ゲームの面白みを調査しました
ビデオゲーム(コンピューターゲーム)がなぜ「面白い」か分からなかったので、個人的に調査をしました。
調査したいこと
調査開始時点で、分からなかった項目は以下です。
- 会社の付き合いでしかたなく行く飲み会より、何度も見たバック・トゥ・ザ・フューチャーをもう一度見るほうが面白いのはなぜか?
- ロマンシングサガ3が好きで何度もやったんですが、しかしこのゲームは面白いのか?
- ツクール製ゲームと聞くと、やってもいないのに、なぜか面白く無さそうに聞こえてしまう…(何かが減点されてる…)
- プレイヤーとして、単位時間あたりの面白さを最大にする方法はあるかな?
- 未プレイのゲームが面白いかどうかを判断する方法があるかな?開発会社との情報の非対称性はズルくね?(パッケージ詐欺)
これらの解決を目指して、面白さについて探っていきました。
基本的な考え方
「面白さ」の調査にあたって、ベースとなる考え方を探しました。
桜井政博氏(カービィ、スマブラ等のゲームデザイナー)の解説した内容が良いと感じました。
調査に関係しそうな項目をまとめました。
- ゲーム性=駆け引きの面白さと定義する
- 駆け引きとは、リスクとリターンのこと
- ゲーム性はコンピューターゲームの核である
- 確立されているゲームジャンルには、ゲーム性を含んでいるものが多い
- ゲーム性の設計には、ターゲットへの適切さが必要
- 難しいゲームは、クリアした時のリターンが大きい。しかし、難しすぎるとリターンにたどり着かない。
- 簡単なゲームはリターンが少ないが、ターゲットに対してはそれが正しい場合がある
- これは価値観の違いであるため、正解はない。
- ゲーム性を高めると、一般性が下がり、楽しめる人が減る
- 一般性を求めると、評価されないゲームになる(と感じる)
- ゲーム性以外の面白さはある
- 操作が面白い。現実世界と切り離された空間を操作するのはそれだけで面白い。
- ノベルゲームなど。ストーリーを読み進める面白さ。コンピューターゲームならではの仕組みを入れられる。
- 版権、キャラクター。プレイすると、そのキャラクターの世界で楽しめるのが、面白い。
- ムービー。ゲームの体感度を高める。
- スポーツ。スポーツルール自体がゲーム性を持つ。実世界のチームがあるとより面白い。
- 実世界のシミュレーション。電車で GO など。疑似世界を体験するのは面白い。よりリアルなら情報量があってなおよい。
- クラフト。マイクラなど、作ることが面白い。ゲーム性を入れると更に面白い。
- 音ゲー。リズムに合わせて音を鳴らすのは原始的な喜び。パーフェクト表現はゲーム性を入れたもの。
- ゲームの設計・仕様によって、面白さは増幅できる
- レースゲームでは、ドリフト走行の成功に報酬を与えて面白さを増している
大変良く分かりました。
特に重要と感じたのは、ゲーム性以外にも面白さは、複数ある
ということです。
ボードゲームのような非電源ゲームでは、ゲーム性が追求されていることが非常に多いと感じています。
ただ、コンピューターゲームの魅力はそれだけではないと思っていて、ゲーム性だけでゲームの良し悪しが語られるのが非常に疑問でした。
この点について解答が得られたのが良かったです。
また、記事を読んで、いくつか疑問点ができました。
続いて以下の点について調査しました。
- 面白さの幅、つまり面白く感じる要素はどのぐらいあるのか?
面白く感じる要素はどれぐらいある?
