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「LTV(ライフタイムバリュー)の罠」を読んで

2024/01/21に公開

書籍


LTV(ライフタイムバリュー)の罠

目次

  • はじめに
  • 第1章 LTVの成功事例が少ないのはなぜか? ~成果が見いだせず、葬り去られている実態~
  • 第2章 「MAST」に潜む罠 ~LTVを損ねる4つのボトルネック~
  • 第3章 「Meet(出会う)」のボトルネック ~認識までの障壁が高過ぎる~
  • 第4章 「Attract(引き付ける)」のボトルネック ~顧客に魅力が伝わらない~
  • 第5章 「Sense(検知する)」のボトルネック ~接点不足で顧客状況が分からない~
  • 第6章 「Trade(商売する)」のボトルネック ~遠慮し過ぎてチャンスを逃す~
  • 第7章 LTVボトルネックを取り除け! ~問題の発見から解消までのプロセス~
  • 第8章 LTVの成果を「見える化」する ~効果を計測するKPIの設計方法~
  • おわりに

5つの要点

  1. 1人の顧客が一生涯に生み出してくれる利益として企業視点で語られることが多い LTV だが、顧客視点(企業が顧客に対して与える価値)も満たすことが LTV を持続的に高めるために重要。
  2. LTV という言葉が登場するシーンとしては「顧客囲い込み」「顧客データ活用」「ブランディング」などだが、次のような施策は失敗する。カスタマージャーニーを捻じ曲げて囲い込めるという妄想で実施される「妄想四天王」(会員プログラム、会員アプリ、サブスク、メディア)。意図なくゴミのように溜まった過去データを統合することが目的となり、分析してもゴミのままで何も得られない「データ統合プロジェクト」。不適切な場面で使用され、工数ばかりかかる「データを活用したセグメント、1to1 コミュニケーション」。LTV のためではなく自己満足や言い訳に使われている「ブランディング、デザイン」。これらは安易な考えで失敗し、ベンダーへの支払いばかりが増える。
  3. 顧客との関係性が途切れることが LTV 向上を妨げるが、この途切れを「LTV ボトルネック」と呼ぶ。カスタマージャーニーの中にある LTV ボトルネックを「MUST(Meet(出会う)・Attract(引き付ける)・Sense(検知する)・Trade(商売する))」として分類。それぞれを解消してカスタマージャーニーを微修正することを提案しており、具体例が多数示されている。
  4. カスタマージャーニーの仮説の証明や、主要なカスタマージャーニーの動線、行動順序や理由、施策の評価を明らかにするためには「定量アンケート」と「定性インタビュー」がコスパが高くかつ強力である。これによってカスタマージャーニーの解像度を上げることで LTV ボトルネックに優先度をつけて KPI にすることも可能になる。
  5. LTV 向上の KPI は大きく次の3つがある。LTV に対して直接的な順に、「LTV 指標(LTV を分解した指標、例: 客単価 x 購入頻度 x 継続購入期間)」、「LTV 指標に相関する代替指標(例: NPS, LTV ボトルネック解消率)」、「LTV 指標や代替指標に影響を及ぼす顧客接点の利用拡大」の3つである。代替指標や顧客接点に関するデータもアンケートでの収集が提案されているが、 代替指標や顧客接点が LTV と相関するかどうかは LTV 指標とクロス集計して比較するなどで証明して納得できることが重要(長期的な売り上げにつながる数字を示すことから逃げないと肝に銘じつつ、LTV は一生涯に渡るものであるため KPI として完璧な指標が存在しないことは認めなければならない)。

感想

LTV を企業視点で顧客が一生涯に生み出してくれる利益のことだなくらいの理解の状態で、LTV を伸ばすにはどういう方法があるのかあまりイメージが湧いていない中でこの本を手に取った。

