学校では絶対に教わらないニュアンス調整術
学校やビジネス英会話の本では「正しい英語」を教わります。しかし資料や会話では、「正しい英語」が最適ではないこともあります。
今回は実際に僕が経験したケースとポイントを紹介します。
ケース
新規に社内ITサービス(仮称:ServiceXとします)を展開することになり、その説明資料を作っていました。
「なぜServiceXを導入するのか」という章があり、その翻訳をAIと相談して作りました。
- [元の訳語] What is the purpose?
- [AIの提案] Why are we doing this?
- [最終決定案] Why ServiceX?
この変遷を辿った経緯と、チェックしていたポイントを紹介します。
AIの提案と修正の過程
新サービスを導入すること、社内の一般従業員(非エンジニアも含む)が読む想定であることを伝えた上で、AIに英語訳を見せて修正案を出してもらいました。
AIによると「元の訳語は固い表現なので、少し柔らかさを出した方がいい」とのことで、”Why Are We doing this?”を提案してきました。
AIが出してきた提案は、確かに英語表現的には正しいし伝わる訳です。
僕が引っかかったこと
しかし、僕の所属している組織ではそぐわないと思いAIに再修正を求めました。
- 中小企業で、末端まで意思疎通が取れている組織体ならこの表現でいいと思う
- しかし僕がいる組織ではこの表現はそぐわないと率直に感じる
- 大企業であり、いろんな人がいる
- 国をまたがればで意思が統一されていないことがよくある
- 同じ国内でも部署が違えば全然違う反応をされる
- よって、"一枚岩ではない共同体"で主語に”We”を据えることに違和感を覚える
この背景であればその違和感はごもっとも、"We"を使うとスローガンっぽさが出てかえって求心力が落ちる、とのことでした。相談を重ねた結果、あえてベンダーの売り文句っぽく "Why ServiceX?"というサブタイトルに確定させました。
大事なポイント:読み手との関係を考える
今回のケースでは、読み手は「知らない人」「非エンジニアを含む従業員」「職種も立場も様々」であり、関係性としては自分たちから遠い人たちでした。
プロジェクトを成功させるためには従業員の理解と協力が欠かせません。気持ちよく協力してもらうために、相手に配慮した言い回しにすることは信頼関係を築くことにつながる大事な要素です。
いきなり知らない人から「やりなさい」と命令されたり、肩を組まれて「俺たちは」と同列に語られたら相手は嫌に感じます。
かといって謙りすぎた謙譲語、「何卒ご協力賜りたく存じます」も英語では回りくどくなって使えません。
英語では、ストレートに表現しつつ相手が嫌にならない表現を心がけることになります。
おわりに
英語は、あくまでもコミュニケーションのツールの一つです。当たり前ですが、コミュニケーションには必ず相手がいます。
正しい文法や豊富なボキャブラリーで「正しい英語をしゃべること」自体が目的ではなく、その先にある、コミュニケーションを通して「お互いに意図を伝え合い、相手と信頼関係を築くこと」が大事です。
英語の正しさよりも、相手に伝わるか、自分が相手の立場だったらどうかをぜひ一度考えてみてください。
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