Anthropic東京オフィス開設記念イベントに参加してきた

先月2025年10月29日、マンダリンオリエンタル東京にてAnthropic東京オフィス開設記念イベントが開催されました。
Anthropic東京オフィス開設に関しては各種ニュースなどでも採り上げられており、日本国内でも非常に強い注目を浴びる形となっています。関連イベント等も展開されていました。
こちらのイベントに関して、幸運なことに私も参加できるかたちとなり僭越ながら当日参加して参りました。当エントリではその内容をレポートしたいと思います。
イベント挨拶
- 登壇者:東條 英俊氏(Anthropic 日本法人代表執行役社長)
Anthropicの設立背景とミッション
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東條氏は8月よりAnthropic日本法人の代表を務める
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Anthropicにとって、今回の東京オフィス開設はアジア圏で初めてのオフィス設立
- 通常、外資系企業はオーストラリアやシンガポールといった英語圏を選ぶことが多い
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AnthropicはフロンティアモデルのAIを開発する事業者であり、パワフルな言語モデルの研究と提供を使命としている
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そのミッションの最優先事項は「安全性を最優先にしたAIの研究」であり、日本は企業や政府のリスクマネジメント意識が非常に高いため、このミッションは日本の社会で高い信用性を持つと考えている

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提供するAIシステムは、安全で有益、かつ内部が解釈可能であるべき
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Anthropicは「パブリックベネフィットコーポレーション」(PBC、公益法人)として存在しており、収益追求に加え、モデルの安全性に重きを置いた法人格
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モデルのリリースは「責任のあるスケーリングポリシー」に基づき管理され、事前に危険性を想定し、安全策を講じてからプロダクトをリリースするアプローチを採用している
日本への投資と現状の取り組み
- すでに多くの取り組みが行われており、Claudeの日本語処理能力はネイティブレベルに達していると評価されており、日本の商習慣や文化、特に重要な敬語の使い方の理解も進んでいる
- 企業のサービス利用は予想以上に進んでおり、すでに数百の顧客を獲得
- ウェブサイトに掲載されている利用例:楽天、みずほ銀行(3万人の社員が利用)、メルカリ、クラスメソッド、NRIなど
- データレジデンシー(国内推論)への対応として、Amazon Bedrock経由で提供されているClaude Sonnet 4.5モデルは、完全に日本国内で完結した形でサービスを提供できるため、顧客の心配事に対処できている
今後の戦略と展望
- 今後は日本法人の体制を大きくし、企業と連携しながら、事業収益に貢献するようなデータ活用やユースケースを探求していく予定
- Go-to-Market戦略の対象は主にエンタープライズや政府系の組織
- 営業チームを確立し、顧客との対話を深める
- 最も重要視するのはパートナーシップシステムであり、日本のシステムインテグレーターやパートナーと組み、リッチなソリューションを提供
- Claude Codeの強みを活かし、日本国内のソフトウェア開発者コミュニティづくりにも注力
- 中長期的には、ダリオ氏(共同創業者)とも話を進めており、日本にR&D拠点を持つという野心を持っている
最新モデルの能力、エージェント機能の進化、エンタープライズへのビジョン、そして将来のAI研究の方向性
- 登壇者:ベン・マン氏(Anthropic 共同創業者)
プロダクトの現状と能力
- Anthropicは、2023年3月以降、8つの主要モデルをリリースし、継続的かつ迅速な能力向上を提供するプラットフォーム
- 最新モデルのClaude Sonnet 4.5は、複雑なエージェント、コーディング、コンピューター利用において世界最高水準の性能を持つ
- Sonnet 4.5は、Amazon Bedrock経由で日本国内(東京、大阪)での推論が可能
新機能とエージェント機能の強化
- 新機能として、ファイルベースのシステムを通じてコンテキストウィンドウ外に情報を保存するメモリー機能や、トークン制限に際して古いツール呼び出しをクリアできるコンテキスト編集機能が追加された
- より高速で手頃なHaiku 4.5もリリースされ、無料ティアや大規模エージェントの運用に適している
- ウェブ上で非同期タスク処理を可能にするClaude Code on the Webが研究プレビューで公開された
- これは隔離されたサンドボックスで実行され、自動PR作成などをサポートするもの
- 専門的なデータ分析やマルチステップのレポート作成を可能にするファイル作成アプリのプレビューが導入
- Claude for Chromeは、DocsやGitHubなどの日常的なツールに最適化され、権限制御のもとでブラウザ操作を可能に


エンタープライズ戦略と未来
- AI導入は"置き換えではなく、真のコラボレーション、すなわち企業規模での拡張であると定義
