Shopifyだけでは守れない。外部連携に潜むセキュリティリスクと実践的対策
1. はじめに
ECサイトにおけるセキュリティの重要性
セキュリティはオンラインストアにおいて非常に重要な要素です。どのカートシステムを使っていたとしても、自社と顧客の情報を守るための対策は欠かせません。ECサイトは、ただのWebサイトと異なり、顧客の個人情報やクレジットカード情報を扱うため、サイバー攻撃の標的になりやすい分野の一つです。情報漏洩や不正アクセスが発生すると、ブランドの信頼が損なわれ、売上にも大きな影響を与えます。
特に近年では、フィッシング攻撃、DDoS攻撃、APIキーの漏洩による不正注文など、攻撃手法が巧妙化しています。そのため、事業者はセキュリティ対策を徹底し、常に最新の脅威に対応できる体制を整えることが求められています。
まずは、今すぐ実施すべきセキュリティチェック項目を確認しておきましょう。以下の対策ができていない場合は、重大なリスクを抱えている可能性があります。
これらの項目を意識しながら、この記事を読み進めていただくことで、自社・もしくは開発中のシステムのセキュリティの見直しに役立てることができます。
本記事では、API認証の重要性と管理方法、データ暗号化(通信と保存)、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)の導入効果といったポイントを中心に解説します。まずShopify自体の基本セキュリティについて触れた上で、外部システムとの連携(基幹システムやAWS、他サービスとのAPI連携)に潜むリスクと対応策についても述べます。
Shopifyのセキュリティ機能の概要
Shopifyは、クラウド型のECプラットフォームとして、多くのセキュリティ対策を標準で提供しています。決済の安全性や通信の暗号化、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)による防御が組み込まれており、EC事業者が安心して運営できる環境を提供しています。
しかし、Shopifyの標準機能だけでは、外部システムとの連携部分やサードパーティアプリのセキュリティリスクを完全に防ぐことはできません。そのため、事業者自身が追加で対策を講じることが重要です。
本記事では、Shopifyの標準セキュリティ機能を確認した上で、外部システム連携におけるリスクと具体的な対策について詳しく解説します。
Shopifyのセキュリティ概要
ECセキュリティの重要性に関する一般情報
2. Shopifyが提供する標準セキュリティ機能
2.1 PCI DSS レベル1準拠
Shopifyは、クレジットカード業界の最高水準であるPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)レベル1に準拠しており、安全な決済環境を提供しています。
これにより、EC事業者がクレジットカード情報を直接扱う必要がなくなり、セキュリティリスクを軽減できます。
ShopifyとPCI準拠
PCI Security Standards Council(公式)
2.2 SSL/TLSによる通信の暗号化
すべてのShopifyストアにはSSL証明書が標準で適用されており、HTTPSを通じた安全な通信が確保されています。
これにより、データの盗聴や改ざんを防ぎ、顧客が安心して決済できる環境を提供します。
SSL/TLS暗号化について
2.3 WAF(Web Application Firewall)の標準装備
ShopifyはCloudflareのWAFを採用しており、SQLインジェクションやXSS(クロスサイトスクリプティング) といった攻撃からサイトを保護します。
また、DDoS攻撃への対策も組み込まれているため、サービスの継続性も確保できます。
Cloudflare WAF(Shopify標準のWAF)について
2.4 自動アップデートとセキュリティパッチの適用
Shopifyはクラウド型のプラットフォームであるため、セキュリティパッチやシステムアップデートが自動的に適用されます。
そのため、事業者が手動でパッチを管理する必要がなく、最新のセキュリティ対策を常に適用できます。
3. 外部システム連携に伴うリスクの理解
Shopifyはプラットフォーム自体のセキュリティが強固ですが、外部システムとの連携やサードパーティアプリの利用には独自のリスクが伴います。事業者(もしくは信頼できるパートナー)が適切な管理を行わなければ、APIキーの漏洩、不正アクセス、データの改ざんといったリスクが発生する可能性があります。
本セクションでは、Shopifyと外部システムの連携において発生しうる3つの主要なリスクについて解説します。
3.1 API認証情報の漏洩リスク
ShopifyのAPIは、注文管理や在庫更新、顧客データの取得など、様々な業務を自動化する強力な機能を提供しています。しかし、APIの認証情報(APIキーやアクセストークン)が漏洩すると、攻撃者にストアのデータや機能を不正利用される可能性があります。
よくあるAPI認証情報漏洩の原因
- ソースコードにAPIキーをハードコーディングし、GitHubなどのリポジトリに公開してしまう
- 開発環境のセキュリティが不十分で、APIキーが漏洩する
- APIキーの権限を適切に制限していないため、漏洩時の被害が拡大する
API認証情報の管理
3.2 外部サーバーとの通信におけるリスク
Shopifyと基幹システム、倉庫管理システム(WMS)、マーケティングツールなどを連携する際に、外部サーバーを利用するケースが多くあります。しかし、外部サーバーの設定ミスやセキュリティの不備があると、不正アクセスやデータ漏洩のリスクが高まります。
外部サーバー連携における具体的なリスク
