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土地神様はチューリング完全! お主、あの祠でNANDゲートを実装したのか!?

2024/10/19に公開

はじめに

X(旧Twitter)を眺めていたら海外のインフルエンサーが鳥居で懸垂をして炎上していました。

https://x.com/masanews3/status/1845718637912711635

これは天罰が怖いぞとも思ったのですが、こんな疑問も浮かびました。

「神様を怒らせてしまった場合、国外逃亡はそのお怒りから逃れる手段として有効なのか?」

逃げることが不可能であれば地球上のどこにいても罰が当たっておしまいなのでチート過ぎて面白くないですが、日本にはその土地に根付いた土地神さまも多くいます。ひょっとしたら遠くまで逃げれば一時的にそのお怒りから逃れることは可能かもしれません(その土地に戻れば命はないかもしれませんが)。

さて、その場合に問題となるのは、晴らされることのなかった土地神さまのお怒りはどうなるのかという点です。そのお怒りが地域住民に降り注ぐようであれば、その土地に住む住民たちは余所者絶対許さないマンになっているはずです。日本人が平均的にもう少し穏やかなタチであることを考えれば、多くの土地神さまは余所者からの不敬に対して地域住民に八つ当たりをするような荒ぶる神ではないようです

ですが、その土地に住まう者が土地神さまに大変な不敬を働いたらどうなるでしょうか?普段から守っている地域住民から蔑ろにされたら、さすがの土地神さまも荒ぶるかもしれません

そして私はふと思ったのです。もしこの仮説が正しいならば……

土地神さまはチューリング完全なのでは?

土地神さまは人間からの不敬という入力に対し、地域住民か余所者かを判定して出力を変えるような装置とみなすことができます。これは少し工夫をすれば計算機として機能するのに十分なポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。

まずは土地神さまの行動原理を以下のように仮定します[1]

  1. 土地神さまは人間から不敬を働かれるとお怒りになる
  2. 土地神さまの守る土地から十分に離れることで、そのお怒りからは一時的に逃れることができる
  3. 不敬を働いた人間が地域住民であった場合、土地神さまは一定時間内にその土地にいるすべての人間を滅ぼす
  4. 不敬を働いた人間が余所者であった場合、土地神さまはその土地にいる人間に何もしない

今回は土地神さまのお怒りの影響と議論の展開が分かりやすいように、そのお怒りに触れた者は滅びるとしています。実際は罰が当たったことを判定できれば十分です。

この仮定が成立するような土地神さまを見つけてくれば、以下のように NAND ゲートを構成することが可能です

  1. 人間z _ 0に予め土地の中にいてもらい、人間z _ 1には土地の外にいてもらう。また、入力となる人間x, yを用意して土地に入ってもらう。
  2. 人間x, yは同時に土地神さまに大変な不敬を働く。
  3. 人間x, yは土地神さまが荒ぶる前に全力で土地から逃げる。
  4. 一定時間後、予め土地の中にいた人間z _ 0は生きていればその土地から出て出力zとなる。
  5. 一定時間後、z _ 0が出てこなければ代わりに人間z _ 1が出力zとなる。


The torii gate can also be used as a NAND gate.

なお、働く不敬の種類は問いませんので、鳥居で懸垂する代わりに祠を壊していただいても構いません

人間x, yは地域住民か余所者のどちらかです。地域住民には0、余所者には1の記号を与えます。また、z _ 0は次の演算に利用するため、次で演算を行う土地における地域住民とします。同様にz _ 1は次の演算を行う土地における余所者です。

不敬を働いた人間x, yの地域住民・余所者の組み合わせに対して、出力は以下の表のようになります。

入力 x 入力 y z _ 0 出力 z
地域住民 0 地域住民 0 死ぬ z _ 1
余所者 1 地域住民 0 死ぬ z _ 1
地域住民 0 余所者 1 死ぬ z _ 1
余所者 1 余所者 1 助かる z _ 0

入力の中に地域住民がひとりでも混じっていれば土地神さまのお怒りによりその土地にいる人はすべて死ぬのでz _ 0は助かりません。しかし不敬を働いたのが両方とも余所者であれば土地神さまはその土地にいる住民に何もしないのでz _ 0は生きてその土地を出ることができます。

上の演算表は、以下の NAND ゲートの演算表と完全に一致します


出典: https://www.gsnetwork.com/nand-gate/

よく知られているように、NAND ゲートはそれ一種類を組み合わせてあらゆる論理回路を構成可能な万能素子です。実際に多くの計算用半導体は NAND ゲートのみから構成されています。NAND ゲートは読み書きが可能なメモリさえあれば万能チューリングマシンと同等の計算能力を持つ論理回路を構成することが可能であり、チューリング完全となります。

この場合、出力zとして出てきた人間は再び計算に使うことが可能なので、適当な無限個の客室があるホテルにでも詰め込んで保存しておけば、そのホテルをメモリとして使用することが可能です。

したがって土地神さまは、不敬型の NAND ゲートを構成し、土地の外にあるホテルをメモリにすることでチューリング完全となります

他の論理ゲートを構成してみよう

不敬型 NAND ゲートを使用して NOT ゲートを構成するには入力をひとりにするだけでよいです。

入力 x z _ 0 出力 z
地域住民 0 死ぬ z _ 1
余所者 1 助かる z _ 0

不敬型の NAND ゲートから AND ゲートと OR ゲートを構成するには、以下のようにいく柱かの土地神様を組み合わせます。

XOR ゲートの場合は、人の往来について若干のルール調整が必要になりますが、以下のように4柱の土地神さまで構成可能です[2]

その他、京都大学の講義資料から、全加算器も9柱の土地神さまで構成可能なようです。


出典: https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2012/04/2012_nougyoukikaigakujikken_14.pdf

講義資料には多数決回路やパリティチェック回路の構成方法も記されており、土地神さまだけで実に多様な演算が構成可能であることが分かります。

おしまい

今回の考察で、日本にはチューリング完全な土地神さまが御座す可能性が明らかになりました。複雑な風習がある土地は、実は土地神さまを利用して計算を実行しているのかもしれません。

土地神さまを利用したコンピュータに興味が湧いた人は、ぜひ『Turing Complete』で遊んでみてください。

https://store.steampowered.com/app/1444480/Turing_Complete/?l=japanese

他にも、土地神さまの影響範囲外で一時的にお怒りを逃れている余所者がその土地に戻ったときに天罰を受ける性質を利用して土地神さまを容量無限の記録媒体として使用することができるのではないかとも思ったのですが、今回はこの辺りでおしまいにしたいと思います。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

参考文献

脚注
  1. 地域住民が不利に見えますが、普段はその御力により守っていただいているわけですから、不敬を働いた際に連帯責任で厳罰が下るのは仕方がないといえるでしょう。余所者にはご利益もなく粗相をした際のデメリットだけを押し付ける代わりに、その土地に二度と戻らないことを条件に天罰の執行が猶予されるチャンスがあるということですね。 ↩︎

  2. 人の往来をうまくコントロールすれば、1柱の土地神さまを4回怒らせることで構成することも可能です。 ↩︎

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