なぜ、新人の電話対応はハラスメントなのか
はじめに
以下の記事を読みました。
一応私は電話対応で飯を食っていた人間なので、普通の人よりは知識があるものの、言語化するのがものすごく難しい内容だと思います。
ただ記事の内容やコメンテーターのコメントを読んでも要領を得ないですし、何より新人のためにならないので、できる限り新人のためになるような記事にしていきたいと思います。
あとちょうどMisskeyの知り合いがIT企業に入社して新人の電話対応することになっていたので、Zennに知見として残しておこうと思います。
電話対応
電話対応をものすごくシンプルにすると、以下の流れになります。
オープニング
「お電話ありがとうございます。株式会社○○の○○でございます」
この時以下の点に注意する必要があります。
- 明るく、少し高めのトーンを意識すると、より歓迎している気持ちが伝わります。
- ハキハキと滑舌良く、相手が聞き取りやすいスピードで話します。
- 見えなくても、笑顔を意識すると声のトーンも自然と明るくなります。
もうこの時点で電話対応やりたくなくなりますね!
LINEやDiscordでこんな事する人いないですから。
まあ基本として覚えておくだけで十分です。
その後発信者が常識のある人であれば、以下のように続くと思います。
「いつもお世話になっております。○○株式会社の○○です。」
めっちゃ重要な「会社名」と「名字」を名乗ってきました。
すぐメモをとりましょう。
メモのとり方は環境や人によって変わりますが、とにかく電話をうけてすぐメモを取れるような環境づくりが重要です。
- 紙のメモ帳や付箋に鉛筆やボールペンでメモする
- 小さなホワイトボードにペンでメモする
- Windowsのメモ帳アプリや付箋アプリを使ってメモする
- Webブラウザでグループタブを作成し、グループ名で一時的にメモする
- メールソフトやWebブラウザの検索バーで一時的にメモする
もし小売や飲食であれば発信者は名乗ってきたりしてこないと思うので、こちらも店名を伝えるだけでいいと思います。
「お電話ありがとうございます。○○店です。」
要件を聞く
その後は要件を聞きましょう。
基本的に以下のパターンになります。
- 「○○はありますか?」といった質問
例:ニュースで話題になっていた商品の在庫確認 - 「○○したい」といった要望
例:直接あって会議をしたい - 「○○さんいますか?」「○○さんにかわってください」といった電話転送の希望
例:営業担当者との商談
上記質問について自信がない場合は、電話を保留にしましょう。
電話機に保留ボタンがあります。
以下の理由がありますので、電話を保留にするのは問題ないのですから。
- 「○○はありますか?」といった質問は、在庫を確認するために移動しなければならないから。
- 「○○したい」といった要望は、もしかすると既に行われている商談に関する内容で、詳細を把握している人が社内にいるかもしれないから。
- 「○○さんいますか?」「○○さんにかわってください」といった電話転送の希望を実現するにあたり、担当者が社内にいて、電話対応可能か確認する必要があるから。
クロージング
例えば1の質問ですぐ回答できるのであれば、回答するだけでお客様は満足するかもしれません。
もしそうであれば、回答後に以下の内容を伝えるだけで電話は終了します。
「また何かございましたら、お気軽にお問い合わせください。本日はお電話ありがとうございました。失礼いたします。」
「またのお問い合わせお待ちしております。本日はお電話ありがとうございました。失礼いたします。」
商品を購入するために来店される場合は、以下の内容でいいと思います。
「ご来店お待ちしております。本日はお電話ありがとうございました。失礼いたします。」
もし2や3であれば電話をかわってもらうか、電話を転送するだけで済むので、電話機の転送ボタンを押して転送しましょう。
社内回線の都合上転送できず担当者が席を離れることができなかったり、担当者が不在の場合は折り返し連絡するので、折り返しの連絡先電話番号を聞いて終わりです。
電話転送にしろ折り返しの連絡にしろ、もし可能であれば名前のフルネームを聞いたほうがいいかもしれません。
どういうことかというと、佐藤さんや鈴木さんだと担当者がどの佐藤さんか鈴木さんか分からなかったりしますし、名前のフルネームを聞くことによって最初に聞いた名字の聞き間違いを防止できるからです。
佐藤さんではなく斉藤さんだったりしますからね。
メモには以下の内容が書かれていると思います。
「○○株式会社 ○○様 [要件などヒアリング内容] 011-XXX-XXXX」
ね。簡単でしょう?
