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スクラム開発が全然しっくりこないまま スクラムマスターになってしまった僕が取り組んだこと

2024/05/10に公開

はじめに

こんにちは、土屋と申します。バニッシュスタンダードで社内システム保守とスクラムマスターを担当しています。最近の趣味は早朝にゼルダの伝説ティアーズオブキングダムをプレイすることです。なかなかハイラルが平和になりません。トーレルーフ!!

ところでみなさんスクラム開発しっくりきてますか?完璧ですか?心酔してますか?
僕は開発メンバーとして何度かスクラム開発を経験してきましたがどうもしっくりきませんでした。ウォーターフォールやデスマーチしていたあの頃に戻る気はないけど、とはいえ良さが理解できない。こんな印象が拭えないままスクラムマスターになってしまいました。

でも。こんな僕でもスクラム開発とちょっとだけ仲良くなれた気がしてきました。スクラム開発と仲良くできない、しっくりこない、そんな方に向けて1つの情報になれば幸いです。

スクラムマスターになった経緯

昨年末、スクラムマスターだった dkymd がエンジニアリングマネージャーに専念することになりました。そして「スクラムマスター後継者はチームの中から立候補者を募ります」というなんとも大胆というか弊社らしいお達しがでました。

当然、スクラム開発にしっくり来ていない僕はだんまりを決め込んでいたのですが、このチームが長く続いてほしいと願ったとき、僕がスクラムマスタをやるべきかもしれないと考えるようになりました。

  • 僕以外のエンジニアはつよつよ(他のメンバーがスクラムマスターになると開発力が低下する)
  • 僕は社内システム担当として他部門との関わりがあった(ステークホルダーとの調整役として動きやすい)

そしてスクラム開発がしっくりこない理由を解明するためにも一度しっかり理解してみたいという打算も加わり、立候補、決定に至りました。

スクラムマスターになった後のキャッチアップ

スクラムマスターになってから急いでスクラム開発をキャッチアップしにいきました。

書籍を読む

先輩スクラムマスターがおすすめしてくれた書籍を何冊か読みました。なのですが...どうも頭に入ってきません。なんだかキレイ過ぎちゃう。こんなうまくいくわけ無いだろという完全に斜に構えた目で見てしまいます。きっと僕はこの本を読む前提に立てていないのだな、と解釈しました。でもでも1冊感銘を受ける本に出会えました(後述)

スクラムマスター資格取得(PSM1)

手っ取り早く体系的に理解するためスクラムマスター試験の勉強をしました。スクラムの資格はいくつかあるのですが僕はscrum.orgのPSM1を勉強しました。基本的にスクラムガイドから問題がでます。入門としてちょうどいいと思いました。

スクラムマスター勉強会

アジャイルコーチ、先輩スクラムマスター2名、そして僕でスクラムマスターとしての悩み共有、相談を行う場です。
僕はここでスクラムがしっくり来ていないことを正直に告白しました。なかなか勇気がいりました。でも、こういったネガティブな相談も快く迎い入れて頂き壁打ちさせて頂きました。ありがたいです。

しっくりこない理由「高揚感を感じられない」

先に述べた「スクラムマスター勉強会」で"しっくりこない理由"について壁打ちさせて頂き言語化することができました。

「スクラム開発で高揚感を感じることができなかった」

僕のエンジニアキャリアを振り返ったとき、大きく高揚し成長できたと感じられる期間があります

  • 先輩が突然退職して残されたプロダクトを作りきって納期に間に合わせた
  • ある日上司から「2週間後のx月x日にプレスリリース打つから。そこまでにこの機能作って」と言われてなんとか間に合わせた
  • 週末、とんでもないデータ破損障害を発見。土日返上でリカバリー作業する

納期がカチカチで逃げ場がない上に自分のキャパを大きく越えた極限状態。この状況を乗り越えたという高揚感と自信が今の僕のエンジニアキャリアを作っていることに気づきました。
でもこれは就職氷河期世代の酸っぱい過去。若いエンジニアの方にはまったくおすすめができません。
じゃあスクラム開発でどうやって高揚感を生みだすんでしょうか。

