信頼されるモバイルアプリチームを目指し実施していること
モバイルアプリチームのエンジニアリングマネージャー(EM) の北原です。
2023年7月にウェルスナビに入社して早5ヶ月。モバイルアプリチームが取り組んできたことをご紹介します。
チームが抱えている課題
情報のキャッチアップが人依存となっている
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2023年6月にモバイルアプリチームのエンジニアが入社するまで3年ほど新しいメンバーがJOINしていません。ウェルスナビはこれまで経験したいくつかの会社と比較してもオンボーディング資料は揃っていましたが、モバイルアプリチームでは3年の間オンボーディングの経験がありませんでした。
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そのため、情報量が多くこれから行う業務に対して情報キャッチアップの優先順位がない状態です。どれからどのようにキャッチアップしてよいかわからず、業務に入る前に膨大な時間を費やしてしまいます。
対応のスピード、品質がメンバー個々の能力依存となっている
- ウェルスナビのモバイルアプリは、クラッシュ率が想定以上に低く施策の対応速度に対して不満もあまり聞かれない状態でした。
- しかしながら、これは長期間従事してくれているメンバーの能力に依存しており新しいメンバーが入ってきたときにどうなるかわからない不安がありました
長期間従事してくれたメンバーの離脱により、モバイルアプリチーム(特にAndroidメンバー)の信頼度が未知数になってしまった
- 2023年8月末をもって長年Androidを対応してくれたメンバーが卒業しました。
- また、昇格やキャリアチェンジによりモバイルアプリチームを離れていくメンバーが数名います。[1]
- iOSには長年従事してくれているメンバーがいますが、Androidの最長メンバーが入社数ヶ月の私という緊急事態となっています。
- その後2名のメンバーがジョインしてくれましたが、新参者が運営するチームがどれくらいできるのか不透明でした。
わたしたち新モバイルアプリチームは、他部署からの信頼を少なくとも旧モバイルアプリチームの水準に戻すことが急務でした。
チームが目指す状態:状態目標
信頼されていなければ今後プロダクトグロースの活動をする上での障壁となってしまいます。
新しいモバイルアプリチームとなり上記の課題を解決するために掲げた目標は以下のとおりです。
新モバイルアプリチームが一日も早く各チームからの信頼度を旧モバイルアプリチームと同じ水準に戻し、
さらに旧モバイルアプリチーム以上の信頼関係を構築できるチームとなる
上記で立てた目標を達成したときのチームは モバイルアプリチームのパフォーマンスが高い状態 であり、
パフォーマンスの高い状態 とは 質の高いアウトカム(成果) を出し続けていること と定義して
質の高いアウトカムを出し続けているモバイルアプリチーム
を構築して他部署からの信頼を獲得を目指します。
質の高いアウトカムを狙って出すことはできるのか?
アウトカムは アウトプット(結果) を顧客に提供して検証することでわかるもの とし、
質の高いアウトカム を以下のように定義しました。
- 顧客が便利と感じ、喜んで消費してくれる価値
- 顧客の反応をからわれわれがわからなかったコトが明確になり、次の方向性を示すことができる価値
すべての施策でユーザーが喜んでくれるコトを提供できればよいのですが、
期待通りの結果が得られなくても次に繋がる情報が得られることも価値であると考えます。
顧客の価値を考える一例としてバリュー・プロポジションキャンパスというフレームワークがあります[2]
バリュー・プロポジションキャンパス
価値を生み出すには、顧客のゲイン(求めているもの)やペイン(悩み) を理解・把握して、仮説を立てて
ゲインを作り出すアウトプット または ペインを解消するアウトプット を生み出す必要があります。
しかしながら、顧客が求めている価値を狙って出せるのであれば苦労はしないです......。
VUCA[3] と呼ばれる現在では、さまざまな要因がさまざまな変化を高速に起こしていてどんどん予測困難な時代となっています。
また、モノを作れば売れる時代から良いモノでも売れない時代となりました。
モノ消費からコト消費へ移行し、さらにトキ消費、イミ消費、エモ消費といった言葉も生まれており
顧客が求めている価値も変わっております。
予測困難で高速に変化する状況で、1回のアウトプットにより成功・失敗の一発勝負をするのは博打です。
1%しか成功しないアウトプットを 99%成功させるには?
