【注意喚起】フリーランス・業務委託の泣き寝入り続出中!あなたの会社が加害者側になっているかも?
法務を担当しているTana.KAです。
先日、公正取引委員会の 相談窓口 を利用し、中小企業庁取引課の担当者と約20分お話ししました。最近はフリーランスや業務委託契約に関する被害が相次いでいるそうです。
※ すでに何かお困りのことがあれば、公正取引委員会はこの問題に注力しています。相談窓口は無料ですので、一度ご利用を検討してみてください。
- 公正取引委員会の 相談・申告・情報提供・手続等窓口
- 厚生労働省委託事業、第二東京弁護士会運営: フリーランス・トラブル110番
エージェント会社に任せているから安心は都市伝説
「仲介を行うエージェント会社を使っていれば安心」と考える人がいますが、そうした安心感を逆手に取り、むしろコンプライアンスが心もとないエージェントも多く存在する印象があります。
最近のエージェントは広報や法務に力を入れ、SNSなどで活動する著名エンジニアを登壇させたり、カンファレンスに顔を出したりして表面的な信頼を築いています。見た目の「信用度」に惑わされず、契約や支払い条件、委任の実態などを冷静に確認し、巻き込まれないようご注意ください。
相談を受けたトラブル報告例
1. エージェントが請求書を改ざんしたという報告
最近知名度を上げているエージェント会社に関するトラブルの報告です。
以下、Aエージェント会社とします。
相談者は、Aエージェント会社から紹介を受けた企業(以下、常駐先)と業務委託契約を締結しました。月末に相談者は稼働時間に応じた請求書を常駐先へ送付しましたが、実際に振り込まれた金額が足りません。本件、相談者からの連絡を受け、やり取りを確認したところ不自然な点があったため、Aエージェント会社へ照会を求めた結果、請求書の改ざんが発覚しました。相談者は危うく泣き寝入りするところでした。
Aエージェント会社は仲介業務のみを行っており、請求書の代理発行権を有していません。常駐先は、買いたたきが禁止されていること(下請代金支払遅延等防止法 第4条第1項第5号〔買いたたきの禁止〕、フリーランス保護関連法 第5条第1項第4号〔買いたたきの禁止〕)を認識していたようで、請求書の改ざんをAエージェント会社に指示することで、自身の手を汚さずに不正な買いたたきを行っていました。当然、業務委託者の同意なく請求書を作成・改ざんする行為は不正であり、刑法第159条(私文書偽造等)や民法第709条(不法行為)に抵触する可能性が高いと考えられます。しかしAエージェント会社は常駐先との関係を優先し、業務委託者に知らせないまま水面下で取引を進めていました。
現在、相談者は不足分の支払いを求め、簡易裁判所の支払督促を利用して請求手続きを行っています。
政府広報オンライン
- 「お金を払ってもらえない」、簡易裁判所の「支払督促」手続きをご存じですか?
2. 「同意しろ!」と自宅まで押しかけられたという報告
これも広く知られた某エージェント会社のトラブル事例です。
以下、Bエージェント会社とします。
相談者は常駐先で日常的にパワハラ等の違反行為を受けていました。相談者がBエージェント会社に相談したところ支払いが停止され、確認したところ「その被害について何も請求しない・口外しないことを約束しなければ振り込まない」という対応でした。支払い義務のある請求に条件を付けるものです。相談者が同意を拒んでいると、Bエージェント会社の担当者が自宅マンションにまで訪れ、改めて「同意しないと今月の報酬を支払わない」と通告したという事例です。
このように支払いを条件に同意を求める対応は、フリーランス保護法(いわゆるフリーランス新法)や関連法令に抵触する可能性が高いです。発注者には取引条件の明示義務や報酬の支払期日の遵守などが求められており、不当な支払い拒否や条件付けは禁じられています。「業務委託者だから何をしても良い」というのは誤解です。業務委託契約であっても、発注者の一方的な行為によって受託者に損害が生じた場合には、民法上の救済措置(損害賠償等)の対象となります。
もしあなたが、既に法的なトラブルに巻き込まれている場合、早めに専門窓口に相談することをおすすめします。
フリーランス・トラブル110番
- 厚生労働省委託事業、第二東京弁護士会運営。報酬の未払い等、メール相談OK!
