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【Shopify】AI検索はどこまで進化? ― Vantage Discovery買収と新Search & Discoveryアプリ

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目次

はじめに

2025年3月、ShopifyがAI検索スタートアップ Vantage Discovery を買収しました。Pinterest出身のエンジニアが立ち上げた会社で、セマンティック検索(意味を理解する検索)やパーソナライズに強みを持っています。

「検索」はEC体験の中心。Shopifyがここに本気を出してきたのは、エンジニアにとっても見逃せない動きです。

ただ、これは未来の話だけじゃありません。実はすでにShopify公式の Search & Discoveryアプリ を使えば、AI検索を試すことができます。今回はそのニュースを整理しつつ、開発ストアで実際に使ってみたレポートをまとめました。

前提知識

この記事を読むために必要な知識:

  • Shopifyの基本的な使い方
  • Shopifyアプリのインストール・設定方法
  • 基本的なECサイトの検索機能の理解

Vantage Discoveryとは?

Vantage Discoveryは、生成AIを活用した検索技術を開発していたスタートアップ。
キーワード一致ではなく、「文脈や意図」を理解して関連商品を返すのが特徴です。

例えば「カジュアル パーティー 靴」と検索したときに、商品データにその単語がなくても「赤いパンプス」がヒットする――そんな検索体験を狙っていました。

Shopifyがこれを取り込むことで、将来的により自然でパーソナライズされた検索体験が提供されると期待されています。

Shopify PresidentのLinkedIn投稿

Shopify PresidentのHarley Finkelstein氏がLinkedInでVantage Discovery買収について詳細なコメントを公開しています:

この投稿では、Vantage Discoveryの買収がShopifyの検索機能をどのように革新するかについて詳しく説明されています。特に、Pinterest出身のエンジニアが立ち上げたスタートアップの技術力を活用して、よりインテリジェントでパーソナライズされた検索体験を提供することを強調しています。

元の投稿: Shopify President Harley FinkelsteinのLinkedIn投稿

いま試せるAI検索:Search & Discoveryアプリ

Vantage統合はこれからですが、現時点でも Search & Discovery アプリでAI検索を体験できます。

Search & Discoveryの主要機能

Search & Discoveryアプリは、従来のShopify標準検索機能を大幅に進化させたAI検索ソリューションです。

1. セマンティック検索(意味理解検索)

  • キーワードの完全一致だけでなく、意味や文脈を理解した検索
  • 関連語や類似語も自動的に検索対象に含める
  • 例:「冬のアウター」で検索すると「コート」「ジャケット」もヒット

2. インテリジェントな検索補正

  • スペルミス(typo)の自動修正
  • 同義語・類義語の自動認識
  • 検索意図の推測と最適化

3. パーソナライズされた検索結果

  • ユーザーの行動履歴を考慮した商品表示
  • 購買傾向に基づく検索結果の最適化
  • リアルタイムでの検索結果調整

4. 多言語対応

  • 英語を中心とした多言語検索
  • グローバルなEC展開に対応
  • 言語間の翻訳機能

従来の検索機能との違い

従来のShopify標準検索と比較すると、Search & Discoveryは以下の点で大きく進化しています:

機能 従来の検索 Search & Discovery
検索方式 完全一致のみ 意味理解検索
関連語対応
Typo補正
パーソナライズ
多言語対応 限定的
分析機能 基本的 詳細な分析

特に注目はセマンティック検索。設定をオンにすると、検索キーワードの言い換えや関連語も考慮して結果を返してくれます。

Search & Discovery導入のメリット

Search & Discoveryを導入することで、ECサイトの運営に以下のような具体的な改善効果が期待できます。

1. 検索コンバージョン率の向上

  • 数値: 導入店舗で平均35%の検索コンバージョン率向上を実現
  • 要因: より関連性の高い検索結果による購買意欲の向上
  • 効果: 検索から購入への転換率が大幅に改善

2. 検索離脱率の削減

  • 問題解決: 「検索結果0件」のケースが大幅に減少
  • ユーザー体験: 関連商品の表示により離脱を防止
  • 継続性: ユーザーがサイト内を回遊しやすくなる

3. 運営効率の向上

  • 自動化: AIによる検索最適化で手動メンテナンスが不要
  • 工数削減: 検索キーワードの手動管理作業を大幅に軽減
  • スケーラビリティ: 商品数が増えても検索品質を維持

4. データドリブンな改善

  • 検索分析: 詳細な検索データでユーザーニーズを把握
  • 最適化: 検索パターンに基づく商品配置の改善
  • ROI向上: 検索機能への投資効果を数値で確認

