ShopifyアプリエコシステムにおけるAIの未来:機会の最大化とリスクの軽減
はじめに
最近、Shopifyのアプリ開発が盛り上がっていますよね。特にAIの進化によって開発の障壁が低くなったことで、アプリ開発に参加する人が大幅に増加しています。しかしその一方で、競争も激化しています。
本記事では、カナダ・トロントで開催された「Shopify Editions Dev. 2025 Summer」において、Shopifyのアプリエコシステムチームがインサイダー視点で語った、AIによるトレンドとチャンス、そして開発者がリスクを抑えつつAIを最大限に活用する方法について紹介します!
AIの現状とトレンド:エコシステムの変化を読み解く
ここ最近、Shopifyへのアプリ提出数が急増しています。
特にAI機能を搭載しているアプリや、AIをマーケティングに活用しているアプリは、なんと年間で40%も成長しているんです。つまり、誰でも参入しやすくなった分、「どうやって他と差をつけるか」 という戦略がこれまで以上に重要になってきている、ということですね。
AIによるアプリの収益化と機会の捉え方
AIを取り入れることでアプリの価値をどう高めるかを考えるうえで、まず押さえておきたいのがこの2つの視点です。
① 成長ポテンシャルはどの程度か?
アプリのAI活用による潜在的な成長可能性はどれだけあるか
② 自動化の容易さはどの程度か?
アプリのコア機能がAIによってどの程度容易に自動化されうるか
これらの問いに対する答えに応じて、「再発明 (Reinvention)」または「強化 (Augmentation)」 という2つの戦略的アプローチが存在します。
「再発明 (Reinvention)」戦略は、AIを活用してアプリの機能を強化し、新たな価値を創出することで市場にいち早く投入し、競争優位性を確立する道筋です。「強化 (Augmentation)」戦略は、AIが苦手な部分を武器にして、自分だけの強みを構築する戦略です。
1. 再発明 (Reinvention)
AIとの相性がよく、比較的自動化しやすい領域に向いています。
<こんなアプローチがおすすめ>
• 迅速な反復とリリースを行い、テストを通じて効果を確認
• 優れた ユーザーエクスペリエンス(UX) の構築が不可欠
• 例:アップセル/クロスセルアプリやSEOアプリは、AIを活用して60秒セットアップの分析提供や、業界固有のコンテンツ戦略提供で競合と差別化
2. 強化 (Augmentation)
AI化が難しいけれど、大きなチャンスがある領域に向いています。
<こんなアプローチがおすすめ>
• AI機能を活用しつつ、物理的な商品、規制上の利点、B2B関係といったアプリの「堀(moat)」を強化
• 例:プリントオンデマンドアプリでは、AIを活用したデザインツールを提供しつつ、製品の多様性や印刷品質といった物理的な側面にも投資。在庫最適化アプリでは、AIを活用した予測アルゴリズムを導入しつつ、根強い専門知識や複雑な統合を維持
AIで「再発明 (Reinvention)」できる7つの領域
AIは、アプリの機能を変革し、マーチャントの作業を簡素化することができます。中でも注目すべきカテゴリを紹介します。
1. コンテンツ生成
テキスト、画像、動画、コードを自動生成して、マーチャントの作業を効率化する機能です。
具体的には、商品バンドルの画像を自動生成したり、商品説明文を瞬時に作成したりすること、などが挙げられます。これにより、視覚コンテンツ作成の時間と労力を大幅に削減できます!
2. 会話型UI
自然言語インターフェースを活用し、アプリの使いやすさを向上させる機能で、これは特に革新的な分野だと言えます。
具体的な活用例:
• 複雑なアプリの設定や構成を自然言語で簡単に操作
• ヘルプやサポート機能を会話型AIで提供
• 「○○のセールを設定して」といった具体的なリクエストを自然言語で処理
• 国際返品ポリシーの設定を複雑な設定画面なしで完了
• データ分析のダッシュボードを自然言語で照会可能
3. 知識抽出と意思決定支援
データからインサイトを抽出し、マーチャントがより良い意思決定を行うのを支援します。
カートの状況に悪影響を与えている特定の製品を見つけたり、お店の独自データを含むあらゆるデータから知識を抽出して、アプリにインテリジェントなインサイトを提供したりすることが可能です。
4. ハイパーパーソナライゼーション
従来のパーソナライゼーションを超えた、個々のユーザーに最適化された体験を提供します。
お客様の購入行動を細かく分析し、過去の購入履歴に基づいて、もっと売上につながるようなロイヤルティリワードなどを一人ひとりに提供することで、売上を大幅にアップさせられます。
5. ビジョン理解
AIが視覚コンテンツを「見て」理解し、それに基づいて様々な処理を行う機能です。
例えば、商品写真などの視覚コンテンツをアップロードするだけで、AIがその内容をスタイル、色、構成といった要素で自動的に分類します。これにより、マーチャントや購入者の視覚コンテンツ管理が格段に簡単になります!