メモしてちゃんとクローズできればあなたのメモリは開放されるので何の心配もありません。
架電
折り返しの連絡や架電であれば、前もって準備をするのが大切です。
- クロージングまでのゴールを決める
- メモをとれるようにする。
- 資料を机に用意したり、PCやスマートフォンのブラウザに表示しておく
- 電話番号の入力間違いがないよう、会社名や氏名(名字)とセットで確認する
- ヘッドセットやマイク付きイヤホンを接続する
- 社外で架電すると騒音で聞き取れなくなるため
あとは
「お忙しいところ恐れ入ります。○○株式会社の○○です。」
「いつもお世話になっております。○○株式会社の○○です。」
で自分の会社名と名字を名乗って、
「折り返しご連絡いたしました。ただいまお時間よろしいでしょうか?」
「○○の件ですが、ただいまお時間よろしいでしょうか?」
の後に会話を続けて問題無ければ用意した情報をもとに会話をするだけです。
途中うまくいかなくなったら保留にするか、改めて確認して折り返し連絡する旨を伝えましょう。
なぜハラスメントなのか?
ではなぜこのような簡単なことも新人にはできないのでしょうか?
以下の理由が考えられると思います。
お金がかかる
これめっちゃ重要ですね!
実は電話ってお金がかかるんです。皆さん知ってましたか?
基本的に発信者側にお金がかかるので、発信者側は早く問題を解決したいわけです。
なので電話を保留にして待たせたりすると発信者側がイライラしますし、何も考えずに折り返しの連絡にすると着信者だった会社側が発信者になってしまうので、会社の経費を無駄にしたと怒る人が出てくるわけです。
Web会議や対面だとこのようなことは起こりません。
フリーダイヤルだと発信者側にお金はかかりませんが、着信者側がめちゃくちゃお金をかけているので、着信者側がちゃんとした対応をしないといけないですし、長時間の対応になることも考えたうえで対応する必要が出てきます。
ちなみにLINEやDiscordは通話ではないサービスでお金を稼いでいるので、着信者・発信者どちらも無料で使えるようになっています(回線使用料は考慮しないものとする)
ドメイン知識
まず、新人に電話対応をやらせても専門的な知識がないので回答できません。
例えば家電量販店で働いていて、以下のような電話がかかってきたとします。
「おたくで買ったルーターでインターネットに繋がらないんだけど! 8000円ぐらいしたやつで、ランプは全部緑で問題ないし、線はちゃんと繋いでいるのに、ありえないんだけど!」
この問題すぐ解決できますか?