派手な施策よりも、カスタマージャーニーの微修正(カスタマージャーニーの解像度を上げてボトルネックを取り除く行為)が妥当なのは納得で、やっていくしかないなという感じ。また、これまで Web エンジニアとしてものづくりをしてきた中で念頭に置いていた顧客中心の考え方をレベルアップすることができたと感じた。セルフサービスチャネルとして、能動的なシーンで利用されるのか受動的なシーンで利用されるのかなど、デジタルにおける顧客接点の解像度がとても上がった。この本は具体的な事例が多く、まず1歩踏み出すことができそうな感覚があり、つまづいた時など何度も読み返して気づきがある本だと感じている。まずは、日常的に取り組んでいる施策について、「想定しているカスタマージャーニーは?」、「どういう顧客接点としてその施策をやる?」、「施策の成果はどういった KPI ?」、「その KPI は計測できている?」などの問いかけを自他ともに実施したい。そして、実際に顧客のカスタマージャーニーについて仮説を立て、開発しているプロダクトがどういった顧客接点を担っているのか、そしてデータでその顧客接点の効果を証明することにチャレンジしてみようと思う。

また、ヒアリングについては LTV と関係なく、さまざまなところで使えそうに感じた。既存の組織体制についての社内ヒアリングなどでも使ってみたい。

この本は、デジタルマーケティングの分野(筆者と同じ分野)の方はもちろん、セールス、カスタマーサクセス、エンジニア、アナリスト、デザイナー、事業責任者問わず読むことができ、それぞれの咀嚼ができる本だと感じたので、色々な人におすすめできる。各自の専門領域はもちろん、関係する周囲の領域、または専門に関わらず顧客中心で考えるきっかけにもなる。

私(事業会社でのサーバサイドエンジニア)としての視点だと、普段から「過剰品質の魅力もどき」には注意している。単純に使ってもらえる、使ってもらえる自信があるものを作ることに注力したいし、作ったものは運用が必要となり、負債にもなるためである。また、ここ1年はデータエンジニアリングに取り組んでいるが、「顧客情報は散らばるさだめ」というのは本当にそう。あらゆるデータを統合して綺麗にしたいという感情は沸くが、やはり本書にある通り目的を明確にしていないものについては取り組んでいない。直近は、施策に対して何をレポーティングすべきなのか、どう分析したいのかという部分に侃侃諤諤しきれていない部分はあるのでチームの領域侵犯をして会話しつつ取りまとめることと、運用中のデータ基盤はより安定したデータのIn/Outと、要件に応じたデータモデリングを取り入れ、高いサービスレベルで顧客にデータを提供し、高速に PDCA できるように努めるつもり。

最後に、個人的に興味を持っているサービスデザインというトピックにもたくさん活かせそうだなと感じたので、模索していきたいと思う。

トピック

MAST

  • MAST は会社や事業単位で使うこと
    • MAST はカスタマージャーニーのボトルネックなので、施策や顧客接点単位では使えない

デジタル

  • デジタルマーケティングは、長期的な顧客との関係構築で強みを発揮する
    • デジタルはあらゆる顧客接点の中で最も安価に継続接触が可能なためである
    • しかしながら、データが見えすぎるあまり、短期的な顧客刈り取りに傾倒してしまうことが多々ある
  • 安価な継続接触の観点におけるデジタルの特性
    • セルフサービス
    • ストック
  • デジタルコンテンツは、顧客接点の過剰化に使うことに向いており、顧客の状況を Sense(検知する)することができる
    • デジタルコンテンツは顧客が勝手に閲覧するため、人間による接客コストがかからない(セルフサービス)
    • 一度資産を築いてしまえばその後、長期的に低コストで顧客に接触できる(ストック)
  • デジタルマーケティングには定石があり、その定石を実施して Quick Win を実現して顧客との信頼関係を築くことができる

セルフサービスチャネル(非対面のコミュニケーション)

  • デジタルを含め、紙、マスなどのセルフサービスチャネル(顧客接点)の注意点として、大半のことが伝わっていないという前提にたつ必要がある
    • 顧客は自分が興味のある情報だけを短時間で受取、ニュアンスは伝わらない
      • これは Attract(引き付ける)のボトルネック
    • カスタマージャーニー上の文脈に沿って魅力を伝えるように工夫する
  • セルフサービスチャネルの制約は以下
    • 説明できる「幅」が狭い
    • 説明できる「時間」が少ない
    • 微妙なニュアンスが伝わらない
  • 非対面のコミュニケーションでは、顧客が能動的なシーンか受動的なシーンかを見極めて情報提供する必要がある
    • 能動的なシーン
      • じっくり情報収集するが、興味のあること以外は一切見てもらえない
    • 受動的なシーン
      • 興味のあること以外にも目を通すが、流し見のため探索行動に移ることは稀