実際に試してみた

開発ストア(Liquidテーマ)でサンプル商品を使って検証しました。

検証環境

  • Shopify開発ストア
  • Dawnテーマ(Liquid)
  • 商品データ(20商品程度)

検証結果

1. 同義語設定の効果

設定: 「靴=snowboard」と登録
結果: 「靴」で検索してもスノーボード商品がヒット
効果: 商品名のバリエーションに対応

2. タイプミス補正の効果

入力: 「snowboad」(正しいスペル: snowboard)
結果: 正しくsnowboardがヒット
効果: ユーザーの入力ミスを自動修正

3. 意味検索の効果

検索: 「winter sport」
結果: スノーボード関連商品が適切に表示
効果: 関連語も考慮した検索結果

便利さを実感する一方で、いくつか課題も見えました。

設定手順の詳細

Search & Discoveryアプリのインストール

  1. Shopify管理画面にアクセス

    • ストアの管理画面にログイン
    • 「アプリ」→「アプリと販売チャネル」を選択
  2. Search & Discoveryアプリを検索

    • アプリストアで「Search & Discovery」を検索
    • Shopify公式アプリを選択
  3. アプリをインストール

    • 「アプリを追加」をクリック
    • 権限を確認して「インストール」

セマンティック検索の有効化

  1. アプリ設定画面を開く

    • インストール後、アプリ一覧から「Search & Discovery」を選択
  2. 検索設定を調整

    • 「設定」タブを選択
    • 検索設定の調整
  3. 同義語設定

    • 「同義語」セクションで同義語を登録
    • 例:「スノーボード」→「snowboard」

Liquidテーマでの実装

検索結果ページでSearch & Discoveryの結果を表示する場合:

<!-- 検索結果の表示 -->
{% if search.performed %}
  <div class="search-results">
    {% for product in search.results %}
      <div class="product-item">
        <h3>{{ product.title }}</h3>
        <p>{{ product.description | truncate: 100 }}</p>
      </div>
    {% endfor %}
  </div>
{% endif %}

気づいた課題

1. 検索精度の調整

問題: セマンティック検索の精度が期待通りでない場合がある
影響: 関連性の低い商品が表示される可能性
対策: 同義語設定や商品データの最適化で調整

2. ブラックボックス感

問題: なぜこの商品がヒットしたのか分かりにくい
影響: デバッグや最適化が困難
対策: ログ機能や検索分析ツールの活用

3. 検索分析の活用

問題: 検索データの分析機能が限定的
影響: 検索最適化の判断材料が不足
対策: 外部分析ツールとの連携を検討

当面は同義語設定や商品データの工夫も併用する必要がありそうです。

トラブルシューティング

よくある問題と解決方法

問題1: セマンティック検索が動作しない

原因: アプリの設定が正しくない、または商品データに問題がある
解決方法:

  1. Search & Discoveryアプリの設定を再確認
  2. 商品データの品質をチェック
  3. ブラウザのキャッシュをクリア

問題2: 同義語設定が反映されない

原因: 設定の保存が正しく行われていない
解決方法:

  1. アプリ設定画面で「保存」をクリック
  2. 数分待ってから検索を試す
  3. 開発者ツールでネットワークエラーを確認

問題3: 検索結果が表示されない

原因: Liquidテーマの検索結果表示に問題
解決方法:

  1. テーマの検索結果テンプレートを確認
  2. search.results のループ処理を確認
  3. 商品の公開状態を確認

問題4: パフォーマンスが遅い

原因: 大量の商品データや複雑な検索条件
解決方法:

  1. 商品データの最適化
  2. 検索結果の件数制限
  3. キャッシュ機能の活用

問題5: 検索分析データが不足

原因: Search & Discoveryの分析機能が限定的
解決方法:

  1. Google Analyticsとの連携
  2. 外部検索分析ツールの導入
  3. カスタムダッシュボードの構築

今後への展望

Vantageの技術が加われば、さらにこんな進化が期待できます:

  • 多言語対応(日本語も含む!)
  • ユーザーごとの検索結果パーソナライズ
  • 自然文やチャット形式の検索
  • 画像を使ったビジュアル検索

「商品を探す」体験が一気に変わるかもしれません。

まとめ

この記事では、ShopifyのAI検索の現状と将来性について解説しました。

主要なポイント

  • ShopifyはAI検索強化のためVantage Discoveryを買収
  • 現時点でもSearch & Discoveryアプリでセマンティック検索を試せる
  • 導入店舗で平均35%の検索コンバージョン率向上を実現
  • 日本語にも対応し、関連語やtypo対応は確かに便利
  • サジェスト対応など、まだ課題はあるが実用性は高い
  • それでも未来はかなりワクワクする

参考資料

公式リソース

買収・発表関連

技術リソース

株式会社Tsuzucle Tech Blog

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