6. エージェントワークフロー
AIを活用したエージェントが、特定の事象を予測し、自動的に介入するワークフローを実行する機能です。
例えば、配送が遅延することを事前に察知し、その問題が発生する前に顧客に通知するといった対応が可能です。これはマーチャントにとって非常に価値の高い機能であり、シンプルなAI導入方法としてもおすすめです。
7. 自律的最適化
複数のマーケティングチャネル全体を横断してROI(投資収益率)を自動的に最適化する機能です。
例えば、天気データや競合他社の価格設定など外部データも取り込み、マーチャントがより効果的に価格設定ができるように最適化ヒントを自動提供します。多様な販売チャネルにおいて最適なパフォーマンスを達成できます。
強化 (Augmentation)の領域:AIでは代替が難しいアプリの強み
AIは非常に優れていますが、まだ苦手な領域も存在します。これらの領域は、アプリの「堀(moat)」 として機能し、AIによる代替からアプリを守るための強化ポイントとなります。
• フィジカルな接続(物流、ハードウェア)
ハードウェア、生産、物流など物理的な要素に接続するアプリは、AIによる自動化が困難です。
• 複雑なB2B関係と人間的なやりとり
AIは人間関係の複雑さをまだ再現できません。アプリが構築したB2B関係は、AIが簡単に破壊できない強みとなります。
• 独自データの保有と活用
アプリが独自データを生成している場合、それはAIモデルの重要なインプットとなり、競合に対する優位性となります。
• ネットワーク効果とユーザーベースの拡大
より多くのユーザーが利用することでアプリの価値が高まる場合、AIがそれを直接模倣することは困難です。
• 規制対応や専門ドメインの知識
厳格な法的、医療、または市場固有の規制知識と管理が必要な領域は、AIが簡単に自動化できません。開発者がこれらの要件に対応し、信頼を築くことは重要な優位性となります。
• ローカル文化や市場特有のニーズ
AIは翻訳能力が向上していますが、ローカルな市場知識、買い手やマーチャントの文化への理解といった文化的・ドメイン固有のニュアンスは、AIの能力を超えた差別化要因となります。
• 複雑なシステム統合・アルゴリズムの活用
AIがまだ扱えない複雑な技術との統合は、アプリの強みとなります。また、特定の専門的なアルゴリズムも、アプリのユニークな価値を保持します。
2つの戦略的アプローチ:再発明 (Reinvention) vs 強化 (Augmentation)
アプリは、AIによる成長機会の大きさ(Y軸)と自動化の難しさ(X軸) というマトリクス上で以下のように位置づけることができます。Y軸が上にいくほどAIによる成長機会が大きく、X軸が右にいくほど自動化が難しい(=自動化への耐性が高い)ことを示します。
注目すべき市場機会
1. 大規模事業者向けアプリ
大規模事業者向けのアプリは、初年度で6倍以上も高い収益を上げることができます。彼らは色々なニーズを持っており、AIがその解決策となりえます。
どんなニーズがあるか:
ダイナミックな価格設定、AIがおすすめしてくれる商品、シームレスなチェックアウトの最適化、リアルタイムのモニタリング、カスタムレポート、複数のプラットフォームをまたいだ管理などが挙げられます。
具体例:
会話型AIをダッシュボードに導入して、自然言語で分析データを質問できる機能(例えば、Googleの検索が会話型UIに移行しているトレンドに対応)。AIを活用したパーソナライズされた動画フィードによりエンゲージメントと差別化されたマーケティングタッチポイントを提供する例も挙げられます。
2. 国際市場(特にAMIA)
Shopifyはグローバルで急速に成長しており、特にヨーロッパ(AMIA)ではアメリカの成長を30%も上回っています。日本も世界で4番目に大きなEコマース市場であり、急速に成長しています。
しかし、優先市場で利用可能な公開アプリはわずか5〜7% しかなく、現地のニーズにアプリが追いついていない「ホワイトスペース」が存在します。AI翻訳などのツールを活用し、これらの市場に迅速に参入することが大きな機会となります。ローカルな知識や文化的なニュアンスの理解は、AIが簡単に自動化できない差別化要因となります。
Shopifyによる支援と今後の方向性
Shopifyは、アプリ開発を容易にし、開発者の成功を支援するために色々な取り組みをしています。
• 開発の簡素化・提出プロセスの最適化
アプリ提出数の増加に対応し、開発プロセスをよりスムーズにしています。AIレコメンデーションを導入し、アプリ審査プロセスを効率化しています。
• AIを活用した見つけやすさと模倣対策
アプリリストの構造化されたメタデータは、SidekickやChatGPTエディターなどの会話型AIが正確なレコメンデーションを行うために不可欠です。また、AIを活用して模倣アプリを特定し、阻止する取り組みも行っています。
• GMVや業界別レコメンド機能によるマーチャントとのマッチング強化
アプリリストに「プランGMVレベル(GMV)」や「業界」などの新しいハイライトを導入し、大規模事業者が適切なアプリを見つけやすくしています。大規模事業者でのトラクションが増加すると、該当するマーチャントへのアプリ表示頻度が増えて、さらに成長のチャンスが生まれます。
まとめ:AI時代の勝ち筋とは
AI時代において成功するために、以下の点に注力することが重要です!
• 機会の最大化と差別化の両立
AIがもたらす新たな機会を積極的に捉え、「再発明 (Reinvention)」 を通じてアプリを現代化し、市場にいち早く投入することで差別化を図ります。
• 自動化されにくい「堀(moat)」の構築
AIでは代替が難しいアプリの強み(物理的な接続、複雑なB2B関係、独自データ、ネットワーク効果、規制対応、文化的ニュアンスなど)を 「強化 (Augmentation)」し、競争に対する「堀(moat)」 を築きます。
• 今こそ「再発明 (Reinvention)」と「強化 (Augmentation)」の両軸で戦略的に動く時
大規模事業者や国際市場(特に需要があるにもかかわらずアプリが不足している地域)など、成長の余地が大きいセグメントに焦点を当て、AIを活用してこれらの機会を最大限に活かすのがおすすめです。
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