生成AIで生成したExcelとAccessのVBAが増えているらしい
最近、モダン化について調べていたところ、興味深い現象を目にする機会がありました。
それは、生成AIを活用してExcelやAccessのVBAコードを作成し、業務自動化に役立てているという話です。
一見すると、プログラミングの専門知識がない人でも手軽に自動化の恩恵を受けられる、素晴らしい技術の民主化のように思えます。
しかし、この手軽さが、将来に禍根を残す新たな「技術的負債」を生み出しているのではないかと、私は静かな懸念を抱いています。
これまでVBAによるツール開発は、良くも悪くも「属人化」という課題と常に隣り合わせでした。
特定の担当者が作り上げたマクロは、その人の退職や異動と共にメンテナンス不能なブラックボックスと化す。
これは多くの組織が経験してきた痛みでしょう。
しかし、そこにはまだ「作成者の思考を辿れば、解読の糸口が見つかるかもしれない」という一縷の望みがありました。
ところが、生成AIによって生み出されたVBAコードは、この属人化とは質の異なる問題を内包しています。
コードをコピー&ペーストした担当者に「なぜこの処理が必要なのですか?」と尋ねても、「AIが生成したので、詳しくは分かりません」という答えが返ってくるケースが少なくないのではないでしょうか。
これはもはや属人化ではなく、作成者すら存在しない「AI化」とでも呼ぶべき、より深刻なブラックボックス化だと言えるでしょう。
仕様変更や不具合修正の必要が生じたとき、誰もそのコードに手を加えることができません。
解決策が「プロンプトを少し修正して、AIに再生成させる」という場当たり的なものになり、その場しのぎの修正が繰り返されることで、コードは誰にも管理できないキメーラLv35へと変貌していきます。
この現象は、いわゆる「2025年の崖」が目前に迫る中で、さらに複雑な様相を呈しています。
多くの企業が基幹システムの刷新に追われる一方、現場レベルでは、長年業務を支えてきたAccessデータベースのようなレガシー資産が手付かずのまま残されています。
熟練の担当者が退職し、引き継ぎが困難な状況で、生成AIはまるで救世主のように現れました。
AIに指示を出すことで、古いシステムを延命させるためのVBAコードを生成し、当面の危機を乗り越えようとする動きが見られます。
しかしこれは、問題の根本解決にはなりません。
むしろ、解析不能なコードで延命されたレガシーシステムという、さらに厄介な負債を未来へと先送りしているだけではないでしょうか。
Microsoftは既に、VBAの後継としてTypeScriptベースのOffice ScriptsやPower Platformといった、よりモダンでセキュアなソリューションを提示しています。
クラウド連携やバージョン管理、共同開発といった現代的な開発手法に対応したこれらの技術こそ、本質的な業務改善につながる道のはずです。
にもかかわらず、Excelファイル単体で完結するというVBAの手軽さが、生成AIというブースターを得て、再び現場での存在感を強めているのは皮肉な状況です。
数年後、日本中の企業で「生成AIが作ったVBAのメンテナンスが不可能になった」という悲鳴が上がる未来が、あり得ない話だと言い切れるでしょうか。
技術の進化が、かえって古い技術をゾンビのように蘇らせ、新たな課題を生み出している。
私たちは、この新しいトレンドの光と影を正しく見極め、安易な解決策に流されることなく、持続可能な技術選定の重要性を問い続けていく必要があるのかもしれません。
Discussion