徹底解説! return promiseとreturn await promiseの違い
先日、こちらのツイートを見かけました。
それに対して筆者は以下のツイートをしたところ、いくつかの反応が寄せられました。
コード部分を再掲します。
async function foo1() {
return await Promise.resolve();
}
async function foo2() {
return Promise.resolve();
}
async function wait() {
await null;
}
// pika
// chu
// と表示される
foo1().then(() => console.log("pika"));
wait().then(() => console.log("chu"));
// chu
// pika
// と表示される
foo2().then(() => console.log("pika"));
wait().then(() => console.log("chu"));
関数foo1とfoo2は、Promise.resolve()をawaitしてからreturnするか、それともawaitせずにreturnするかだけが違います。async関数はPromiseをreturnするとそのPromiseの結果がasync関数の結果となるので、意味的にはどちらも同じはずです。しかし、コードの後半部分でwait()と競争させてみると分かるように、foo2はfoo1よりも少し遅いようです。なお、あとで詳しく説明しますが、このコードの実行結果は言語仕様通りであり、常にこの順番となります。たまたま時間がかかってpikaとchuの順番が入れ替わるというようなことは決して発生しません。awaitに何ミリ秒時間がかかるとかそういう話ではなく、言語仕様上の挙動の違いによってfoo1とfoo2の違いが発生しているのです。
この記事では、どうしてこのような挙動が発生するのかを全て解説します。なお、この記事ではGoogle ChromeのようなWebブラウザ上でコードを実行する場合を前提とします。
Promiseとマイクロタスク
Promiseについて理解するに当たって欠かせないのがマイクロタスクの概念です。マイクロタスクはHTML仕様書に登場する概念です。簡単に言えば今同期的に実行中のプログラムが終了したあとに実行されるプログラムだと思って構いません。マイクロタスクはマイクロタスクキューに登録され、マイクロタスクが実行できるタイミングになったらキューから順番に取り出されて実行されます。
実は、Promiseのthenメソッドのコールバックはマイクロタスクとして実行されます。そのことは、ECMAScript仕様書 27.2.5.4.1 PerformPromiseThenを見れば分かります。すでに状態がfulfilledであるPromiseに対してthenメソッドを実行した場合、以下に引用する部分が実行されます。
a. Let value be promise.[[PromiseResult]].
b. Let fulfillJob be NewPromiseReactionJob(fulfillReaction, value).
c. Perform HostEnqueuePromiseJob(fulfillJob.[[Job]], fulfillJob.[[Realm]]).
HostEnqueuePromiseJobは実行環境によって異なる定義がされる抽象操作であり、Webブラウザの場合はHTML仕様書で次のように定義されています(一部抜粋)。確かにQueue a microtaskとありますね。
2. Queue a microtask on the surrounding agent's event loop to perform the following steps:
実際に確かめてみましょう。Promise.resolveはすでにfulfillされたPromiseを返します。それに対してthenを呼び出すと、thenに渡されたコールバック関数はマイクロタスクとして登録され実行されます。
console.log("1");
Promise.resolve().then(() => { console.log("2"); });
console.log("3");
Promise.resolve().then(() => { console.log("4"); });
console.log("5");
これを実行すると次の順でログが表示されます。
1
3
5
2
4
これにより、プログラムの一連の実行が終了してからマイクロタスクが順番に実行されていることが分かります。
マイクロタスク時計を作る
Promise.resolveとthenを利用して、マイクロタスクが一周するごとに1つカウントアップする時計を作ってみましょう。
function clock() {
let time = 0;
rec();
function rec() {
console.log(time);
Promise.resolve().then(() => {
time++;
if (time <= 5) rec();
})
}
}
試しにclock()を実行してみると次のようにログが出ます。
clock()
0
1
2
3
4
5
0を即座に表示し、カウントアップ処理をマイクロタスクとして登録するのを5まで繰り返しています。
clock(); clock();のように2つ動かすと、次のように表示されます。
0
0
1
1
2
2
3
3
4
4
5
5
このことから、2つのclock()が並行的に動作していることが分かります。2つのclockがそれぞれ0を表示し、各々マイクロタスクを登録します。マイクロタスクはキューに積まれるのでそれらが順番に1を表示し、結果として1が2つ表示されます。それ以降も同様です。
以降はこのclock()を時間の基準としましょう。試しに、clock()とPromise.resolve().thenを並行に動作させてみます。
clock();
Promise.resolve().then(() => console.log("pika!"));
0
1
pika!