3. 常駐先が偽装請負だったという報告
こちらも有名なエージェント会社(以下、Cエージェント会社)とのトラブル事例です。
常駐先が偽装請負であった例です。
Cエージェント会社は仲介業者ではなく、業務委託者と直接契約を締結した上で、委託者を常駐先で働かせていました。常駐先は「社員と業務委託者を区別しない」ことをアピールしており、相談者は常駐先で研修を受け、毎朝の朝礼に参加し、外部パートナーとの窓口を担当しながら開発業務に従事していました。
しかしある日、相談者が所属するプロジェクトの予算が突然縮小され、プロジェクトは解散。チームメンバーは他のチームへ異動しました。相談者も異動だと考えていたものの、業務委託者であることを理由に契約を即日解除されました。相談者はフルタイムで働いていたにもかかわらず、突如として収入が途絶えました。
相談を受けた私は、伺った内容から偽装請負の疑いが濃厚と判断し、 フリーランス・トラブル110番 への相談や 労働審判手続き などを案内しました。労働審判については以下をご参照ください。
ちなみに本件、Cエージェント会社は「当事者同士で話し合え」と無関係を装いました。
この種の問題は古くからあり、とくにIT業界では深刻です。ブラック企業が労働基準法適用外の社員(実質)を確保するために、偽装請負が行われるようになったわけですが、偽装請負は違法です。発覚した場合のペナルティは大きく、労働基準監督署が調査に入ります。労基署は警察署や税務署と同じ「署」ですのでたいへん強い権限を持ちますから気をつけましょう。身近な事例として、社長と副社長が労基署の調査を経て送検され、身柄拘束(勾留)されて約1週間自宅に戻れなかったケースがありました。偽装請負については常駐先企業の社員も含め、関係者全員が注意する必要があります。
次に簡単なチェックリストを作成しました。1つでも該当がある場合はご注意ください。
チェックリスト
- 業務委託者に毎日打刻させている(Slackでの勤怠連絡を含む)
- 業務委託者に稼働時間・稼働日を指示している(「平日9時〜18時に稼働して」等)
- 業務委託者に日報を提出させている
- 業務委託者にやるべき作業内容と対になる受け入れ基準を渡していない
- 業務委託者に細かい作業方法や手順を指示している(コーディングルール等、細部まで統制)
- 準委任契約(「時間×単価」などの報酬体系)でありながら、業務委託者に「完成責任」を求めている(時間報酬なのに成果責任を課すのは実態と乖離)
- 業務委託者に開発用パソコンを支給している
- 業務委託者に会社ドメインのアカウントを使用させている(社内のGoogleアカウント等)
参考資料
- 厚生労働省の労働基準法研究会報告
https://jsite.mhlw.go.jp/fukushima-roudoukyoku/content/contents/001846686.pdf - 事業主の皆様へ:労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド(アジャイル開発時のガイド)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001082094.pdf
加害者側にならないための心構え
若手のITエンジニアは、知らないうちに加害者側になっているケースがあるため注意が必要です。上司の指示に従ったにしろ、自分の「正義」を貫いたにしろ、結果的に違法となる例が見受けられます。行動の拠り所として法律を参照し、「法の秩序」に基づいて判断・行動することが重要です。
とくに次の点には注意が必要です。
刑事事件においては、刑法上は行為者個人が原則として罪を問われます。
例えば、
- 上司に言われた通りに作成した書類が違法だった。
- あなたが刑法第159条私文書偽造罪に問われる可能性。
- 上司に言われた通りに業務委託者をキツく指導した。
- あなたが刑法230条1項名誉毀損罪に問われる可能性。
ブラック企業ほど法務対応や言葉遣いが巧妙ですから、いわゆる「尻尾切り」の尻尾にあなたがならないように注意してください。
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