まず不足している情報が結構あって、以下の内容があります。
- ルーターのメーカー・型番は何か。
- ランプはいくつあって、どこが緑点灯・緑点滅しているか。
- 線とはコンセントのことか。有線LANケーブルのことか。
- 有線LANケーブルは壁に接続しているのか。ONUに接続しているのか。PCに接続しているのか。
- そもそも何をどのように接続したいのか。ルーターに無線機能があって、無線でスマートフォンをインターネットに接続したいのか。異なるスマートフォンがあれば接続できるか確認したか。
- Wi-Fiのマーク(扇型のマークですね)は表示されているのか。何かエラーメッセージは表示されているのか。
- 一般論として、説明書を読んで、手順通りSSIDを選択しパスワードを入力して接続したか。
Wi-FiルーターかPCやスマートフォンを再起動を行い、有線LANが各機器に接続できていて、説明書通り設定すれば接続できるかもしれません。
そもそも家電量販店はルーターを売った後のサポートをするべきではなくて、説明書に書いてあるメーカーへ問い合わせてくださいで終わる話なのですが、説明書読んでいるのであれば家電量販店に架電してこないですし、不良品を売ったみたいな話でGoogleマップに星1のレビューが書かれたりするので、ある程度ドメイン知識を持って聞く姿勢はあったほうがいいのかもしれません。
ルーターがインターネットに繋がらない問題はまだマシなほうで、保険や不動産に関する内容だと有資格者でなければ回答できないような内容があったりして、回答したら非弁行為になったり犯罪になったりするケースもあるので、分からない専門的な内容に関する回答はすぐ回答できないものだと思ったほうが良いでしょう。
まあ皆さんはそんなことを受電することはないと思いますが……。
要するに、こういったドメイン知識をインプットせず瞬時に出すのは不可能なので、発信側や着信側は理解したうえで電話をしましょうということです。
職場環境
分からないことがあれば保留にして同じ職場の人に聞けばいいだけの話なのですが、そもそもどのように聞けばいいのでしょうか?
「誰からの電話?」
「どういった要件? 」
「質問内容は?」
「研修ちゃんとやった?」
「自分で調べた?」
「至急?」
「至急じゃないなら別に今聞かなくてもいいよね?」
「何で聞いたの?」
「忙しいんだけど?」
電話を受けなければ上記質問をされることもないですし、職場で「分からない人」扱いされることもありません。
また電話機はPCやスマートフォンと異なり固定された物理ボタンを操作することが多く、少ない物理ボタンで機能をもたせまくっているので初見ではまず操作できないような仕組みになっています。
例えば様々なコールセンターで導入されているAvayaのマニュアルで電話の転送手順を確認してみましょう。
通話の転送にはさまざまなシナリオが考えられます。
メモ:会議を開始して、会議からユーザー本人を切断をすることによっても、保留呼を転送できます。ただし、ユーザーが会議で唯一の内部ユーザーである場合、電話システムの設定によっては、ユーザー本人を切断すると、会議が終了することがあります。
手順
- 保留状態の通話に転送:複数の通話を保留している場合、接続された通話を保留呼の一つに転送するには、次の手順に従ってください。
a. 転送を押し、上/下方向キーを使用して、必要なコールアピアランスを強調表示します。
b. これで良ければ、完了を押して、他の保留呼を保留にしたまま通話を転送します。- 新しい通話に転送:通話を保留しているが、新しい転送先に現在の通話を接続したい場合、次の手順に従ってください。
転送を押して、テンキーボードを使用して転送先を手動で入力し、完了を押します。
または、電話帳を押して電話帳から転送先を選択するか、リダイヤルオプションが該当する場合は、それを使用します。- 転送前に発呼者を参照:転送先の通話を接続しているが、発信元通話を参照してから転送を完了したい場合、次の手順に従ってください。
a. シナリオ #2 のように、完了を押して、転送先通話を転送しないでください。
b. コールアピアランスボタンを押して、元の通話("転送ペンディング保留")を選択します。これによって、転送先の通話が[転送ペンディング保留]となり、元の発呼者に通知できます。
c. 元の通話が接続された状態で完了を押すと、2 つの通話が接続されます。
d. 転送ペンディング以外の保留呼には影響がありません。また、複数の通話を[転送ペンディング保留]通話にすることはできません。
これ意味分かります?