桜井さんの挙げた「駆け引き」が面白さの要素の分解不可能な最小単位の一つ(面白み)と考えたとき、同じような粒度で、面白さの要素をコレクションしておけばゲーム製作の時に便利では?と考え調査しました。
いくつか参考になりそうな引用を記載します。
Raph Koster 氏(ウルティマオンライン開発)の著書「おもしろい」のゲームデザインより
おもしろさとは人が良いと感じる全てに当てはまる
ヨコオタロウ氏(ニーアオートマタ開発)のブログ記事「新人さんとゲーム性の話をした」
個人的にはもっと幅が広くて「能動的な面白さ」があればゲーム性と言っちゃっていいようにも思うなあ。
「ボタンを押したら画面が光ります」って行為に駆け引きもルールもあまりないけれど、
その発光が毎回面白い形になって楽しいんだったらそれはそれでゲーム性と言えるようにも思う。
ヨハン・ホイジンガ氏(歴史家)の文化の持つ遊びを分析したホモ・ルーデンスより
遊びの「面白さ」はどんな分析も、どんな論理的解釈も受け付けない
調査した結果としては、面白さは、個人の主観によるもので、個々人の趣味嗜好・価値観の違いによって面白いと感じるポイントは無数にある。
という結論です。
調べなくても分かるような、当たり前の結論です。
極論、うんこでも面白いと感じる人は面白いということです。(というかうんこはかなり面白いので、良くない例えです…)
全体を網羅しようとする行為はあまり意味がないと感じました。
ゲーム企画書において、「みんなが面白いと思えるゲーム」を目指すのは悪手とされているのは、コレが原因でしょう。 また、口が酸っぱくなるほど言われる「ターゲットを絞れ」も同様でしょう。
調査を通じてさらに情報を得ました。
- コンピューターゲームにおいて、有用とされる面白みがある
- ゲーム分析の手法にて、面白さについての言及がある
有用とされる面白み
網羅的な調査は無理そうなので、今度は、コンピューターゲームで人気、あるいは有用とされている面白みに絞って調べました。
桜井さんが挙げた「駆け引き」の他に、いくつかあります。
調査した結果を紹介します。
- 学習
- 意思決定
- アンケートからの分析
- デザイナーたちの分析
学習が面白い
かえる D 氏(ゲーム会社取締役)が学習の面白みについてまとめています。
学習の面白みは、本能的に「生存のために学ぶのは面白い」と感じる人間の性質に由来するとしています。
意図して学習の面白さを組み立てる際に、フロー理論を応用したゲーム設計が役に立つとしています。
意思決定が面白い
Greg Costikyan 氏(TRPG ゲームデザイナー)のゲームデザイン論にて、主張された内容です。
目標を達成するためにどう行動を取るか。
ゲームはそれを考え判断したり、悩んだりするのが面白い!
意思決定を重視したコンピューターゲームとしては、4X ゲームのジヴィライゼーションが挙げられます。
このゲームのデザイナー、シド・マイヤー氏は「ゲームとは、面白い意思決定の連続であるべき」と言っています。
アンケート結果からの分析
QUANTIC FOUNDRY 社はゲーマーから大規模なデータ収集を行い、ゲームをやる動機について調査しました。
調査結果により、12 の動機づけ要因を挙げています。
この結果は、地域差を無視して世界中に適用できる面白みを表したのではなく、
好みはともかく、こういった要素は存在するよねという共通項において、有意なものをまとめたもののようです。
- ファンタジーが面白い : どこかの誰かになりたいという願望
- ストーリーが面白い : 精巧なストーリーと興味深いキャラクターの重要性
- 自由にデザイン出来るのが面白い : 表現の魅力と深いカスタマイズ
- 破壊が面白い : 混乱、騒乱、銃、爆発物
- 興奮するのが面白い:ペースが早く、強烈、アドレナリンラッシュを提供
- 競争が面白い:他のプレイヤーとの競争の楽しみ
- コミュニティが面白い:他のプレイヤーとの交流やコラボレーションが面白い
- 課題が面白い:難しい課題を克服するスキルの楽しみ
- 戦略が面白い:慎重な意思決定と戦略的思考の楽しみ
- コンプリートが面白い:すべてのミッションの完了・全収集・隠されたものの発見
- 力の顕示が面白い:ゲームの世界でパワフルになれること
ゲームデザイナーたちの分析
アンケートがボトムアップからの分析だとすると、
トップダウン…作り手の方からの分析も気になります。
いくつか紹介します。
8 Kinds of Fun
Marc LeBlanc 氏(Ultima Underworld II 開発)が分析した面白み。
ゲームの面白さを表現するのに、漠然とした言葉の説明から離れるべきとして定義したもののようです。
本人は暴言だ、散文だと言っていますが、後で紹介する MDA フレームワークに取り込まれています。
