エンジニア界隈で10年間いろんな会社を梯子して自分に合う文化を見つけた話
うぐいすソリューションズ Advent Calendar 2025 の19日目担当のぴよです。私は物流系ベンチャー → Webスタートアップ → データサイエンス系スタートアップ → 上場受託開発会社と渡り歩き、フリーランスとしてITコンサルやWeb制作会社とも仕事をしてきました。いろんな事業規模の、いろんな「IT系」の仕事に関わってきた中で、
- 同じ「開発案件」でも、使う言葉が違う
- 私が「正しい」と思っていたやり方が、別の世界では「間違い」だったりする
といったことがたくさんありました。ひとくちに「ITエンジニア」といっても、文化は驚くほど多様です。「なんか辛いなあ」「居場所ないなあ」というエンジニアに、もしかしたら違うところなら輝けるかもしれないと伝えたくて、アドカレのネタに困って、この記事を書きます
ベンチャーかスタートアップか論
最初の転職で、物流系の小さい開発会社からスタートアップに近い会社に移りました。どちらも「小さい会社」でしたが、雰囲気がまるで違いました。転職先は資金調達をしておらず、自己資金で回していました。IPOやM&Aを目指すわけではないが、何か価値を作るぞ、という空気感が強い会社です。
ベンチャーとスタートアップの違いってなに?
知っています?私は当時知らなくて、どちらも「小さい会社」だと思っていました。
| ベンチャー | スタートアップ | |
|---|---|---|
| 語源 | 和製英語(海外では通じない) | シリコンバレー発 |
| ビジネスモデル | 既存モデルをベースに堅実成長 | 革新的モデルで急成長狙い |
| 資金調達 | 自己資金・融資が多い | VCから調達、Exitを狙う |
| 成長曲線 | 右肩上がり | J字カーブ |
| 働く人の心構え | 「来年も同じ事業をやっている」前提 | 「来月ピボットするかも」という緊張感 |
ベンチャーの中でも、事業単体で黒字化してスケールを目指すSIer的なものは「ソリッドベンチャー」、少人数で融資を受けずに経営するタイプは「スモールビジネス」と呼ばれることもあります。
この違いを知らずに転職すると、期待と現実のギャップに苦しみます。 「スタートアップに行きたい」と思って入った会社がスモールビジネスだったり、逆に安定を求めて入ったら事業ピボットや雰囲気がどんどん変わるスタートアップだったり。場所によって、評価軸もズレるのです。
スタートアップでは「価値」を議論する
この会社では開発の前に、まずホワイトボードの前に集まって 「このプロダクトはどんな価値を提供するのか」 を延々と議論していました。
受託開発系の会社だと、ホワイトボードに書かれるのはシステム構成図や処理フローで、「どういう機能を合意したか」が重要でした。ここでは「価値」が重要でした。
顧客との関わり方も違いました。私にとって「顧客折衝」はベテランに任される上流工程の仕事。下流のエンジニアは仕様書通りに作ることが仕事で、顧客は「偉くて怖い存在」でした。しかしこの会社ではエンジニアも顧客の課題を直接聞くし、フィードバックを集めるし、時には「それは違うと思います」とフラットにNoを言います。
働き方も違いました。
- 勤怠管理は緩やか、オフィス出社も必須ではない
- 会議は会議室を適当に押さえるか、カフェで議論する
働き方は私には合いましたが、どうしても「新しい価値を創造」よりも「誰かの課題解決する」方が自分には合っていたため、いくつか規模や経路の違うスタートアップを渡り歩いた末に、「誰かの課題解決する」傾向が強い受託開発企業に落ち着きました(一旦落ち着いた後に起業しますが)。
役割に当てられた言葉の差分
いろいろあってフリーランスになった私は、大規模な受託開発プロジェクトから小さなスタートアップの手伝いまで、さまざまな役割を任されました。フリーランスとしては主にPMをしていましたが、「PM」っていろんな種類があるんですよね。
私はPMだがPdMではない
「PMやってました」と話して獲得した案件の中に、いくつかMVP開発のプロジェクトがありました。今ならわかります。受託開発のPMをやっていた私がとった案件は、PdM案件だったのです。それは期待値とずれるぞ、過去の私。
| 略称 | 正式名称 | 何をする人? | どこで活躍? |
|---|---|---|---|
| PdM | プロダクトマネージャー | 「何を作るか」「なぜ作るか」を決める | 自社サービス企業 |
| PjM | プロジェクトマネージャー | 「どう作るか」「いつまでに」を管理 | 受託開発・SIer |
| PMO | プロジェクトマネジメントオフィス | PMをサポート、横断的に支援 | 大規模PJ・コンサル |
「PM」とだけ言われたとき、それがPdMなのかPjMなのかは 文脈次第 です。
スタートアップではPM = PdMであることが多く、価値創造に重きが置かれます。どんな仮説を立てて、誰を動かして、何を検証するか。エンジニアだけでなく、マーケターや営業とも密に連携して価値検証をしていきます。
一方、SIerではPM = PjMであることが多く、業務整理から始まることもありますが、主にプロジェクトのマイルストーン管理、エンジニアの進捗管理、顧客への報告が仕事です。ベンダー間やステークホルダー間の調整も含まれます。ちなみに「ITコンサルタント」も、私の観測範囲ではこれと同じ動きをすることが多かったです。
転職や案件獲得のとき、「PM経験あります」だけでは話が噛み合いません。 相手がPdMを求めているのかPjMを求めているのか、確認しないとミスマッチが起きます。このミスマッチは、ケイパビリティだけでなく目的やスコープの違いにも関わるので、能力だけでカバーしきれない大きいギャップになってしまいます。
ディレクターって誰のこと?
