サッカーから学ぶプロダクト組織の成長

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突然ですが

皆さん、サッカーを観たことはありますか?

読者の大半は普段エンジニアをされてる方だと思いますが、サッカーがテレビで放送することがなかなか少なくなり、サッカー離れと言われて久しい昨今、

サッカーはオリンピックとワールドカップ以外で観たことないな…

いやいやサッカーは今まで一度も見たことがないよ!

という方も多いのではないでしょうか。

そんなサッカーですが、実はプロダクト組織について考えるとき、意外にもヒントになる点が数多くあります。特に戦術論は、筆者を含むソフトウェアエンジニア、あるいはプロダクト開発に携わる方々にとって非常に示唆に富んでいるのではないかなあと思います。

この記事では、“組織と個人の関係”をサッカーになぞらえて考えてみます。現場でプロダクトづくりに関わる人にとって、何か学びになれば嬉しいです!


1. チームメンバーの配置や構造の重要性

サッカー界ではよく、4-4-2や3-4-2-1などのフォーメーションは、「ただの“電話番号”に過ぎない」と言われます。

フォーメーションとは、サッカーにおける選手の初期配置を、守備側から攻撃側へと縦に向かってまとめた人数を表したものです。例えば

  • 4-4-2は、最後列に4人、中盤に4人、最前列に2人。
  • 3-4-2-1は、最後列に3人、中盤に4人、前列に2人、最前列に1人。

といった具合です。あくまで基準となる配置なので、試合の中で状況に合わせて選手が自律的に動き、変化していきます。

ただ残念ながら、フォーメーション論については、4-4-2?や3-4-2-1?とか、初めて見た人からすると非常にとっつきづらく、訳のわからない小難しい言葉を並べたところでただの数字遊び、ただの机上の空論であって、実際に試合が始まったら選手同士の個と個のぶつかり合いになるんだから、配置なんて関係ないでしょ!という風に激しい拒絶反応を生んでしまいます。それが、最初に述べた「電話番号にすぎない」といった反応を生むわけです

しかし、実際には選手の配置や関係性によって、戦術は大きく変わってきます。

フォーメーションの重要性について、サッカー解説者の林陵平さんによると…

「[3-4-2-1]と「4-4-2」ではサイドで幅を取れる選手の数が違います。タッチライン沿いに立つ選手は「3-4-2-1」だとウイングバック[1]だけ、[4-4-2]だとサイドバック[2]とサイドハーフ[3]の2人で……」とコメントし、日本代表が6月に披露した堂安律と中村敬斗をウイングバックに起用する超攻撃システムの意図も考察した。

出典: https://note.com/wbsports/n/n314e150881aa

まってまって、そっと×ボタンでブラウザを閉じないで。

急に専門用語出すなや!!!😡😡😡 というみなさんの声が聞こえてきそうです

要は、選手が原則としてどこに立つか?選手にどのような役割を与えるか?選手同士の立ち位置や、近くにいる選手との相性の良しあしはどうか?が、試合の戦い方や勝敗に大きく影響するよ!ということです。

プロダクト組織で言えば:

組織図やチーム名も同様です。「バックエンドチーム」「デザインチーム」「PMチーム」「商品開発チーム」といった名称だけでは意味がなく、その中で誰がどこにいて、どんな関係で動いているかが肝です。部署のラベルだけではなく、連携・配置・役割設計にこそ意味が宿ります。そのためには、普段から関係するメンバー同士がコミュニケーションを円滑に行うことができるという状態を、いかに設計するかが重要であると考えています。そうでないと、チーム間で情報の格差が生まれ、認識の齟齬が多発し、適切に連携しあうことが難しくなってしまいます。

(個人的には、重要だけど意外と見落としがちなポイントだと思います)


2. 個人戦術とは“判断と実行”の連続である

サッカーにおいて個人戦術とは、「状況に応じて最適な判断を下し、それを即座に実行できる能力」だと言われます。これは単なる技術(ボールの扱いの上手い下手)ではなく、知覚 - 判断 - 行動の連動です。

サッカーにおいては、自分を取り囲む状況はコンマ1秒単位で変化します。1本のパスが通るか通らないか、1本のシュートが打てるか打てないか、1回のドリブルが成功するかどうかは、自分と味方との距離感、ピッチの状態(芝が綺麗かそうでないかとか)、敵の守備の準備が間に合っているかいないかなど、さまざまな要因に左右されます。点が入るか入らないかはこのような行動の連続ですから、つまり1点が決まるか決まらないかは、わずかな時間の中で選手が判断、実行してプレーしていくことが重要であるということです。監督が全て細かく指示している暇はありません。

プロダクトづくりにおいて:

自分の役割を超えて状況を読み、「今、なにが一番価値に直結するか」を自律的に判断し行動できる人が、チームにとってのキープレイヤーです。仕様を考える、コードを書く、デザインする——それだけでは不十分な局面がいずれ訪れます。現代社会のように不確実性の高い状況では、判断力と行動力は、すべての職種にとって“個人戦術”なのです。

新規機能の開発時、最初に出てくる仕様は仮説に過ぎません。なぜならば、「本当にユーザーが求めるもの」は、多くのケースでユーザー自身すら知らないことが大半だからです。なのでその仮説の背景にある「なぜこの機能が必要なのか」「どんなユーザーがどんな状況で使うのか」に踏み込むことで、UI設計やデータ構造、実装方針が大きく変わることは珍しくありません。