- 企業は、広範な変革ではなく、一つの一貫した高価値なワークフローを特定し、深く掘り下げる戦略が成功に繋がる
- 将来的な研究として、AIの安全性を高めるための解釈可能性が重要視されており、モデルの思考内部を理解する試みが進められている
- 「スキル」機能のリリースにより、ブランドカラーの適用や複雑なワークフローといった企業固有のスキル(手続き的記憶)をClaudeが学習できるようになる初期段階にある
パネルディスカッション1
- 登壇者
- 東條 英俊氏(Anthropic 日本法人代表執行役社長)
- ダリオ・アモデイ氏(Anthropic共同創業者CEO)

日本への印象とAnthropic設立の背景
- ダリオ氏は東京の食文化や起業家精神、そしてAI推進への並外れた意欲に感銘を受けている
- 彼は来日中、高市総理大臣や大手企業のリーダーたちと面会、AI技術を可能な限り迅速に展開したいという強い思いがある(下記記事など参照)
- Anthropicは、日本の「ビルダー」(開発者や事業者)と共に経済的価値を創造することに非常に意欲的
- 2019年から2020年頃、自身がGoogleやOpenAIといった主要なAI企業に在籍していた際に、「AIスケール(AI規模)」の概念を開発。これは、コンピューティングリソースとデータを増やせば、AIモデルの性能が広範なタスクで向上するというもので、当時としては画期的なアイデアだった
- このスケールアップの結果、AIが数年以内に経済全体を変革する可能性がある一方、これほど大規模で急速な経済の波には「注意深い対応」が必要である認識
- この原則に基づき、Anthropicは7人の共同創業者によって設立。彼らは、AIモデルの動作を理解し制御するための専門的な技術開発にも取り組んでいる
Anthropicの企業戦略と信頼の構築
- Anthropicのビジネス戦略は、安全性と責任の価値観と両立しており、特に企業(ビジネス)との協業に焦点を当てている
- 企業は安全性や責任を重視するため、企業との連携は経済的価値の創造に直結
- 一方、消費者向けモデルは、エンゲージメントや中毒性を高めるためにビジネスモデルが設計され、責任の原則から逸脱するジレンマを抱えることが多いと指摘
- Anthropicは、フロンティアAIモデル(認知能力がAIの限界にあるモデル)を開発できる数少ない企業の一つであり、その中でもAnthropicだけがエンタープライズに重点を置いている点でユニーク
- 日本市場においても、消費者向け企業が市場を単なる「抽出要素」として捉えるのに対し、Anthropicはビジネスと協働し、共に成長し、価値を共有することを目指している
- 特にこの国で重要とされる長期的な信頼関係の構築に注力し、過去4年間で「約束を守り、顧客が安心して協力できるパートナー」としての評判を築いてきたと強調
AIの進歩とリーダーへのメッセージ
- AIモデルの進捗は、2019年や2020年に予測された指数関数的な直線的な成長(対数グラフ上)をほぼ正確に辿っており、ムーアの法則と同様に驚くほど当てはまっている
- ただし、具体的な技術(Claude Codeツールや特定の生体医学への応用)の詳細は予測が難しい面もある
- ビジネスリーダーが問うべき最も重要な質問は、技術の信頼性と、特定のアプリケーションへの適合性
- AIは95%の確率で正しく動作するかもしれないが、残りの5%の誤りが壊滅的なコストを招かないか、その許容度を判断することが重要
- Claudeを導入する際によく見られる間違い:
- 経営層がAIの価値を理解しビジョンを持っていても、社内の従業員(非AI専門家)に対する体系的な教育を怠ることで、大規模な展開が阻害されてしまうこと
- Claude Codeなどの利用時には、コードベース全体をAIが構築し管理するようになるため、コードベースの管理方法自体をシステムレベルで変える必要があるという考え方も重要
- 日本のリーダーや政府関係者へのメッセージ:
- Anthropicは「約束を破り、途中で消える」のではなく「長期的な信頼関係を築き、信頼できる方法で技術を展開していく」ことを約束
- また、モデルは進化し続けるため、リーダーは「6ヶ月または12ヶ月後のモデルの姿を想像し、将来のために構築すること」が必要
- Anthropicは今後6ヶ月間にトレーニングされるモデルの進捗を把握しており、コードモデルや金融モデルがより複雑な問題をエンドツーエンドで解決できるようになる
パネルディスカッション2
- 登壇者
- 東條 英俊氏(Anthropic 日本法人代表執行役社長)
- ポール スミス氏(Anthropic 最高商務責任者)
- クリス チアウリ氏(Anthropic 国際担当マネージングディレクター)
今回の大きな成長がこれまでの企業変革と異なる点
- 今回の成長が過去のエンタープライズ革命と異なる点として、「変化のスピード」と「影響の大きさ(マグニチュード)」の二点が挙げられる
- これまでのデジタルトランスフォーメーションプロジェクトは、完了までに12ヶ月から24ヶ月、あるいは数年かかり、その影響はビジネスプロセスの特定タスクにおいて10%程度の改善に留まっていた
- しかし、現在は数ヶ月、時には数週間で変化が起きている:例えば、Claude Codeの非常に大規模な展開がわずか7日間で数百人の従業員に対して行われた事例がある
- 影響も非常に大きく、コーディングの分野では、生産性の50%向上が見られるほか、Claude Codeのトップユーザー(世界のトップ5カ国)では、生産性が2倍、3倍、あるいは5倍といった指数関数的な改善が見られている
- 楽天では、平均的な機能提供期間が24日から5日に短縮されたとのことで、この変化のペースは減速する兆しがなく、これまでの考え方とは異なる心構えが必要