- S3バケットの公開設定ミス(顧客情報や注文データが外部から見える状態になっている)
- データベース(RDSなど)がインターネットから接続可能になっており、不正アクセスの対象になる
- Webhook受信サーバーの認証が不十分で、偽装リクエストを受けてしまう
Webhookのセキュリティ管理
3.3 サードパーティアプリの潜在的なセキュリティリスク
ShopifyのApp Storeには、業務効率化や機能拡張を目的としたサードパーティアプリが数多く提供されています。これらのアプリはShopifyの審査を経ていますが、インストール後に不要な権限を持ち続けることがあるため、注意が必要です。
サードパーティアプリのリスク
- 不要なAPI権限を付与し続けている(例:アプリを削除してもデータアクセスが継続)
- アップデートの遅れにより脆弱性が発生し、攻撃対象になる
- マルウェアを含むアプリが紛れ込む可能性(公式ストアでも100%安全とは限らない)
サードパーティアプリのセキュリティリスク対策
4. ECサイトのセキュリティ強化の実践
上記のリスクを軽減するために、具体的なセキュリティ対策を実施することが重要です。本セクションでは、API管理、WAF設定、データアクセス制御、監査ログの活用といった実践的なセキュリティ対策を紹介します。
4.1 API認証情報の適切な管理
APIキーやアクセストークンは、ECサイトの鍵に相当する重要な情報です。以下の対策を講じることで、不正アクセスを防ぐことができます。
- APIキーを環境変数またはSecrets Managerで管理(AWS Secrets Manager、GCP Secret Manager など)
- ソースコードにAPIキーをハードコーディングしない(GitHubなどの公開リポジトリに誤ってアップロードしないように注意)
- APIキーの権限を必要最小限に設定(ShopifyのAPIスコープ設定を適用)
- APIキーを利用するサーバーのIPアドレスを制限(AWS Security Groupを活用)
aws ec2 authorize-security-group-ingress \
--group-id sg-xxxxxx \
--protocol tcp \
--port 443 \
--cidr 203.0.113.0/32
環境変数・Secrets Managerの活用
ShopifyのAPIスコープ設定
AWS Security GroupのIP制限設定
4.2 WAFの導入と適切な設定
Shopifyには標準でCloudflareのWAF(Web Application Firewall)が組み込まれていますが、外部サーバーを利用する場合は追加のWAF導入を検討すべきです。WAFは、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)といった攻撃を検知・ブロックし、ECサイトの安全性を向上させます。
4.2.1 AWS WAFの設定
AWS WAFを導入することで、外部サーバーとの通信を監視し、不正アクセスを防ぐことが可能です。特に、Shopify APIと連携するサーバーに適用することで、攻撃リスクを軽減できます。
✅ SQLインジェクションやXSS攻撃のブロック
✅ DDoS攻撃の軽減
✅ カスタムルールによる柔軟なセキュリティ対策
以下のコマンドを使用して、AWS WAFを設定できます。
aws wafv2 create-web-acl --name "ShopifyAPIProtection" \
--scope REGIONAL \
--default-action Allow={} \
--rules file://rules.json \
--visibility-config SampledRequestsEnabled=true,CloudWatchMetricsEnabled=true,MetricName="ShopifyWAFMetrics"
4.2.2 Cloudflare WAFの活用
Cloudflare WAFを利用することで、Shopifyと外部サーバー間の通信を保護できます。特にボットトラフィックのブロックやレートリミットの設定が可能なため、スパムアクセスや不正なスクレイピングを防ぐのに有効です。
✅ Botトラフィックのブロック
✅ IPアドレス単位でアクセス制限
✅ API通信のセキュリティ強化
Cloudflareの管理画面から、WAFのルールを追加することで、特定の攻撃パターンをブロックできます。例えば、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃を検知し、自動でブロックする設定が可能です。
AWS WAFの導入とルール設定
Cloudflare WAFの導入ガイド
4.3 データストレージ(S3・RDS)のアクセス制限
外部システムとShopifyを連携する際、データストレージのセキュリティも強化する必要があります。特に、S3やRDSのアクセス管理を誤ると、顧客データが外部に流出するリスクがあるため、適切な設定を行いましょう。
4.3.1 S3のアクセス制限
Amazon S3は、Shopifyのデータを保存するために利用されることが多いですが、適切な設定がされていないと公開状態になり、第三者にデータを閲覧されるリスクがあります。
✅ S3バケットのパブリックアクセスをブロック
✅ IAMポリシーでアクセス制限を設定
✅ データは暗号化して保存する(AES-256など)
S3のパブリックアクセスをブロックする設定は、以下のコマンドで実施できます。
aws s3api put-public-access-block --bucket your-bucket-name \