- 知覚の面白み:Sensation。サウンド・ビジュアル等によってプレイヤーの感情を呼びおこす。DDR など
- ファンタジーの面白み:Fantasy。プレイヤーを別の世界に連れて行く手段としてのゲーム。FF など
- 物語の面白み:Narrative。プレイヤーに物語や物語を伝える手段としてのゲーム。ペルソナ 3 など
- 挑戦の面白み:Challenge。プレーヤーに非常に競争力のある価値またはますます困難な課題を提供するゲーム。Darksouls など
- 仲間意識の面白み:Fellowship。ソーシャルインタラクションをコアまたは大きな機能として持つゲーム。マリオカートなど
- 探検の面白み:Discovery。未知の領域をプレイヤーが世界を探索するゲーム。アサシンクリードなど
- 表現の面白み:Expression。ゲームプレイを通じてプレイヤーからの自己表現を可能にするゲーム。マインクラフトなど
- 服従の面白み:Submission。頭を空っぽにしてできるゲーム。農業ゲームなど
8 つの民族
スパ帝氏(非電源ゲームデザイナー)はGame2.0にて「その人が将来役立つものを本能的に楽しいと感じる」という仮説を元に、ゲーム世界の人が所属する民族を7つに分けて分析しています。
それぞれの民族が追求している面白みを抜粋したのは以下です。
- 操作の面白み:基本的な操作を行い、一定の水準を満たせばよい
- 操作の速度と正確さを競う面白み:操作の水準が高く、無限に上手くなれる仕組みがある
- 服従の面白み:タスクを小分けして具体的なインストラクションを与える。報酬の表現が豊富
- 管理の面白み:数字を把握し、最適手順を導き出し、ワークフローを構築する
- 意思決定の面白み:どちらが正しいか確信できない状況で、決断を行う
- 研究の面白み:ゲームの仕様を調査し、ハックする
- 消費の面白み:いかに少ないコストで欲しい物を手に入れられるか
7 つのゲームエレメント
Jey.P 氏(元ゲーム開発者)はゲームジャンルを 7 つの面白みの組み合わせで表現しました。
記事の内容が新しく、実ゲームを分析したケーススタディも非常に参考になります。
- アクションの面白み:動きそのものを楽しむ
- 技術の面白み:早く正確に実行する
- 意思決定の面白み:未知の状況に対応する
- 研究の面白み:真理を明らかにする
- 成長と達成の面白み:報酬を求めて行動する
- 探検の面白み:未知を既知にする
- 物語と模倣の面白み:架空の世界に入る
ゲーム分析手法での面白み
すでにあるゲームを分析し、より良くするための分析フレームワークがあります。
そこでも、面白さに触れていました。
MDA フレームワーク
MDA フレームワークは、ルールにより、プレイヤーへの相互作用が生まれ、感情が想起されるという流れがあるとして、それを分析する手法です。
ここで説明されている面白みは 8 Kinds of Fun の内容と同じでした。
ワークショップでは、仲間意識(fellowship)は協力と競争に分けて、8+1としてる場合もあるようです。
具体的な解析と改善方法は、こちらのモノポリーの改善記事が参考になりました。
主体性構造モデル
井戸 里志氏(ゲームデザイナー)は MDA フレームワークで挙げられた面白みを網羅的にする手法を提案しています。
主体的楽しさを生み出す構造に着目し、面白さについて、8 つのタイプと 19 のサブタイブに分類しました。
19 のサブタイプがここで言う面白みの粒度になるかと思います。
- 操縦の面白み:実際のゲーム状態へ直接的に影響を与える行為から生じる楽しさ
- 破壊の面白み:ゲーム内の事物を破壊する楽しさ
- 浄化の面白み:ゲーム内の乱雑な状態を秩序化する楽しさ
- 闘争の面白み:他のプレイヤーと競い合う楽しさ
- 欺瞞の面白み:他のプレイヤーと騙し合い、探り合う楽しさ
- 協力の面白み:他のプレイヤーと協力し合う楽しさ
- 戦略の面白み:与えられた明確な目標を達成するための最適な戦略を構築する楽しさ
- デザインの面白み:自分が考案した状態を達成するための方略を構築する楽しさ
- 強化の面白み:自分の影響力を強化する楽しさ
- 発見の面白み:問題を解き明かす楽しさ
- 自尊の楽しさ:自分の能力を誇らしく感じる楽しさ
- 実益の面白み:現実の生活に有用な財物や能力を得る楽しさ
- 没入の面白み:プレイヤーの行為がフィクション面に強く結びついて感じられる楽しさ
- 展開の面白み:プレイヤーの行為によって物語を展開させる楽しさ
- 愛好の面白み:フィクション面で、プレイヤーの好きな対象に影響を与える楽しさ
- 陶酔の面白み:自身の感覚や意識が混乱する楽しさ
- スリルの面白み:恐怖感・緊張感を抱く楽しさ
- 鑑賞の面白み:ゲーム内の映像、音楽、文芸の美しさを客観的に鑑賞
