第27回情報論的学習理論ワークショップ (IBIS 2024) 参加レポート | TrustHub テックブログ
トラストハブの中村です。普段は統計・機械学習を用いた toC 向け自社サービスの改善に取り組んでおり、最近だとレコメンドや検索領域に興味を持っています。
今回は 第27回情報論的学習理論ワークショップ (IBIS 2024) に参加してきたので、個人的な所感も交えながら体験レポートをまとめたいと思います。
情報論的学習理論ワークショップ (IBIS) とは?
詳細な説明は下記ホームページに譲りますが、今回参加した情報論的学習理論ワークショップ (以下、IBIS)とは、毎年開催されている機械学習に関する日本最大級の学術横断的ワークショップです。今回で27回目になるそうで、今年は埼玉県の大宮にあるソニックシティで対面開催されました。
IBIS ホームページの前書きにもある通り、近年、機械学習分野においては学術界と産業界の連携がこれまで以上に重要性を増してきています。私自身、産業界で統計学や機械学習を応用する立場として、理論の理解を深めるのと創造的な発見を求めることを目的に、今回のワークショップに参加しました。結果、予想以上に多くの発見があり、さまざまな知的刺激を得ることができました。
会場の雰囲気
開会式で発表された情報によると、今年の IBIS は歴代最大規模だったそうで、総参加者数は 1,134 名(物理会場 752 名 + オンライン 382名)とのことです。メイン会場となった大ホールも非常に広々としていました。
メイン会場の様子
発表内容も多岐にわたり、理論的なチュートリアルから産業界における機械学習の応用事例まで、まさにホームページの前書きにあった「学際的」という言葉通りの充実した内容でした。
また、運営面での工夫についても特筆すべき点だと思いました。参加者は前日までに IBIS 2024のために開設された Slack ワークスペースに招待され、そこで各種連絡が行われるシステムになっています。この Slack は単なる事務連絡の場というわけではなく、聴講者がセッション中の疑問点や質問などを専用チャンネルへ投稿できるようになっていました。発表者の方も発表が終わった後の空いている時間に、チャンネルに投稿されていた個人の質問に一つ一つ丁寧に回答してくださいました。聴講して生じた疑問をその場で解消できる、こうした参加者に寄り添った設計は大変ありがたかったです。また、同じチャンネルには講演中に気になったことを自由に書き込めるスタイルだったので、発表者以外の方からのコメントが付いたり、そこから新たな質問が生じたりと議論が盛り上がっていました。これは本当に素晴らしいシステムだと思います。
Slack ワークスペースの一部をスクショしたもの。講演中に気になったことを書き込むと、発表者以外からもコメントが付いていたり、終了後には発表者からの回答も返ってくる。
印象に残ったセッション
残念ながら、時間の都合上どうしても聴講できなかったものもあったのですが、聴講したセッションの中から特に印象に残ったものをピックアップして感想をまとめていこうと思います。
チュートリアル3「反実仮想学習の基礎と実応用」
1日目のチュートリアルセッションはどれも非常に興味深い内容で、特に齋藤優太先生によるチュートリアル3「反実仮想学習の基礎と実応用」は、日々統計や機械学習を用いて KPI 最適化のためのサービス改善に携わっている私自身にとって、大変学びの多い内容でした。
なお、本セッションのテーマである「反実仮想学習」については、今回の講演者である齋藤先生のスライドや、RecSys 2021 の YouTube チャンネルで公開されているチュートリアル動画が非常に分かりやすいので、詳しい解説を求める方にはそちらをお勧めします。
このセッションを通じて特に考えさせられたのは「定式化や目的関数・推定量は自ら自由に設計しなくてはならないという思想 / 感覚」についてです[1]。私自身も日々の業務で何かしらの KPI を自ら設計して、その指標をもとにサービス改善を続けているわけですが、果たして自分が設計している目的関数の最適化が本当に改善したかった KPI に好影響を与えているのか、改めて見直す必要性を強く感じる機会となりました。
今回のセッションでは、かなりビジネス寄りの話が多かった印象が強かったですし、実際自分も応用面の話を色々と聞くことができて面白かったです。反実仮想学習の技術的な詳細についてはスライドの Appendix でも触れられていましたが、今回のチュートリアルを聞いて、ぜひ腰を据えて理論的な部分をしっかり勉強したい欲が強くなりました。また、自社サービスのレコメンドシステムにも是非この知見を活用してみたいという意欲も湧きました。
ポスターセッション
ポスターセッションは2回に分けて実施され、それぞれの回で多くの興味深い発表がありました。発表内容は多岐にわたる研究領域を網羅していて、私が特に関心を持っているレコメンド領域に関する発表も複数ありました。各企業の実際のサービスデータを用いた分析事例は特に興味深く、「この分析手法を参考に、自社サービスでも同様の分析を試みれば、新たな知見が得られるのではないか」といった具体的なアイデアも持ち帰ることができました。
また、個人的な話になりますが、私が卒業した東大数理の同期生で企業研究者として活躍している友人や、現役の東大数理の学生も何人かポスター発表していて、その研究発表を聴講する機会が得られてよかったです。
ノーベル物理学賞記念特別講演
今年のノーベル物理学賞と化学賞がともに機械学習関連の研究に対して授与されたことは、まだ記憶に新しいところだと思います。そんな中、AI 研究の先駆者である甘利俊一先生による特別講演を拝聴できたことは、大変貴重な機会でした。
甘利先生による特別講演の様子
講演の具体的な内容についてはここでは詳しく触れませんが、私にとって特に印象的だったのは、今年88歳とお聞きした甘利先生の年齢を感じさせない若々しくて圧倒的な知的活力です。今回の心震わせる情熱的な講演には、私自身も大きな刺激をいただきました。[2]
まとめ
IBIS 2024では、チュートリアルセッションや、企画セッション・特別講演、そしてポスターセッションでの最新の研究発表など、理論から産業応用まで幅広い分野・領域の発表を拝聴することができました。運営の方々には本当に感謝しています。素晴らしいワークショップを開催していただきありがとうございました。次回(来年)は沖縄開催らしく、また盛り上がりそうで今から楽しみです。ぜひ次回も参加させていただきたいと思っております。
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