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なぜAI翻訳では伝わらない?「伝わる」翻訳のための日本語再構成術

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AI翻訳で英語の文章を作ってみたけど、なんか海外の人に伝わらない - そんな経験ありませんか?
今回は日本語の特性を解説した上で、AI翻訳や直訳で伝わるようにする工夫を紹介します。

日本語はそもそも「英語に直訳できない言語」

記事の前半では、日本語と英語の構造的な違いを紹介します。
最初に知っておいてほしいことは、日本語と英語はまるで別物だということです。これが直訳やAI翻訳だけでは通じない理由の核心でもあります。僕のイメージでは以下の表の通りです。

言語 日本語 英語
脳の処理 かなり右脳寄りの処理 バリバリの左脳処理
イメージ 絵画・芸術 数学・プログラム
文章の組み立て方 語順や表現の自由度がかなり高い、粘土細工をする感覚 決められた語順(数式・関数)に単語やイディオム(変数)をはめ込む、レゴやプラモデルを組み立てる感覚
読み解き方 前後の文脈や余白を読む、全体のバランスを見て察する 構文を読み解いて一意の答えを導く
気持ち悪く感じる表現 余白のないハッキリとした断定表現 意味が何通りにも取れる文、変数に何も代入されないままの曖昧表現

翻訳する時に再構成しやすいように、これらの違いを構成している代表的な要素に分解して具体的に3つ挙げてみます。

語順の違い

日本語はSOV、英語はSVOと表現されることがあります。(Subject 主語, Verb 述語, Object 目的語)

日本語では一番最後に述語がくるので、最後まで話を聞かないと結論がわかりません
逆に英語では最初に主語と述語がくるので誰が何するか、冒頭で大意を把握できます

この特性の違いから、日本語の長文では「主語と述語のセット」、つまり因果関係が迷子になりがちです。

語の省略

日常会話では「私はペンを持っています」をフルで口に出す場面、正直ないですよね?笑
みなさんが普段口にする自然言語はこんな感じになると思います。

  • 「君、ペン持ってる?」「持ってまーす →主語・目的語抜き
  • 「誰かペン持ってる?」「僕、持ってます」→目的語抜き
  • 「誰かペン持ってる?」「あ、持ってますよ」→主語・目的語抜き

教科書などでも語られる日本語の特徴としては「主語を省略しても成り立つ」ことが際立ちますが、これは「英語など他の言語と比較した場合の」特徴です。文脈次第で目的語・補語を抜くことは、日本語に限らず他の言語でもあります("Yes I do (have a pen)"など)。
つまり、日本語は「文脈次第で、主語に限らずいろんな語を抜く」という方が正確です。

日本語は前述の通り、余白を察することを前提にしている言語です。他の文化圏の人から客観的に見ると、文章自体は歯抜けだらけで意味のわからない暗号に見えがちです。

語に込める意味合いの多様さ

教科書などでは触れられませんが、実際に業務で英語を使ってみると変換に困る単語がよくあります。
ネットワーク運用を担当していた僕が身近によく使っていたもので言うと、「管理」「監視」「運用」「情報」あたりが代表的な単語です。

察する力の強い日本人同士だったり、特に背景を共有している同じチーム内だったりすると「ネットワークの管理」だけである程度伝わった雰囲気になると思います。
ただ、これを直訳してNetwork Managementという単語で海外の人に伝えると、だいたいこんな感じの質問の山が返ってきます。

  • 何が管理対象なの?(What scope)
  • 管理って、実際どんなことしているの?(What to do)
  • どんな風に管理しているの?(How)
  • その管理作業って何のため?(Why)
  • で、今回の言いたいことはどの作業のどの部分のことをどうしてほしいと言っているんだ?(so what?)

英語にそのまま置き換えると、単語自体の曖昧さが悪目立ちしてこのような疑問を生んでしまいがちです。

❗️実は日本人でも意味が一意に伝わってないことがある

先ほど挙げた質問の例は英語に変換した時によく見かけますが、実は日本人同士でも中身がちゃんと伝わっていないことはよくあります
なんとなく一連の作業だと察したけどハッキリとはわかってない、でも文脈上深掘りしなくても違和感はないから質問しない…という場面をよく見かけます。

プロジェクトメンバー間の意識が合っていない、相手に意図が伝わっていないと感じる時は、言葉選びを見直すのも一つの手かもしれません。

伝わる文章に翻訳する4つのステップ

前のセクションで述べた通り、日本語と英語はそもそも構造が大きく違うのでそもそも直訳:単純に変換できる関係ではありません
文章の意味を伝えるためには意訳:変換先の言語構造に合わせた再構成が必要になります。

英語が不慣れな人に僕がおすすめしている考え方は以下のステップです。

  1. まず敬語表現をやめよう
  2. 「言いたいこと」を箇条書きにしてみよう(文章を短く切ろう)
  3. 5W1Hを補強しよう
  4. 置き換えられたら、訳してみよう

