「おうちに高速WiFi!」を誰にでもオススメしない理由 - 身近な例からネットワーク設計を考えてみる
先日、ITに詳しくない友人に「高速Wi-Fiっていいの?」と聞かれました。それに対して、僕は「使い方によるけど、基本はおすすめしないよ」と返答しました。
今回はその理由と、企業ネットワークに置き換えた時によくある課題を考察します。
この記事をおすすめする方
- 家のネットワークについて興味があるよって方(非エンジニアも歓迎、 記事前半のみ推奨)
- 「ネットワーク」と言われても具体的なイメージがわかない方
- ネットワークをどう設計していいか、考え方がわからない方
百聞は一見にしかず!ざっくり図解
一般的なご家庭のネットワークをイメージがこちらです。
ネットワークはWiFiだけではないので、「高速WiFiがいいか」という問いに対しては「使い方による」が模範回答です。
高速Wi-Fiが有効なケース
「おうちの中の機械同士が大量のネットワーク通信する」時には、爆速で通信できるようになるでしょう。
パソコン同士がWi-Fi経由で大量の画像や動画をやり取りするとか、HDDレコーダーからタブレットに録画を転送するなどがイイ例です。
ちなみに「アクションカメラとパソコンをUSBで繋いで」「ケータイからパソコンへBluetoothで」転送する時は、Wi-Fiの速度(ネットワーク通信)は関係ありません。
高速Wi-Fiが役に立たないケース
「おうちの中の機械からインターネットに通信する」時には、WiFiだけ高速にしても意味がありません。この使い方が多い時は、「おうちからインターネットへの通り道(キャリア回線)」を考えるのが先です。
おうちの中(Wi-Fi)だけ爆速4車線道路でも、おうちから外(キャリア回線)が遅い1車線になってたら、、、もちろん渋滞する=トータルでは遅くなりますよね。
ちなみに、最近のご家庭用キャリア回線にはこんなものがあります。
- 光回線: ニューロ光とか、Biglobe/Flets光とか
- CATV(ケーブルテレビ)回線: JCOMとか
- 4G LTE / 5G: いわゆるモバイルルータ。Wimaxとか楽天モバイルとか
- 衛星回線: Starlinkとか
「高速Wi-Fi」のもうひとつのワナ
巷で"5G[1]"とか”WiFi6”[2]などの言葉を聞いたこともあるかもしれません。ざっくり言うと「高速な通信技術」です。
ただこれらの技術がちゃんと動くのは、「スマホなどの端末:使う側」と「キャリア/ルータ:使われる側」の両方が対応している時だけです。
古いiPhoneを使っているのにキャリアだけガッツリ5Gにしても動きません。お金がもったいないです。
家電量販店とかショップで相談する時に、自分が今どんなモノを持っていてどんな使い方をしているかきちんと伝えるようにしましょう。
家庭ネットワークのまとめ:本当に気にするべきなのは何?
- 「高速Wi-Fi」がいいかどうかは、使い方と手持ちの機器による
- 一般的な使い方だと、どっちかというとキャリア回線の方が大事なことの方が多い
- わからなかったらショップの人に洗いざらい話して相談するか、ネットワーク屋に一度家を見せて
ここからエンジニア向けのお話
企業のネットワークだと、キャリア回線=WAN、高速WiFi=LANに置き換えられます。
冒頭の図では「LANが潤沢だけどWANが貧弱」な、典型的なボトルネックの例を表してみました。
この「家のネットワークのケース」を例に、「企業でのネットワーク設計」を考えてみます。
ネットワーク設計の基礎
家のネットワークのケースでみたように、どんな設計が適切かは使われ方・通信が多いか:ユースケースによります。
"全体アーキテクチャ"からネットワークの役割を考える
ネットワークは遅すぎると詰まり、速すぎると無駄になります。
ネットワーク設計を考える時は、使う人の視点から「どの区間にどれぐらいの処理能力があれば必要十分か」を考えてみるようにしましょう。端末やサーバなど通信元からクラウドサービスやDC内のサーバなどの通信先まで、いわゆるEnd-to-Endで分析することが設計精度を上げる鍵です。
たとえばダウンロードが多い場合は下り(端末へ向かう方向)のキャパシティを確保する必要がありますし、逆にストレージ用のネットワークからすると上り(ストレージから出ていく方向)のキャパシティが大事になります。今設計しようとしているネットワークが日々の業務の中でどんな役割を担うのかイメージがハッキリしてくれば、自ずと最適解は見えてきます。
ネットワーク設計の初心者だと、一生懸命WANだけ/LANだけ/新規導入するルータやスイッチだけなど、一部分に注目して分析したり考えたりしがちです。「全体像が見えていない人」が設計したネットワークではどこかにボトルネックが生まれやすくなります。新人のころの自分に小一時間説教してやりたい
ユースケースを調べる時の注意点
大きい組織になればなるほど、「全従業員が普段現場でどんな仕事・使い方をしているか」が見えにくくなっていきます。小規模な組織でない限り、IT管理部門/ネットワーク管理者が見える情報には限界があることは心に留めておきましょう。
現場にヒアリングをするとか、小さい規模で実際に使ってもらってフィードバックをもらうとか、「使い手の意見をリアルに知ろうとする」ことが大事です。
「噛み合わせ」も気にする
新しいモノ・サービスを導入する時は「今使っているシステム・ネットワーク」と連携して動くかはきちんと確認しましょう。WiFi6や5Gの例よろしく、対向機器とインターフェースや仕様が合ってないとせっかくの機能やスペックが台無しです。
またカタログ上問題がなくても、実際に動かしてみると(バグではなく)組み合わせによる問題が起こりこともあります。
ベンダーやリセラーから試験機を借りる、仮想ネットワークなら評価ライセンスを使うなど、できるだけ本番に近い構成で実際に動かして自分の手でちゃんと調べるのが一番確実です。
おわりに:この記事で伝えたかったこと
- ネットワークが遅いと感じたとき、本当に詰まっているのはどこかを見極めるのが大事
- Wi-Fiやキャリア回線など、構成要素ごとの役割と制約を理解しよう
- 設計では「速ければいい」ではなく、必要十分な構成を考える視点が必要
一歩引いて考えるクセは、家庭でも企業でも、あらゆる技術課題に応用が効きます。僕はネットワーク屋なのでネットワーク観点を切り口にしていますが、これはサーバだろうがSaaSだろうが本質は同じだと思います。
設計時はカタログスペックに囚われすぎず、全体像を俯瞰して具体的に考えることが大切にしていきましょう。
生成AIの登場である程度のことは技術が処理してくれるようになった時代だからこそ、全体を見た上でAIに対して的確な指示を与えられる人間の目と頭が重要です。
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