MindStream AI: 精神疾患患者419万人の待機問題を解決するYouTube コメント 分析AIシステム
はじめに
こんにちは!Google Cloud AI Agent Hackathon 2025に参加しているわたともです。
今回、私たちが開発したのは「MindStream AI」という、YouTube動画のコメントをAIで整理し、視聴者同士の体験談共有を促進するChrome拡張機能です。
なぜこのツールを作ったのか?それは、日本の精神医療が抱える深刻な問題と、それに対するYouTubeの新しい役割に着目したからです。
解決したい課題:419万人の声なき声
日本の精神疾患者の現状
現在、日本には419万人の精神疾患患者がいます。しかし、診療を受けるまでに1ヶ〜6ヶ月の待機期間があるのが現実です。この長い待機期間の間、多くの患者や家族は不安を抱えながら過ごしています。
そんな中、メンタル系YouTuberの存在が大きな支えとなっています。特に早稲田メンタルクリニック精神科医の益田裕介院長は、登録者数68万人(2025年6月現在) 精神科医がこころの病気を解説するChを運営し、私がボランティアサポーターとして運営する「Neccoカフェ」で、毎月チャリティライブイベントを開催してくださっています。
(ご参考)
YouTubeコメントに潜む4つの問題
益田先生の動画ではコメント欄でのコミュニケーションが活発で、以下のようなことが見えてきました。
1. 視聴者コメントの埋没問題
- 100件前後のコメントががあり、多い時は数百件にも及ぶことも
- 視聴者の体験談や質問が埋もれてしまうことがある
2. 体験の孤立問題
- 「私だけが苦しんでいるのか...」という孤独感
- 似た症状や悩みを持つ人同士がつながれない
- 体験談の共有が困難
3. メンタルヘルスケアの情報の信頼性問題
- コメント欄にデマ情報が混在するリスク
- 視聴者同士による誤った助言によるの懸念
- 薬機法に違反する表現の氾濫
4. 継続性の欠如
- 単発の視聴で終わってしまう
- フォローアップがない
- 知識が蓄積されない
これらの問題を解決するために生まれたのが、MindStream AIです。
ソリューション:MindStream AI
コンセプト:「メンタルヘルスケアの情報を、もっと見つけやすく、共有しやすく」
MindStream AIは、YouTube動画のコメントをGoogle CloudのAI技術で自動的に分析・整理し、視聴者同士の体験談共有を促進するChrome拡張機能です。
主要機能
1. AIによるコメントクラスタリング
Gemini 2.5 Flashを活用し、コメントを以下のように自動分類:
- 💊 薬に関する体験談(45件)
- 😰 診断前の不安・悩み(32件)
- 👨👩👧👦 家族・周囲の理解(28件)
- 📝 治療・対処法の体験談(18件)
各クラスターには、緊急度(high/medium/low)とメンタルヘルスケア関連度(0.0〜1.0)を付与し、重要なコメントを見逃さない仕組みになっています。
2. 体験談マッチング機能
似た言動や特性による悩みを持つ人のコメントを発見しやすくする機能:
- キーワード検索
- 類似度計算による関連コメント表示
- 体験者プロファイル表示(匿名性を保持)
3. 薬機法準拠のメンタルヘルスケアの情報発信
メンタルヘルス系の情報を扱う上で最も重要な法規制への対応:
// medical-compliance.jsによる自動チェック
const prohibitedExpressions = {
診断: [
/診断(します|できます)/,
/あなたは.{0,10}(病|症|障害)です/
],
治療効果: [
/必ず(治る|改善|効果)/,
/副作用は(ありません|ない|ゼロ)/
]
};
- NGワードの自動検出とフィルタリング
- 免責事項の常時表示
- 「個人の体験談」であることの明確化
4. Cloud Functionsによるキャッシュシステム
パフォーマンス向上とAPI使用量削減のため、Google Cloud Functionsを活用:
- 分析結果をFirestoreにキャッシュ
- 24時間の有効期限で自動削除
- 統計情報の収集と分析
技術的な特徴
Chrome Extension Manifest V3対応
2024年以降の新規拡張機能に必須のManifest V3に完全対応:
{
"manifest_version": 3,
"name": "MindStream AI",
"permissions": ["storage", "activeTab", "alarms"],
"background": {
"service_worker": "src/background/service-worker.js"
}
}
Shadow DOM採用によるスタイル隔離
YouTubeのスタイルとの競合を完全に防ぐため、Shadow DOMを採用:
const shadowRoot = container.attachShadow({ mode: 'closed' });
shadowRoot.innerHTML = `
<style>${panelStyles}</style>
<div id="mindstream-panel">...</div>
`;
リアルタイム分析とフォールバック
- YouTube動画を開くと自動的に分析開始
- Gemini APIが利用できない場合はローカルクラスタリング
- APIキーなしでもサンプルデータで動作確認可能
システムアーキテクチャ
全体構成図
技術スタック
フロントエンド(Chrome拡張機能)
- 言語: Vanilla JavaScript(ES Modules)
- UI: Shadow DOM + Custom CSS