ポジティブ心理学 × スクラム開発

「スクラム開発でどうやって高揚感を作り出すのか」の答えになる書籍を見つけました。
スクラム 仕事が4倍速くなる 世界標準のチーム戦術

著者はスクラム開発の創設者であるジェフ・サザーランド博士。スクラム開発ができるまでの試行錯誤が記されていて僕には非常に参考になりました。
この本の7章「幸福」でポジティブ心理学について述べられています。
ポジティブ心理学はなかなか難しいのですが「成功するから幸せになるのではなく、幸せになるから成功する」というなんとも不思議な考えを持っています。

登山家に遠征の話を聞くと、頂上に到達したことそのものについてはあまり多く語らない。彼らが語るのは、極寒の気温や凍傷の苦しみ、質の悪い食料、厳しい気象状況、思うようにならない装備といった話だ。そして登頂を達成した高揚感の後に訪れる喪失感(死が差し迫ったような状況が続く場合は除いて)。登頂し、やり遂げた。苦労の末に一つのことを成し遂げた。だが、どの瞬間にもっとも喜びを感じたかとたずねると、挑戦していた瞬間──身体と頭と心の限界まで挑戦していた瞬間だと答えが返ってくる。その瞬間こそが最高の幸せであり、真の喜びを身をもって感じるという。そしてそれをもう一度味わいたいと思う。普通に考えれば、そんな苦しみをみずから進んでまた経験したいなどと思うのだろうか、と不思議に思える。だが登山家は、また次の山に挑戦し、新たな頂上を目指して喜びを追う。興味深いのが、ほとんどの文化でこうした種類の幸せを推奨したり評価したりしていないことだ。
ジェフ サザーランド. スクラム 仕事が4倍速くなる世界標準のチーム戦術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2319-2328). Kindle 版.

登山家にどの瞬間が一番幸せだったかと聞くと「頭と心の限界まで挑戦していた瞬間こそが最高の幸せであり真の喜び」という回答があったけど、これはポジティブ心理学的に推奨されていません。危険度が伴い再現度が低く、幸福感が乱高下しています。

これって実は僕が今まで体験してきた納期カチカチのウォーターフォールモデルという山だったんじゃないか。と思いました。極限状態を乗り越えた高揚感。でもたまたま心身なんとかなっただけで次は倒れてしまうかもしれない。今までのプロジェクトを思い返してみたら明らかに失敗している方が多い。

さらに同書には「幸福のバブル」という言葉でこう説明されていました。

一つだけ注意したい点が、いわゆる「幸福のバブル」現象が起きる可能性だ。長年研究してきたが、実際、結構な頻度で起きると言っていい。発生するのは通常、チームがスクラムを使って大きな仕事を成功させた後や、生産性を飛躍的に伸ばした後などだ。自分たちでチームを組織して動き、導いた成果を誇りに思っているようなときだ。そこに自己満足が生まれる。自分たちはずいぶんよくなった。もうこれ以上改善しなくてもいいんじゃないか。そんな声が聞こえてくる。生産性の伸びは頭打ちになり、すばらしかった仕事ぶりはほどなくして止まってしまう。
ジェフ サザーランド. スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術 (早川書房) . 株式会社 早川書房. Kindle 版.

わかるー(涙目)
大成功、俺等は最高だ、もう何もしなくていい、という感覚に陥ったことあります。心当たりありまくります。そうですね。高揚感の後はしばらくなにかを見失っている期間が発生しています。
こんなハイリスクおすすめできません。そもそも高揚感を目指す事自体が誤りだと気づきました。

では。高揚感の代わりに何をしたら良いでしょうか。答えは「常時幸せな状態を作る」
幸せであればいい選択ができる。創造力が発揮できる。進化できる。主体的になる。ストレスをチャレンジに置き換えることができる。努力を惜しまない。過去の栄光「高揚感」に勝る。
なるほどー!!