- 雑談の面白み:他のプレイヤーと目的達成に寄与しないことを気楽に話す
その他
調査している面白みには直接結びつきませんでしたが、興味深いゲーム分析方法がありました。
ワンダールクス
じーくどらむす氏(音楽プログラマー)は、
人間の行動が時間スケールによって質的に変化することに着目し、それに対するゲームの応答をモデル化したものを提案しています。
汎用的な理論のため、「面白み」を無理やり当てはめるには粒度がかなり大きいです。
ここでは、試みとして記載しています。
- 情報の面白み:その世界にい続けたいと思わせるような、背景、BGM、入力と関係ない集合
- 反応の面白み:「手触り感」心地のよいフィードバック。ビジュアルエフェクト、サウンドエフェクト、コマンド選択
- 遊戯の面白み:プレイヤーの能力への評価として認識される情報。戦闘、パズル、謎解き
- 進行の面白み:ゲームプレイに「意味があった」と感じさせてくれる情報。物語の進行、レベルアップ、2 次創作
ゲームデザイン手段目的分析
中村 隆之氏(もじぴったん開発)は、ゲームの要素構造がプレイヤーに与える心理への影響を、ユーザーの行動に着目して解析する手法を提案しています。
この解析手法では、面白みの分類がされておらず、解析者自身の言葉で面白みを表現・説明する必要があります。
そのため、開発者の意図していない、未知の面白みを発見出来る場合があります。
調査結果
有用とされている面白みでも結構な量がありました。
これらの情報を元に、調べたかった調査項目への解答を埋めました。
- 会社の付き合いでしかたなく行く飲み会より、何度も見たバック・トゥ・ザ・フューチャーをもう一度見るほうが面白いのはなぜか?
- その2つが持つ面白みの種類・適切な分量が異なるため、直接の比較できない。
- 前者は、対象にとって、好みの面白みがない、もしくは適切な量の面白さを提供するものではなかった。
- 後者は、映画というエンターテイメントの持つ複合的な面白さを、対象に刺さるような表現・技法で届けられていた。
- ロマンシングサガ3が好きなんですが、しかしこのゲームは面白いのか?
- 対象にとって、個々の要素で面白い・好きだと断言できるものがある。美術、音楽、戦闘システム、やりこみ勢などのコミュニティ。
- 少なくとも個々の要素が面白い作品を「面白い作品」として良いか?
- QUANTIC FOUNDRY の調査によるとゲーマーは 9 タイプに分かれる。「人を選ぶが面白い」という解答が妥当そうだ。
- ツクール製ゲームと聞くと、やってもいないのに、なぜか面白く無さそうに聞こえてしまう…(何かが減点されてる…)
- ワンダールクスによると、おそらく情報の面白さが失われている状態。
- 組み込みアセットや真新しくないシステム・様式が残存しているのではという不信感。いわゆるツクール臭。
- 紹介のスクリーンショットでツクール臭が消してあり、どれだけ「面白そう」を想起させることが出来るかが大切
- プレイヤーとして、単位時間あたりの面白さを最大にする方法はあるかな?
- QUANTIC FOUNDRY の調査で自分のプロファイルを取ってみる
- 自分のタイプのキーワードを元に steam のタグで検索するのが良いかも知れない
- 自分と同じタイプのキュレーターをフォローできればもっと良いと思うが…
- 未プレイのゲームが面白いかどうかを判断する方法があるかな?開発会社との情報の非対称性はズルくね?(パッケージ詐欺)
- 体験版やれ
- 配信見ろ
- steam で返金制度利用しろ
- はい
終わり
面白さの調査を通して、自分の疑問点が解消できてよかったです。
新しい分析では、他者とのゲームトークや二次創作のような、「ゲームをプレイする」を超えた部分にある面白みも、またゲームの面白みであるというとらえ方がされており、非常に考えさせられました。
昔と比べて、明らかにコンピューターゲームのソーシャル的な面白みが重視されてきていると感じます。最近ですと、「配信映えする面白み」とかでしょうか。
また、調べた様々な解説において「紹介した項目以外にも面白さは存在するぞ」と一言あるのが素敵だなと思いました。
今回の調査では、ある種、王道の面白み、について知れたので、外道の面白みについて考えるのも面白そうです。アンケートではマイナーな面白み、未知の面白みは取りこぼされているはずです。
インディーゲーム開発者はそこら辺を攻めるのも良いかなと勝手に思いました。
まぁ未知の面白みの発掘と、その実装…そう簡単に出来るとは思いませんが…
(引用:レベルE/冨樫義博)
ではまた。
参考資料
本文で紹介したもの以外を記載します。
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