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データ活用戦略とは、科学的アプローチの日常化である

2024/05/09に公開

AIグループ責任者の上杉です。

今回は、AIグループが考えるデータ活用戦略についてお話ししたいと思います。

データ活用という言葉の曖昧さ

「データは新しい石油である」と言われて10年以上が経過し、データ活用を重視する企業は珍しくなくなりました。

「データ活用」は抽象度の高い用語です。ゆえに、「データ活用」が何を指しているのかを明確に定義しないと、議論が混乱する危険性があります。

例えば、以下の業務では全てデータを扱いますが、「データ活用」と仰々しく言うことはないはずです。

  • 決算発表用のデータをExcelで作成する
  • 領収書をスキャンして精算する
  • デジタル広告を表示する対象ユーザーのIDを抽出し、広告代理店に送る。
  • ユーザーからの問合せメールに返信する

以上に限らず、ホワイトカラー業務の殆どでデータを扱いますが、「データ活用」とは言わないはずです。

「データ活用」とは一体何でしょうか?

データ活用とは科学的アプローチのこと

「データ活用」の類似用語に「データサイエンス」があります。

「データサイエンス」の「サイエンス」は、「科学的アプローチ」を指す広義の意味であり、物理や化学のような自然科学ではありません。科学的アプローチは、自然科学に限らず、工学、人文・社会学、経済学、医学などの殆どの学問にあてはまる共通の方法論です。例えば、社会学が社会「科学」と言われる所以は、そのアプローチにあります。

科学的アプローチを端的にまとめると、以下の通りです。

アイデアを、思いついたら、試して、証明する

これは、学生が行う実験やフィールドワークの考え方そのもので、証明にたどり着くために、正しいデータを取得して、正しく評価する、ことが必要です(データが改竄された論文の発表は社会問題になります)。ゆえに、<span style="color: #ff5252">科学的アプローチはデータの概念を包含している</span>と言えます。

以上の考え方は、ビジネスではどのように表現されるのでしょうか?

ビジネスにおける科学的アプローチとは

「ビジネスにおける科学的アプローチ」は、以下3ステップで表現できます。

  1. 仮説
  2. 実行
  3. 検証

「1. 仮説」とは、「事業成長を実現するアイデア」を指します。具体例としては、

  • 新規顧客獲得に向けた新しいマーケティング施策案
  • 顧客課題の解決につながる新サービス案

などが相当します。

「2. 実行」とは、文字通り、具体的な行動にうつすことです。上の具体例で言えば、

  • マーケティング施策の実施
  • プロトタイプの開発

に対応します。

「3. 検証」とは、顧客がサービスを使ってくれて、利益が出ることを示すことです。ユーザーからのフィードバックデータを取得し、統計的手法を用いて、効果を立証します。代表的手法がABテストです。

結果が良ければ仮説を立証できますが、大抵は仮説の修正を強いられます。ユーザーからのフィードバックデータを元に仮説を修正し、再実行し、検証していきます。このサイクルを繰り返すことで、仮説の精度を上げていきます。

「仮説→実行→検証」という考え方は、全く目新しくありません。「ビジネスに科学的アプローチを導入する」という考え方は大昔からあったようです。

あえて強調すべき点があるとすれば、「仮説」と「検証」の間に「実行」があるという点です。

「仮説検証」という用語がしばしばビジネスの現場で使われますが、ウェルスナビのような自社サービスを展開する企業では「実行」が何よりも一番重要です。アイデア(仮説)が湧いたら、さっさと実行してユーザのフィードバックデータを取りに行くことで、ビジネスを圧倒的に速く進めることが出来ます。

逆に、実行せずに既存データだけで何かを得ようと安易に考えてはいけない、とも言えます。20年前に流行った「データマイニング」が廃れてしまったという事実は、それを暗に証明していると考えています。


科学的アプローチを示す図

本番サービス化しないと意味がない

学問とビジネスの両方で科学的アプローチが採用できることを説明してきました。

学問になくてビジネスにある概念に「本番サービス」があります。学問は科学的アプローチを繰り返すだけですが、ビジネスでは科学的アプローチに成功したら本番サービスに移行します。

例えば、あるマーケティング施策を試した結果、利益の創出が証明できたとします。科学的アプローチの段階では期間や場所を限定して人が手動で行いましたが、範囲が限定的では機会損失になります。そこで、期間や場所の限定を解除して全面展開します。

他の例として、既存プロダクトの機能追加や新プロダクトの開発があります。利益が上がるかどうか自明でない場合、「がっつり」作りこむことは無駄に終わる可能性があります。なので、プロトタイプを作り、社員や一部ユーザーに対してテストします。利益が出ることを証明出来たら、全ユーザーが使えるようにしないと機会損失になるので、要件定義から品質保証(QA: Quality Assuarance)までの一連の開発プロセスを通じて、安定的なシステムに作り直します。


本番サービス化

本番サービス化した後は、科学的アプローチに戻ります。成功したら本番サービス化し、失敗したら仮説修正して科学的アプローチを繰り返します。

データ活用戦略の本質

「本番サービス」と「科学的アプローチ」の両輪を回すことで、企業は継続的成長を実現できます。両輪を回すためには、本番サービスの開発と運用を目的とした事業組織と開発組織だけでなく、科学的アプローチを日常的に行う組織が必要です。

AIグループは後者を体現する組織を目指します。すなわち、事業部門と開発部門の間に立ち、事業アイデアを一緒に考えつつ、各種プロトタイプを作ったり、マーケティング施策のトライアルに貪欲に取り組んでいきます。また、それを実現するためのインフラ整備も、インフラ部門と協力して進めていきます。

AIグループという名称からは、とかく機械学習や数理最適化といった専門技術が想起されがちですが、個別技術の有無はさほど重要ではありません。より重要なことは、科学的アプローチを日常化することです。それこそが、AIグループが考える「データ活用戦略」です。

明日は、iOSエンジニア 牟田 の「Swift Concurrencyによる状態遷移のテスト手法」です!
お楽しみに!

著者プロフィール

上杉 忠興(うえすぎ ただおき)

2023年4月にAIグループ(旧データサイエンスグループ)のグループ長として入社。
理論物理学で博士号取得後、大手SIerで上(コンサル)から下(インフラ)まで幅広くこなした後、同SIerと大手Web事業者で10年以上のデータサイエンス担当者及び責任者を経験。機械学習や数理最適化を用いてKPI最大化問題を解決してきた。現在は主に「AIモノ作り」に挑戦中。

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