私は長いこと使っていますが「新しい通話に転送」以外の転送手順を理解できませんでした。
少しお高めのYealinkであればもう少し分かりやすい内容で表示されますが、転送以外の機能もいくつかあるので、戸惑ってしまうかもしれません。
他にもAmazon Connectのソフトフォンの場合は転送が「クイック接続」と表示されていたり、Microsoft Teams Phoneの場合は一度その他のアクションボタン(・・・みたいなボタンです)を押さないといけなかったり、導入しているPBXによっては転送先の社内電話番号の桁が少なかったり、Active Directoryを導入している場合は電話番号ではなくSIPサーバー用のメールアドレスを入力しないといけなかったり(SIPアドレスといいます)、まあとにかく大変です。
古い電話機であれば、説明書を保管せず操作マニュアルも作成されていないことが多いので、よく分かっていない先輩からよく分かっていない後輩へよく分かっていない操作を教えられることがほとんどではないでしょうか。
もし可能であれば、同じ職場の色んな人から電話の使い方を聞いて、電話の使い方を覚えるのがいいのかもしれませんね。
OJT担当者が一人だけだったりするとn=1の情報しか分からないことが多いので、同じ職場の人と仲良くなるきっかけになるかもしれませんよ。
役職問題
ちゃんと面接を経て入社したのであれば、多少電話対応がうまくいかなくてもクビになることはまずないのですが、物事には最悪のケースが存在します。
それは発信者が取締役を指名してきたパターンです。
代表取締役であれば社長や会長ですね。
このようなケースで至らぬ点があったりすると、上司をはじめとした偉い方々からものすごく怒られます。
なのでしっかりとした対策を行っておきましょう。
- 前もって社長、会長はいわずもがな、取締役の氏名や部署を把握しておく
- オープニングで発信者の会社名、名字をしっかりとヒアリングする
- 取締役はめちゃくちゃ忙しいので、折り返し先の電話番号をヒアリングする
- 折り返し連絡して良い、都合の良い時間をヒアリングする
上記対策は参考程度にして、職場内で独自のルールがあったりするので確認して対策をとっておきましょう。
そもそも取締役に用があるということは発信者も取締役だったり取引先企業の社長だったりするので、ヒアリングしたり回答してはいけない内容が定められていたりします。
参考程度にいくつか挙げてみます。
- 要件(極秘の内容だったりするため)
- 名前のフルネーム(名字だけで把握できるかもしれないため)
- 指名された取締役が社内にいるか等(社外取締役だと企業統治に関わるため)
あと業務内容によっては会社の取締役が社外からかけてくるケースもありますので、対応に困ったらすぐ保留にして上司に相談してみましょう。
ただ大企業であれば秘書室が設置されていて、厳格な発信・着信ルールがマニュアル化されていて、秘書が対応しているので新人が対応することはないかもしれません。
ソーシャル・ローフィング
最後に個人的に面白いと思ったのは、新人は電話に出ることが仕事という文化があるという点です。
これはソーシャル・ローフィングと関連性がありそうです。
コールセンターがめちゃくちゃ離職率高いのは有名な話ですが、これはそもそも電話対応して金もらっているんだからできて当たり前、ノルマを達成して当然という空気感が根付いてしまい、結果努力しても給料が上がらなかったり、給料が上がらないから効率の良い仕事をしなくなったり、電話対応しかしないからマネジメント能力が身につかなかったり、退職しても誰も困らないから退職するようになったりするわけです。
たまに小売や飲食で店員全員が電話に出ない状況に出くわすのですが、これも誰が電話に出るのかルールが決まっていない、積極的に電話に出てしまうとあの人は電話に出て当然という空気感が根付いてしまうだけでインセンティブがつかないことが原因なんじゃないかな? って考えたりします。
なので新人に電話対応されるにあたり最も重要なのは「電話対応してくれてありがとう」という感謝の姿勢を同じ職場の人が新人に伝えることだと思うんですよね。
まあ転送とかするのであれば別に電話対応するのは新人だけではありませんから、「電話の一次対応してくれてありがとう」がいいのかもしれませんね。
まるで新人がリバースプロキシみたいですね。
おわりに
以上、電話そのものをやめたくなってくるような内容ばかりでしたが、ラジオやテレビがなくならないように電話はなくならないので、「そのうち慣れる」とか「今も苦手」とかで先輩や上司が思考停止して何もしないのはいかがなものかな……と思ったので頑張って書いてみました。
どうにも、電話対応がかっこいいものだと思われていないことが多いと、様々な問題を引き起こす原因になってしまうので、何とかしたいなあと思う今日この頃です。
Discussion