- これまでの技術シフトでは、「これは本当に機能するのか?」が問いだった/今は「これをしなければならない。どうやって、どれほど大きなインパクトがあるか?」という問いに変わっている
- 誰もがこの技術が本物であることを認識しているが「信頼できるか」が次の焦点となっている
Anthropicの責任ある成長戦略(信頼と安全性)
- エンタープライズのユースケースでは、品質とインテリジェンスが重要であり、その恩恵は甚大
- Anthropicはフロンティア(最先端)を追求する必要があると考えている
- 同時に、Anthropicは設立当初から「安全性」と「責任」に多大な投資を行っている
- 企業がAIを大規模に展開(ロールアウト)できる唯一の方法は、そのAIを信頼できることであるため、信頼と安全性はイノベーションと密接に関連している
- そして、要素として「透明性」が挙げられる。AIが下す決定や推奨事項を理解できることが重要
- この透明性実現のため、モデルの「説明可能性」や、モデルの「心の中(」を照らし、回路や接続を見て意思決定がどう行われたかを確認する「解釈可能性」が重要となる
日本市場へのエンパシーと戦略
- Anthropicは、Claudeが日本語だけでなく、日本の文化的なニュアンスや、階層構造(hierarchy)、コミュニケーションの文脈を理解する能力に優れているというフィードバックを顧客から得ており、これは意図的に行われた投資であり、今後も継続していく
- 日本市場は特にパートナー中心トレーニングへの多大な投資が含まれる
- Anthropicは、日本語の品質とニュアンスへの長期的な投資を継続し、日本の組織との独自のパートナーシップを構築し、フィードバックを取り入れながらモデルを迅速に進化させる
- Anthropicにとって日本は単なる「地域(region)」ではなく、「非常に戦略的な国(very strategic country)」であり、この点でも他のグローバル企業とは異なる
- 東條氏とそのチームを中心に、日本での体制は単なる営業拠点ではなく、セールスから応用AI、リサーチ、プロダクトまで全てを備えた完全な事業単位として投資していく
AWSとAnthropicのパートナーシップの強みと今後の展望
- 登壇者:白幡 晶彦氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表執行役員社長)
イベントの意義とパートナーシップの背景
- Anthropicの日本支社開設は日本の生成AIの歴史における大きなマイルストーンになる
- AWSとAnthropicのパートナーシップは2023年に始まり、数回の継続的な投資を経て進化しており、累計で80億ドル(約1兆2,000億円)に達している
- AWSは、Anthropicの新しいAIモデル開発を加速させるため、世界最大規模の計算能力、学習環境を提供し、そのインフラストラクチャパートナーとしての役割を担っている
AWSとAnthropicの組み合わせが「ダントツの選択肢」である理由
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共通する文化と価値観(AIセーフティ、信頼)
- AnthropicはAIの安全性を高める技術とシステム強化の仕組みにコミット
- AWSは、顧客への執着(カスタマーオブセッション)、セキュリティファースト、エンタープライズレベルのガバナンス、高い倫理観を重視している
- 特に日本の市場は信用が非常に大事であり、高い安全・セキュリティ・倫理観が求められるため、この共通する価値観を持つ文化の組み合わせが市場にフィットしている
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補完的なアーキテクチャ
- 生成AIアプリケーションにおいてAIモデルは重要だが単独では機能せず、ITシステム全体としてのセキュリティ、ガバナンス、実行環境、フレームワークなどが不可欠
- AWSは、お客様のニーズに合わせて組み合わせ可能な多様な選択肢(ビルディングブロック)を提供し、そのど真ん中にAnthropicのAIモデルが位置することで、補完的な強い組み合わせが生まれる
- 国内の推論がAmazon Bedrock上で利用可能となり、国内での数量が閉じることで、新しいお客様のニーズにも対応できている
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AIジャーニー全体へのサポート
- 生成AIの導入はジャーニーであり、AWSはユースケースの特定からベストプラクティスの提供まで、お客様の生成AIジャーニーをトータルでご支援するプログラムを提供
- 実験段階のPOCから本番のスケールアップまで継続的な支援体制が大切であり、特にローンチ後のサポートが重要
- AWSを利用してAnthropicを活用することで、24時間365日の日本語サポートが提供される
まとめ
という訳で、Anthropic東京オフィス開設記念イベント参加レポートをお届けしました。
Claudeを含め生成AIに関しては社内で利用を推進し始めたところですがまだまだ拡大・浸透の余地ありといったところ、個人的にもClaude(Claude Code)は各種調査含め開発用途でも使い始めたところでもあります。そんな中で今回こちらのイベントに参加させて頂けたのですが登壇者も参加者の方々も皆さん凄すぎて凄い(←語彙力)方々ばかりで恐縮しきりでした。勿論内容はとてもエキサイティングなものであり、生成AIに向き合うものの1人として多いに刺激を受けました。
東京オフィス開設を機にますます勢いを増していくであろうClaudeの動向に注目、注視しつつ、私自身も生成AI活用・スキル修得に励んで行こうと思います!