例えばあるエンジニアが、開発チケットに記載されたページの改修仕様をそのまま実装せず、プロトタイプを見たり、開発チケットの文脈を読み込んだ上で「そもそもこの選択肢はユーザーの現場では使われないのでは?」と提起するとします。結果として、その部分は削除され、開発期間は短縮され、UXも向上するといったことはよくあります。

これはまさに“個人戦術”の好例です。自分の専門領域だけで判断せず、全体を見て考え、チームにとって最も良い選択を即座に実行できる――こうした振る舞いが、プロダクトの質とスピードを引き上げるのです。

職種を問わず自分の判断が価値を動かす、動かせるという自覚を持つことが、個人戦術を高める第一歩なのではないかと思います。

(余談ですが、自分の判断によって価値を動かせるかどうかは個人の裁量などの組織設計にも依存しますね)


3. システムは“可変”であるべき

現代サッカーでは、システム(フォーメーション)は流動的であることが前提です。選手は試合中に役割を変え、ピッチ上の状態に応じてポジションをスライドさせます。例えば、通常守備的な役割を持つとされる最後列の選手が、攻撃時にはドリブルで駆け上がってシュートを決めることもありますし、反対に敵の激しい攻撃を受けるシーンでは、本来攻撃を主担当とする最前列の選手が、自陣のゴールギリギリまで全速力で戻って守備をすることもあります。

プロダクト開発でも:

「自分の役割はここまで」と決めつけず、開発フェーズやチームの課題に応じて、柔軟に動けることが求められます。コードを書く人がビジネス課題の背景を深掘りし、ユーザーエクスペリエンスをまとめる人が技術的実現性を確認し、デザインする人が運用やQAのしやすさまで見通すーーー。そうした越境が自然に起こるチームは、環境変化に強くなります。もちろん職責はありつつも、「プロダクトを良くする人」たちの集団ができていく。そうして生まれる一体感が、チームの絆をさらに強固にし、より良いプロダクトを生み出す源泉となっていくのです。


4. 優位性の3要素:質的・数的・位置的

サッカーでよく使われる戦術用語に「質的優位」「数的優位」「位置的優位」という概念があります。

  • 質的優位:能力で勝る人を適所に置く
  • 数的優位:人数で囲んで状況を優位に保つ
  • 位置的優位:有利なポジショニングを取る

この3つの優位性を意識することで、サッカーではゴールへの道筋が開けます。では、プロダクト組織に置き換えるとどうなるでしょうか。

プロダクト組織で言えば:

質的優位 = スペシャリストを正しい文脈に置く。
例:検索機能を改善するなら、アルゴリズムやUX、インフラを横断して設計できる人を初期設計段階に入れる。

数的優位 = 課題のフェーズや緊急度に応じてリソースを厚くする。
例:新規プロジェクトの立ち上げ初期にQA・CS・エンジニア・PMを一時的に集中投入し、早期に方向性と摩擦点を洗い出す。

位置的優位 = 情報が自然に集まる場所や立場にある人を活かす。
例:CSや営業が拾ってくる顧客の生の声を設計に反映するために、彼らを意思決定の場に同席させる。

これらは単なる“人の配置”の話ではありません。

たとえば、実力のあるエンジニアがレビューでしか発言権を持たないような環境では、その人の知見を活かしきれません。逆に、意思決定や上流の検討段階にその人が配置されていれば、より本質的な解決策の模索・設計が可能になります。(の優位)

また、プロダクトの“詰まり”が起きている箇所に人を追加し、数的に余裕をもたせるだけで、心理的・構造的なボトルネックが一気に解消することもあります。(の優位)

そして、情報が一部の人にしか届かない構造では、誰もその優位性を活かすことはできません。例えば、エンジニアが実装を完了してから法務チェックが入り、法的な懸念が指摘されるといったケースでは、適切なタイミングで適切なメンバーをアサインすることができていないと言えます。「しかるべき場所にしかるべき人がいる」「最適なタイミングで最適な役目を(質的優位の人じゃなくても)任せる」 
ことが重要です。(位置の優位)

この3つの優位性を丁寧に設計すること。
それは単に人を“集める”のではなく、“活きる場所”をつくることに他なりません。

この3つを意識して配置と連携を設計することで、チームは本質的に強くなります。


まとめ

ここまで読んでくれたあなたは、サッカーの戦術分析とプロダクト組織って実は共通点が多くあるんだなと思っていただけたのではないでしょうか?

いや多くはないかな…ちょっとでも感じてくれたいいな…

筆者の懸念はさておき、

  • 各自が「今この場で、チームが最も価値を出すために自分ができる行動は何か?」を常に考えられるか?
  • 組織がそれを支え、流動性・越境性・自律性を許容できているか?

この両輪が揃ってこそ、プロダクトも、チームも、個人も前に進めるのだと思います。

"個人"と"組織"が両立しているか? 今一度考えてみるのも良いかと思います。

そして最後にもう一度、プロダクト開発に関わる全てのひとへ。

みなさん、サッカーを観ましょう。

脚注
  1. ウイングバック:3-4-2-1などの3バック(または5バック)において、中盤4人のうち、左右外側に配置を取るポジション。(日本代表チームでの)三苫薫など。 ↩︎

  2. サイドバック:4-4-2などの4バックにおいて、最後列4人のうち、左右外側に配置を取るポジション。長友佑都など。 ↩︎

  3. サイドハーフ:4-4-2などの4バックおいて、中盤4人のうち、左右外側に配置を取るポジション。中村俊輔など。 ↩︎

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