スクラムマスターとして実際に取り組んだこと

開発チームのみんながどういう状態になったら常時幸せなのかはじめは判りません。なのでいったん僕だったらどういう状態が幸せなのか定義してそれに沿う施策を考えました。

  • ある程度裁量があること、意思決定できること
  • 日々、チャレンジしていること

デイリースクラムのファシリテートを開発メンバーに移譲する

「ある程度裁量があること、意思決定できること」環境を作るための施策。

これまでスクラムマスターの僕がデイリースクラムの司会進行してきました。スクラムマスターになりたての僕はスクラムガイドに沿いたい気持ちが強くて発言量が多くなり、チームの意思決定に介入する場面が多かったです。開発メンバーの裁量が奪われ窮屈な心境にさせてしまっていたと感じました。
ここでデイリースクラムの司会進行を開発メンバーに移譲しました。結果、開発メンバー間でコミュニケーション量が増え、日々意思決定されるようになったと思います

スプリントを全力疾走するためにスプリントゴール達成可否検査を明確にした

「日々、チャレンジしていること」を作るための施策。

スプリント (sprint)
1 短距離を全力で力走あるいは力泳すること。
2 陸上・水上競技やスピードスケートなどで、短距離競走。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/スプリント

毎スプリントでスプリントゴール達成に向けて全力で走り切る。忙しいけど楽しい。これがスクラム開発で用意されている日々のチャレンジだと考えました。

これまで僕たちが実施してきたスプリントレビューはカスタマーサクセスチームをお呼びしてフィードバックを頂く場でした。日々ユーザーと向き合っているチームの気づきは鋭く思ってもいなかったアイデアをたくさん受け取ることができます。一方でスプリントゴールが達成できたかどうかの検査をする要素は薄い状態でした。

以下のようにスプリントレビューの立て付けを変更しました

  • レビューアはプロダクトオーナー(状況に応じてプロダクトオーナーが指定したステークホルダーが参加)
  • スプリントゴール達成できているかを検査する場と定義
    ゴールできたか判定されることで全力で走り切る。忙しいけど楽しい日々チャレンジするスプリントになったと思っています。デイリースクラムやレトロスペクティブにも影響があって「どうすればゴール達成できるか」が会話の中心になりました。

幸せを検査&適応する

上記施策はあくまで僕が思う常時幸せなので開発チームのみんなが感じる幸せに検査&適応していく必要があります。幸せのを測定するため振り返り(レトロスペクティブ)で問を設けました。

1.会社内での自分の役割について、一から五のスケールで表すとどう感じているか。
2.同じスケールで、会社全体についてどう感じているか。
3.なぜそう感じるのか。
4.何を一つ変えれば次のスプリントでもっと幸せだと感じられるか。

当初、書籍に記されていた上記の問を使っていたのですが、なんだかみんなが回答しづらいことがわかり「充実度は10点満点だといくつですか?」に進化しました。

最後に

  • スクラム開発にしっくりこない理由は「高揚感」を求めるからだった
  • そもそも「高揚感」を求めること自体が誤りだった
  • スクラム開発はポジティブ心理学の哲学が組み込まれている。幸せだから成功するのだ
    こう考えることでだいぶスクラム開発と仲良くなれたと感じています。

「スクラム開発がしっくりこない!!」というとんでもない発言を受け入れて頂き、そこから意識が変わるまで寄り添って頂いたスクラムマスター相談会の懐の深さに感謝しています。そしてピヨピヨスクラムマスターの僕を迎え入れて頂き見守ってくださった開発チームのみんな、ありがとうございます。感謝しかありません。今後ともよろしくお願いします。

「好きを、諦めなくていい世の中を。」作るために日々奮闘しています。
僕たちと一緒にチャレンジする仲間を募集しています。ご興味持たれた方、ご一報ください。
https://v-standard.notion.site/Engineering-at-VANISH-STANDARD-929c17c0252c4d4a92fefc9a90b04d1a

文献

スクラム 仕事が4倍速くなる 世界標準のチーム戦術

ショーン・エイカー 「幸福と成功の意外な関係」

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