この考え方は英訳だけでなく、機械翻訳に通す前の日本語の事前編集(Pre-Edit)としても、日本語をわかりやすく編集する手法としても、いろんな場面で有効です。

例文

たとえば、あなたが「面識のない、支社のIT管理者」にメールで依頼することになりました。
日本の支社に出していたメールを元に英訳してみることにしました。

このたび全社のネットワーク最適化を図るプロジェクトが発足しました。
各支社から回線情報や構成情報を集め、まずは現在の社内ネットワーク全体像を把握する必要があると考えています。
お手数ですが、情報提供にご協力ください。

翻訳に入る、その前に

一連のステップを始める前に、この文章で言いたいことを読み込んでおきましょう。
要旨をアホっぽく言うと「社内ネットワークの全体像を把握したいでーす」「そのために各社の情報くださーい」の2点ですね。最低限この2点の意図を崩さないように注意しつつ、変換していきます。

1.敬語表現をやめる

敬語表現の心遣いは非常に美しい文化ですが、婉曲表現が多く内容がストレートに伝わらないという側面もあります。英語に変換する時にはハッキリ言うと邪魔なので、バッサリ切り落とします。
親しい友達にお願いするように言い直してみましょう。

今年全社ネットワークを最適化をするプロジェクトができた。
各支社から回線情報や構成情報を集めて、まずは今の社内ネットワーク全体像を把握したい。
ということで、今把握している情報くれ。

2.箇条書きにしてみる

「言いたいこと」に分解するには、1文を短く区切った箇条書きが有効です。
例文を、意味をなすブロックごとに区切ってみます。

  • 全社ネットワークを最適化する
  • 各支社から情報を集めたい
    • 回線情報
    • 構成情報
  • 現在の社内ネットワーク全体像を把握する必要がある
  • 情報提供に協力してくれ

3."5W1H"を見つめ直す・補完する

俗に言う5W1Hは「Who: 誰が、When: いつ、Where: どこ、Why: なぜ、What: 何、How:どうやって」です。まずはこれをベースに足りないものを考えてみます。

先ほどの箇条書きを単純に変換すると、こんな具合になるでしょう。

項目 内容
Who:誰が 自分(のチーム)が
Why:なぜ ネットワーク最適化のインプットにしたいから
What:何を(何をしたい) 構成情報、回線情報を知りたい
How:どうやって グループ会社へヒアリングする
When:いつ(いつまでに) 9月までに
Where:どこ(どの範囲を) 各社のネットワークのネットワークを

日本語ではこれで十分成り立ってるように見えますが、このまま英語に直してメール送信するとおそらく海外メンバーからこんな反応が返ってきます。

  • なんでネットワーク最適化したいの?今忙しいんだけど、1年後じゃだめ?
  • 具体的にどんな情報が欲しいの?
  • 9月までって、8月31日まで?9月30日まで?

場合によっては重要性がわからずメールをスルーしてしまう人もいるかもしれません。
つまり、この5W1Hでは「必要性と求められているアクション」がハッキリわかるまで掘り下げられていないのです。

🪏5W1Hの深掘り

機械に命令するプログラム言語や、既にある程度会話と信頼関係がある人とのやり取りなら「Who Do What (and When)」が示せれば十分です。これが英文においては最低限の単位です。

ただ今回のメールは「面識のない相手にお願いをする」内容なので、受け手に「協力したろ」と思ってもらう必要があります。事情を知らない相手に納得してもらうためには、話の発端から順番にストーリーを説明するのがよいです。

偉い人になったつもりできちんと書き直してみると、例えばこんな感じになると思います。

項目 内容
Who:誰が CEOが、我々のチームに指示して
Why:なぜ ネットワークコストの削減による会社の財源の確保を目的に
What:何を(何をしたい) ネットワークの最適化による運用コスト5%削減を指示した
How:どうやって 未定。どうやって最適化できるかを探りたいので、まず回線情報・構成情報を調査する
When:いつ(いつまでに) 今年の9月30日までに
Where:どこ(どの範囲を) 未定。どの箇所を最適化できるかを探りたいので、まず回線情報・構成情報を調査する

主語・目的語を補完しつつ、これを文章に再構成してみます。

CEOは会社の財源確保を目的に、今年のネットワークコストの削減を決めた。
私たちはCEOからの指示で全社ネットワークの最適化プロジェクトを立ち上げた。
CEOはこのプロジェクトにネットワーク運用コストの5%削減を指示した。
プロジェクトはこの指示を遂行する具体策を検討している。
各支社の回線情報・構成情報を知りたい。
9月30日までにこのメールに構成図を添付して返信してくれ。