アウトプットで 成功する (=期待したアウトカムを得られる) 確率を 1%とすると
成功確率は
1 - (99/100)^1 × 100 = 1 %
という 1 - (99/100)^n × 100
と表すことができます。
nを施行回数として計算すると
施行回数 | 計算式 | 成功確率 |
---|---|---|
1回 | 1 - (99/100)^1 × 100 | 1% |
100回 | 1 - (99/100)^100 × 100 | 63.4% |
459回 | 1 - (99/100)^459 × 100 | 99.0% |
のように理論上は 459回実施すれば99% の成功率となります。[4]
これは施行が独立していないことが条件であり、現実問題としてこの式が完全に当てはまるかは不明ではあります。
しかしながら
期待したアウトカム が顧客が必要としているものかもわからず、実際の成功率が予測困難な状況では失敗することが明確でない限りは検証する価値があります。
顧客が本当に欲しかったものは、顧客に提供して使っていただきフィードバックを得てはじめて分かります。
そして悪い結果を早く知るほど次の対策を打てて損失を減らすこともできるのです。
一方で、
時間・金銭的なコストは有限です。そのなかで何百回もアウトプットを提供して当ててみる余裕はありません。
ですが、1回のアウトプットで学んだこと・わかったことを取り入れて生み出したアウトプットは成功確率の向上が期待できます。
成功率を2%にあげた施策を 99%にするには、計算上228回実行と約半分の施行回数で済みます[5] 。
以上のことから、われわれができることは
1回の施行で学んだことを積み上げ「仮説を立てて検証する」サイクルを高速で回し
施行の質を上げつつ施行回数を向上させていくこと が重要となります。
コントロールできる領域をしっかりコントロールする
上記で記載した通り、闇雲に出したアウトプットで顧客が本当に欲しかったアウトカムを限られたコストで得ることはとても難しいです。
顧客が本当にほしかったアウトカムを素早く提供できる一番の近道は、
**より可能性のあるアウトプットを顧客に届け続けて検証し続けることである **
と私は考えています。
アウトプットとは インプット(資源) と アクティビティ (活動) から生まれます。
コストが有限の状態でアウトプットをより可能性のあるものにするには、
インプットとアクティビティの品質を向上させる必要があります。
そしてインプットとアクティビティこそ、われわれチームが意識してコントロールできます。
今期モバイルアプリチームが実施したこと
インプットとアクティビティの品質を向上させるには
- インプットをコントロールする:メンバーの知識・技術力の向上が必要
- アクティビティをコントロールする:開発フローの品質向上が必要
よって、
モバイルアプリチーム は上記の状態目標を達成するための行動目標
「品質を上げたインプット と アクティビティ により 可能性が高そうなアウトプット を生み出し、
アウトプットを提供してアウトカムを検証する」プロセスを高速に回す
を掲げ、チームのインプットとアクティビティの品質向上を目指しました。
インプットの品質向上
- オンボーディング資料の更新し、情報インプットの優先順位を設定しました
- 入社後2週間以内にリリースできるアイテムを用意し、すぐに問題に取り組める状況を構築しました
- オープンにできる情報はできる限りオープンにして、共有し合う場を構築しました
アクティビティの品質向上
- 他部署の人も理解できるドキュメント、Draft PRを作成してから実装に入る開発フローに変更をしています。
- スプリントの概念は元々あったので、スプリントゴールを明示して目指す方向性の認識を揃えています。
- スプリント最終日にはふりかえりを行い改善施策をバックログに追加して、実行する文化を醸成しています。
- バックログアイテムを整備し、チームメンバー全員で作業内容を把握するイベントを開催を継続しています。
結果
- インプットは、私含めて今年JOINしたメンバーがワークするまでに知りたかったことをまとめて資料を作成したのでオンボーディングフローはかなり向上しました。
- アクティビティは、
モバイルアプリチーム内でチームメンバーの状況が見える化できつつある状態
に留まっていますが個人ワークから脱却しPRのレビュー品質は向上しつつあります。
まとめ
今回お話した内容をまとめた図がこちらです。[6]
現在は予測困難でなにかしらプロダクトをリリースすればすぐに利用される時代ではなくなり、
狙って質の高いアウトカムを提供し続けることが難しくなりました。
このような時代でも信頼されるチームになるためには、
- 顧客の状態から仮説を立てることができ
- 可能性があるものを素早く検証ができ
- 結果から学ぶことができ
- 得られた情報から仮説をアップデートして
- すみやかに次につなげることができる
という能力が求められます。
ウェルスナビのサービスを支えるモバイルアプリを開発するチームとして、
アウトプットを生み出すためのインプットとアクティビティの品質を向上させる土台ができつつあります。
次は改善を進めながらアウトプット・アウトカムを検証する能力の獲得を進めます。
これからもさらに顧客の信頼を構築するため、まずは社内の信頼獲得を目指し引き続き精進してまいります。
明日は、品質向上 妹川 の「QAエンジニアとして入社してからの一年間を振り返ってみる」です!
お楽しみに!
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著者プロフィール
北原 幹也 (きたはら みきや)
<プロフィール>
ウェルスナビに2023年7月入社
化学の面白さを伝える高校教師を目指して上京したが、
大学院の研究で使用したソフトウェアの不具合を自分で直したいと思い、未経験でITエンジニアの道に進む
新卒研修で出会ったAndroidアプリ・モバイルアプリ開発をバックボーンに、
モバイルアプリを提供するために必要な知識・技術を身につけ、顧客・会社・社会を幸せにできるシステムの開発を心がけている
現在は、問題の難易度がインフレして一人の能力ではどうにもならないときに、仲間の強化・問題の弱体化、
そしていざとなれば自分自身が問題解決できる白魔道士のような働き方をしたい と マネージャーに転向
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キャリアチェンジの仕組みがあること自体は大変喜ばしいです ↩︎
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Strategyzer:Value Proposition Canvas – Download the Official Template ↩︎
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Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った予測困難な状態を表す ↩︎
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ユーグレナ出雲 充 × 本郷社会部. 未来の授業 [第2回] 459回トライすれば1%の成功率が99%に!. プレジデントFamily (ファミリー) 2023年夏号. プレジデント社, p 90 - p 95 ↩︎
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1 - (98/100)^228 × 100 ≒ 99.0 ↩︎
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社会的インパクト評価の推進に向けて. 内閣府, 2016年を参考に著者作成 ↩︎
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