同じような話ですがもう1つ。フリーランスでWeb制作会社と仕事をしたとき、「ディレクターやって」と言われたことがあります。
コンサルティングファームでは、アナリスト → アソシエイト → マネージャー → ディレクター → パートナーという序列です。ディレクターといえば経営に近い立場のめちゃくちゃ偉い人。そんなこと、できるはずない....何を求められているんだ....?
しかしWeb制作会社の「ディレクター」は、PMと同じような意味でした。クライアントとの窓口になり、デザイナーやコーダーに指示を出す、プロジェクトの進行管理をする人がこの界隈では「ディレクター」と呼ばれます。
同じ言葉でも、業界によってまったく違う意味を持ちます。これを知らないと、相手の立場を読み違えてコミュニケーションがちぐはぐになります。新しい業界に飛び込むときは、相手の使う言葉をよーーーく観察して、何を求められているか判断が必要です。
文化が違えば正解が違う
コンサル資料 vs スタートアップ資料
ITコンサル出身者もスタートアップ出身者もいる会社で、資料作りを任せたときのアウトプットの差に困りました。コンサルは文字が多くて、官公庁案件で見るような資料。スタートアップはピッチ資料やLT資料に多い、1枚あたりの情報を絞った資料です。
| コンサル流 | スタートアップ流 | |
|---|---|---|
| 目的 | あとで読んでも分かる資料 | その場でイメージが伝わる資料 |
| 構成 | タイトル下にキーメッセージ、論点整理、情報網羅 | 図や画像メイン、文字は少なめ |
| 「正しくない」とされるもの | 情報が足りないスライド | 文字を詰め込んだスライド |
| 参考書籍 | 『ロジカル・プレゼンテーション』など | ピッチ資料、LT資料の文化 |
どちらが正解かは「誰に、何のために見せるか」で決まります。 経営会議の報告資料ならコンサル流、投資家へのピッチならスタートアップ流。時間などの制約条件によっては、生成AIで一発出しした資料が正解になることもあるでしょう。場所によっては「これが正解」という暗黙知があるかもしれません。
納期と価値のどちらを評価するか
受託開発会社にいたとき、できるPMとされるのはスコープを調整し、リスクを早めに潰し、約束した日に必ず納品するPMでした。元エンジニアだけあって方針をエンジニアに伝えるのが得意だし、リスクがあるところはどう回避するか考えるのも得意で、私は「できない方」ではなかったと思います。
スタートアップに関わると、とたんにポンコツ(そこまでひどくないかも)扱いされます。「納期より、ユーザーが本当に喜ぶもの」をいわゆるアジャイルに考えていくのが当たり前でした。定義された機能も平等な品質で作るより、メリハリをつけて価値が最大になるように作るといった視点も求められました。
受託開発では「機能を正しく作り、正しく見積もった期間で納品する」ことが重視されますが、スタートアップでは「価値を作るためにコミュニケーションを取り、巻き込んで価値検証する」ことが求められる、という対比だと考えています。
おわりに
今の現場で評価されない、うまく価値を出せていないと感じたら、それは 能力の問題ではなく、文化のミスマッチかもしれません。自分の得意なこと、心地よいと感じる働き方を棚卸しして、合う場所を探せると、もっと生きやすくなるかも。過去の自分と、周りで悩んでいたエンジニアたちに伝えたいです。全部載せの会社を作ろうと思って企業しました。ねじ曲がれ常識よ.....!
月並みですが、弊社は多様なバックグラウンドを持つメンバーが、その文化差を活かせないかと日々考えながら働いています。もし何か困ったら、弊社のエンジニアに話を聞きに来てください。何かの価値や仕事につながって、面白いことができる仲間が増えたらいいな。
明日は我が社の大事な火消し屋さん、@uguisu_piggyの担当です。今日までまったく記事に手をつけていないと思うけど、果たして投稿されるのか....👀
Discussion
ベンチャーとスタートアップの決定的な違いは、企業の「目的」にあります。
ベンチャー企業は、技術やサービスを基盤に事業を成長させ、
その事業を継続していくことを目的としています。
一方で スタートアップは、技術を基に急成長し、
最終的に M&A もしくは IPO によって企業そのものを売却すること を目的とします。
つまり、事業ではなく 企業そのものがプロダクト です。
そのため、
スタートアップという形態は、30年前のシリコンバレーで流行したドットコム・ビジネスが源流です。
技術を身につけて磨くにはスタートアップは良い環境で、新しい挑戦に積極的に投資します。
ただし、長くしがみつく場所ではなく、ステップアップの場 として捉える方が良いでしょう。
企業例で言えば、
Facebook(Meta)は成長しても売却していないため、スタートアップではなく現在は巨大なベンチャー企業といえます。
一方、Twitter は最終的に企業売却という形になったため、スタートアップ的な道を辿ったと言えるでしょう。
魅力あるソフトを作り、それを基に事業を続けるのか。
それとも企業ごと売却するのか。
この目的の違いが、ベンチャーとスタートアップを分ける最もわかりやすい基準だと思います。
結局のところ、目的や成り立ちが異なる以上、文化の違いが生まれるのは必然だと思います。