だいぶ具体的になってきました。
文章の順番を入れ替えて、小見出しをつけるとよりわかりやすくなります。

私たちはCEOからの指示で全社ネットワークの最適化プロジェクトを立ち上げた。

[依頼事項]
各支社の回線情報・構成情報を知りたい。
9月30日までにこのメールに構成図を添付して返信してくれ。

[背景]
CEOは会社の財源確保を目的に、今年のネットワークコストの削減を決めた。
CEOはこのプロジェクトにネットワーク運用コストの5%削減を指示した。
プロジェクトはこの指示を遂行する具体策を検討している。
プロジェクトのインプット情報として、私たちは現状の各社の回線情報・構成情報を知りたい。

4.英訳をする - 整形前後の比較

翻訳ツールをつかって、原文と整形した文章を直訳するとこんな形になります。
今回はDeepL AIを使ってみました。

原文の直訳

We have recently launched a project to optimize our company-wide network.
We need to collect circuit and configuration information from each branch office to first get an overall picture of the current internal network.
We would appreciate your cooperation in providing this information.

事前にきちんと会話ができている前提ならばこの内容でも伝わるとは思います。

この文章のキモは2文目"we need to..."なのですが、文章自体だけ読むと「いつまでに、どうすればいいか」がぼやけています。次にどうしていいかわからない人もいるでしょう。
また、背景がわからないため重要度や緊急性がわからず、人によっては無視してしまうこともありそうです。

整形後の文章の直訳

We have a company-wide network optimization project under the direction of our CEO.

[Requests]
We need to know the circuit and configuration information for each branch office.
Please reply to this email by September 30 with a configuration chart attached.

[Background]
The CEO has decided to reduce network costs this year in order to secure financial resources for the company.
The CEO has directed this project to reduce network operating costs by 5%.
The project is working on specific measures to carry out this directive.
For input information for the project, we would like to know the current circuit and configuration information of each company.

文章自体は長くなったものの、何をいつまでにして欲しいかはわかりやすくなりました。また背景を丁寧に書いて、初見の人にも納得してもらいやすい配慮をしています。
元の文章よりはかなり伝わりやすくなっているはずです。

整形後の文章の意訳(例)

AIの直訳を参考にしつつ意訳すると、僕の場合はこうなります。
言い回しに正解はないので、あくまでも参考にご覧ください。教科書的に言えば、前置詞など細かい部分で間違えてるかもしれません(笑)が、真意がきちんと伝わることの方が大事です。

We initiated "Network Optimization Project" by the direction from CEO.

[Request]
We need to capture current network overview in each branch office.
Please reply to this email by September 30th with following 3 information attached.

  • Logical diagram
  • WAN circuit bandwidth
  • WAN circuit cost

[Background]
The CEO xx has decided to reduce network costs this year in order to secure financial resources for the company.
xx has directed us to reduce network running costs by 5%.
We just started exploring WHERE and HOW to optimize.
To capture current status on each company, we are asking you to provide the information above.

実際の業務で使いそうなメール文面

僕は「無用な誤解を避けるために、言えないこと以外はすべてオープンに話す派」なのでガッツリ丁寧に書きますが、実際にメールを送る時は[Background]を中心に削ってもう少し簡略化しても良いかもしれません。

Hi xx,
I'm xx from new project - Network Optimization Project. I have a request to you.

[Request]
Please reply to this email by September 30th with following 3 information attached.

  • Logical diagram
  • WAN circuit bandwidth
  • WAN circuit cost

[Background]
Our project mission is to reduce the network running cost this year.
We just started exploring WHERE and HOW to optimize.
To capture current status on each company, we are asking you to provide the information above.

Best regards,

💡意訳のポイント

意訳のときの主なポイントとしては、以下2点です。
①元の文章を維持することにこだわり過ぎず、適宜箇条書きや太字を使って大事なポイントを強調する
②背景の後半2文を「言いたいことに合わせて、英語らしい言い回し」に変換する

②については感覚にかなり頼ってで英訳していますが、強いてポイントを言語化すると以下です。

  • まどろっこしい言い方を避け、ぶっちゃけ言いたいことをストレートに言う(伝達したい内容の再確認)
  • 具体策を検討だと「誰が何する?」が不明なので、直接的な言い方にする(語の意味合いの多様さを排除)
  • 締めの文章は、前の文章からの流れで自然に読めるように調整する(ストーリー性を持たせる)

この「英語的な感覚」は習うより慣れるものだと思っているので、相手の言い回しを見聞きしたり真似たりするのがおすすめです。
相手の英語と、「自分が同じことを日本語表現するとどうなるか」を比べてみると、よりわかりやすいかもしれません。

おわりに

今回は日本語と英語の構造的な違いと、基本的な訳し方をまとめてみました。いかがだったでしょうか。

日本語と英語はそもそも全然違うことを理解して、それぞれの言語に合わせた言い回しに組み替えていくことが「翻訳」のコツです。
英語に変換する時は「フランクに」「具体的に」「言い切る」を意識するとようにしましょう。

後日続編として、ニュアンスの調整方法を中心にブラッシュアップの仕方も執筆予定です。
みなさんが悩んでいることがあればコメントに残してもらえるとうれしいです!

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