--public-access-block-configuration BlockPublicAcls=true,IgnorePublicAcls=true,BlockPublicPolicy=true,RestrictPublicBuckets=true
4.3.2 RDSのアクセス制限
RDS(Amazon Relational Database Service)を使用する場合、データベースが外部から直接アクセス可能な状態だと、不正アクセスやデータ漏洩のリスクがあります。そのため、以下の対策を実施することが重要です。
✅ RDSはVPC(仮想プライベートクラウド)内に配置し、インターネット経由でのアクセスを防ぐ
✅ セキュリティグループを設定し、許可されたIPアドレスのみ接続可能にする
✅ データベース接続にはIAM認証を使用し、静的なパスワードを回避
✅ データベースの自動暗号化(KMSキーを使用)を有効化
例えば、RDSのセキュリティグループ設定を変更し、特定のIPアドレスのみアクセスを許可するには、以下のコマンドを使用します。
aws ec2 authorize-security-group-ingress \
--group-id sg-xxxxxx \
--protocol tcp \
--port 3306 \
--cidr 203.0.113.0/32
これにより、RDSに対して許可されたIPアドレスからのみアクセスが可能になります。
また、RDSの暗号化を有効にするには、AWS Key Management Service(KMS)を活用し、ストレージ内のデータを自動的に暗号化する設定を行いましょう。
S3バケットのアクセス管理
IAMポリシーによるS3アクセス制御
RDSのVPC内配置とセキュリティグループ設定
RDSの暗号化設定
4.4 監査ログ(CloudTrail)の活用
不審なアクセスを早期に発見するためには、監査ログを活用して定期的にシステムの挙動をチェックすることが重要です。
✅ APIキーの使用履歴を記録し、異常な利用を検知
✅ CloudTrailやCloudWatch Logsを利用して、アクセスログを可視化
✅ 不要なAPIキーやアカウントを定期的に削除
4.4.1 AWS CloudTrailの活用
AWS CloudTrailを利用すると、APIの呼び出し履歴を記録し、不正なアクセスがなかったかを確認できます。
例えば、通常アクセスしない地域やIPアドレスからのAPIリクエストが発生していた場合、不正アクセスの可能性があります。
CloudTrailのログを有効化するには、以下のコマンドを実行します。
aws cloudtrail create-trail --name ShopifySecurityTrail --s3-bucket-name your-log-bucket
aws cloudtrail start-logging --name ShopifySecurityTrail
この設定により、すべてのAPIリクエストのログがS3バケットに記録されます。
また、CloudWatch Alarmsを活用して、異常なAPIリクエストが発生した際にアラートを送信することも可能です。
aws cloudwatch put-metric-alarm --alarm-name "UnusualAPIActivity" \
--metric-name "APIRequestCount" --namespace "AWS/CloudTrail" \
--statistic "Sum" --period 300 --threshold 1000 \
--comparison-operator "GreaterThanThreshold" \
--alarm-actions "arn:aws:sns:us-east-1:123456789012:NotifyMe"
4.4.2 Shopifyの管理ログの確認
Shopifyのアクティビティログを活用することで、管理画面上の操作履歴を確認できます。
例えば、管理者アカウントのログイン履歴や、サードパーティアプリの設定変更履歴を監視することで、不審な動きを素早く検知できます。
✅ 管理者アカウントのログイン履歴を定期的にチェック
✅ APIアクセス履歴を確認し、不審なリクエストがないか監視
✅ 不要なアカウントや権限を削除し、管理者の整理を行う
これらの監査ログを活用することで、セキュリティインシデントが発生する前に早期発見・対策を講じることができます。
AWS CloudTrailのセットアップ方法
CloudWatch Alarmsの設定
Shopifyの管理ログとアクティビティログ
5. まとめ
ECサイトのセキュリティ対策は、一度設定して終わりではなく、継続的な見直しが必要です。攻撃手法が日々進化する中で、最新のセキュリティ対策を実施することが、顧客の信頼を守る鍵となります。
Shopifyのセキュリティ機能を最大限活用しつつ、外部システム連携部分の対策を強化することが、安全なECサイト運営につながります。また、自社サイトのセキュリティが不安な場合は、Shopifyを得意とする外部のパートナーを頼ることも検討しましょう。
株式会社Tsuzucleについて
株式会社Tsuzucleは、「価値あるものを、真の価値で世界に届ける」をビジョンに掲げ、デジタルマーケティングBPO、グロース支援、EC構築およびDX支援を行っています。マーケティング支援における小売事業への深い理解と、基幹システム連携を含むバックエンドにおけるセキュアな開発力を有するエンジニアチームにより、クライアントのECインフラ構築を支援します。
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