ではなく、何か新しい取り組みを始める時に共通した話ではないでしょうか。

技術と非技術のはざまで

閑話休題。

否定的な声の中には、感情的な声や、単純に「行政の取り組みには期待していない」という過去の経験からの諦めのような意見もありましたが、前述した否定的な声はどうでしょうか。

特定の民間サービスを選択した基準・過程の透明性や公平性。そこに書かれた内容の法的な取り扱い。民間サービスの持続性。持続できなくなったとしたときのデータの可搬性、他諸々。デジタル庁自身が掲げている、デジタル社会形成における 10 原則とも重なっています。そして、どこかの IT 企業が「テックブログはじめました」って note を使って公開しても、こんな話が話題に上がることはないですよね。すなわち、これはデジタル庁特有の「非技術的な課題」なんです。非技術的な課題は企業や組織ごとに異なり、自ら(デジタル庁)で解決していくしかないんです。

特に僕らエンジニア上がりの人間は、デジタル庁と聞くと技術的な課題にフォーカスしがちです。やれマイナンバーカードを何とかしろ、やれ FAX を廃止しろ、法律を GitHub で管理して Issue や PR を送らせろ、等。あ、最後のやつは僕の意見です。デジタル庁に採用された方も、中にはそういった技術的な課題にフォーカスしたくて入庁された方も多いのではないでしょうか。

でも僕は、デジタル庁に求められる仕事は技術的な課題だけではなくて、むしろ非技術的な課題の方がずっと多いと考えています。沢山の否定的な声があるでしょう。その 1 つ 1 つを拾い上げて、ルールややり方を変えてはいけないもの、ルールはそのままにやり方を変えるもの、ルール自体を変えないといけないものに振り分けて、実際に変えていく。それを継続的に見直す。それをデジタル庁だけがやるのではなく、他の中央官庁、すべての地方自治体に広げていく。その過程、その先に、やっとエンジニアの出番である「技術的な課題」が出てくるんです。

具体例

良い例が思いつかなかったので、例えばこれ。

https://twitter.com/HiromitsuTakagi/status/1392998765095575556

前述の好意的な声の中にも「ドメインに go.jp を使用している」というものがあります。僕自身も、行政機関や企業の期間限定のキャンペーンサイト、アニメの公式サイト等でドメインが失効した事例を知っているので、好意的に見ていました。でも高木先生が書いている通り、現行のルール=政府機関等の対策基準策定のためのガイドライン (PDF)に触れるという解釈があります。

僕はこの手の行政文書を読み慣れていないので、仮に、この解釈が正しかったとします。貴方がデジタル庁の職員なら、ガイドラインを変えますか、変えませんか。いや、内閣サイバーセキュリティーセンター (NISC) のガイドラインだから勝手に変えられないかな。ガイドラインを変えないのだとしたら、デジタル庁自身がやらかしたように、統一基準に則っていない go.jp ドメインの使用が制度的・技術的に可能な状態です。どう未然に防ぎますか。あるいはどう事後に発見しますか。

ガイドラインは事前にちゃんと読んどけ、と。なるほど。でも、このガイドライン、300 ページ超ありますよ。このガイドラインが置かれている「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群(平成30年度版)」についてのページ、PDF ファイルへのリンクが 8 つもありますよ。内閣サイバーセキュリティーセンターから最新の統一基準群を探してこのページに辿り着かないといけないんですよ。まあ、やってもいいけど、一から十までそんなことやってるから、今の日本のデジタル行政があるんじゃないですかね。僕が中央官庁や独立行政法人の情報システム担当の職員だったとしたら、やらかさなかった自信は全くないですね。僕、自分の処理性能は全く信頼していないので(笑)。

ガイドラインを変えないのだとしたら、go.jp は使えません。僕らエンジニアは、ドメインが失効しないようにする技術的な提案なら色々提案できますよね。では、そのドメインを維持する予算は、単年度ごとの予算が基本(だが唯一ではない)となっている今の行政で、どのお財布からどうやって捻出しますか。そう、go.jp の取得も費用が掛かるんですよ。お財布と言っているのは民間では管理会計と呼ばれているものです。予算、会計かあ…。下手すると法律や政令に関わりますよね。それを変える必要があるとなったら、デジタル庁の職員は議員ではないからどうすればいいんだろう。逆に go.jp を今使っている行政機関はどうやってるんだろう。僕は公務員じゃないのでよく分かんないですけど。誰にどうエスカレーションして実現しますかね。平井大臣に相談するか…って、御社では、社長に「弊社のサービスで利用しているドメインのことなんですけど…」って気軽に相談できますかね。まあ、デジタル庁にも他の省庁から出向や異動をしている行政に詳しい方がいらっしゃるだろうけど、その方に聞けばいいのかな。

勘違いをしてほしくないのは、既存のガイドラインを蔑ろにして良いと言っているわけではないんです。既に指摘されている事項も、次の発信で国民に対して説明し、ものによっては対策をする責任がデジタル庁にはあります。

「実際には非技術的な課題の方がより大きな部分を締めている」「非技術的な課題は企業や組織ごとに異なり、自ら(デジタル庁)で解決していくしかない」と言っているのはこういうことです。そして、そこら中に地雷が埋まっている。go.jp ドメインの使用 1つ取ってもそうであるように。デジタル庁が取り組むべき本当の課題は、そういったものなのです。
// それはそれとして、マイナンバーカードの使い勝手、何とかしてほしいですけどね。

それでもデジタル庁の取り組みを応援したい

初っ端からつまづいたね。あーあ、期待してたのに。やっぱりデジタル庁には期待できないな。そんな声を、デジタル庁の中の人はきっとこの先、何度も聞くでしょう。

それでも、僕はデジタル庁の取り組みを応援したい。僕はクラウド活用。彼らは行政のデジタル化。戦う戦場は違うけれど、IT を使って世の中を変えたいと思って戦場に足を踏み入れた仲間だから。

定番のアレ

あれ、ポエム書くつもりだったのに、なんか色々 (AWS Summit Online 2021 や AWS Cloud Adoption Framework) 紹介しちゃったな。面倒なので、一応 "アレ" を貼っておきますね。

SNSでの発言は個人の見解であり、所属する組織の意見や立場を代表するものではありません。

以上、チラ裏でした。

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