創業2年目のスタートアップが自社工場を立ち上げた話
はじめに
はじめまして。Turing株式会社で事業開発を担当している山崎です。
Turingは完全自動運転EVの実現を目指すスタートアップです。自動運転に必要な頭脳・ソフトウェアだけではなく、それと相互に連携する車体・ハードウェアの開発にも自ら取り組んでいます。
そんな当社ではこの度初の自社工場を整備し、今年6月12日に晴れて操業開始しました。2021年の創設から社歴2年にも満たないスタートアップ企業が、なんのために大規模な投資を伴う自社工場の整備に踏み切り、完全な手探り状態からどのように拠点整備を進めたのか。世間的にも結構珍しいケースではないかと思いますので、その過程の一部をご紹介します。
いつものTuringテックブログとは少し趣が異なりますが、社内の雰囲気が少しでも伝われば幸いです。
なぜ今のタイミングで工場を立ち上げたのか
今回整備した工場は、Turingの事業戦略の中で研究開発拠点 兼 製造拠点として位置付けられます。
Turingは2025年には100台、2030年には10000台の自社開発車両の生産・販売を掲げています。ここから逆算すると、研究開発のフェーズに留まることなく、製造・販売を見据えてハードウェアを取り扱うための拠点を直ちに作ることは喫緊の課題でした。
「売らなきゃ売れないから」という理由でTHE FIRST TURING CARの開発に着手し今年の初めに顧客に販売したのと同様に、大量生産を行うEVメーカーになるという目標を達成するためには不可欠なマイルストーンであり、事業を前進させるために必要だから工場を作った。というのが主な理由になります。
自動車工場というと大手自動車メーカーのいわゆるライン工場をイメージする人が多いと思いますが、少数チームで組立を行うセル生産方式であっても、2025年に目標とする年間100台については前例もあり、十分に実現が可能です。
その先の10000台の量産を実現するためには今回の工場では規模が小さいので早々に次なる拠点の取得・整備に向けて動く必要があるのですが、今回の拠点はそういった大規模ライン工場の運用を見据えて製造に関するノウハウを積み上げていくPoCとしての意義もあります。
2030年に向けたTuringのマイルストーン
整備のタイムライン
今回の工場整備のプロジェクト期間は約半年間でした。大まかなタイムラインはこんな感じです。
2022年末:立地の検討、物件探し
2023年2月:物件選定完了、入居契約締結
3月:要件の洗い出し、導入設備とレイアウトの検討
4月:工事項目FIX・着工
5月:ガレージでの作業を段階的に移行
6月:仕上げ~完成、お披露目
施工風景1 加工エリア
施工風景2 車両用スロープ
施工風景3 工場内オフィス
施工風景4 外壁ロゴ
検討当初は部材調達などのアクセスを考慮して千葉県以外のエリアも候補に上がりましたが、最終的に綺麗で条件の良い物件が見つかり、我々に馴染みの深い千葉県柏市内に決まりました。
この工場を作るまでは本社すぐ近くのテストコース(KOIL MOBILITY FIELD)内のガレージを借りて車両の実験や改造を行ってきましたが、自社拠点を設けたことにより、これまで以上に安全かつ幅広い作業ができるようになりました。
早速新工場を有効活用している車両開発チーム
完成した工場の紹介
建物は2階建てで床面積は568坪(約1900㎡)、東京ドーム0.04個分の広さです。立地は常磐自動車道の柏ICにほど近く、Turing本社からも車で10分程の距離にあります。建屋壁面に描かれた赤いTuringロゴが目印です。カッコイイですね。
Turing Kashiwa Nova Factory 外観
ちなみにこの拠点の名称はKashiwa Nova Factoryといいます。社内での意見募集中にChatGPTの提案をもとに命名されました。Turingの本社がある“柏の葉”と“Nova(新しい)”で洒落が利いていて気に入っています。社内チャットでも「今からNovaいってきます」などと日常的に使われ、すっかり馴染んだ感があります。
今回導入した設備は、大きなところでは車両を持ち上げるための2柱リフトやエアーコンプレッサー、広い工場内を快適にするための高出力空調設備、屋内に車両を搬入するためのスロープなどがあります。また当社のエンジニアはソフト・ハードの垣根なく現場作業もデスクワークもこなすため、工場内オフィスも新築しました。
敷地の手前側には広々とした駐車スペースがあり、開発中の車両を私有地内ですぐさま動かせるのも嬉しいところです。
駐車場での走行テストの様子
直近では20~30名の社員が働くことになりますが、将来的には最大100人規模の社員が本拠点でオリジナル車両の開発と製造に関わることも想定しています。今はまだ必要最低限の機材しか入れていないものの既に新たな拡充整備の話も出始めており、この先も常に更新と進化を続けていくことになると思っています。
工場整備担当の仕事
ここで、工場整備担当者(私)がやってきた仕事についてもご紹介します。
少し自己紹介をすると私は当社では少数派の非エンジニア社員で、前職は国家公務員(行政職)でした。事業開発担当を名乗っていますが、詳細なジョブディスクリプションがあるわけでもないのでなんでも拾えるやつになろうといろいろやらせてもらっている中で本件も白羽の矢が立ちました。
大企業などの拠点整備であればもっと分業が進んでいるのかもしれませんが、当社では他にやる人がいないのでとりあえず自分で拾います(もちろん、優しい同僚達がたくさん助けてくれます)。基本的にひとつひとつは地味なタスクが多いです。ざっと思いつくところでは、
- エリア検討、物件調査(これは私がJoinする前でした)
- 社内意見の集約と対外すり合わせ
- 導入設備やゾーニングの検討
- 入居契約に関する書面の管理
- 各種ライフラインの開通手続き、経理処理
- 稼働のために最低限必要な備品の手配
- 鍵や設備の運用ルールの設定と周知
- 各種現場工事への立ち合い
などです。
技術的に素人でもやっているうちに社内で一番詳しいやつになれるというのは、小規模なスタートアップならではの面白い環境だと思います。
「公務員は専門性が育たない、つぶしがきかない」みたいな話は(元)公務員界隈でよくあるフレーズですが、マルチタスクや未知の分野をキャッチアップする姿勢、堅実にコミュニケーションを積み重ねていく粘り強さなど異なる業界に転向しても通じるものはあると感じます。我ながら平凡な感想ですが、今回のプロジェクトを通してこの先も何かしら貢献できることはありそうだなという感触が得られたのは個人的な成果でした。
おわりに
ここまで紹介してきましたが、数名の自動車メーカー出身者こそいるものの産業機械や工場設備の専門家がいないTuringが短期間で今回の新拠点の立ち上げを実現できたのは、各領域のプロであるメーカーや施工会社などの協力があったおかげです。
尽力いただいた関係企業の皆様に改めて感謝いたします。
そして、今回整備したKashiwa Nova FactoryはTuringのミッションにおいてあくまで一つの足掛かりでしかありません。直近では試作車製作や法規認証取得、中長期的にはアライアンスの構築や大規模生産工場の整備、法改正を含む制度整備への関与、販売・サポート体制の立ち上げなど、やるべきことはまだまだ無限にあります。Turingはこれからも爆速で事業を推進していきます。
Turingではソフトウェア・車両エンジニア等はもちろん、ビジネス・コーポレート領域においても多様な人材を募集しています。通常の採用窓口に加えて、逐次のイベントや社員とのカジュアル面談なども開放していますので、興味を持っていただけた方は是非ご活用ください。
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