RISC-Vが面白くなってきたぞ
(雑に書いている戯言であることを最初に断っておきます。あくまで個人の感想です。)
実は私は今までRISC-Vには懐疑的だったのですが、最近の状況を知って考えを改めました。
RISC-Vとは
RISC-V(リスク ファイブ)とはオープンソースライセンスで提供されている命令セットアーキテクチャ (ISA)です。
研究にも使うことができるし、実際に多くの半導体メーカーがこの仕様に基づいたCPUを開発、出荷しています。
多くのオープンソースのOSやツールチェインもすでにRISC-Vに対応しています。
私が懐疑的だった理由
RISC-Vはオープンソースであるゆえ、自由に拡張することができます。そのため様々な派製品が登場しています。シンプルな組み込み用のマイクロコントローラからパソコン用、サーバ用、HPC用など広い分野に渡ります。
かつてRISCの考え方にもとづいて開発されたMIPSというCPUがあり、複数の半導体メーカーがMIPS仕様のCPUを開発、生産販売しました。(日本ではNEC, 東芝)しかしそれぞれが独自の拡張を加えたために同じMIPSであってもバイナリ互換性は失われてしまいました。MIPSはエンジニアリングワークステーションやゲーム機に採用されて一時期勢いがあったものの、その後にすたれていきました。[1]
その失敗を見ていたのがArmで、Armは各半導体メーカーにライセンスするときに独自拡張は許さずにバイナリ互換性を維持しました。昔は組み込み向けのCPUはいろいろあったけれども生き残って大きなシェアをとったのはArmでした。スマフォ、タブレットの分野は完全に独占。そして今は低消費電力である強みを活かしてインテルの牙城だったパソコンやサーバーの市場を突き崩しにかかっています。
私はRISC-VはMIPSと同じ運命をたどるだろうと思っていました。研究用として消えることはないだろうけど、市場で大きなシェアをとることはないだろうと。
しかし、ArmがNVIDIAに売却されるという話がでたときには、NVIDIAと競合関係にあるSoCベンダがArm以外の選択肢を求めて[2]RISC-Vに来る可能性が出てきたかなと思いましたが、それがキャンセルされArmは独立した会社としてIPO(再上場)をめざすことになりました。それで、RISC-Vの命運は絶たれたと思いました。
すでにArmを採用しているところがRISC-Vに移行するのに見合うほどの理由がなくなったからです。たとえRISC-Vが頭角を表してきたとしても、すでに市場で力をもっているArmがあらゆる手段でそれをつぶしに来るだろうと思いました。
AndroidがRISC-Vをサポートすると発表
私の考えを変えさせたのがこの記事です。
GoogleがAndroidでRISC-Vをサポートすると正式に発表しました。
すでに着手はして、できるまでには2,3年かかるだろうということです。
さらにこの記事の後半にとても興味深いことが書いてありました。
先行きの見えないArm
NVIDIAに売却される予定がキャンセルされ、その後のIPOも今のところはどうなるかわからない。
長年のライセンシーだったQualcommとライセンス違反の件で裁判で争っている。
この裁判はどうなるかはわかりませんが、少なくともArmとQualcommの関係は蜜月でなくなったのは確かです。(少し前まではArmが新しいコアを発表すると真っ先にQualcommがそれを採用したSoCを発表していました。)
他のライセンシーにとっても不安材料です。Armがいつライセンス条件を改悪してくるかわかりません。
5年先もArmは盤石なのか?そう考えると第二の選択肢を持っておきたくなりますが、今の所はそれはRISC-V以外にはありません。
米中貿易摩擦
ここ数年で米中の関係が変わりました。半導体は戦略的に重要なものとしてアメリカは中国に輸出規制をかけ、また中国ファーウェィ(およびその半導体子会社であるハイシリコンなど)の製品を政府関係機関が購入することを禁じました。中国側も同様の対抗処置をとっています。
RISC-Vはオープンソースプロジェクトなので、輸出規制の対象外です。RISC-Vの権利を管理している団体のRISC-V Foundationはアメリカのカルフォルニア州のバークレーからスイスに拠点を移し、名称もRISC-V Internationalに改名しました。貿易摩擦に対して中立であるという立場です。
RISC-V Internationalの参加メンバーにはGoogleやIntelの他にも多数の中国企業も含まれています。
中国は西側諸国の会社とは距離をおくようになっています。CPUも中国自身で開発するように舵を切っています。
Armはやはり西側の一員をみなされるでしょうから中国の会社はArmからRISC-Vへの乗り換えをすすめるでしょう。
先にAndroidのRISC-Vサポートの件を挙げましたが、実際に先行して移植作業を行なっているのはアリババという中国企業です。
RISC-Vの現在の採用状況
RISC-Vはアプリケーションプロセッサとしてはまだそれほどの実績はありません。
NVIDIAは時期尚早としてCUDAのRISC-Vサポートを打ち切ってしまいました。
しかし一方で、NVIDIAはGPUボード上[3]GPUチップ内のマイクロコントローラとしてRISC-Vを採用しています。
Qualcommは2019年のSnapdragon 865 SoCからそれに内蔵されるマイクロコントローラにRISC-Vを採用しています。そして現在までに6億5000万個のRISC-Vコアを出荷しています。
Appleにもこんな話が。
今の所は、表に現れないところでRISC-Vの採用が進行しているようです。
数年先にRISC-VのAndroidが登場したら風景が一気に変わるかもしれませんね。
"RISC-V is inevitable" 「RISC-Vは必然だ」
もしかしてその新しい分野ではRISC-Vがメジャーになるかもしれません。
RISC-Vに(私が)期待する理由 (2023/01/07追記)
- 停滞するかもしれないArmに対して成長著しいRISC-V。
- 中国勢が離れていくであろうArmに対して、貿易規制に対して中立なRISC-V。(そのため西側諸国と中国の両方の知見がRISC-Vに合流し交流できる)
- コンピュータサイエンスの教育、研究がRISC-Vをベースに行われている。そのため未知の新たな成果がRISC-Vから生まれる可能性が高い。
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Aarch64は固定命令長なので拡張には限りがあるのに対して、RISC-Vは命令長が可変。[4]
ちょっと面白くなってきました。しばらく注目していようと思います。
関連
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MIPSアーキテクチャはすたれましたが、MIPSという会社は今はRISC-Vに方向転換して生き残っています。 ↩︎
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Armライセンスを受けるということは製品の出荷台数、予定などが筒抜けになります ↩︎
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twitterにてこれを教えてもらいました。https://vengineer.hatenablog.com/entry/2022/05/18/090000 ↩︎
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Aarch64は今は固定命令長ですが、将来的にこれを拡張することは不可能ではないと思い直し、削除しました ↩︎
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