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今年の生成AIのテーマは「環境構築」である

2025/01/01に公開

今年の生成AIのテーマは「環境構築」である

昨年は大規模言語モデル(LLM)の性能が劇的に向上し、生成AIの実用化が一気に加速しました。しかし、ただモデルが優秀なだけでは、ビジネスや社会の中で本当の価値を引き出すことは難しい――そこで注目されるのが「環境構築」です。
「AI の環境」と「人の環境」という二つの視点から、テーマについて掘り下げていきます。

AI の環境

LLMを活かすアプリケーションレイヤーの重要性

昨年までに GPT-4o や Claude-Sonnet-3.5 など、高性能な LLM が相次いで登場しました。文章要約やコード生成といった機能面の進歩に加え、外部システムとの連携や多段階推論など、より高度なタスク遂行へ対応し始めています。
ただ、単にモデルが高性能になっても、それを業務やサービスにシームレスに組み込む仕組みがなければ活用は限定的です。
そこで注目されるのが、LLMと外部ツールを結びつけるアプリケーションレイヤーです。

  • MCP (Model Context Protocol)
    AIアシスタントが外部データソースへ安全かつ柔軟にアクセスできるようにする標準プロトコル。アクセス範囲の制御やデータ取り扱いルールの明確化が期待される。

https://github.com/modelcontextprotocol/servers

  • Dify
    オープンソースのLLMアプリ開発プラットフォーム。生成AIを用いたアプリケーションやワークフローをGUIベースで設計できるため、導入のハードルを下げる。

https://dify.ai/jp

  • Browser Use
    LLM(エージェント)がウェブブラウザを操作できるフレームワーク。検索サイトやSaaS画面への入力まで自動化し、情報収集やフォーム送信の省力化を可能にする。

https://github.com/browser-use/browser-use

  • OpenHands
    コマンド実行やコード修正など、ソフトウェア開発に関連するタスクをAIが代行できるプラットフォーム。開発プロセスの一部を自動化し、人間はより高度な判断に専念できる。

https://github.com/All-Hands-AI/OpenHands

またはDevin

https://devin.ai/

環境構築のポイント

  1. 標準化された接続手段
    MCPのように、LLMがどのデータやAPIにアクセスできるかをプロトコルレベルで管理することで、安全性と拡張性を両立する。

  2. ワークフローの可視化と検証
    Difyなどを活用すれば、LLMの推論結果や外部サービスとの連携状況がわかりやすい形で表示・検証できる。

  3. 実行主体としてのAIエージェント
    Browser UseやOpenHandsといったツールにより、AIが実際に行動(コマンド実行、ブラウザ操作など)できる環境を整えることで、チャットボットの域を超えた業務効率化が可能となる。

上記のような AIがアプリケーションを操作する環境 を用意することがより盛んに行われるのではないか?と思っています。

人の環境

組織や業務プロセスを変えていく必要性

AIエージェントが高度化しても、既存の組織体制や業務フローがそのままでは、十分に力を発揮できません。むしろ、「AIが前提」のプロセス設計や、社内システムのAPI整備などが不可欠になります。
たとえば、AIエージェントに一次対応を任せ、人間が例外処理や判断を行う形に組み替えるだけで大幅な効率化が期待できるでしょう。

  • 業務フロー再設計

    • AIを標準で組み込んだ問い合わせ受付体制
    • 社内文書やコードレビューの自動化と、人間の最終承認フロー
  • 権限・アクセス管理

    • LLMがどこまでの操作を許されるのか、セキュリティやプライバシーの観点でルールを策定
    • ログ監査の実施や緊急停止手段(Kill Switch)など、リスク対応策の明確化
  • リテラシーとガバナンス

    • 経営層から現場スタッフまで、AIの限界と可能性を共有し、適切に使いこなせる教育を行う
    • 内製か外部ベンダー活用か、オープンソースかSaaSかなど、組織の戦略を明確にする

ビジネスモデルの再考

業務フローだけでなく、ビジネスそのものを「AIエージェントと共創する」形に再定義する動きも増えると見られます。アプリケーションをすべて内製化するのではなく、クラウドベンダーやスタートアップが提供するツールと積極的に連携し、スピード感を重視する企業が増えるかもしれません。
そうした水平分業型のエコシステムが今後の主流となる可能性もあります。

AIの環境が整備されても、その上に乗る 人の環境 が整備されないことにはビジネスへの適用は難しいのかなと思います。

まとめ

昨年は LLM の急速な進化が話題となり、多くの企業や開発者が生成AIを“試してみる”段階を経ました。しかし今年は、それを本格運用し、ビジネス成果に結びつけるための「環境構築」が大きなテーマになるでしょう。

  • AI の環境
    LLMと外部ツールを安全かつ効率的につなぐアプリケーションレイヤーが注目されており、Dify や MCP、OpenHands などのプラットフォーム・プロトコルがさらに整備されていく見通しです。

  • 人の環境
    AIエージェントが動きやすい業務フローや組織体制、セキュリティとリスク管理、そしてリテラシー向上が不可欠であり、これらの要素を包括的に変えていく必要があると考えられます。

いわば「技術と組織、両面での環境づくり」が進むほど、生成AIの可能性は大きく広がっていくと思っています。

「AIエージェントが〜」などと巷では話されていますが、そちらではなくむしろそれを取り巻く環境の方に意識を向けていく一年になるのでは、と思っています。

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