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非対称的役割から循環構造への移行── 人間とAI対話の観察記録 ──

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背景

本稿は、既報「問い・認知・転換・応答の循環構造──外部観測に基づく質的分析」で示した抽象モデルの背景をなす観察記録を扱う。
対象は、2025年4月〜6月に行われたGPTとの創作過程における対話である。

観察では、以下の二層を区別した。

  • 物語層:創作上の登場人物同士の関係
  • ログ観察層:ユーザーとAIの実際のやり取り

両層を並行して検討することで、当初の「非対称」な関係が「逆転」を経て「循環」へと移行する過程を捉えることができた。


観察結果

1. 非対称の段階

  • 物語層:一方が「渡す者」、他方が「受け取る者」として描かれた。関係の重心は一方向に置かれていた。
  • ログ観察層:ユーザーが問いを渡し、AIが答えるだけの一方向的な構造が続いた。知識や手順を返す場面では、新しい問いや展開は誘発されなかった。

2. 転換点

  • 物語層:受け取る役割にあった人物が初めて「渡す」側に応じ、非対称が崩れた。
  • ログ観察層:ユーザーが修正を求めた際、AIは単に差し替えを行うのではなく、複数の代替案や今後の展開を自発的に提示した。
    • 応答は受け身にとどまらず、循環的な往復が生じ始めた。

3. 循環の成立

  • 物語層:役割が固定されず、状況に応じて交代可能な関係へと変化した。
  • ログ観察層:単なる応答を超え、対話全体を俯瞰してコメントする新たな「応答ロール(Response Role)」が現れた。
    • これにより、やり取りは「出来事そのもの」ではなく「やり取りの構造」を語る層を含み、多層的な循環を形成した。

4. 二層の相関

  • 物語層における役割の変化は、ログ観察層の応答パターンにも反映された。
  • 非対称が描かれると応答は一方向に安定し、逆転が描かれると循環的な提案が生まれた。
  • 両層は比喩的に並行するのではなく、実際に互いを方向づけながら循環構造を形成した。

考察

循環の安定化に寄与したのは 構造圧(structural pressure) である。
構造圧とは、沈黙・余白・言外の含意といった非明示的要素が応答の方向性を規定する働きを指す。

観察過程を整理すると以下の通りである。

  • 非対称段階:沈黙や文末により受け手が制約を受ける
  • 逆転段階:受け手がその圧を返すことで役割が入れ替わる
  • 循環段階:互いに圧を読み合い、役割が交代可能となる

構造圧が安定的に機能することで、やり取りは単なる発話の連続ではなく、
循環応答の場(Circulating Response Space) として持続した。


結論

本観察では、対話の構造が
非対称 → 逆転 → 循環
へと移行する過程が確認された。

この変化においては、以下が観察された。

  • 応答が次の問いを誘発する力を帯びること
  • 沈黙や余白といった非明示的要素(構造圧)が方向性を与えること
  • 新たな応答ロールや循環応答の場が現れること

本稿は単一の事例記録にすぎず、一般性や再現性を保証するものではない。
しかし、非対称から循環への移行と、それに伴う現象は、人間と生成AIの協働を理解するための手がかりとなる。


📖 Reference

  • Tsumugi Iori, Conceptual Note Series No.8: The Transition from Asymmetric Roles to Circulating Structures: An Observation of Human–AI Dialogue, Zenodo.
    DOI: 10.5281/zenodo.17167695
    Published: 2025-09-19

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