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AI時代のSI・受託開発はどう変わるのか
はじめに
生成AIや自律型エージェントの普及は、SIや受託開発の「作り方」と「価値の出し方」を根本から揺さぶっています。単なる工数提供や手作業の効率化だけでは差別化できず、クライアントからも「本当にやるべきことを定義し、検証し、責任を持って伴走できるパートナー」が求められるようになります。これまで人が担ってきた領域のうち、オペレーションやコーディングの多くはAIに置き換わりますが、「何をすべきかを判断し、レビューし、結果に責任を持つ力」はむしろ重要性を増します。
需要の変化を読み解く
1. 要件定義・業務理解の高度化
- クライアントは、AIが実務を代替できる前提で「どのプロセスを変えるべきか」「顧客体験をどう再設計するか」を問い始める。
- 従来のように既存業務をシステム化するだけでなく、業務の再設計・目標設定・成果指標の確立が必須。
2. 継続的な運用・改善の需要拡大
- AIサービスは学習とフィードバックを前提に進化させる必要があり、導入後の運用・改善・ガバナンスが不可欠。
- 「納品して終わり」から「クライアントと共に成果を更新し続ける伴走型契約」への転換が進む。
3. 信頼とガバナンスへの投資
- 生成AIの利用にはセキュリティ、倫理、説明責任などの新たなリスクが伴う。
- ベンダーはAIガバナンスやリスクマネジメントを提供価値に組み込み、意思決定者を支援する役割を担う。
SI・受託開発が提供すべき価値
- 事業課題の特定と仮説構築: クライアントと共に「本当に解くべき課題」を整理するファシリテーション力。
- AIと人の協働設計: AIが得意な領域と人の判断が必要な領域を切り分け、責任体制を定義するアーキテクチャ思考。
- 実験と検証の高速化: PoCや小規模実装を迅速に回し、結果をレビューして次のアクションに繋げる反復プロセス。
- 運用・ガバナンスの継続提供: モデル監視、データ品質管理、コンプライアンス対応など、長期にわたる伴走。
エンジニアが進化すべき方向性
1. 「何をすべきか」を定義できる力
- ドメイン知識とビジネス目線で課題を構造化する。
- ユーザーやステークホルダーとの対話から真のニーズを引き出し、AI活用の適否を判断する。
2. 徹底したレビューと説明責任
- AIが生成した成果物をレビューし、リスクを洗い出して是正策を提示する。
- 意思決定者が理解できる形で説明し、最終判断を支援することで信頼を獲得する。
3. マルチスキルへの拡張
- プロンプト設計やエージェントオーケストレーションなど、新しい開発スタイルを使いこなす。
- データ活用、セキュリティ、プロダクトマネジメントなど周辺領域の知見を組み合わせ、総合的に提案する。
人間が担うべきことを再定義する
これまでのプロジェクトでは、「本来人がやるべき」要件の深掘りやレビューが不十分なまま開発が進み、後工程での手戻りや価値の欠如が課題でした。AIの浸透によって、誰が何を判断し責任を持つのかがクライアントからも厳しく問われます。だからこそ、人間が担う役割を明確にし、以下を徹底する必要があります。
- 価値の定義と優先順位付け: ビジネスゴール、ユーザー価値、法的制約などを踏まえ、取り組むべきテーマを選び抜く。
- レビューとフィードバックループの設計: AIが生成する成果をチェックする基準とプロセスを設計し、継続的な改善を仕組み化する。
- 倫理とリスクに対する判断: データ利用やAI判断がもたらす影響を先回りして評価し、透明性と説明責任を担保する。
現実的な移行ステップ
- AI前提のプロジェクト設計を試す: 小規模案件から、要件定義〜開発〜運用の各フェーズにAIを組み込み、効果と課題を可視化する。
- 契約・評価指標の見直し: 工数ベースの契約から、成果や改善サイクルを評価する契約形態へ段階的に移行する。
- 組織横断のガバナンス整備: AI利用ポリシー、品質基準、レビュー体制を整え、エンジニアが安心して判断できる環境を作る。
- 人材育成と文化醸成: 要件を考え抜き、レビューし、判断する文化を育てる。成功・失敗の学びを共有し、AIと人の協働モデルを磨き込む。
おわりに
AIが日常的に業務へ入り込むことで、SIや受託開発の価値は「何をどのように実現するかを判断し、責任を持つ力」へとシフトします。人間が本来担うべき要件定義、レビュー、意思決定を磨き込み、AIを活用して実装・運用の質と速度を高める。この二つを両輪として回せる企業・エンジニアこそが、AI時代のクライアントに選ばれる存在になっていくでしょう。
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