過剰品質の魅力もどき

  • 企業側がAttract(引き付ける)できる魅力だと考えていても、顧客とズレているケースとして過剰品質がある
  • 企業が思い込みだけでサービスや機能を改悪し、LTV に貢献しないばかりか顧客体験を悪化させることはよくある
    • アプリに搭載されている過剰な機能は、会議室で「アプリでできそうなこと」というテーマでブレストされ、実装された結果、顧客にはことごとく受け入れられない
    • 顧客視点がない状態でのコンテンツ(Web サイトやメディア)の量産は、LTV を悪化させることはなくても、工数をかけることになり害悪である
  • 顧客視点を入れることで本質的な魅力を出す意識を
    • カスタマージャーニーの解像度を上げるためにアンケートを実施する
    • 企業に都合の良い妄想をせず、顧客の声や行動を反映させる

顧客接点

  • 顧客の日常を正しく把握し続けるためには、顧客接点を増やす努力が不可欠
    • カスタマージャーニーに沿っていなかったり、顧客ニーズを満たさないものは失敗するのが大半
    • 目的のない顧客接点から集めたデータは使い物にならない
  • 商材によって、増やす接点も工夫をする
    • 高単価な商材がメインであれば、ライトな顧客接点を用意して関係性を構築する
      • 高級ホテルの宿泊がメイン商材であれば、高級感は感じられるがライトなカフェ利用やランチなどの接点を作る
      • 家具がメインの商材であれば、日用品や消耗品、レストランなどの接点を作る
      • キャンペーンを開催して会員を獲得してメールで継続接触して認識を得る
  • 距離感を大切に、顧客への連絡は興味・関心の度合いで判断
    • 距離感の遠い接点は、顧客の時間を奪わず、見たければ見てくださいという接点
      • Web サイト
      • メールマガジン
      • 郵送物
    • 距離感の近い接点は、顧客は対応せざるを得ないと感じる接点だが、興味があればすぐに反応を確認できる(顧客シグナルを獲得しやすい)接点とも言える
      • 訪問
      • 電話
      • SNS の DM
  • 顧客接点の例
    • 店舗
    • レジ
    • 自社 Web サイト・カタログ
    • 比較サイト
    • アプリ
    • 広告
    • メール
    • SNSのDM
    • 郵送
    • セミナー
    • 訪問
    • 電話
    • コールセンター
    • 代理店

顧客シグナル

  • デジタルマーケティングにとどまらず、幅広い顧客接点の創出が不可欠だが、そこから営業機会を発見できていないケースがある
    • Sense のボトルネック
  • 顧客接点上に、正しくシグナルを検知するための仕掛けが必要
    • 簡単なのはコンバージョンのボタンを設置してクリックしてもらう
    • スクリーンショット
    • カタログダウンロード
      • 新規顧客?既存顧客?
    • セミナー
  • コンテンツを作るにあたっても、必ず顧客ニーズを把握しないと「廃墟」を量産する羽目になる
  • 顧客シグナルの例
    • 来店
    • Webサイトの閲覧
    • カタログダウンロード
    • 顧客情報の変更
    • スクリーンショット

データ

  • 意図せず社内に溜まっているデータを後から活用しようとしてもうまくいくケースは少ない
    • データの量と質が完全に不足しているから
  • 顧客データは常に散らばっていく「さだめ」にあるため、統合自体が目的のプロジェクトが発足するが、統合後の活用などは考えられていない
    • そして統合されたデータに価値が見出せず、またデータが散らばる無限ループ
  • データ統合の目的は2つ
    • データ分析の高度化
      • データの蜃気楼性
        • 未分析のデータがあると、活用しなければという強迫観念に駆られる
          • そして、手段である分析が目的になり、無駄な仕事になる
      • データ分析はの本来の目的はアクションにつなげること
        • アクションにつなげるために、データは「証明」と「発見」という2つの役割を担う
          • 証明
            • 成果が出そうなアクション仮説を、実行してよいと了承を得るための裏付けデータ集めこそが、データ分析の本流
            • アクション仮説があれば、必要なデータは自明で、大量データを五里霧中で分析するのは無駄
            • データは、過去に偶然溜まった購買データや閲覧履歴などでは顧客体験を明らかにすることは困難なことが多いので、アンケートやインタビューが手っ取り早い
          • 発見
            • まだ見ぬアクション仮説を得るために「成果に影響する」データを取得すること
            • 成果と相関する顧客体験を洗い出し、相関分析する
              • 相関がある場合も因果関係があるとは言えないが、発見のきっかけにはなる
              • 施策として落とし込んでアクションにつなげ、実際に成果が出るかを確認する
            • 相関を見つけるには LTV を計測する成果データと顧客体験を把握する履歴データが必要だが、これらのデータが不足した状態で相関分析をしても、当たり前の結果しか出てこないので、全社一丸となって目的に沿ってデータを集める必要がある
      • データ統合は、リアルタイムにデータを活用するシーンでのみ必要になる
    • 1 to 1 コミュニケーション
      • ターゲティング(セグメント)が効果的な場面
        • インセンティブを絞る
        • 遠すぎるターゲットを分ける
        • タイムリーに接触する
      • 一貫接客が効果的な場面
        • デジタルの顧客接点よりも、対面の顧客接点
          • 電話口の顧客情報と、適切なアップセル内容が提案されるようなシステム
    • 蛇足として
      • セキュリティ向上
      • 経営に必要なデータのスピーディーな取得
      • サーバーやツールのコスト効率化
      • Cookie データの欠損防止

