ブリーフセラピストが生成AIでループ図を作ったら「聴く」ことに専念できそうになってきた🐱
はじめに
筆者はブリーフセラピーの技法を使って様々なお悩み相談を受けています。ブリーフセラピーとは、相談内容から円環図(以下、ループ図と書く)を描き出して、悪循環を断ち切る(MRIアプローチ)か、良循環に切り替えていく(SFAアプローチ)セラピー技法の一種です。その過程でホープクエスションやミラクルクエスション、スケーリングクエスションなどといった様々なブリーフセラピーならでは質問技法を駆使してセッションを進めていきます。 [1]
ブリーフセラピストとしての課題:「聴けていない」問題
しかし、自分がブリーフセラピーでうまくいかないと思っている点があります。つい聴いていない場合があるのです。
自分の頭の中でループ図ができあがってしまうと、ついそのループ図に基づいて以降の質問をしてしまいます。ひどい場合は、予めできたループ図に基づいて決めつけの質問をしてしまうことも。実際には、よくよく聴いてみると違った様相のループ図ができる可能性も多々あったりします。これでは本当に聴いていません。特にブリーフセラピスト・ベーシックをとった最初の頃はひどかったと思います。
そこで、かねてから「聴くことに専念できたら、もっと相談の質があがらないか」という課題意識を持っていました。
転機:あまのさんの記事との出会い
そんな中、あまのさんの記事に出会いました。
これだと、聴いた内容をLLMに食わせるだけでループ図が出来上がります。できあがったループ図が違和感なく自分のイメージと似ていれば、安心してループ図作成はLLMに任せ、聴くことに専念できる。そんな期待がありました。
で、実験:AIにループ図作成を任せてみた
実験設定
ここでは、予め別の方が聴いた相談内容をLLMに食わせることにしました。手順は以下の通りです:
- まず、あまのさんの記事のプロンプトを予め食わせる
- 次にインターネットからブリーフセラピーの事例相談を探して、事例文を食わせる
今回はこちらの記事の事例、「相談者からのメール(1通目)」を使いました。
使用した相談事例
突然のメールですみませんが、家庭のことで相談に乗ってください。
小5の息子なのですが、空気が読めないタイプで、不良タイプの子にからんでしまったことがきっかけで、小4からいじめを受け、エスカレートしてきたため、急きょ近隣の小学校へ転校しました。
学校内でのいじめはなくなりましたが、登下校や塾で前の学校のいじめっ子にからかわれることが続きました。
塾やいじめっ子の保護者にも相談したところ、塾内でのいじめや悪口はなくなったが、大人の目が届かない帰宅時などには続いています。
親としては転塾や購入したばかりの戸建を引払い引越も検討していますが、息子としては転校をしており、これ以上いじめっ子から逃げるようなことはしたくないそうです。
とはいえ、家庭では徐々に元気がなくなり、「少しは片づけなさい」などと言うと「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」と突然うずくまってしまいます。
ゲームをしているときはにこにこしていますが、中学受験も控えており、普通に会話ができないときがあります。
また、現在小2になる妹がいるのですが、こちらは逆に空気を読みすぎる敏感なタイプです。
妹は、兄が転校した時期から、足が痛いと言い出し、2週間くらい家でハイハイをしていました。病院に行っても原因がわからず、精密検査のために入院をすることになったら、突然スタスタと歩きだしました。
家では、少し言動がおかしく、赤ちゃん返りをしている感じです。表面には出しませんが、心の深いところがモヤモヤしているのを感じます。
父親(夫)は、子育てに積極的ではありますが、現在の子どもたちの状況に苦慮しており、その深刻な表情を見てさらに子どもたちが怯えています。
とにかく、家で家族4人でいることが苦しいです。
私自身は、以前に手術を行ったガンの再発が発覚し、来月に入院をして手術をする予定です。でも、家族の状況が心配で、今の状況では家を離れて入院する勇気がありません。子どもにはまだ入院することも伝えることができません。
来月までは、子どもたちを連れてたくさんお出かけしたり、普段できないことをしようかな、と考えています。
時間が解決してくれるのかもしれませんが、何か打開策やヒントは、ありませんでしょうか。私はどうしたらよいのでしょうか。
実験結果:AIが生成したループ図
実際にAIが作成したループ図がこちらです:
実験結果の考察
ループ図の妥当性
実情は、母親がもう少しループ図のループの中に入っているかもしれませんが、母親がクライアントだと考えるとループの外にあるこの図の方が受け入れやすいかもしれません。
AIが作ったループ図の利点
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介入ポイントの明確化
このループ図により、どこの悪循環を断ち切ればいいか、どこから良循環のきっかけを作っていったらよいか、わかりやすくなっています。 -
客観性の確保
第三者であるAIが作ったというのが客観的で、押し付けがましくなく、素直に受け取ってもらえる可能性が高いとみています。 -
セラピストの「聴く」専念
何よりも、相談を受ける側である自分が聴くことに専念できるのがよいのです。ループ図のここが気になる、あそこが気になるという聴き方よりも、無心にセラピスト自身の心身から起こっている内的対話含め「今ここ」で起こっていることを聴けるのは、クライアントによい体験を促します。 -
新たな言語化の促進
何よりも今までクライアント自身にとっても明かされなかったことが言語化される期待があります。その上で複雑に絡み合った状況を俯瞰してみることで、解決への道のりに近づくのです。
今後の発展:ブリーフセラピーエージェントの構想
この実験を踏まえ、以下のようなシステムの開発を構想しています:
1. ブリーフセラピーエージェント
- 予めループ図のプロンプトを仕込んでおく
- 呼び出せば一緒に相談内容を聴いてくれる
- 「ループ図出して」と指示出せば、ループ図のプロンプトに基づきループを出してくれる
- ループの確からしさをLLMに自己判定させ、セラピストが参考にするため、自分で作ったループの確からしさを1〜10のスケールで出力させる
2. リフレクティングシステム
- クライアントの目の前で、ブリーフセラピーエージェントとセラピストが対話できるリフレクティング機能
3. 音声連携機能
- マイクから文字起こししてくれるエージェント
- ブリーフセラピーエージェントが生成した文字列を、クライアントが聴けるように発話する発話エージェント
このくらいあると、それっぽいセラピーシステムができそうです。
まとめ:AIとの協働で変わるセラピーの可能性
今回の実験を通じて、AIを活用することで以下のような可能性が見えてきました:
- セラピストの本質的スキル向上:ループ図作成をAIに任せることで、「聴く」ことに専念できる
- 客観的な視点の提供:第三者としてのAIが作るループ図の受け入れやすさ
- 効率的な問題整理:複雑な状況を素早く構造化する能力
- 新たな気づきの促進:相談者のみならずセラピスト自身も想定していなかった視点の発見
ブリーフセラピーとAIの組み合わせは、まだ始まったばかりです。技術の進歩とともに、より良いセラピー体験を提供できる可能性を秘めています。
皆さんも、身近な問題解決にAIを活用してみてはいかがでしょうか。新しい視点が得られるかもしれません。
※本記事の事例は、プライバシー保護のため詳細を変更しています。実際のセラピーを検討される場合は、専門機関にご相談ください。
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あくまでも私見ですが、LLMで例えると、プロンプトエンジニアリングそのものだと思います。 ↩︎
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