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TypeScript 7で消えるtsconfigのレガシー設定。target: es5やbaseUrlにサヨウナラ

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現在開発中のTypeScript 7では、target: es5baseUrl といった長年のレガシーな設定が削除され、strict: true が標準になるなど、デフォルトの挙動が変更されます。

TypeScript 6の時点で「非推奨(Deprecated)」となり、TypeScript 7で実際に機能が削除(またはデフォルト変更)されるという段階的な移行が予定されています。

TypeScript 7とは

現在のTypeScriptのコンパイラはTypeScriptで記述されていますが、TypeScript 7ではGO言語によるネイティブコンパイラー「tsgo」となります。コンパイル速度が10倍向上するという公式発表があり、実際に私も検証したところ確かに10倍高速化されました。

TypeScript 7の基礎知識やインストール手順については次の記事を参照してください。

https://zenn.dev/ubie_dev/articles/typescript7-tsgo-whatsnew

TypeScript 6で非推奨・7で削除される設定👋

これまではtsconfig.jsonに何気なく書いていた設定が、TypeScript 6で警告対象となり、7ではエラー(無効)になります。

主な変更点は以下の通りです。

1. --strict がデフォルトで有効に

従来は、TypeScriptの厳格なチェック(noImplicitAnystrictNullChecks など)を有効にするには、明示的に "strict": true と書く必要がありました。TypeScript 7からは、"strict": true と書かなくても厳格なチェックが有効になります

逆に、"strict": false を設定した場合は、厳格なチェックが無効になります。現代において、"strict": falseを設定することはまずありえないと思うので、この挙動は嬉しいですね。

「もともとtsc --initしたときは"strict": trueのはずでは?」と思うかもしれませんが、TypeScript 7からはコンパイラの挙動そのものが変わり、"strict": true` と書かなくても厳格なチェックが有効になる点がポイントです。

https://github.com/microsoft/TypeScript/issues/62333

2. --target が最新のECMAScriptになる

target とは、TypeScriptをコンパイルした後に「どのバージョンのJavaScriptを出力するか」を決める設定です。TypeScript 7からは最新の安定版ECMAScript(例: ES2025)がデフォルトになります。

tsconfig.json から"target"の行を消すと、TypeScript 7ではデフォルトで最新の安定版ECMAScript(例: ES2025)向けに必要最小限の変換を行います。モダンブラウザやNode.js最新版が対象なら、環境向けの余計なダウンレベル変換が入らず、出力が軽くなり可読性も上がります

https://github.com/microsoft/TypeScript/issues/62198

3. --target: es5 の削除

さらばes5… IE11(大昔、私のようなおじさんが使っていた)のような古いブラウザ向けの出力サポートが削除されます。

これまでは、最新のasync/awaitなどの構文を、ES5で動かすために、TypeScriptは内部で複雑な変換(ステートマシンの生成など)を行っていました。このサポートを終了することで、TypeScript本体のコードがスリム化され、コンパイル速度の向上やメンテナンス性の改善が期待されています。

もしどうしてもレガシー環境向けにES5のコードが必要な場合、TypeScriptの出力を、さらにBabelやSWCなどの外部ツールでトランスパイルする必要があります。

https://github.com/microsoft/TypeScript/issues/62196

4. --baseUrl の削除

baseUrl は、import 文を書く際の「基準となるディレクトリ」を指定する設定でした。これを使うと、たとえば src フォルダーを基準にして ../../components/Button ではなく components/Button のように絶対パス風に書くことができました。しかし、これは元々 AMD (RequireJS) 時代の遺産であり、現代の標準的なモジュール解決(Node.jsやブラウザのESモジュール)とは異なる挙動をするため、トラブルの原因にもなっていました。

TypeScript 7からは、この baseUrl が削除されます。

「では@/ などのエイリアスはどうなるの?」と心配になるかもしれませんが、paths オプション自体は残ります。pathsとは、特定のインポートパスを実際のファイルパスにマッピング(紐付け)する設定です。「@/ と書いたら ./src/ を参照する」といったルールを定義することで、深い階層のファイルも簡潔に記述できるようになります。

今後のエイリアスは、baseUrl に頼らず、Node.js標準のSubpath imports(#から始まるエイリアス機能 https://nodejs.org/api/packages.html#subpath-imports)機能を使うか、`paths` オプションで明示的にパスのマッピング(例:"*": ["./src/*"])を書くのが推奨されます。

https://github.com/microsoft/TypeScript/issues/62207

余談ですが、筆者はStorybookのモック機能でSubpath importsを使い始め、その便利さに感動してエイリアスをどんどんSubpath importsに置換しています。

