【徹底比較】SaaS導入支援チャットボット構築ならDifyかServiceNowか?実用性・カスタマイズ性を徹底検証
はじめに
SaaSや業務システムの導入支援・初期オンボーディングにおいて、ユーザーからの問い合わせをチャットボットで効率化したいというニーズは年々高まっています。
そんな中、「どのツールを使ってチャットボットを作るべきか?」という問いは避けて通れません。
本記事では、以下の2つの人気プラットフォームを徹底的に比較し、どちらがより柔軟かつ実用的かを明らかにします。
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ServiceNow(業務プロセスを統合管理するエンタープライズ向けSaaS)
ITサービス管理(ITSM)や人事・経理業務のワークフローを一元化し、自動化・可視化・統制を実現するSaaSプラットフォーム。社内申請、インシデント管理、ナレッジ共有などをGUIベースで構築できるほか、AIアシストやRAGによる問い合わせ対応機能(Now Assist)も提供されています。 -
Dify(生成AIアプリを素早く構築できるオープンな開発プラットフォーム)
ノーコード/ローコードでLLMワークフローやチャットボットを構築できるOSSベースの開発基盤。会話処理・ナレッジ検索・外部API連携などをAPI経由で柔軟に組み合わせられ、UI・ロジック・データ設計を自在にカスタマイズ可能。PoCから本番展開まで軽量かつスピーディに対応できます。
とはいえ、ServiceNowが基幹基盤として活躍する一方で、Difyはその周辺にある
“まだ定まっていない業務フロー”や
“高度な自然言語処理を必要とする問い合わせ対応”
に対して、スピード感を持って柔軟に対応できる立ち位置です。
「チャットボットでどこまでやりたいのか?」
「将来的にどれだけ育てていけるか?」
その答えによって、選ぶべきツールは変わります。
✅ ServiceNowとDifyの全体機能比較
比較項目 | ServiceNow(統合業務SaaS) | Dify(生成AI開発プラットフォーム) |
---|---|---|
UI/UXの自由度 | テンプレートベース、Teams等に制約あり | ReactベースでUIを自由に設計。アプリごとに個別UIも可能 |
LLMの自由度 | 一部外部LLM連携可だが基本固定 | OpenAI互換 / 自己ホスト可 / ファインチューニング自由 |
ナレッジの管理精度 | 固定 or 可変チャンク。柔軟性に限界 | 正規表現/親子構造/多段階ナレッジ連携まで対応可能 |
業務ロジックの拡張性 | ワークフローは組めるが制約あり | 条件分岐、外部API連携、DB参照、LangGraph統合も可能 |
エスカレーション対応 | チャット履歴付きでServiceNow内で引き継ぎ | 任意ツールへ柔軟転送可能(Slack, Teams, CRMなど) |
コスト | 非公開。導入・保守含め高額傾向 | OSSベースで月7ドル〜。TCOを抑えて構築可能 |
1. UI/UXの自由度:どれだけ「自社らしい」体験を作れるか?
ServiceNowでは、UIコンポーネントがあらかじめ定義されており、カスタマイズはServiceNowの枠組みに準拠する形となります。
例えば、チャットインターフェースである"Virtual Agent"は、主に"Service Portal"や"Employee Center"といったポータル、またはNext Experience UI上のワークスペースやコンポーネントとして提供され、これらに準拠した形でのカスタマイズが求められます。
Microsoft TeamsやWebポータルへの組み込みは可能ですが、自由にHTML/CSS/JSでいじるという感覚ではありません。
一方、DifyはUI/UXの構築においてヘッドレスなアプローチが採用されており、フロントエンドがReactベースで設計されています。API経由で会話ロジックを切り離せるため、独自UIの構築が可能です。