2
3
4
このように表示されることから、Promise.resolve().thenはマイクロタスク1回でconsole.logまでたどり着くことが分かります。この“マイクロタスク1回”を1マイクロタスク(1mt)と呼ぶことにしましょう(この記事の造語です)。
1mtという時間単位は、非同期処理がマイクロタスクのみによって進行する場合にのみ有効です。他の要因での待ち時間が発生する場合はマイクロタスクで測ることはできなくなります。例えばsetTimeoutはマイクロタスクキューが全て消化されるまで待つので無限mt(?)となります。
clock();
setTimeout(() => console.log("timeout"), 0);
// 0
// 1
// 2
// 3
// 4
// 5
// timeout
// と表示される
await nullの時間を測る
マイクロタスク時計を使用して、async関数の中でawait nullを実行した場合(Promiseでないものをawaitした場合)にかかる時間を計測してみましょう。
async function run() {
console.log("A");
await null;
console.log("B");
await null;
console.log("C");
}
clock();
run();
実行結果は次のようになります。
0
A
1
B
2
C
3
4
5
このことから、async関数は同期的に(時刻0mtで)実行され、awaitするたびに1mt経過することが分かります。つまり、Promise以外のものをawaitするのは1mtかかります。Promise.resolve().thenと同じですね。ちなみに、すでにfulfillされたPromiseをawaitするのも同様に1mtかかります。
本題: async関数にかかる時間
では、ここからが本題です。async関数の実行にかかる時間を計測してみましょう。まずは何もしないasync関数です。
async function empty() {}
clock();
empty().then(() => console.log("done"));
結果はこうなります。
0
1
done
2
3
4
5
つまり、empty()はPromise.resolve()と同様にすでに解決されたPromiseを返すものと見なせます。実際、ECMAScript仕様書の27.7.5.1 AsyncFunctionStartなどを見ると、async関数は常にPromiseを返し、このように中でawaitしないものは即座に(同期的に)resolveすると書いてあります。このことは、上のempty関数は次のような関数と同等であることを意味しています。
function empty() {
return new Promise((resolve) => {
resolve();
})
}
これはまた、Promise.resolveの定義とほぼ同等です。このことから、空のasync関数は解決までに0mtかかるものであることが分かります。それに対してthenを呼び出すところで1mtかかるので、上の例で"done"が表示されるのは時刻1mtとなります。
では、いよいよfoo1の所要時間の話に進みます。
async function foo1() {
return await Promise.resolve();
}
これは、次の関数と同等です。
async function foo1() {
const res = await Promise.resolve();
return res;
}
そして、Promise.resolve()をawaitした結果はundefinedなので、これは結局次と同じです。
async function foo1() {
await Promise.resolve();
}
先ほどすでにfulfillされたPromiseをawaitするのは1mtかかると説明したので、このfoo1の実行時間も1mtです。よって、foo1().then(() => { console.log("pika") })はthen自身も1mt消費するので、時刻2mtに"pika"が表示されることが期待されます。試してみましょう。
async function foo1() {
return await Promise.resolve();
}
clock();
foo1().then(() => { console.log("pika") })
やってみると、こうなります。
0
1
2
pika
3
4
5
予想通り、時刻2mtにpikaと表示されました。
次にfoo2です。
async function foo2() {
return Promise.resolve();
}
これは中でawaitせずにPromise.resolve()を返すので、次の関数と同等です。
function foo2() {
return new Promise((resolve) => {
resolve(Promise.resolve());
})
}
Promiseのresolve関数にPromiseが渡されたときの挙動は、27.2.1.3.2 Promise Resolve Functionsに記述されています。それによれば、resolve関数に渡されたPromiseのthenメソッドを呼ぶというタスクをマイクロタスクとして実行します(仕様書から一部抜粋)。
9. Let then be Get(resolution, "then").
11. Let thenAction be then.[[Value]].
13. Let thenJobCallback be HostMakeJobCallback(thenAction).
14. Let job be NewPromiseResolveThenableJob(promise, resolution, thenJobCallback).
15. Perform HostEnqueuePromiseJob(job.[[Job]], job.[[Realm]]).
以上の仕様のステップ14に現れているjobというのが「渡されたPromiseのthenメソッドを呼ぶ」というタスクであり、それをステップ15でマイクロタスクとして登録しています。
言い方を変えれば、Promiseのresolve関数にPromiseが渡された場合、1mt後にそのthenメソッドが呼ばれるのです。つまり、foo2は以下のように書き換えられます。
function foo2() {
return new Promise((resolve, reject) => {
Promise.resolve().then(() => {
Promise.resolve().then(resolve, reject);
})
})
}
見れば分かるように、foo2()が返すPromiseがfulfillされるまでにPromise.resolve().thenが2回噛ませています。これにより、foo2()が返すPromiseは2mt後にfulfillされることになります。これは先ほどのfoo1()より1mt多いですね。
このPromiseにさらにthenを噛ませてconsole.log("chu")を実行するとなると、chuが表示されるのは時刻3mtです。
clock();
foo2().then(() => console.log("chu"));
0
1
2
3
chu
4
5
このように、async関数からPromiseを返すという行為は、awaitとは異なり2mtかかるのです。
まとめとして、foo1とfoo2を一緒に実行してみましょう。
clock();
foo1().then(() => console.log("pika"));
foo2().then(() => console.log("chu"));
0
1
2
pika
3
chu
4
5
このように、pikaとchuは実行される時刻が違います。
foo1()よりもfoo2()のほうが1mtだけ長く時間がかかります。
その理由は、async関数の中のawaitは1mtかかり、Promiseでないものを返すのは0mtかかる一方で、Promiseをreturnするのは2mtかかるからです。
まとめ
この記事では、以下の2つの関数の挙動の違いを説明しました。具体的には、foo2のほうが、返り値のPromiseが解決されるまでマイクロタスク1回分長くかかります。
async function foo1() {
return await Promise.resolve();
}
async function foo2() {
return Promise.resolve();
}
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