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ゼロトラスト導入後に運用が立ち上がらない理由と“運用PMO”という処方箋
はじめに
ゼロトラスト導入プロジェクトというと、どうしても「技術導入」「移行設計」が花形になります。
ZTNA、IdP連携、MDM/EDRの実装、SD-WANの構築といった技術要素に注目が集まり、PMOの役割も移行計画やマイルストーン管理が中心です。
しかし、導入プロジェクトが解散したあと、定常運用フェーズで現場が混乱するケースが少なくありません。
本記事では、その背景と対策を「運用PMO」という観点から整理します。
導入プロジェクトの落とし穴(Before)
移行PMOばかりに光が当たる
- PMOといえば移行スケジュールや移行計画が中心で、予算も人材もそこに集中する。
- 運用設計や運用移行期は「プロジェクトが暫定的に面倒を見る」という形でお茶を濁されがち。
暫定期は勝手に終息しない
- 「半年くらいすれば落ち着くはず」と考えられがちだが、実際は移行プロジェクトで積み残した課題がそのまま残る。
- 例外処理やトラブル対応の経緯がブラックボックス化し、定常運用側は初動でつまずく。
移行と運用での温度差
- 過去のトラブル事例
- 拠点固有のシステムや制約(平日通信停止不可、繁忙期は完全NGなど)
- ユーザー特性(在宅勤務率が高い、BYODが多い)
これらは移行プロジェクト側には共有感があるが、定常運用側には十分に伝わっていない。
しかも、定常運用チームには引継ぎ作業を並行してやる余裕がないため「知識の断絶」が起こる。
運用PMOという処方箋(After)
運用PMOの役割
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知識移転の担保
- 過去のトラブルや例外対応を棚卸し、FAQやRunbookに落とし込む
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教育の定着
- ヘルプデスク教育(例:SD-WANログ読み取り、問い合わせフローチャート)を必須マイルストーンに
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例外処理ガバナンス
- 例外ポリシーを期限付きで管理し、場当たり対応を防ぐ
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問い合わせ設計
- 問い合わせフォームやヒアリングシートを共通化し、一次切り分けの精度を上げる
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DevOpsループの推進
- インシデント → ログ解析 → 改善 → FAQ反映のサイクルを回す
第三者目線かつ当事者目線
- 第三者目線:移行プロジェクトの知識移転が十分かを監視
- 当事者目線:運用側の余力や制約を理解し、現実的に回せる形に翻訳
最小実装(Small Start)
運用PMOをフル機能で立ち上げる必要はありません。
まずは「導入直後に必ず発生する問い合わせ」を題材に最小実装しましょう。
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シナリオ例:ZTNA接続切れ時の問い合わせ対応
- 問い合わせフォームに必須項目を設定(端末種別、発生時刻、接続先など)
- ヒアリングシートを統一し、ヘルプデスクが一次切り分け可能にする
- ITSMツールでサブチケットを自動起票 → 設計/ネットワークチームと並行で対応
- 月次レビューで改善点を抽出し、フォームやフローチャートを更新
これだけでも「導入したはいいが、誰も動けない」状態は回避できる。
まとめ
- 技術導入や移行設計は花形だが、導入後の混乱を防ぐには「運用PMO」が不可欠。
- 暫定期のあいまいさや知識の断絶を放置すれば、ゼロトラストは“不便な仕組み”で終わってしまう。
- リリースの本当のゴールは「定常運用が自走できる状態」。
- そのために、運用PMOをプロジェクトの必須要素として設計に組み込むべきだ。
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