例えば、A社とB社でまったく異なるブランディングを反映したチャット画面を提供したいとき、それぞれDifyの「別アプリ」としてUIを変えることができます。
しかも、アプリごとにUI設定が個別にできるため、1つのワークスペース内で複数のチャットボットを並行運用するのも簡単です。
2. LLMの選択肢とカスタマイズの深さ:どこまで「賢く」できるか?
ServiceNowは、Now Platformに組み込まれた生成AI機能群であるNow Assistを通じてAI機能を提供します。中核となるのはNow LLMと呼ばれるプロプライエタリLLMですが、Integration Hubなどを介せば、OpenAIのGPTシリーズ、Geminiといった外部LLMとの連携も可能です。しかし、連携がサポートされているLLMはごく一部であるため、例えば自社で事前学習させた独自モデルの持ち込みは基本的にはできません。
また、ServiceNowはユーザーがNow LLMをファインチューニングすることを許可していないため、Now LLMをユーザーの使用環境に合わせて、特定の業務ドメインに特化させることもできないのです。これらの事情から、ServiceNowは一般的な対話能力は高いものの、企業独自の用語や複雑な導入プロセスに関する深い理解をLLMに直接組み込むことは難しいのが現状となっています。
Difyはその点で非常に自由度が高く、
- OpenAI / Azure OpenAI / Claude / Gemini などを切り替えて利用可能
→アプリケーションごとに自由に切り替えて、性能とコストを比較検証できる - 自己ホスト型のLLM(Llama 2, Mistral のAIモデル 等)も統合可能
→ローカル環境やプライベートクラウド上で利用可能であり、データプライバシーを完全にコントロールしつつ、特定のタスクに最適なモデルを選択可能 - 特定のナレッジベースを用いてファインチューニングを行った、ユーザー固有のLLMの実装も可能
3. ナレッジの取り込み精度とRAGの柔軟性
ServiceNowは、AI Searchという検索エンジンを基盤とし、Knowledge Managementに格納されたナレッジを活用します。そして、ナレッジを単語数または文数単位でチャンク分割し、それに基づく検索(RAG)を提供しています。ただし、分割ルールを柔軟に定義することは難しく、意味的な文脈がチャンクの途中で分断されやすいという課題を抱えています。従って、ナレッジの精度は素材の品質に大きく依存します。
Difyはここでも柔軟で、以下のような戦略が使えます:
- 正規表現による区切り
- 親子分割モードで階層構造付きのナレッジ構築
- 外部ナレッジ(PDF, HTML, CSV等)との連携
- ハイブリッド検索(semantic + keyword)
- Q&A形式のCSVやMarkdownから、質問と回答のペアを自動登録
Difyでは、親子チャンク分割やチャンクの最適化、質問と回答のペアによるナレッジ登録など、RAGの精度を高めるための多様な手法が実践されています。
これらの取り組みにより、ユーザーの質問に対してより関連性の高い情報を提供できるようになり、RAGの実用性が大きく向上しています。
4. 拡張性・業務ロジック対応力:現場の複雑さにどこまで付き合えるか?
チャットボットの現場では、
- 契約内容やプランがユーザーごとに異なる
- オプション機能の組み合わせが複雑
- CRMや外部DBを参照したうえで回答を出したい
といった、「ただのFAQ応答」では足りない高度なロジックが必要になる場面が多くあります。
🔧 ServiceNowの構築性とその限界
ServiceNowでは、GUIベースの Flow Designer により、標準的な業務プロセスの自動化が比較的容易に実現可能です。また、SlackやSalesforceなどとの連携には、**spoke(定義済みの連携モジュール)**が用意されており、任意のREST APIとも RESTMessageV2
スクリプトオブジェクトを使って連携できます。
⚠️ 限界と課題(LLM/RAG開発における)
しかし、実際の現場で必要とされるような、固有業務に深く特化した高度なRAGチャットボットやLLMアプリケーションをServiceNowで構築・運用する際には以下の点に注意が必要です:
- GUIツールで対応できる範囲を超えた複雑なデータ変換、エラーハンドリング、あるいはRAGパイプラインにおけるきめ細やかな制御は、多くの場合、JavaScriptによるカスタムスクリプティングが必須
- Spoke による連携に対応していないツールは多くあり、その場合、IntegrationHub [1]の利用が推奨されるが、高度な利用には相応の追加コストが発生する(注:コストは非公開)
🧠 日本語対応における Now LLM の課題
さらに、以上の難点をクリアしても、ServiceNowの構築・運用には次のような壁が立ちはだかります。それは、Now LLM(ServiceNowプラットフォームにネイティブに組み込まれたLLM)の日本語処理における問題です。
複雑なフローを作る際には、条件分岐やナレッジ検索の精度が重要になります。ServiceNowにおいては、条件分岐はNLUとNow LLMを組み合わせることにより実現し、ナレッジの検索に関しても、Now LLMを用いたAI Search機能により検索先のナレッジを特定のデータに指定することができます。しかし、ここで登場するNow LLMは現状、日本語の入力をServiceNowプラットフォームの従来の動的翻訳機能を介して英語に変換し、LLM本体に渡しています。そしてその結果、以下のような不具合が報告されているのです。
