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一定加速度で運動する物体の世界線を求める(その1)

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まとめ

  1. 相対性理論の枠組みでは物体が光速度を超えないことを検証したい
  2. そのために、一定の加速度aで加速されるロケットが地上系でどう観測されるかを考える
  3. まず、ニュートン力学ではロケットの速度はv=atで表され、時刻tの増加とともにいくらでも大きくなる。
  4. 一方で、特殊相対論(SR)では、瞬間固有系でのみロケットは加速度aを持つと考えるべきである。
  5. そこで、問題はその条件下でロケットの地上系における世界線を求めることになる。
  6. ところが、問題解決のためには、まず問題を数学的に定式化すると見通しが良いので、そこからスタートする。

経緯

そもそもどうしてこんな問題を考えるに至ったかと言うと、相対性理論を勉強しているとよく「物体は光速度を超えることが出来ない」という言い方をされて、それが本当かどうか検証したいと思ったからだ。物体が光速度を超えられない理由として良く挙げられているのが「物体を加速していって光速度に近づくと、物体の質量が増加するため加速が減衰し、光速度に至るには無限の力が必要になる」というものだ。これは果たして本当だろうか?

問題設定

というわけで、最も単純なシチュエーションとして、一定加速度aで運動するロケットを考えよう。イメージとしては一定の出力で稼働し続けるブースターがついたロケットだ。もちろん、現実世界ではロケットエンジンは燃料を消費するから、ロケットの質量は時間とともに減少する。ただ、今はそのような現実的なファクターを無視して、理想化して考えよう。ロケットの質量は一定で、常に一定の出力を発揮するブースターが存在すると仮定する。

ニュートン力学

もちろん、相対性理論以前のニュートン力学でも同じシチュエーションを考えることができる。ニュートン力学においては、一定加速度aでロケットが加速された場合、地上に固定された慣性系(以下、地上系と呼ぶ)では時刻tにおけるロケットの速度はv=atとなる。後の議論で必要になりそうなので、地上系についてもう少し詳しく条件を補足すると、ロケットは最初座標原点(0,0,0)に静止して存在し、時刻t=0でエンジンが始動し、その瞬間から一定の加速度ax軸方向へ運動する。もちろん現実にはエンジンが始動してから加速度aに至るまでには多少の時間がかかるはずだが、ここでは理想化して無視する。また、ロケットの推進方向がz軸方向でないのが奇異に思えるが、これは後のローレンツ変換についての議論をスムーズに進めるための設定である。
さて、時刻tを十分大きく取れば、ロケットは何の制約も無く光速度cを突破する。では、これを特殊相対性理論の枠組みで考えるとどうなるだろうか?

特殊相対性理論

特殊相対性理論においては、力学、つまり力と物体の運動の間の関係はニュートン力学の場合のように自明ではない。しかし、少なくとも、ロケットが低速度、低加速度の場合においてはニュートン力学に帰着されなければならない。(そうでなければ我々が普段目にする実験事実と特殊相対論が矛盾することになる。)したがって、特殊相対論においては、「ロケットエンジンが一定加速度aを生じさせる」と言えるのは、ロケットが低速かつ加速度aが小さい場合に限定すべきである。より厳密に言えば、ある瞬間ロケットと共に運動している慣性座標系S'(以下、これをロケットの瞬間固有系と呼ぶ)においては、その瞬間においてのみ、エンジンは仕様通り加速度aでロケットを加速させていると観測されると仮定してよい。瞬間固有系ではその瞬間ロケットは静止しているから、そこではニュートン力学が(我々がよく知るように)成立するわけだ。

メモ①:ロケットに固定された観測者の身になってみると面白い。その観測者にとってロケットの速度は常に0である。そして速度が変化しないのだから、加速度も0と観測される。しかし観測者は現実に加速度を「体感」出来る。つまり、加速度と反対方向へ作用する力を観測できる。例えば1Gの力を観測する観測者は、ロケットが継続して約9.8\, \mathrm{m/s^2}の加速をしていると主張できる。したがってこの観測者は十分な時間経過後、ロケットの速度が光速度を超えたと主張するかもしれない。しかし、これは間違いである。問題は9.8\, \mathrm{m/s^2}が何に対しての加速度であるかという点だ。これは地上系で観測される加速度ではなく、瞬間固有系で、ロケットが静止している瞬間にのみ観測される加速度なのである。したがってそれを地上系で観測される加速度と混同してはいけない。具体的に地上系で観測される加速度は、この後で求めることになる。

メモ②:とはいえ、ロケット内の観測者は力を観測するのだから、この系においては慣性の法則は成立しない。これはロケットに固定されたいわゆる固有系が、非慣性系であることを意味する。ニュートン力学ではロケットの固有系で体感される力を慣性力として組み込むことで、ニュートンの運動方程式をそのまま成立させることが出来る。特殊相対論でも同じことが出来るはずだ。特殊相対論で非慣性系が扱えないというのは誤解である。重力は座標変換で大域的に消せないが、慣性力は消せる。つまり、慣性力は座標変換に伴う補正項に過ぎない。

メモ③:電磁気力は特殊相対論の枠組みで扱えるが、重力が扱えない理由。

問題設定

問題は、地上系から見たロケットの世界線である。この問題を物理的にあれこれ考えて取り組むより、特殊相対論を数学的に定式化してこれを数学の問題にしてしまう方が、見通しよく取り扱うことが出来る。というわけで、次は特殊相対論の数学的モデルについて考えよう。

Discussion