アンケート・ヒアリング方法

  • ヒアリングのポイントは「意見」ではなく「行動」の収集
    • 行動とは、その人が過去に行ったことのある業務、顧客との会話内容、その時抱いた印象など
      • できるだけその人の経験を一時情報として収集する
    • 行動を聞くコツは「条件を明確にする」こと
        • どんな顧客を相手にしているか
        • 何の用件に対して接客しているか
        • どのタイミングなのか
      • 条件が曖昧なままだと、いろいろな行動が混ざって正しい理解ができない
    • ヒアリングしながら「条件」の分岐を頭の中で整理して深掘りするスキルが必要
    • 注意点としては、相手ができるだけ考えずに回答できるようにすること
      • 考えるほど、想像や意見が入り込んでしまい、回答内容が事実と乖離してしまう
    • 未来のことをヒアリングする際は「施策案」などを持っていき、反応をを見る
      • 何かモックなどを見せたときの反応は、事実に近い「行動」と言える
  • 定量アンケート
    • 3つの目的
      • 定性インタビューの被験者収集
      • カスタマージャーニーの「大動脈」を知る
        • 顧客接点の「チャネル」と「体験」を整理する
          • チャネルとは、顧客と接触する手段
          • 体験とは、顧客接点で発生したイベント
              • 店舗スタッフから声掛けしてもらった
              • ノベルティーをもらった
        • メジャーなチャネルと体験を把握できるように調査票を作る
      • LTV に影響する「代替指標」や「顧客接点」を知る
        • 指標例
          • 年齢別の加入期間
          • 加入者と解約者の比較
        • NPS などの代替指標の取得
    • 一通り作った調査票は、次の方法で洗練する
      • 各設問の結果を予想して、その結果は何かを証明したりすることにつながるかを考える
        • カスタマージャーニーの仮説や、今実施している施策が誤っていることなどを証明することを考える
      • 各設問が誤解されずに正しく回答してもらえるかを確認する
        • 考えさせず、脊髄反射的に解凍できるように工夫する
        • ダメな例
          • 設問文が長い、回りくどい
          • 似た設問が続くが、差が分かりづらい
          • 表形式の設問で、縦横の理解が難しい
          • 選択肢だけを見て回答すると、設問意図とずれることがある
          • 即答できる「過去の行動」以外を聞いている
        • 誰かに回答してもらって様子を見るのも良い
    • 綿密に作られた調査票の集計はシンプル
      • 各設問の項目別に回答数と割合を出す
      • LTV 指標と代替指標を、各設問の項目とクロス集計し、比較することで、LTV に影響を与える要因がわかる(理由まではわからない)
  • 定性インタビュー
    • 3つの目的
      • 行動の「順序」を知る
      • 行動の「理由」を知る
        • フリーワードのアンケートでは、的確な深掘りができない
        • 仮説ベースのアンケートでは、仮説がずれていれば適当な回答をされる恐れがある
      • 施策案の「評価」を知る
    • 定性調査は顧客の解像度を高める最強の手段
    • 行動観察を行うことで、言葉には表されない「なんとなく」や「細かすぎ」な実際の行動を発見できる可能性がある

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