主な不具合
- 翻訳精度に起因する意図の誤解釈: 微妙なニュアンスや専門用語が翻訳プロセスで失われ、ユーザーの質問意図を正確にLLMに伝えられない
- 不自然な日本語の回答生成: LLMからの英語の回答を再度日本語に翻訳する際に、不自然な言い回しや誤訳が発生する
- レスポンス遅延: 翻訳処理が挟まることによるレイテンシーの増加
- 固有表現・社内用語への対応困難: 事前学習データに含まれない日本語の固有表現や社内用語の翻訳・理解が著しく困難
📝 まとめ
固有業務に特化したチャットボットにおいて、このような言語処理の不安定さは致命的であり、ユーザーエクスペリエンスを著しく損なうだけでなく、誤った情報提供のリスクも増大させてしまうのです。
セキュアな環境下でAIを用いる場合、このNow LLM以外は使用することが出来ないため、上記問題点を解決することはできません。このように、ServiceNowによる固有業務特化型の複雑なチャットボットの構築・運用には、様々な障壁があるのが現状なのです。
⚙️ Difyの柔軟な業務ロジック対応力
これに対して、DifyはノードベースのChatflowやWorkflowを使って、条件分岐やAPI連携、フォーム保存などをGUIで実装することができます。加えて、LangGraphなどと組み合わせることで、より複雑なフローや状態管理も視野に入ります。また、日本語処理に優れたAzure OpenAI Serviceの日本語モデルや、他の日本語対応LLMを選択し、直接日本語で処理するRAGシステムを構築することができます。これにより、翻訳レイヤーを排除し、高品質な日本語理解と応答生成を実現しつつ、VPC内デプロイや閉域網接続などによりセキュアな環境を維持することも可能なのです
「ノーコードで業務にフィットするチャット体験」を作れる柔軟性がDifyの強みです。
5. コストとTCO(総所有コスト)
ServiceNowの価格体系は公表されていませんが、基本的には以下が必要です。
- ライセンス費用(ユーザー数ベース)
- 構築費用(外注やコンサル含む)
- 年間保守費用
こちらは株式会社HITACHIが公開しているServiceNowの導入パターンと参考価格の表です。
※日立ソリューションズは2013年1月に日本初のServiceNowパートナーとなりました。
一方、Difyはオープンソースであるため、
- 自己ホストなら月7ドル〜(ベース環境 + LLM API費用)
- 商用クラウド版も月額29ドル〜
と、初期費用も運用費も格段に安く済みます。
6. 安心して導入できるか?セキュリティ・法令対応の観点から
項目 | Dify | ServiceNow |
---|---|---|
データセンターの所在地 | リージョン選択が可能。自己ホスト型では任意のロケーションに設置可能。 | 世界各国にデータセンターを保有。日本国内にもデータセンターが存在し、地域のデータ保護法に準拠。 |
取得済みのセキュリティ認証 | SOC 2 Type I、SOC 2 Type II、ISO 27001:2022、GDPR認証を取得。 | ISO 27001、SOC 1 Type II、SOC 2 Type II、GDPR、EU-U.S. DPF、Swiss-U.S. DPFなど、多数の国際的なセキュリティ認証を取得。 |
認証・アクセス制御 | 多要素認証(MFA)、役割ベースのアクセス制御(RBAC)、詳細なアクセスログの監視と分析が可能。 | 多要素認証(MFA)、シングルサインオン(SSO)、ロールベースのアクセス制御(RBAC)、詳細なアクセスログの監視と分析が可能。 |
データ暗号化 | 保存データはAES-256で暗号化、通信データはTLS 1.3で暗号化。 | 保存データおよび通信データの暗号化を実施。具体的な暗号化方式は明記されていないが、業界標準の暗号化技術を採用。 |
セキュリティ・コンプライアンス面では、ServiceNowはグローバル水準の体制と日本国内のリージョン対応により、厳格な業務要件に適した構成が可能です。
一方、Difyは自己ホスト/クラウド構成の柔軟性があり、特に「自社クラウド環境でAIを動かしたい」「社内規定に合わせて設計したい」などのニーズにフィットします。OSSであることも含め、PoCフェーズから段階的にセキュリティレベルを引き上げていける点が強みです。
✍️ 結論:柔軟性と未来志向を求めるならDifyが圧倒的
ServiceNowは、既存の業務基盤と連携しながら統制・管理を担うプラットフォームとして非常に優れています。
一方で、
- UI/UXを細かく作り込みたい
- 複雑な業務ロジックをチャットで対応したい
- 精度の高いナレッジ検索をしたい
- 独自のLLMを使って差別化したい
- コストを抑えてスモールスタートしたい
といったニーズがあるなら、Difyの持つカスタマイズ性と拡張性は圧倒的な強みです。
「こういうことがやりたい」をそのまま実装に落とし込める自由さは、プロダクト開発・業務改善の現場において、何にも代えがたい武器になります。s
-
RESTMessageV2
を使えば手動連携は可能ですが、GUIベースで簡単に連携するには **IntegrationHub(ServiceNow有料モジュール)**が必要です。 ↩︎
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