LLMを組み込むAPIの評価設計と実践:信頼性と価値を両立させるアプローチ
はじめに
昨今では、開発するAPIやWebサービスにLLM(大規模言語モデル)を組み込むことが急速に一般化しています。
ChatGPT、Claude、Gemini、Llamaなどのモデルは、テキスト生成、要約、分類、翻訳など幅広いタスクで高いパフォーマンスを発揮し、アプリケーションに新たな可能性をもたらしています。
しかし、こうしたLLMを組み込んだシステムを開発する際に直面するのが 「出力の品質をどう評価するか」 という課題です。
本記事では、確率的な振る舞いをするLLMの評価を、ユーザー価値を軸にした評価設計について考察してみました。
LLMを組み込んだAPIのアーキテクチャパターン
LLMをAPIに組み込む際、多くの場合は次のような構造になることが多いのではないかと思います。
Input → データ取得(A) → LLM処理(B) → Output
例1: ECサイトのレビュー分析API
A: ECサイトから商品レビューデータを取得
B: 取得したレビューをLLMが分析し、商品の長所/短所を判定
Output: 判定結果の構造化データ
例2: 社内ナレッジQ&AシステムのAPI
A: 社内文書DBから関連文書を検索・取得
B: 検索結果をもとにLLMが質問に対する回答を生成
Output: ユーザーの質問に対する回答文
こうしたシステムでは、AとBの両方の品質が最終的なアウトプットの価値に影響します。
しかし、評価すべきは個別の要素ではなく、ユーザーが得る価値そのものが良いと考えています。
ユーザー価値を中心とした評価設計
従来のシステム評価では技術的な個別の正確性や性能に焦点が当たりがちですが、LLMを活用するシステムではそうではないと捉えています。
例えば、文法的に完璧な回答でも、ユーザーの課題解決に役立たなければ価値は低いと言えます。
E2E(エンドツーエンド)評価の重要性
そこでAPIの出力がユーザーにどのような価値をもたらすかを直接評価するE2Eアプローチが効果的だと考えています。
## 例
商品レビューサマリーAPI → 「このサマリーを見て、ユーザーは適切な購買判断ができるか」
Q&AシステムAPI → 「この回答によって、ユーザーの疑問は解消されたか」
「最高の条件」アプローチによる効率的な評価
上記のようなLLMを含むシステムを評価する際、「最高の条件」でのパフォーマンスを確認することが効率的だと考えています。
理想的な入力条件での評価
商品レビューのサマリー生成APIの場合
A「理想的なレビューデータセットの収集」
B「収集したデータを元にしたサマリー生成」
この時、Aで最高品質のデータを用意し、それを元にBの評価を行います。
これにより得られるメリットとしては
システム全体の理論上の性能上限を把握できる
改善すべき部分(AかB)を特定しやすくなる
開発リソースの効率的な配分が可能になる
段階的な制約の導入
などが挙げられるかと思います。
継続的評価と改善のサイクル
精度が関わるAPIの開発では、改善サイクルも重要になるので
以下の観点も合わせて検討することも大切だと考えています。
- ユーザーフィードバックの収集と分析
- 重要KPIの継続的なトラッキング
- 定期的なサンプリング評価
LLM特有の考慮点
LLM特有の問題もあるためこちらも忘れずに
- ハルシネーション対策: 事実チェックの仕組みを組み込む
- 信頼性と透明性: 情報源の明示や確信度の表示
- バージョン管理: LLMのバージョン変更による出力変化の追跡
最後に
LLMを組み込んだAPIの評価では、技術的な完璧さよりも「ユーザーにとっての価値」を中心に考えることが重要であり
100%の正確性や一貫性を求めるのではなく、まずはユーザーの課題解決に十分な品質を定義し、そこを目指すアプローチが現実的だと思います。
また、ユーザーがLLMの特性や限界を理解した上で利用できるよう、適切なUI設計やコミュニケーションも重要な要素になりそうだなと同時に思います。
最終的には「小さく始めて継続的に改善する」というアジャイルな姿勢がLLM組み込みAPI開発では特に有効だと改めて感じました。
本記事が「信頼性と価値を両立させるアプローチ」をとるきっかけとなれば幸いです。
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