- 通信: Chrome Extension APIs
- ストレージ: chrome.storage.local
バックエンド(Google Cloud)
- Cloud Functions: Node.js 20
- データベース: Firestore
- キャッシュ: 24時間TTL
- CORS: 全オリジン許可(開発用)
AI・API
- Gemini API: gemini-2.5-flash モデル
- YouTube Data API: v3(コメント取得)
- レート制限: 15 RPM(Gemini)、10,000ユニット/日(YouTube)
実装のポイント
薬機法対応の工夫
メンタルヘルスケアや医療情報を扱う上で最も重要だったのが、薬機法(医薬品医療機器等法)への対応です。
1. 包括的なコンプライアンスチェッカー
medical-compliance.js
として、以下の機能を実装:
- 禁止表現の自動検出(診断、治療効果、医学的助言)
- 注意表現への警告
- 推奨表現の提案
- 緊急キーワード(自殺念慮など)の検出
2. 常時表示される免責事項
const DISCLAIMER_TEXT = `このツールはメンタルヘルスケアの情報整理を支援するものであり、
医療行為や診断を行うものではありません。
健康に関する判断は必ず医師にご相談ください。
緊急時は迷わず119番通報してください。`;
Chrome拡張機能開発の工夫
1. Service Workerでの非同期処理
Manifest V3では、background.jsの代わりにService Workerを使用する必要があります:
// 動的インポートによるモジュール読み込み
const loadModules = async () => {
const [
{ default: youtubeAPI },
{ default: geminiAPI },
{ default: storage }
] = await Promise.all([
import('../api/youtube-api.js'),
import('../api/gemini-api.js'),
import('../utils/storage.js')
]);
return { youtubeAPI, geminiAPI, storage };
};
2. 多層的なフォールバック
APIの失敗に備えて、5段階のフォールバック処理を実装しています。
Google Cloud活用のポイント
1. Cloud Functionsでのスケーラビリティ
// Firestoreトランザクションで統計更新
await firestore.runTransaction(async (transaction) => {
const doc = await transaction.get(statsRef);
const currentValue = doc.data()[field] || 0;
transaction.update(statsRef, {
[field]: currentValue + value,
lastUpdated: new Date().toISOString()
});
});
2. Firestoreでの効率的なキャッシュ管理
- documentIdとしてvideoIdを使用
- TTLベースの自動削除
- 統計情報の原子的更新
デモ動画
以下の動画で、MindStream AIの実際の動作をご覧いただけます:
[動画準備中]
動画では以下の機能を実演予定:
- Chrome拡張機能のインストール
- YouTube動画でのコメント分析
- クラスター表示と体験談の確認
- 薬機法対応の免責事項表示
今後の展望
今後は、ピアサポート機能(匿名チャット)、危機介入システム(自殺リスク検知)、知識ベース構築(過去配信の検索)によるチャットボット機能などの実装を予定しています。
まとめ
MindStream AIは、単なる技術デモではありません。419万人の精神疾患患者と、その家族、そして66万人の益田先生の視聴者のために作った、実用的なツールです。
Google CloudのAI技術(Gemini 2.5 Flash)とインフラ(Cloud Functions、Firestore)を活用することで、以下を実現しました:
- 埋もれていた声を可視化 - AIクラスタリングで重要なコメントを発見
- 孤立していた体験を共有可能に - 体験談マッチングで似た悩みを持つ人をつなぐ
- メンタルヘルスケア情報の安全性を確保 - 薬機法準拠のコンプライアンスチェック
このハッカソンを通じて、技術が人々の健康と幸せに貢献できることを改めて実感しました。
最後に、このプロジェクトを支えてくださったZennチームメンターの皆様、そして精神医療の現場で日々奮闘されている益田裕介先生をはじめとする医療福祉従事者の皆様に、心から感謝申し上げます。
GitHub Repository: https://github.com/tomoyaw2024/mindstream-ai
Live Demo: 準備中
実証実験配信予定: 2025年7月1日(火) 第6回精神科YouTuber益田裕介ドクターチャリティイベントhttps://peatix.com/event/4459426/ (YouTube)
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このプロジェクトは、Google Cloud AI Agent Hackathon 2025への提出作品です。
医療に関する最終的な判断は、必ず医師にご相談ください。
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