5. --moduleResolution: node10 の削除

moduleResolution とは、TypeScriptが import されたファイルをどうやって探すかを決めるロジックです。
node10(またはエイリアスであるnode)は、CommonJS時代の古いNode.jsの挙動を模倣するものでした。

TypeScript 7からは、node10node)が削除されます。

大きな理由は、現代のライブラリ開発で標準となっているpackage.jsonのexportsフィールドに対応していないためです。exportsは「ライブラリの中で、外部に使わせて良いファイル」を厳密に定義する機能ですが、node10 設定はこの制限を無視して、ライブラリ内部のプライベートなファイルを勝手にimportできてしまいます。これは、実行時エラーや、ライブラリのアップデートによる予期せぬ破損の原因となっていました。

今後は、bundler(Vite、Next.js、webpack用)やnodenext(Node.js用)を使うようにしましょう。

https://github.com/microsoft/TypeScript/issues/62200

体感的に、moduleResolution: nodeの設定は現場のプロジェクトで多く残っている印象です。

6. rootDir の挙動変更

rootDirとは、「出力ディレクトリ(outDir)の中に、元のディレクトリ構造をどう反映させるか」を設定するものです。従来、rootDirを指定しない場合、TypeScriptがソースファイルの配置を見て「一番共通する親ディレクトリ」を推論していました。 TypeScript 7からは推論が廃止され、デフォルト値は常に「tsconfig.jsonのあるディレクトリ(.)」に固定されます。

変更の理由はコンパイル速度の向上です。これまでの「全ファイルを走査してルートを自動計算する処理」を廃止することで、TypeScriptの動作を高速化・単純化する狙いがあります。

何が起こるのか?

srcフォルダーにソースを入れているプロジェクトで、rootDirを明示していない場合、出力構造が変わってしまう可能性があります。

  • 従来(自動計算):
    • ソース: src/index.ts
    • 出力: dist/index.jssrcがルートだと推論された)
  • TS 7以降(デフォルト .):
    • ソース: src/index.ts
    • 出力: dist/src/index.jssrcディレクトリがそのまま出力に含まれてしまう)

従来の挙動を維持したい場合は、tsconfig.json で明示的に "rootDir": "./src" を指定してください。

https://github.com/microsoft/TypeScript/issues/62194

移行を助けるツール「ts5to6」

変更内容を手動で修正するのは大変ですよね。TypeScriptチームは、TypeScript 6への移行(および7への準備)を自動化するts5to6というツールを開発しました。

https://www.npmjs.com/package/@andrewbranch/ts5to6

現在は主に baseUrlrootDir の修正に対応しており、推論を使ってプロジェクト構成を解析し、自動で書き換えてくれます。

# baseUrlの設定を自動修正する
npx @andrewbranch/ts5to6 --fixBaseUrl tsconfig.json

# rootDirの設定を自動修正する
npx @andrewbranch/ts5to6 --fixRootDir tsconfig.json

たとえば、筆者のプロジェクトでbaseUrlの設定を自動修正すると、次のようになりました。自動でやってくれるのはありがたいですね。

Before

    "allowJs": false,
    "baseUrl": "./src",
    "paths": {
      "~/*": ["*"]
    },

After

    "allowJs": false,
    "paths": {
      "~/*": ["./src/*"],
      "*": ["./src/*"]
    },

さいごに

TypeScript 7は、ネイティブコンパイラーによるパフォーマンス向上だけでなく、長年の「今もう誰も使ってないだろ…」という設定とサヨナラするメジャーアップデートになります。まずはts5to6を使いつつ、TypeScript 6に上げた段階で警告をすべて潰すことを目標にするとよいでしょう。

次のリリースはTypeScript 6.0で、TypeScript製コンパイラーの最後のバージョンとなります。その次のリリースはネイティブコンパイラー製のTypeScript 7.0がリリースされます。登場まであと少し。首を長くして待ちましょう。

参考記事

https://devblogs.microsoft.com/typescript/progress-on-typescript-7-december-2025/

https://zenn.dev/ubie_dev/articles/typescript7-tsgo-whatsnew

この記事は Ubie Tech Advent Calendar 2025 の 4日目の記事です。

https://adventar.org/calendars/12070

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